チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第18話 うるさいですけど気にしないでください

――嫌な予感は、だいたい当たる。

カロス地方に来て数分。

俺はもう、バトルの流れに巻き込まれていた。

 

目の前にはセレナ。

そしてその足元には、赤い毛並みの小さな狐――フォッコ。

 

可愛い。

普通に可愛い。

 

セレナは緊張した顔でモンスターボールを握っている。

「よ、よろしくお願いします!」

 

俺は軽く手を挙げた。

「はいはい。よろしく」

 

……いや、ほんとに。

何やってんだ俺。

静かに生きるんじゃなかったのか。

 

俺はスマホをポケットに突っ込んだ。

さっきまでヒカリがうるさかったが、今は通話を切っている。

これで平和。

 

平和……のはず。

 

セレナはフォッコに声をかける。

「フォッコ!がんばってね!」

 

「フォッコ!」

フォッコは元気よく鳴いた。

 

俺は自分のモンスターボールを取り出す。

 

――出すのは、何でもいい。

相手は初心者だ。

強すぎるのはダメ。

 

ガブリアスとか出したら一瞬で終わる。

ジュカインもダメ。

ミュウ?論外。

 

俺はボールを見つめながら小さく呟いた。

「……初心者相手だしな」

 

そして、俺は投げた。

「行け。ポチエナ」

 

光が弾けて、黒い子犬が現れる。

「ガウッ!」

 

セレナの目が丸くなった。

「わぁ……ポチエナ……!」

 

カロス地方にはいないポケモン。

それだけで新鮮に映るんだろう。

 

セレナは嬉しそうに言った。

「かっこいいですね!」

 

俺は苦笑した。

「まぁな」

 

ポチエナは俺の足元で尻尾を振っている。

こいつ、わりと愛嬌ある。

 

俺はしゃがんで頭を撫でた。

「適当にやるぞー」

 

「ワン!」

 

セレナが少し深呼吸する。

「……いきます!フォッコ!」

 

そして、可愛い声で叫んだ。

「ひのこ!」

 

フォッコが口を開け、小さな火の玉を飛ばした。

ポチエナに向かって一直線。

 

俺は軽く言う。

「避けろ」

 

ポチエナはひょい、と横に跳んで避けた。

火の玉は地面に当たり、パチパチと燃えた。

 

セレナは「あっ」と声を漏らした。

「え……!?」

 

俺は思った。

あぁ、そうか。

セレナはまだ「命令しても当たる」って感覚なんだ。

 

最初はそうだよな。

 

俺は少しだけ優しく言った。

「攻撃は、当てる工夫しないと意味ないぞ」

 

セレナは慌てて頷く。

「は、はい!」

 

フォッコも「フォ……」と少し落ち込んだように鳴いた。

 

俺はポチエナに指示を出す。

「ポチエナ。ひっかく」

 

「ガウッ!」

 

ポチエナが駆け出し、フォッコへ一直線。

 

セレナは焦った顔で叫ぶ。

「フォッコ!避けて!」

 

フォッコは必死に横へ飛ぶ。

だが、間に合わない。

ポチエナの爪がフォッコの頬をかすめた。

 

「フォッコッ!」

 

フォッコが小さく悲鳴を上げ、よろける。

 

セレナが息を呑む。

「フォッコ、大丈夫!?」

 

俺は慌てて言った。

「いや、そこまで強くは――」

 

その瞬間。

 

ピコンピコンピコン!!!!!

 

俺のポケットが狂ったように震え始めた。

 

「……あ?」

 

嫌な予感。

俺はポケットからスマホを取り出した。

画面には通知。

 

【ヒカリ:出ろ!!!!】

【メイ:今カロスのどこ!?】

【トウコ:お願いだから返事して】

【セレナといるってマジ?】

【なんでカロス!?!?】

 

俺は固まった。

「……」

 

セレナはバトル中なのに、気になったのか俺を見た。

「え、えっと……?」

 

俺は苦笑して言った。

「今うるさいですけど気にしないでください」

 

セレナは目を瞬かせる。

「は、はい……?」

 

気にしないでください、じゃねぇよ。

こっちが気にしたいわ。

 

俺はスマホを見つめながら小さく呟いた。

「……どこから漏れた」

 

その時だった。

また通知。

 

【メイ:え、写真あるんだけど!?】

【ヒカリ:何してるの!?!?!?】

 

俺は叫びそうになった。

「写真!?!?!?!?」

 

セレナがびくっとする。

「えっ!?」

 

俺はスマホを握りしめたまま、天を仰いだ。

カロス地方に来てまだ一時間も経ってない。

なのに、もう情報が漏れてる。

 

……ありえない。

 

いや。

ありえる。

この世界、原作キャラのネットワークが強すぎる。

 

俺は震える指でSNSを開いた。

そして見つけた。

 

――投稿されている。

 

【カロスで怪しい男とセレナが話してるんだけどww】

【え、これ八雲零じゃね?】

【また女といるwww】

【もう完全に女癖悪いだろ】

 

俺は静かにスマホを閉じた。

 

セレナが不安そうに聞く。

「……あの、大丈夫ですか?」

 

俺は笑顔を作った。

「大丈夫。よくあること」

 

セレナは納得していない顔だった。

「……よくあること?」

 

俺は自分に言い聞かせるように呟いた。

「……よくあることなんだよ」

 

もう泣きたい。

だが、バトルは終わっていない。

 

フォッコはまだ立っている。

ポチエナも元気。

 

セレナは小さく拳を握りしめた。

「……フォッコ。もう一回、ひのこ!」

 

フォッコは頷くように鳴き、火の玉を飛ばす。

さっきより速い。

狙いもいい。

 

俺は感心した。

「お、成長早いな」

 

俺は指示を出す。

「ポチエナ、横に避けろ」

 

ポチエナは軽く跳んで回避。

だが。

火の玉は地面に当たった瞬間、跳ねて、ポチエナの足元に火花を散らした。

 

「ワンッ!?」

ポチエナが少し怯む。

 

セレナが目を輝かせた。

「当たった……!」

 

俺は思わず笑った。

「いいじゃん」

 

セレナは嬉しそうに頷く。

「はい!」

 

――その表情を見た瞬間。

俺は少しだけ思った。

炎上とか、面倒とか。

そういうのは嫌だ。

 

嫌だけど。

こういう「旅の始まり」ってやつは、嫌いじゃない。

 

俺は小さく息を吐き、ポチエナに言った。

「……ポチエナ。もう一回、ひっかく」

 

「ガウッ!」

 

ポチエナが駆け出す。

フォッコは避けようとする。

 

だが、間に合わない。

ポチエナの爪がフォッコに当たり、フォッコはよろけた。

 

「フォッコ……!」

 セレナが声を上げる。

 

フォッコは倒れない。

だが、膝をついている。

限界だ。

 

セレナは悔しそうに唇を噛んだ。

そして、小さく言った。

「……フォッコ、戻って」

 

フォッコは「フォ……」と鳴きながらボールへ戻った。

バトル終了。

 

俺はポチエナを撫でて言った。

「よし。戻れ」

ポチエナもボールに戻る。

 

セレナは少し悔しそうに、でも笑顔で言った。

「……負けちゃいました」

 

俺は肩をすくめた。

「最初はそんなもん」

 

セレナは真剣な顔で頷く。

「もっと強くなります!」

 

その瞬間。

俺のスマホがまた震えた。

画面には――

 

【ダイゴ:面白い噂を聞いたよ】

【ダンデ:おいおいまたか!?】

 

俺は目を見開いた。

「……は?」

 

セレナが首を傾げる。

「えっと……?」

 

俺は引き攣った笑みで言った。

「……いや、なんでもない」

 

なんでもなくない。

何で何度もホウエンの石オタクとガラルの最強が反応してんだよ。

 

俺はセレナの前で、静かに心の中で誓った。

――もう絶対、写真を撮らせない。

 

だが。

この誓いが、次の瞬間に砕け散ることを。

俺はまだ知らなかった。

 

次回

「えーと…ポケモンバトルします?」

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