チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第19話 えーと…ポケモンバトルします?

フォッコとのバトルが終わった後。

セレナは悔しそうな顔をしながらも、どこか楽しそうに笑っていた。

 

その表情を見て、俺は少しだけ安心する。

初心者の頃って、負けても楽しいんだよな。

 

……いや、俺は初心者の頃から負けたら普通に腹立ってた気がするけど。

 

セレナはモンスターボールを握ったまま、俺を見上げた。

「ありがとうございました!すごく勉強になりました!」

 

俺は軽く頷いた。

「いや、まあ。頑張れ」

 

セレナは一歩前に出る。

そして、少しだけ言いづらそうに口を開いた。

「……あの」

 

嫌な予感がした。

 

俺の経験則だ。

この「……あの」の後は、大体面倒くさい展開になる。

 

「……何?」

 

セレナは頬を少し赤くしながら言った。

「もう一回、バトルしてもらえませんか?」

 

俺は固まった。

「……は?」

 

セレナは慌てて手を振る。

「い、いえ!別に、無理ならいいんですけど……!」

 

俺は内心で叫んだ。

無理だよ!!

 

俺、炎上してんだよ!!

今俺とセレナが並んでるだけで「交際確定」とか言われるんだぞ!?

 

しかも、さっきのバトル中に通知が鳴り止まなかったせいで、俺の精神がもう限界。

 

……なのに。

セレナの目が真剣すぎた。

 

純粋に、強くなりたい。

勝ちたい。

旅をしたい。

 

そういう目だ。

こういう目をされると、断れない。

 

俺は天を仰いだ。

「……」

 

俺の人生、どこでこうなったんだ。

 

俺はため息を吐いて、言った。

「……えーと……」

 

そして、逃げ道を探すように周囲を見回した。

街の人々。

通りすがりのトレーナー。

遠くの草むら。

 

そして――数メートル先で、スマホを構えている女の子。

明らかに俺達を撮ろうとしている。

 

俺は顔が引き攣った。

「……やめろ」

 

その女の子はニヤニヤして、さらにズームしてきた。

絶対SNSに上げるタイプだ。

終わった。

 

俺は諦めてセレナに向き直った。

「……どうしますか」

 

セレナが首を傾げる。

「え?」

 

俺は言った。

「えーと…どうしますか。ポケモンバトルします?」

 

セレナの顔が一気に明るくなる。

「はい!!」

 

……即答かよ。

 

俺は頭を抱えた。

「……分かった」

 

そして、俺は自分のモンスターボールを見つめた。

初心者相手だ。

 

ポチエナでも十分だが、同じポケモンばかりだとセレナもつまらないかもしれない。

でも強すぎるのは絶対にダメ。

 

リザードン、ガブリアス、サンダース、ミュウツー。

論外。

ジュカインも強い。

メガシンカなんてしたらセレナが泣く。

 

俺は少し考え――

ボールを一つ手に取った。

「……こいつなら、ちょうどいい」

 

俺は投げた。

「出てこい、ポチエナ……じゃない」

 

言いかけて止めた。

いや違う。

 

俺はすぐに訂正する。

「……えっと、違う。出てこい――」

 

――ボールから光が弾けた。

現れたのは。

緑の身体、鋭い目つき、腕には葉っぱの刃。

 

「ジュカァァァァイン!!」

 

セレナが固まった。

「え……」

 

俺も固まった。

「……え?」

 

――ジュカイン。

ホウエン地方の御三家最終進化。

しかもこいつ、俺の手持ちの中でもかなり仕上がってるやつ。

 

そして何より。

ジュカインの腕には――

「メガストーン」が、当然のように装着されていた。

 

俺はゆっくり目線を下げる。

自分の手首。

 

そこには。

――メガリング。

光っていた。

 

「……あ」

 

終わった。

 

セレナの目が、まるで星みたいに輝いた。

「え……!?メガリング!?それって……!」

 

俺は反射的に言った。

「違います」

 

「何がですか!?」

 

「違います」

 

何が違うのか自分でも分からないが、とりあえず否定した。

 

セレナは興奮気味に言う。

「すごい……!私、メガシンカってまだ見たことなくて……!」

 

俺は胃が痛くなった。

 

ダメだ。

ダメなんだよ。

見せたらSNSに上げられる。

 

絶対に上げられる。

そして俺はまた炎上する。

さっきからスマホの通知も鳴りっぱなしだ。

 

俺はスマホを見る。

【メイ:ちょ今ジュカイン出した!?】

【ヒカリ:何でメガリング持ってんの!?】

【トウコ:今すぐ説明して】

【ダイゴ:ジュカイン、いいね】

【ダンデ:それは反則だろ!?】

 

俺はスマホを握り潰しそうになった。

「……メイ、お前今どこにいるんだよ」

 

セレナが不思議そうに聞く。

「メイ……?お友達ですか?」

 

俺は即答した。

「違います」

 

「えっ!?」

 

俺はもうダメだと思った。

俺の人生、もう詰んでる。

 

セレナはジュカインを見て目を輝かせたまま言った。

「……あの!そのジュカインと戦ってもいいですか!?」

 

俺は思った。

いや、無理だろ。

 

フォッコだぞ?

レベル差ありすぎる。

 

だがセレナの顔は本気だった。

俺は悩んだ。

 

そして――

ジュカインが俺を見て、ニヤっと笑った気がした。

 

こいつ。

絶対楽しんでる。

 

俺はため息を吐いて、言った。

「……分かったよ」

 

セレナは嬉しそうに頷く。

「ありがとうございます!」

 

俺はジュカインに目線を向ける。

「ジュカイン。手加減しろ」

 

「ジュカァ!」

ジュカインは自信満々に吠えた。

 

セレナがモンスターボールを構える。

「フォッコ!お願い!」

 

「フォッコ!」

 

フォッコが飛び出してきて、ジュカインを見た瞬間、少し怯えた。

そりゃそうだ。

進化系どころか、最終進化だ。

 

しかも圧が違う。

 

俺はフォッコに向かって小さく言った。

「……すまんな」

 

セレナはフォッコの頭を撫でた。

「大丈夫!フォッコ、頑張ろう!」

 

フォッコは少し震えながらも、前を向いた。

「フォッコ……!」

 

いい子だな。

俺は少し感心した。

 

セレナが叫ぶ。

「フォッコ!ひのこ!」

 

火の玉が飛ぶ。

ジュカインは動かない。

火の玉が当たり、ジュカインの身体が少し燃える。

 

だが。

ジュカインは無傷みたいな顔で立っている。

 

セレナが「えっ」と声を漏らした。

 

俺は心の中で謝った。

 

タイプ相性は悪くない。

だけど、種族値と経験が違いすぎる。

 

俺はジュカインに言った。

「……ジュカイン。適当に、葉っぱカッターで終わらせろ」

 

セレナが「葉っぱカッター!?」と驚く。

 

ジュカインは腕の葉を振り、鋭い葉の刃を飛ばした。

緑の光が一直線に走る。

 

フォッコは避けようとする。

だが、間に合わない。

 

――直撃。

 

「フォッコッ!!」

 

フォッコが倒れた。

気絶。

 

セレナが固まった。

俺も固まった。

 

「……」

 

やりすぎた。

手加減しろって言っただろ。

ジュカインは何故かドヤ顔をしていた。

 

セレナはフォッコを抱き上げ、悔しそうに唇を噛んだ。

だが、泣かない。

 

泣かずに言った。

「……負けました」

 

俺は申し訳なくて、思わず頭を下げた。

「ごめん。ちょっとやりすぎた」

 

セレナは首を振った。

「いえ……!私がお願いしたんです!」

 

そして、セレナは笑った。

「でも……すごかったです。ジュカイン、強いですね」

 

俺は苦笑した。

「まあな」

 

その瞬間。

背後から「カシャ」という音が聞こえた。

俺はゆっくり振り返る。

 

さっきのスマホを構えていた女の子が、満面の笑みでこっちを見ていた。

 

――撮ったな?

 

俺は青ざめた。

「……おい」

 

女の子は逃げるように走り去った。

「じゃっ!」

 

俺は追いかけようとしたが遅い。

スマホの通知が、すぐに爆発した。

 

ピコンピコンピコンピコン!!!!!

 

【速報:セレナの隣にいる男、メガリング持ち】

【メガジュカイン!?!?!?】

【八雲零、カロスでも暴れる】

【また主人公と絡んでて草】

【こいつ絶対女癖悪い】

 

俺はその場で膝をついた。

「……終わった」

 

セレナが心配そうに覗き込む。

「だ、大丈夫ですか!?」

 

俺は笑った。

笑うしかなかった。

「……大丈夫だよ」

 

嘘だ。

全然大丈夫じゃない。

俺の人生、また燃えてる。

 

そして、通知の中に見覚えのある名前が混ざっていた。

【フラダリ:面白いね】

 

俺は目を見開いた。

「……は?」

 

セレナは首を傾げる。

「フラダリ……?」

 

俺は冷や汗をかいた。

まずい。

カロス地方の黒幕が、俺に興味を持った。

 

俺は確信した。

この地方、絶対ヤバい。

 

俺はセレナに笑顔を作って言った。

「……じゃあ、俺そろそろ行くわ」

 

セレナは慌てた。

「えっ!?もう!?」

 

俺は頷く。

「うん。旅、頑張れ」

 

セレナは少し寂しそうにしながらも、笑って言った。

「はい!また会えたら、お願いします!」

 

俺は背を向けて歩き出した。

 

そして、心の中で叫ぶ。

――俺は静かに生きたいだけなんだよ!!!

 

なのに何で毎回こうなる!?

俺はスマホを握りしめながら、早足で街を離れた。

 

その背後で、通知音は鳴り止まなかった。

 

次回アローラ地方編

「南国で綺麗な海だけど…暑い」

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