――眩しい。
とにかく眩しい。
目が焼けるレベルで太陽が近い。
俺は港に降り立った瞬間、反射的に片手で額を覆った。
「……南国だな」
目の前には青い海。
空も青い。
雲も白い。
そして風が、やけに生ぬるい。
ヤシの木が揺れているのを見た瞬間、俺は悟った。
ここはもう、日本じゃない。
……いや、そもそも俺がいたのはポケモン世界だけど。
俺は砂浜の方を見ながら呟いた。
「南国で綺麗な海だけど……暑い」
マジで暑い。
湿度が高い。
肌がベタつく。
イッシュの都会の空気も嫌だったが、これはこれでキツい。
何より――
暑いと頭が回らない。
つまり、トラブルが起きる。
俺の経験則だ。
俺は帽子を深く被り直して歩き出した。
すると、道の向こうから観光客っぽい男が歩いてくる。
いや、観光客じゃない。
あの顔は知っている。
――ククイ博士。
アローラ地方の博士。
常に白衣を着ているくせに中身は筋肉。
どう考えても博士というよりプロレスラー。
しかも帽子を被ってる。
なんかもう全体的に暑苦しい。
俺は思わず立ち止まった。
「……うわ、博士だ」
俺が小声で呟いた瞬間、ククイ博士がこっちを向いた。
「おっ!キミ!旅のトレーナーか!?」
声がデカい。
暑さのせいで余計に響く。
俺は心の中でため息を吐いた。
逃げられない。
ここで逃げたら、絶対追いかけてくるタイプだ。
俺は観念して軽く手を挙げた。
「……どうも」
ククイ博士はニカッと笑った。
「いい顔してるじゃないか!アローラへようこそだぞ!」
暑苦しい。
マジで暑苦しい。
でも悪い人じゃないのは分かる。
俺は適当に頷いた。
「どうも……」
すると博士が俺をじっと見た。
……いや、見過ぎだろ。
「……?」
俺が首を傾げると、博士は腕を組んで言った。
「キミ、どこかで見たことがあるような……」
やめろ。
そのセリフはやめろ。
それ言われたら終わる。
俺は反射的に言った。
「気のせいです」
博士は「ん?」と眉を上げた。
「気のせいか?」
「気のせいです」
博士は笑った。
「まあいい!とりあえず島巡りに興味はないか!?」
――しまめぐり。
アローラ地方独特の儀式。
ジムじゃなくて、しまキングやしまクイーンに認められるやつ。
俺は少し考えた。
正直、興味はある。
メガシンカもZ技も、何ならダイマックスも知ってる俺としては、
「Z技」ってシステムは結構好きだ。
ただ。
今の俺に必要なのは、冒険じゃない。
平穏だ。
炎上から逃げるための隠遁生活だ。
俺は即答した。
「ないです」
博士が目を丸くした。
「ないのか!?」
「ないです」
博士は大笑いした。
「ハハハ!即答だな!面白いぞ!」
面白くない。
全然面白くない。
俺は汗を拭きながら言った。
「とりあえず……休める場所ないですか」
博士は腕を組んでうんうん頷く。
「なるほど!暑いもんな!よし、じゃあウチに来るか!」
「え?」
俺は固まった。
ウチ?
え、待て。
警戒心どこいった?
博士はもう決定事項みたいに歩き出している。
「さあさあ!遠慮するな!」
俺はついていくしかなかった。
「いや、遠慮とかじゃなくて……」
博士は振り返って笑う。
「アローラでは助け合いが基本だぞ!」
俺は思った。
アローラ、怖い。
距離感が近すぎる。
都会育ちにはキツい。
俺は歩きながら、海を横目に見た。
青い水面がキラキラ光っている。
砂浜にはナッシーが立っている。
アローラのナッシーは首が長すぎて、ほぼ塔。
あれ絶対バランスおかしいだろ。
俺はため息混じりに呟いた。
「……綺麗だけどさ」
そして、素直に本音が出た。
「暑い」
ククイ博士は笑いながら親指を立てた。
「それがアローラだぞ!」
俺は心の中で叫んだ。
――暑さがアローラのアイデンティティみたいに言うな。
そんなこんなで歩いていると、ふとスマホが震えた。
嫌な予感。
俺はポケットからスマホを取り出した。
通知。
【ヒカリ:今どこ!?】
【メイ:カロスの炎上ヤバいですよ】
【トウコ:ちゃんと説明して】
【セレナ:また会えたら嬉しいです】
【ダイゴ:アローラも石が多いよ】
俺は顔を覆った。
「……」
なんでダイゴがいるんだよ。
どこにでも湧くなこの石オタク。
俺が絶望していると、博士が振り返った。
「どうした!?」
俺は乾いた笑いを浮かべた。
「……いや、なんでもないです」
博士は「そうか!」と笑いながら歩き続ける。
俺はスマホを閉じて、空を見上げた。
青空が眩しい。
眩しすぎる。
暑い。
眩しい。
そして、嫌な予感がする。
こういう時は大体――
何かが起こる。
俺は小さく呟いた。
「……頼むから今回は平和であれ」
だがその願いは、秒で砕ける。
遠くの方から、元気すぎる声が聞こえた。
「博士ーー!!」
声の方向を見ると、元気な女の子が走ってくる。
赤い帽子、スポーティな服装。
……見覚えがある。
――ミヅキ。
アローラ地方の主人公枠。
俺は悟った。
終わった。
俺は今、アローラ地方の主人公と遭遇する。
しかも博士の家に連行されるルートに入った。
俺は乾いた笑いを浮かべた。
「……あー、終わったな」
ククイ博士は手を振った。
「おーいミヅキ!」
ミヅキは俺を見て、目を輝かせた。
「えっ!?誰ですかその人!?」
俺は笑顔を作って言った。
「……どうも」
心の中では泣いていた。
俺の平穏。
アローラ到着、開始10分で死亡。
次回
「…あのー警戒心は?」