チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

29 / 109
第20話 南国で綺麗な海だけど…暑い

――眩しい。

とにかく眩しい。

目が焼けるレベルで太陽が近い。

 

俺は港に降り立った瞬間、反射的に片手で額を覆った。

「……南国だな」

 

目の前には青い海。

空も青い。

雲も白い。

そして風が、やけに生ぬるい。

 

ヤシの木が揺れているのを見た瞬間、俺は悟った。

ここはもう、日本じゃない。

……いや、そもそも俺がいたのはポケモン世界だけど。

 

俺は砂浜の方を見ながら呟いた。

「南国で綺麗な海だけど……暑い」

 

マジで暑い。

湿度が高い。

肌がベタつく。

イッシュの都会の空気も嫌だったが、これはこれでキツい。

 

何より――

暑いと頭が回らない。

 

つまり、トラブルが起きる。

俺の経験則だ。

 

俺は帽子を深く被り直して歩き出した。

 

すると、道の向こうから観光客っぽい男が歩いてくる。

いや、観光客じゃない。

あの顔は知っている。

 

――ククイ博士。

 

アローラ地方の博士。

常に白衣を着ているくせに中身は筋肉。

 

どう考えても博士というよりプロレスラー。

しかも帽子を被ってる。

なんかもう全体的に暑苦しい。

 

俺は思わず立ち止まった。

「……うわ、博士だ」

 

俺が小声で呟いた瞬間、ククイ博士がこっちを向いた。

「おっ!キミ!旅のトレーナーか!?」

 

声がデカい。

暑さのせいで余計に響く。

俺は心の中でため息を吐いた。

 

逃げられない。

ここで逃げたら、絶対追いかけてくるタイプだ。

 

俺は観念して軽く手を挙げた。

「……どうも」

ククイ博士はニカッと笑った。

「いい顔してるじゃないか!アローラへようこそだぞ!」

 

暑苦しい。

マジで暑苦しい。

でも悪い人じゃないのは分かる。

 

俺は適当に頷いた。

「どうも……」

 

すると博士が俺をじっと見た。

……いや、見過ぎだろ。

 

「……?」

 

俺が首を傾げると、博士は腕を組んで言った。

「キミ、どこかで見たことがあるような……」

 

やめろ。

そのセリフはやめろ。

それ言われたら終わる。

 

俺は反射的に言った。

「気のせいです」

 

博士は「ん?」と眉を上げた。

「気のせいか?」

 

「気のせいです」

 

博士は笑った。

「まあいい!とりあえず島巡りに興味はないか!?」

 

――しまめぐり。

アローラ地方独特の儀式。

ジムじゃなくて、しまキングやしまクイーンに認められるやつ。

 

俺は少し考えた。

正直、興味はある。

メガシンカもZ技も、何ならダイマックスも知ってる俺としては、

「Z技」ってシステムは結構好きだ。

 

ただ。

今の俺に必要なのは、冒険じゃない。

平穏だ。

炎上から逃げるための隠遁生活だ。

 

俺は即答した。

「ないです」

 

博士が目を丸くした。

「ないのか!?」

 

「ないです」

 

博士は大笑いした。

「ハハハ!即答だな!面白いぞ!」

 

面白くない。

全然面白くない。

 

俺は汗を拭きながら言った。

「とりあえず……休める場所ないですか」

 

博士は腕を組んでうんうん頷く。

「なるほど!暑いもんな!よし、じゃあウチに来るか!」

 

「え?」

俺は固まった。

 

ウチ?

え、待て。

警戒心どこいった?

 

博士はもう決定事項みたいに歩き出している。

「さあさあ!遠慮するな!」

 

俺はついていくしかなかった。

「いや、遠慮とかじゃなくて……」

 

博士は振り返って笑う。

「アローラでは助け合いが基本だぞ!」

 

俺は思った。

アローラ、怖い。

 

距離感が近すぎる。

都会育ちにはキツい。

 

俺は歩きながら、海を横目に見た。

青い水面がキラキラ光っている。

砂浜にはナッシーが立っている。

 

アローラのナッシーは首が長すぎて、ほぼ塔。

あれ絶対バランスおかしいだろ。

 

俺はため息混じりに呟いた。

「……綺麗だけどさ」

 

そして、素直に本音が出た。

「暑い」

 

ククイ博士は笑いながら親指を立てた。

「それがアローラだぞ!」

 

俺は心の中で叫んだ。

――暑さがアローラのアイデンティティみたいに言うな。

 

そんなこんなで歩いていると、ふとスマホが震えた。

 

嫌な予感。

俺はポケットからスマホを取り出した。

通知。

 

【ヒカリ:今どこ!?】

【メイ:カロスの炎上ヤバいですよ】

【トウコ:ちゃんと説明して】

【セレナ:また会えたら嬉しいです】

【ダイゴ:アローラも石が多いよ】

 

俺は顔を覆った。

「……」

 

なんでダイゴがいるんだよ。

どこにでも湧くなこの石オタク。

 

俺が絶望していると、博士が振り返った。

「どうした!?」

 

俺は乾いた笑いを浮かべた。

「……いや、なんでもないです」

 

博士は「そうか!」と笑いながら歩き続ける。

俺はスマホを閉じて、空を見上げた。

 

青空が眩しい。

眩しすぎる。

暑い。

眩しい。

 

そして、嫌な予感がする。

こういう時は大体――

何かが起こる。

 

俺は小さく呟いた。

「……頼むから今回は平和であれ」

 

だがその願いは、秒で砕ける。

 

遠くの方から、元気すぎる声が聞こえた。

「博士ーー!!」

 

声の方向を見ると、元気な女の子が走ってくる。

赤い帽子、スポーティな服装。

……見覚えがある。

 

――ミヅキ。

アローラ地方の主人公枠。

俺は悟った。

 

終わった。

俺は今、アローラ地方の主人公と遭遇する。

しかも博士の家に連行されるルートに入った。

 

俺は乾いた笑いを浮かべた。

「……あー、終わったな」

 

ククイ博士は手を振った。

「おーいミヅキ!」

 

ミヅキは俺を見て、目を輝かせた。

「えっ!?誰ですかその人!?」

 

俺は笑顔を作って言った。

「……どうも」

 

心の中では泣いていた。

俺の平穏。

アローラ到着、開始10分で死亡。

 

次回

「…あのー警戒心は?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。