三月十四日。
ホワイトデー。
今度は。
ちゃんと当日だ。
俺は机に向かっていた。
目の前。
大量の材料。
砂糖。
バター。
チョコ。
レシピ本(開いてない)。
俺は呟く。
「……なんで俺が作る側なんだよ」
背後から声。
「当然」
振り向く。
壁際に腕組み。
赤い帽子。
レッド。
俺は言う。
「お前帰れ」
レッドは短く言う。
「監督」
俺は言う。
「いらねぇ!!!!」
机の上には、バレンタインでもらったチョコの空箱。
俺はため息をつく。
「……ちゃんと返すか」
レッドが小さく頷く。
「偉い」
俺は言う。
「褒めるな」
第一関門:クッキー
俺はレシピを見る。
材料を混ぜる。
……混ぜすぎた。
ベタベタ。
レッドが言う。
「粉」
俺は言う。
「さっき入れた」
レッド。
「足りない」
俺は叫ぶ。
「なんでわかる!!!!」
レッド。
「見れば」
俺は思う。
(こいつ料理もできるのかよ)
なんとか焼けた。
見た目は……ギリ。
味見。
……うまい。
俺は小さく笑う。
「いけるな」
レッドが言う。
「及第点」
俺は言う。
「何様だよ」
渡す側、緊張する説
昼。
約束の場所。
まず来たのは。
元気な足音。
ヒカリ。
「来たよー!」
俺は差し出す。
「ほら」
ヒカリは目を丸くする。
「え、ちゃんと当日!?」
俺は言う。
「バレンタインみたいにズレねぇ」
ヒカリは嬉しそうに受け取る。
「手作り?」
俺は言う。
「……まあな」
ヒカリは一口。
もぐもぐ。
目が輝く。
「おいしい!」
俺はほっとする。
「よかった」
ヒカリは笑う。
「ちゃんとお返ししてくれるとこ、好きだよ」
俺は固まる。
「サラッと言うな」
ヒカリは笑う。
「事実だもん!」
俺は目を逸らす。
二人目。
軽やかな足取り。
ハルカ。
「八雲さん!」
俺は袋を渡す。
「お前は量控えめな」
ハルカは笑う。
「ひどい!」
袋を開ける。
一口。
ぱあっと顔が明るくなる。
「わ、美味しい!」
俺は言う。
「生クリーム入れてないからな」
ハルカは笑いながら言う。
「進化してる!」
俺は言う。
「比較対象がひどい」
三人目。
落ち着いた足音。
セレナ。
俺は少し姿勢を正す。
「……これ」
セレナは静かに受け取る。
「ありがとう」
包みを開ける。
一口。
ふっと笑う。
「ちゃんと練習したんですね?」
俺は言う。
「……まあな」
セレナは小さく言う。
「こういうところ、好きですよ」
俺は固まる。
「流行ってんのかその言い回し」
セレナはくすっと笑う。
「本音よ」
最後。
元気な声。
ミヅキ。
「ホワイトデー楽しみにしてたよ!」
俺は言う。
「プレッシャーかけるな」
渡す。
ミヅキはすぐ一口。
「美味しい!」
そしてにやっと笑う。
「来年も期待してるね?」
俺は言う。
「恒例行事にするな」
全員帰った後。
ベンチに座る俺。
レッドが隣に立つ。
「成功」
俺は言う。
「疲れた」
レッドが少しだけ口元を緩める。
「顔」
俺は言う。
「何」
レッド。
「嬉しそう」
俺は即答。
「気のせいだ」
レッド。
「否定早い」
俺は黙る。
スマホが震える。
【ヒカリ:本当に嬉しかった!】
【ハルカ:また作って!】
【セレナ:次は一緒に作る?】
【ミヅキ:写真送るね!】
俺は天を仰ぐ。
「……静かに感謝させろ」
レッドが言う。
「贅沢」
俺は小さく笑う。
「……まあな」
ちゃんと当日。
ちゃんとお返し。
ちゃんと喜ばれる。
なんだこれ。
普通に幸せじゃねぇか。
俺は呟く。
「……来年はもっと上手く作るか」
レッドが短く言う。
「期待」
俺は言う。
「お前はもらってねぇだろ」
レッド。
「見てた」
俺は叫ぶ。
「それで満足するな!!!!」
今度は過ぎてないホワイトデー 完
(※このルートの八雲零は、なぜか翌日から「お菓子作れる男子」という噂が広まり、料理対決イベントに巻き込まれる)