チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第21話 あのー警戒心は?

――なんでこうなる。

俺は今、ククイ博士の家にいる。

いや、正確に言えば「連れてこられた」

 

しかも強制力が強い。

博士の「来るか!」は、選択肢じゃなくて命令だ。

俺はソファに座らされ、手元には湯気の立つお茶。

 

南国なのに熱いお茶。

アローラの文化、理解できない。

 

目の前では、ククイ博士が満足げに腕を組んでいる。

隣には、さっき走ってきたミヅキ。

目がキラキラしている。

完全に好奇心の塊だ。

 

俺はお茶を一口飲んだ。

「……」

 

うまい。

普通にうまい。

くそ、こういうところだけ丁寧なんだよな。

 

俺は湯呑みを置いて、素直に疑問を口にした。

「あのー警戒心は?」

 

ミヅキが首を傾げる。

「けいかいしん?」

 

ククイ博士は笑った。

「ハハハ!キミ、面白いこと言うな!」

 

俺は真顔で続けた。

「いや、普通知らない男を家に上げないでしょ」

 

ククイ博士は親指を立てた。

「大丈夫だぞ!キミは悪いヤツじゃない!」

 

どこで判断した。

見た目か?

 

俺は心の中でツッコミを入れる。

――俺、ギンガ団とかフレア団の服を着てた時もあるんだぞ。

 

ミヅキは俺の顔をじっと見て言った。

「でも、お兄さん……なんか優しそうです!」

 

俺は少し目を細めた。

「……そう見える?」

 

「はい!」

 

即答かよ。

ミヅキ、距離感が近い。

アローラの主人公、距離感が近い。

これは危険だ。

 

俺はため息を吐きながら、話題を逸らす。

「……で、ここは博士の家なんですか」

 

ククイ博士は胸を張った。

「そうだぞ!ここがククイ博士の研究所兼自宅だ!」

 

自宅兼研究所。

職住一体。

効率的ではあるが、落ち着かなそうだ。

 

俺が周りを見回していると、ミヅキがずいっと近づいてきた。

「ねえねえ!お兄さん名前は!?」

 

俺は反射的に答えた。

「八雲零」

 

言った瞬間に後悔した。

しまった。

名前を言うな。

 

俺は炎上体質なんだぞ。

 

ミヅキは手を叩いて笑った。

「れい!れいっていうんだ!かっこいい!」

 

俺は笑うしかなかった。

「……どうも」

 

ククイ博士が興味深そうに言った。

「八雲零……どこかの地方のトレーナーか?」

 

俺は即答した。

「ただの高校生です」

 

ミヅキが目を丸くする。

「えっ!?高校生!?」

 

ククイ博士は腕を組んで唸った。

「高校生にしては落ち着きすぎてるぞ……」

 

俺は目を逸らした。

 

落ち着いてるんじゃない。

諦めてるだけだ。

 

人生に。

世界に。

アルセウスに。

 

俺は湯呑みを持ち上げ、また一口飲んだ。

……うまい。

くそ。

 

俺が心の中で葛藤していると、ミヅキが突然言った。

「ねえ!れいってポケモントレーナーなの!?」

 

俺は一瞬迷った。

ここで「違う」と言うのが正解だ。

でも、今更隠す意味もない。

 

俺は小さく頷いた。

「まぁ、一応」

 

ミヅキの顔がさらに輝いた。

「えっ!!じゃあバトルできる!?」

 

やめろ。

アローラ主人公はバトル狂なのか。

 

俺は思わず顔を覆った。

 

ククイ博士はニヤニヤしながら言った。

「いいじゃないか!ミヅキ、ちょうど島巡りの練習になるぞ!」

 

俺は思った。

いや俺、島巡りに巻き込まれたくないんだが。

 

しかし博士は止まらない。

「零!アローラではポケモンバトルが絆を深めるんだぞ!」

 

いやそれはどこの地方でもそうだろ。

 

俺は疲れた顔で言った。

「……俺、休みに来ただけなんですけど」

 

ミヅキが勢いよく頷く。

「じゃあ休みながらバトルしよう!!」

 

休めてない。

絶対休めてない。

 

俺は乾いた笑いを漏らした。

「……発想が脳筋すぎる」

 

ククイ博士は「脳筋じゃないぞ!」と笑った。

 

いや脳筋だろ。

俺はもう諦めて、ポケットに手を突っ込む。

そして、モンスターボールを取り出した。

 

するとミヅキが目を輝かせた。

「わぁ……!」

 

俺は小さく呟く。

「……初心者相手に何出せばいいんだよ」

 

下手に強いの出したら、また炎上する。

というか俺、もう炎上してる。

 

俺はスマホを見た。

通知が鳴り止まない。

 

【ヒカリ:今度はアローラ!?】

【メイ:ミヅキちゃんと一緒ってマジ?】

【トウコ:もう隠す気ないでしょ】

【セレナ:体調大丈夫ですか?】

【ダイゴ:アローラにも石があるよ】

 

うるせえ。

何でダイゴはどこにでもいるんだよ。

 

俺はスマホを閉じて、ミヅキに視線を戻す。

ミヅキは完全にワクワクしている。

 

……まあ、いいか。

この子には罪はない。

 

俺は小さく息を吐いた。

「……分かったよ」

 

ミヅキが両手を上げて喜ぶ。

「やったーー!!」

 

ククイ博士も嬉しそうに言った。

「よし!じゃあ外でバトルするぞ!」

 

俺は立ち上がりながら、心の中で呟いた。

――俺、アローラに来てまだ半日も経ってないんだぞ。

 

なのにもう博士の家でお茶飲んでバトル確定って。

俺の人生、どんなスピード感だよ。

 

そして俺は、最後にもう一度だけ呟いた。

「……あのー警戒心は?」

 

ミヅキは満面の笑みで言った。

「ないよ!!」

 

即答だった。

俺は思った。

アローラ、怖い。

 

次回

「しまキングって四天王みたいな感じ?」

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