――なんでこうなる。
俺は今、ククイ博士の家にいる。
いや、正確に言えば「連れてこられた」
しかも強制力が強い。
博士の「来るか!」は、選択肢じゃなくて命令だ。
俺はソファに座らされ、手元には湯気の立つお茶。
南国なのに熱いお茶。
アローラの文化、理解できない。
目の前では、ククイ博士が満足げに腕を組んでいる。
隣には、さっき走ってきたミヅキ。
目がキラキラしている。
完全に好奇心の塊だ。
俺はお茶を一口飲んだ。
「……」
うまい。
普通にうまい。
くそ、こういうところだけ丁寧なんだよな。
俺は湯呑みを置いて、素直に疑問を口にした。
「あのー警戒心は?」
ミヅキが首を傾げる。
「けいかいしん?」
ククイ博士は笑った。
「ハハハ!キミ、面白いこと言うな!」
俺は真顔で続けた。
「いや、普通知らない男を家に上げないでしょ」
ククイ博士は親指を立てた。
「大丈夫だぞ!キミは悪いヤツじゃない!」
どこで判断した。
見た目か?
俺は心の中でツッコミを入れる。
――俺、ギンガ団とかフレア団の服を着てた時もあるんだぞ。
ミヅキは俺の顔をじっと見て言った。
「でも、お兄さん……なんか優しそうです!」
俺は少し目を細めた。
「……そう見える?」
「はい!」
即答かよ。
ミヅキ、距離感が近い。
アローラの主人公、距離感が近い。
これは危険だ。
俺はため息を吐きながら、話題を逸らす。
「……で、ここは博士の家なんですか」
ククイ博士は胸を張った。
「そうだぞ!ここがククイ博士の研究所兼自宅だ!」
自宅兼研究所。
職住一体。
効率的ではあるが、落ち着かなそうだ。
俺が周りを見回していると、ミヅキがずいっと近づいてきた。
「ねえねえ!お兄さん名前は!?」
俺は反射的に答えた。
「八雲零」
言った瞬間に後悔した。
しまった。
名前を言うな。
俺は炎上体質なんだぞ。
ミヅキは手を叩いて笑った。
「れい!れいっていうんだ!かっこいい!」
俺は笑うしかなかった。
「……どうも」
ククイ博士が興味深そうに言った。
「八雲零……どこかの地方のトレーナーか?」
俺は即答した。
「ただの高校生です」
ミヅキが目を丸くする。
「えっ!?高校生!?」
ククイ博士は腕を組んで唸った。
「高校生にしては落ち着きすぎてるぞ……」
俺は目を逸らした。
落ち着いてるんじゃない。
諦めてるだけだ。
人生に。
世界に。
アルセウスに。
俺は湯呑みを持ち上げ、また一口飲んだ。
……うまい。
くそ。
俺が心の中で葛藤していると、ミヅキが突然言った。
「ねえ!れいってポケモントレーナーなの!?」
俺は一瞬迷った。
ここで「違う」と言うのが正解だ。
でも、今更隠す意味もない。
俺は小さく頷いた。
「まぁ、一応」
ミヅキの顔がさらに輝いた。
「えっ!!じゃあバトルできる!?」
やめろ。
アローラ主人公はバトル狂なのか。
俺は思わず顔を覆った。
ククイ博士はニヤニヤしながら言った。
「いいじゃないか!ミヅキ、ちょうど島巡りの練習になるぞ!」
俺は思った。
いや俺、島巡りに巻き込まれたくないんだが。
しかし博士は止まらない。
「零!アローラではポケモンバトルが絆を深めるんだぞ!」
いやそれはどこの地方でもそうだろ。
俺は疲れた顔で言った。
「……俺、休みに来ただけなんですけど」
ミヅキが勢いよく頷く。
「じゃあ休みながらバトルしよう!!」
休めてない。
絶対休めてない。
俺は乾いた笑いを漏らした。
「……発想が脳筋すぎる」
ククイ博士は「脳筋じゃないぞ!」と笑った。
いや脳筋だろ。
俺はもう諦めて、ポケットに手を突っ込む。
そして、モンスターボールを取り出した。
するとミヅキが目を輝かせた。
「わぁ……!」
俺は小さく呟く。
「……初心者相手に何出せばいいんだよ」
下手に強いの出したら、また炎上する。
というか俺、もう炎上してる。
俺はスマホを見た。
通知が鳴り止まない。
【ヒカリ:今度はアローラ!?】
【メイ:ミヅキちゃんと一緒ってマジ?】
【トウコ:もう隠す気ないでしょ】
【セレナ:体調大丈夫ですか?】
【ダイゴ:アローラにも石があるよ】
うるせえ。
何でダイゴはどこにでもいるんだよ。
俺はスマホを閉じて、ミヅキに視線を戻す。
ミヅキは完全にワクワクしている。
……まあ、いいか。
この子には罪はない。
俺は小さく息を吐いた。
「……分かったよ」
ミヅキが両手を上げて喜ぶ。
「やったーー!!」
ククイ博士も嬉しそうに言った。
「よし!じゃあ外でバトルするぞ!」
俺は立ち上がりながら、心の中で呟いた。
――俺、アローラに来てまだ半日も経ってないんだぞ。
なのにもう博士の家でお茶飲んでバトル確定って。
俺の人生、どんなスピード感だよ。
そして俺は、最後にもう一度だけ呟いた。
「……あのー警戒心は?」
ミヅキは満面の笑みで言った。
「ないよ!!」
即答だった。
俺は思った。
アローラ、怖い。
次回
「しまキングって四天王みたいな感じ?」