チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第22話 しまキングって四天王みたいな感じ?

外は相変わらず暑かった。

暑い。

暑すぎる。

なんなら空気が熱い。

 

俺はククイ博士の家から出た瞬間、現実を思い出した。

――俺、なんでここにいるんだっけ。

 

あぁそうだ。

逃げてきたんだ。

 

炎上から。

人間関係から。

アルセウスの趣味から。

 

なのに今は、博士と主人公に挟まれてバトルをする流れになっている。

俺の人生、終わってる。

 

ミヅキは隣でぴょんぴょん跳ねながら言った。

「れい!どのポケモン出すの!?」

 

俺は頭を掻いた。

「……適当」

 

ククイ博士が笑う。

「ハハハ!適当で勝てるなら苦労しないぞ!」

 

俺は心の中で呟いた。

適当で勝てるから困ってんだよ。

 

だがその時、遠くから声が聞こえた。

「ククイ博士ーー!!」

 

俺はそちらを見た。

そこにいたのは――

明らかに“偉い”雰囲気の男。

 

肌は褐色。

背は高い。

腕が太い。

何より、目が鋭い。

 

そして、背後にいるポケモンの圧がヤバい。

 

俺は直感で悟った。

この人、強い。

 

ククイ博士が軽く手を上げる。

「おっ、ハラさん!」

 

……ハラ。

聞いたことがある。

 

アローラのしまキング。

格闘タイプの使い手。

 

そしてこの地方の“試練”を管理している存在。

 

俺は思わず小声で呟いた。

「……しまキング?」

 

ミヅキが元気よく頷く。

「そう!この人がメレメレ島のしまキング、ハラさんだよ!」

 

俺はハラをじっと見た。

 

圧がある。

四天王みたいな圧。

いや、四天王より怖いかもしれない。

 

俺は率直に口にした。

「しまキングって四天王みたいな感じ?」

 

ミヅキはきょとんとした。

「してんのう?」

 

ククイ博士は笑いながら説明する。

「まあ、似たようなものだな!島巡りをするトレーナーを導く役目だ!」

 

ハラは俺をじっと見ていた。

 

目が怖い。

この人、絶対「戦ってみろ」って言うタイプだ。

 

俺は心の中で警戒した。

 

するとハラがゆっくり口を開いた。

「……おぬし、見慣れぬ顔だな」

 

声が低い。

腹に響く。

 

俺は反射的に背筋を伸ばした。

「……どうも」

 

ハラは目を細める。

「その目……ただ者ではないな」

 

やめろ。

そういうのやめろ。

 

俺はただの高校生だ。

ただの転生者だ。

ただのチュートリアルお兄さんのはずなんだ。

 

ククイ博士が嬉しそうに言った。

「ハラさん!彼が八雲零だ!」

 

余計なこと言うな。

 

ハラは俺の名前を聞いて、少し眉を動かした。

「八雲零……」

 

そして、何故か納得したように頷く。

「なるほど。噂の」

 

噂の。

噂の?

 

俺は固まった。

「……え?」

 

ミヅキも驚く。

「えっ!?れいって噂になってるの!?」

 

俺は心の中で叫んだ。

なってるに決まってるだろ!!!

 

俺、カントー元チャンピオン扱いされてるし、各地方で主人公と絡んで炎上してるんだぞ!!!

 

ハラは腕を組み、ゆっくり言った。

「最近、各地方で妙な噂が流れておる」

 

俺は嫌な汗をかく。

「妙な噂……?」

 

ハラは続けた。

「どこにでも現れ、強者を倒し、少年少女と絡み……」

 

やめろ。

やめてくれ。

 

ミヅキが目を輝かせた。

「えっ!?なにそれ!すごい!!」

 

すごくない。

最悪だ。

 

ハラは俺を見て言った。

「おぬし……試しに、ワシと一戦どうだ」

 

来た。

来たよ。

やっぱり言った。

 

ククイ博士がニヤニヤしながら言う。

「いいじゃないか!ハラさんとバトルできる機会なんて滅多にないぞ!」

 

ミヅキも両手を合わせて頼んでくる。

「お願い!れい!私も見たい!」

 

俺は思った。

終わった。

アローラ到着してまだ一日経ってないのに、しまキング戦が始まる。

 

しかも相手はハラ。

格闘タイプの達人。

そして何より。

 

俺は今、精神的に疲れている。

……が。

断れない。

 

俺は深く息を吐いた。

「……分かりましたよ」

 

ハラは口元を少し上げた。

「よい返事だ」

 

俺はポケットからモンスターボールを取り出した。

 

ここでガブリアスは出せない。

ミュウツーは論外。

ジュカインもダメだ。

 

強いポケモンを出せば、確実に炎上が加速する。

だが弱すぎても、しまキング相手に失礼。

 

俺は少し悩み――

ボールを選んだ。

 

「……行け、サーナイト」

 

光が弾け、白いドレスのようなポケモンが現れる。

「サーナイ……!」

 

ミヅキが目を輝かせた。

「わぁ!きれい!」

 

ククイ博士も頷く。

「サーナイトか!格闘に強いな!」

 

ハラは頷いた。

「なるほど。理にかなっておる」

 

ハラは自分のボールを投げる。

「出でよ、ハリテヤマ」

 

巨体の格闘ポケモンが現れる。

「ドスコイ!!」

 

圧がすごい。

 

ミヅキが思わず後ずさる。

「うわ……でっか……」

 

俺はサーナイトを見て小さく言った。

「……手加減するなよ」

 

サーナイトは静かに頷いた。

 

ハラが言う。

「では始めるぞ。若者よ」

 

俺は頷く。

「……どうぞ」

 

次の瞬間。

俺のスマホが震えた。

また通知だ。

 

俺は見ないようにした。

見たら負けだ。

 

だが、振動が止まらない。

 

ハラが言った。

「ハリテヤマ!はっけい!」

 

ハリテヤマが突進して掌底を叩き込む。

俺は即座に指示を出した。

「サーナイト、テレポート」

 

サーナイトの身体が一瞬消える。

ハリテヤマの攻撃は空振り。

次の瞬間、サーナイトが背後に現れる。

 

ハラが目を細めた。

「ほう……」

 

俺は言う。

「サーナイト、サイコキネシス」

 

念力が渦巻き、ハリテヤマの身体が宙に浮く。

「ドスコイ!?!?」

 

ハリテヤマが暴れるが、動けない。

 

ミヅキが口を押さえた。

「すご……」

 

ハラは落ち着いて言った。

「ハリテヤマ、耐えろ」

 

俺は少し驚いた。

しまキング、動じない。

普通なら焦る。

 

だがハラは冷静だ。

俺は内心、少しだけ楽しくなってきた。

 

――強い相手と戦うのは、やっぱり面白い。

 

俺は言った。

「サーナイト、ムーンフォース」

 

月の光が弾け、ハリテヤマに直撃する。

「ドォォォスコイ!!」

 

ハリテヤマが吹き飛び、地面に膝をついた。

……が、倒れない。

 

ハラが静かに笑った。

「まだだ」

 

俺は目を細めた。

タフすぎる。

 

ハリテヤマは根性で立ち上がり、吠えた。

「ドスコォォイ!!」

 

その姿を見て、ミヅキが思わず声を漏らした。

「うわぁ……かっこいい……!」

 

俺はサーナイトに言う。

「……終わらせるぞ」

 

サーナイトが静かに構えた。

 

ハラが叫ぶ。

「ハリテヤマ!もう一度はっけい!」

 

俺は即答する。

「サーナイト、サイコショック」

 

光の衝撃波が放たれ、ハリテヤマに直撃。

ハリテヤマはそのまま倒れた。

気絶。

 

静寂。

風が吹き抜ける。

 

そして、ミヅキが目を輝かせて叫んだ。

「すごーーい!!れい強すぎ!!」

 

俺は乾いた笑いを漏らした。

「……いや、まあ」

 

ハラはハリテヤマを戻し、俺を見て頷いた。

「見事だ」

 

そして、少しだけ優しい声で言った。

「おぬし……アローラに来たのは、ただの偶然ではないな」

 

俺は固まった。

「……え?」

 

ハラは続ける。

「この島は、流れ者を拒まぬ。だが運命からは逃げられぬ」

 

やめろ。

そういう運命とか言うな。

俺は運命って言葉が嫌いなんだよ。

 

その瞬間。

俺のスマホがまた震えた。

 

今度は着信。

 

画面に表示された名前を見て、俺は絶望した。

【トウコ】

 

ミヅキが覗き込んで言った。

「トウコ……?誰?」

 

俺は青ざめた顔でスマホを見つめたまま答えた。

「……鬼」

 

ミヅキが「え?」って顔をした。

 

ククイ博士が笑う。

「ハハハ!鬼ってなんだ!」

 

俺はスマホを耳に当て、死んだ目で言った。

「……もしもし」

 

電話の向こうから聞こえた声は、怒りに満ちていた。

『零ぃぃぃぃぃ!!!!』

 

俺は思った。

アローラ。

暑い。

海は綺麗。

 

でも。

俺の人生は、相変わらず終わってる。

 

次回

「うるさいよトウコ!」

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