『零ぃぃぃぃぃ!!!!』
スマホ越しに、怒号が鼓膜を殴ってきた。
俺は思わずスマホを耳から離した。
「……うるさ」
いや、うるさいとかいうレベルじゃない。
もはや災害警報。
ミヅキが隣で目を丸くしている。
「えっ……なにこの声……」
ククイ博士は笑っていた。
「ハハハ!元気な子だな!」
元気じゃない。
怒りだ。
怒りの塊だ。
俺はスマホを耳に戻し、力なく言った。
「……もしもし」
『もしもしじゃない!!どこ行ったの!?』
「……アローラ」
『アローラァ!?!?』
トウコの声が一段階上がった。
俺は空を見上げた。
青空が眩しい。
この青空の下で、俺は今人生最大級に怒られている。
理不尽。
『イッシュのリーグ代表取締役の名刺渡したくせに、本人が消えるってどういうこと!?』
「俺は知らない」
『知らないじゃない!!』
俺はため息を吐いた。
「……トウコうるさいよ。メイとでも話しといてくれ」
その瞬間、電話の向こうが静かになった。
……一瞬だけ。
『はぁ!?』
次の瞬間、トウコの怒りが倍になって返ってきた。
『なんでメイに丸投げするの!?』
「だってお前怖いし」
『怖いのはそっちでしょ!?』
いや、確かに。
俺もだいぶ怖い。
でも俺は暴れてない。
たぶん。
ミヅキが小声でククイ博士に聞いている。
「博士……れいって何者なの……?」
ククイ博士は腕を組んで頷いた。
「分からん!」
分からんのかよ。
トウコの声がさらに鋭くなる。
『いい!?今すぐ戻ってきなさい!!』
「嫌です」
『即答すんな!!』
俺はスマホを握りしめながら言った。
「戻ったらまた四天王のところ連れていかれるじゃん」
『当たり前でしょ!?』
「嫌だよ俺、もうチャンピオンになる気ないんだって」
『そんなの関係ない!!』
トウコの怒りは止まらない。
俺は思った。
これ、電話切ったら殺されるやつだ。
でも切らないと永遠に続く。
詰み。
その時だった。
ミヅキが俺の袖を引っ張った。
「ねえ、れい……その人誰……?」
俺は即答した。
「鬼」
「鬼!?」
ククイ博士が腹を抱えて笑い出す。
「ハハハハ!!鬼ってなんだ!!」
トウコの声がスマホから響く。
『誰が鬼よ!!!!』
聞こえてる。
全部聞こえてる。
俺は顔を覆った。
「……あーもう」
その瞬間。
ピコン。
スマホに通知が来た。
メッセージ。
【メイ:写真送るね^^】
嫌な予感がした。
俺は固まる。
「……え?」
次の瞬間。
画像が送られてきた。
開いた瞬間、俺の魂が抜けかけた。
そこに写っていたのは――
さっきの俺。
しまキング・ハラとバトルしている俺。
サーナイトがムーンフォースを放っている瞬間。
そしてその横で、ミヅキが「すごーい!」みたいな顔で俺を見ている。
さらに、ククイ博士が満面の笑みで親指を立てている。
完全に「仲良し集合写真」みたいな構図。
俺は震える声で呟いた。
「……終わった」
トウコが電話越しに言った。
『……何?今度は何したの?』
俺は力なく答えた。
「メイが写真送ってきた」
『……また撮られてるの!?』
「撮られてる」
『なんで毎回撮られてるの!?』
「俺が聞きたい」
ミヅキが俺のスマホを覗き込んで、目を輝かせた。
「わぁ!この写真いいじゃん!」
良くない。
最悪だ。
俺の人生がまた燃える。
そして――
スマホが震えた。
通知。
【メイ:もう投稿したよ^^】
俺は目を見開いた。
「……は?」
トウコが察して叫ぶ。
『まさか……!』
俺は震える声で言った。
「……投稿したらしい」
『あのバカ!!!!』
トウコの怒鳴り声が、アローラの青空に響き渡る勢いだった。
ミヅキがびくっと肩を震わせた。
「うわ……」
ククイ博士は笑っている。
「元気すぎるぞ!!」
元気じゃない。
修羅場だ。
俺は恐る恐るSNSを開いた。
そして、目に入った。
【速報:八雲零、アローラ上陸】
【しまキングを倒した謎の男】
【ミヅキとククイ博士と仲良くバトル】
【また女性と絡んでるww】
【女癖悪い説、確定】
俺はスマホを握りしめたまま、膝から崩れ落ちた。
「……誰か俺を殺してくれ」
ミヅキが慌てて俺の肩を叩く。
「れ、れい!?大丈夫!?」
トウコが電話越しに怒鳴る。
『大丈夫なわけないでしょ!!』
俺は涙目になりながら叫んだ。
「うるさいよトウコ!!メイとでも話しといてくれ!!」
『メイは今逃げてるわよ!!』
「逃げるなよあいつ!!」
その瞬間、さらに通知が来た。
【ヒカリ:アローラで何してんのwww】
【セレナ:……?】
【ハルカ:八雲さん、説明して】
【ユウキ:草】
【ダイゴ:アローラの石もいいよ】
俺はスマホを見つめたまま呟いた。
「……なんでダイゴはどこにでもいるんだよ」
ククイ博士が俺の肩を叩く。
「零!人気者じゃないか!」
「人気者じゃないです……」
俺は心の底から否定した。
これは人気じゃない。
これは炎上だ。
そして、トウコが低い声で言った。
『零』
「……はい」
『もう逃げるのはやめなさい』
「……無理」
『無理じゃない』
俺は静かに言った。
「俺、ただ静かに生きたいだけなんだよ」
トウコは少し黙った。
だが次の瞬間、冷たく言い放った。
『静かに生きたいなら、まずあんたが言う主人公?に近づかないで』
俺は反論できなかった。
「……それは、そう」
ミヅキが首を傾げる。
「主人公……?」
俺は笑顔を作って誤魔化した。
「気にしないで」
だが、その時。
遠くから声が聞こえた。
「ミヅキーー!!」
そして、別の声。
「ククイ博士ーー!!」
俺は嫌な予感がして振り返った。
そこには――
明らかに島巡り関係者っぽい大人たちが集まってきていた。
俺は思った。
終わった。
しまキング戦を見られたせいで、俺は島巡りに巻き込まれる。
逃げ道がない。
トウコの声が電話越しに響く。
『ほら、言わんこっちゃない』
俺はスマホを握りしめたまま、乾いた笑いを漏らした。
「……あはは」
そして心の中で叫んだ。
――俺の人生、バッジケース落としたあたりからずっとおかしいだろ。
次回
「…あー大炎上だ」