チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第24話 あー大炎上だ

スマホが震えている。

ずっと。

常に。

休みなく。

 

止まらない。

もはや通知音がBGMになってる。

 

俺は画面を見つめながら、乾いた声で呟いた。

「あー大炎上だ」

 

ミヅキが隣で覗き込んでくる。

「えっ、なに!?なにが炎上してるの!?」

 

ククイ博士は腕を組んで笑っている。

「ハハハ!炎上って、なんだ!?」

 

博士、SNSやってないのか?

この人、絶対ネット触ったら一瞬で燃えるタイプだぞ。

 

俺はスマホを見ながら、さらに呟く。

「しかも特定されてるし……」

 

通知欄に流れる文字。

【八雲零の現在地、アローラのメレメレ島】

【ククイ博士の家の近くで目撃情報】

【ミヅキと並んで歩いてた】

【しまキング戦、目撃多数】

【バトルスタイルが元カントーチャンピオンと一致】

 

……おい。

なんでそんな情報まで出てんだよ。

 

俺は目を細めた。

「……誰だよ、こんなのまとめてるやつ」

 

ミヅキがスマホを覗き込みながら言う。

「えっ、れいって有名人なの!?」

 

「有名じゃない」

 

「でもみんな知ってるじゃん!」

 

「炎上してるだけ」

 

ミヅキはよく分からない顔をした。

「えんじょうって……燃えてるの?」

 

燃えてるよ。

社会的に。

精神的に。

 

俺はスマホをスクロールする。

 

すると、さらに最悪な文言が目に入った。

【元カントーチャンピオン説】

【ワタルが匂わせてたってマジ?】

【過去のジムバッジケースが一致】

【メガリング、Zリング所持確認】

【伝説持ち疑惑】

 

俺は固まった。

「……なんで元カントーチャンピオンなのもバレてるの?」

 

誰が漏らした?

俺が自分で言った覚えはない。

いや、言ったかもしれない。

 

でもそんな堂々とは言ってない。

……たぶん。

 

俺は目を閉じた。

そして答えに辿り着く。

 

「……ワタルのせいか?」

 

ククイ博士が首を傾げる。

「ワタル?」

 

ミヅキも首を傾げる。

「ワタルって誰?」

 

俺は遠い目で言った。

「……ドラゴンの化身みたいな人」

 

ミヅキが目を輝かせた。

「ドラゴン!?すごい!」

 

すごくない。

迷惑だ。

俺はスマホを閉じた。

 

閉じても震える。

着信まで来てる。

 

画面に表示される名前。

【メイ】

 

俺は青筋を立てて電話に出た。

「……もしもし」

 

『やっほー零くん!』

 

軽い。

軽すぎる。

お前、今どれだけの人間を地獄に落としたと思ってる。

 

俺は低い声で言った。

「メイ」

 

『なにー?』

 

「お前さ」

 

『うん』

 

「何で写真上げたの」

 

『え、だって面白かったから!』

 

俺はスマホを握り潰しそうになった。

「面白いじゃねぇよ」

 

『えー、でもさ!めっちゃバズってるよ!?』

 

「知ってるよ」

 

俺は周りを見た。

ミヅキは「バズるってなに?」って顔で、ククイ博士は相変わらず笑っている。

 

この平和なアローラで、俺だけ地獄にいる。

 

メイがさらに追い打ちをかけるように言った。

『しかもさー、零くんって元カントーチャンピオンなんでしょ?』

 

俺は目を見開いた。

「は?」

 

『みんな言ってるよ!』

 

「言ってるじゃねぇよ。誰が言った」

 

『え、ワタルさんじゃない?』

 

俺は叫んだ。

「やっぱワタルじゃねぇか!!」

 

ミヅキがびくっと震えた。

「れ、れい!?」

 

ククイ博士が笑う。

「ハハハ!元気だな!」

 

元気じゃない。

怒りだ。

 

メイは楽しそうに続ける。

『あとさ、今アローラにいるのも完全に特定されてるよ』

 

「知ってるよ」

 

『ククイ博士の家の前の景色、写真で一致してるって』

 

「何でそんな分析班みたいなのがいるんだよ」

 

メイはケラケラ笑った。

『ネット民なめないでよー』

 

なめてない。

むしろ恐れてる。

 

俺は深く息を吐き、震える声で言った。

「……メイ」

 

『なに?』

 

「頼むから消してくれ」

 

『えー?』

 

「頼む」

 

メイは少しだけ黙った。

そして、意外にもあっさり言った。

『うーん……まあ、いいよ。消しても』

 

俺は少し安心した。

「ほんとか」

 

『でもさ』

 

嫌な予感。

 

『スクショはもう広まってるよ?』

 

俺はその場で崩れ落ちた。

「……あぁぁぁぁ……」

 

ミヅキが慌てて俺の背中をさする。

「だ、大丈夫!?れい死ぬの!?」

 

死ぬ。

社会的に死ぬ。

 

俺は顔を覆いながら呟いた。

「……俺、もう日本に帰りたい」

 

その瞬間。

別の通知が来た。

【トウコ:今すぐ電話出ろ】

 

俺はスマホを見て、静かに笑った。

「……あ、終わった」

 

メイが電話越しに言う。

『あ、トウコ?』

 

「……うん」

 

『じゃ、頑張ってね!』

 

「お前は頑張れじゃなくて謝れ」

 

『やだー』

 

プツッ。

電話が切れた。

 

俺は虚無の目でスマホを見つめた。

 

そして、ゆっくり着信に出る。

「……もしもし」

 

『零』

 

トウコの声は、怒りを通り越して冷えていた。

 

氷タイプみたいな声だった。

 

『説明して』

 

俺は諦めたように言った。

「……あー大炎上だ」

 

『それは見れば分かる!!!』

 

俺は心の中で叫んだ。

――もうやだ。

 

俺はただ、静かに旅がしたかっただけなのに。

 

なのに俺は今。

アローラの青空の下で。

 

全国ネットで燃えている。

 

次回

「…こういう時ってどうすればいい?」

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