スマホが震えている。
ずっと。
常に。
休みなく。
止まらない。
もはや通知音がBGMになってる。
俺は画面を見つめながら、乾いた声で呟いた。
「あー大炎上だ」
ミヅキが隣で覗き込んでくる。
「えっ、なに!?なにが炎上してるの!?」
ククイ博士は腕を組んで笑っている。
「ハハハ!炎上って、なんだ!?」
博士、SNSやってないのか?
この人、絶対ネット触ったら一瞬で燃えるタイプだぞ。
俺はスマホを見ながら、さらに呟く。
「しかも特定されてるし……」
通知欄に流れる文字。
【八雲零の現在地、アローラのメレメレ島】
【ククイ博士の家の近くで目撃情報】
【ミヅキと並んで歩いてた】
【しまキング戦、目撃多数】
【バトルスタイルが元カントーチャンピオンと一致】
……おい。
なんでそんな情報まで出てんだよ。
俺は目を細めた。
「……誰だよ、こんなのまとめてるやつ」
ミヅキがスマホを覗き込みながら言う。
「えっ、れいって有名人なの!?」
「有名じゃない」
「でもみんな知ってるじゃん!」
「炎上してるだけ」
ミヅキはよく分からない顔をした。
「えんじょうって……燃えてるの?」
燃えてるよ。
社会的に。
精神的に。
俺はスマホをスクロールする。
すると、さらに最悪な文言が目に入った。
【元カントーチャンピオン説】
【ワタルが匂わせてたってマジ?】
【過去のジムバッジケースが一致】
【メガリング、Zリング所持確認】
【伝説持ち疑惑】
俺は固まった。
「……なんで元カントーチャンピオンなのもバレてるの?」
誰が漏らした?
俺が自分で言った覚えはない。
いや、言ったかもしれない。
でもそんな堂々とは言ってない。
……たぶん。
俺は目を閉じた。
そして答えに辿り着く。
「……ワタルのせいか?」
ククイ博士が首を傾げる。
「ワタル?」
ミヅキも首を傾げる。
「ワタルって誰?」
俺は遠い目で言った。
「……ドラゴンの化身みたいな人」
ミヅキが目を輝かせた。
「ドラゴン!?すごい!」
すごくない。
迷惑だ。
俺はスマホを閉じた。
閉じても震える。
着信まで来てる。
画面に表示される名前。
【メイ】
俺は青筋を立てて電話に出た。
「……もしもし」
『やっほー零くん!』
軽い。
軽すぎる。
お前、今どれだけの人間を地獄に落としたと思ってる。
俺は低い声で言った。
「メイ」
『なにー?』
「お前さ」
『うん』
「何で写真上げたの」
『え、だって面白かったから!』
俺はスマホを握り潰しそうになった。
「面白いじゃねぇよ」
『えー、でもさ!めっちゃバズってるよ!?』
「知ってるよ」
俺は周りを見た。
ミヅキは「バズるってなに?」って顔で、ククイ博士は相変わらず笑っている。
この平和なアローラで、俺だけ地獄にいる。
メイがさらに追い打ちをかけるように言った。
『しかもさー、零くんって元カントーチャンピオンなんでしょ?』
俺は目を見開いた。
「は?」
『みんな言ってるよ!』
「言ってるじゃねぇよ。誰が言った」
『え、ワタルさんじゃない?』
俺は叫んだ。
「やっぱワタルじゃねぇか!!」
ミヅキがびくっと震えた。
「れ、れい!?」
ククイ博士が笑う。
「ハハハ!元気だな!」
元気じゃない。
怒りだ。
メイは楽しそうに続ける。
『あとさ、今アローラにいるのも完全に特定されてるよ』
「知ってるよ」
『ククイ博士の家の前の景色、写真で一致してるって』
「何でそんな分析班みたいなのがいるんだよ」
メイはケラケラ笑った。
『ネット民なめないでよー』
なめてない。
むしろ恐れてる。
俺は深く息を吐き、震える声で言った。
「……メイ」
『なに?』
「頼むから消してくれ」
『えー?』
「頼む」
メイは少しだけ黙った。
そして、意外にもあっさり言った。
『うーん……まあ、いいよ。消しても』
俺は少し安心した。
「ほんとか」
『でもさ』
嫌な予感。
『スクショはもう広まってるよ?』
俺はその場で崩れ落ちた。
「……あぁぁぁぁ……」
ミヅキが慌てて俺の背中をさする。
「だ、大丈夫!?れい死ぬの!?」
死ぬ。
社会的に死ぬ。
俺は顔を覆いながら呟いた。
「……俺、もう日本に帰りたい」
その瞬間。
別の通知が来た。
【トウコ:今すぐ電話出ろ】
俺はスマホを見て、静かに笑った。
「……あ、終わった」
メイが電話越しに言う。
『あ、トウコ?』
「……うん」
『じゃ、頑張ってね!』
「お前は頑張れじゃなくて謝れ」
『やだー』
プツッ。
電話が切れた。
俺は虚無の目でスマホを見つめた。
そして、ゆっくり着信に出る。
「……もしもし」
『零』
トウコの声は、怒りを通り越して冷えていた。
氷タイプみたいな声だった。
『説明して』
俺は諦めたように言った。
「……あー大炎上だ」
『それは見れば分かる!!!』
俺は心の中で叫んだ。
――もうやだ。
俺はただ、静かに旅がしたかっただけなのに。
なのに俺は今。
アローラの青空の下で。
全国ネットで燃えている。
次回
「…こういう時ってどうすればいい?」