チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第27話 ミュウか。久しぶりに見たな

サイコキネシスの余波が、まだ海に残っていた。

波が不自然にうねり、砂浜に打ち寄せる水が、どこか重たい。

俺は息を整えながら、目の前に浮かぶミュウツーを見上げた。

 

こいつは相変わらず、圧がすごい。

無言で空中に立ち、周囲の空気そのものを支配している。

ミュウツーは俺を見下ろし、言葉を発さずとも「次はどうする」と問いかけてくるようだった。

 

俺は小さく呟く

「……いや、もう十分だろ」

 

そのときだった。

 

――ポン。

 

軽い音。

背後で、モンスターボールが勝手に開いたような、そんな音がした。

 

俺は反射的に振り返る。

そこにいたのは、小さくて、丸っこくて。

ふわふわ浮いていて。

そして、ありえないくらい自由そうな存在。

 

ピンク色の幻。

世界で一番“可愛い”のに、世界で一番“ヤバい”やつ。

 

ミュウだった。

 

くるくると空中で回りながら、まるで散歩でもするみたいに現れる。

――そして、俺の目の前で止まった。

 

「……ミュウか。久しぶりに見たな」

 

自然と、そう言葉が出た。

 

ミュウは目を細め、嬉しそうに鳴いた。

「みゅ~♪」

 

……変わらない。

こいつ、何も変わってない。

 

俺がどれだけ人生狂わされてても、こいつは「久しぶり~」みたいなノリで現れる。

ミュウツーの視線が、ミュウへ向いた。

 

空気が一瞬で変わる。

さっきまでただの“伝説バトル”だったものが、急に“神話”になった。

 

海風が止んだ。

鳥が鳴くのをやめた。

世界が、息を止めた。

 

ミュウツーの目が鋭くなる。

ミュウは相変わらず無邪気な顔で、ミュウツーの周りをくるくる回っている。

 

「……お前、空気読め」

俺は思わず呟いた。

 

ミュウは俺の言葉を理解しているのかいないのか、笑うように鳴く。

「みゅっ♪」

 

そして、ミュウツーの前にふわりと移動し、ちょこんと止まった。

まるで挑発。

ミュウツーの拳が、ぎゅっと握られる。

 

俺は額に汗を浮かべた。

「……おい、やめろ」

 

ミュウツーが口を開いた。

『……なぜ、お前がここにいる』

 

声が直接脳内に響く。

テレパシー。

 

ミュウの方は、何も言わない。

ただ、くるくる回って楽しそうにしている。

 

……いや、こいつ絶対わかっててやってるだろ。

 

俺は昔の記憶を思い出した。

レッドの時。

あの時も、ミュウは突然現れて、突然消えて、突然全部ひっくり返した。

 

そういうポケモンだ。

幻のくせに、自由すぎる。

 

俺は諦め半分でため息をつく。

「……ほんと久しぶりだよ。お前」

 

ミュウは俺の周りを一周し、俺の頭の上にぽすっと乗った。

軽い。

……いや、軽いとかそういう問題じゃない。

 

ミュウツーが俺を見た。

殺意と困惑が半々の顔。

 

俺は慌てて両手を上げた。

「違う!俺が呼んだんじゃない!」

 

ミュウは頭の上で「みゅ~」とご機嫌。

 

俺は冷や汗をかきながら続ける。

「俺は今、炎上してて……」

 

ミュウツーが一瞬だけ目を細める。

『……炎上?』

 

「SNSっていう……いや、説明しても意味ないな」

 

俺がそう言った瞬間。

ミュウが俺のスマホに手を伸ばした。

 

そして――。

画面をちょん。

 

「みゅっ」

 

次の瞬間、スマホが勝手に動き出した。

「え?」

 

画面に表示されたのは、トレンド。

【#八雲零】

【#元カントーチャンピオン】

【#女癖が悪い疑惑】

【#悪の組織スカウト】

 

「……おい」

俺は顔を引きつらせる。

 

ミュウは楽しそうにスマホをスクロールしていた。

いや、やめろ。

やめてくれ。

 

その情報に触れるな。

 

ミュウは急に目を輝かせ、スマホをさらに操作する。

「みゅみゅ!」

 

「待て待て待て待て!!」

 

俺が止めようとした瞬間。

――ポンッ。

画面が切り替わった。

 

何故か、カメラ。

そして、ミュウツーとミュウ、俺が一緒に映っている。

タイマーが表示されていた。

 

3。

2。

1。

――パシャッ。

 

「……」

 

俺の魂が抜けた。

 

ミュウは「みゅっ♪」と満足そうに鳴く。

 

そして、勝手に投稿ボタンを押した。

【投稿完了】

 

俺はゆっくりと天を仰いだ。

「……終わった」

 

ミュウツーが俺を見下ろしている。

 

俺は震える声で言った。

「違うんだ。これは事故だ。俺は悪くない」

 

ミュウツーの目が、さらに冷たくなる。

『……人間は、本当に愚かだな』

 

「それ俺じゃなくてSNSの話だろ!?」

 

ミュウは頭の上で楽しそうに踊っている。

 

完全に犯人。

だが、犯人が幻のポケモンだから、誰も責められない。

 

いや責めたいけど。

 

ミュウツーは静かに、しかし確実に戦闘態勢に入った。

周囲の空気が震え、砂浜の砂が浮き上がる。

 

俺は青ざめる。

「待て待て待て待て!!」

 

ミュウは嬉しそうに飛び跳ねる。

「みゅーっ♪」

 

こいつ、完全に「バトルしよ!」って顔だ。

俺は頭を抱えた。

 

炎上してるのに。

炎上してるのに!

なんで伝説の親子喧嘩の間に挟まれてんだ俺は!!

 

俺は叫ぶように言った。

「……戦う?」

 

ミュウが頷くようにくるんと回った。

ミュウツーは沈黙のまま、俺を見ている。

俺は震える手でZリングに目を落とした。

 

そして、観念して呟いた。

「……戦うなら君のZクリスタルはめるけど?」

 

その瞬間。

ミュウが、俺の腕にちょこんと触れた。

Zリングが、淡く光る。

海の上で、神話が始まる音がした。

 

次回

「なら答えるだけだよ…」

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