チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第30話 …あ…やべ色々出てきたな

ミュウツーが消えて、ようやく世界が落ち着きを取り戻した。

波の音が戻る。

潮の匂いが戻る。

 

空が青い。

普通のアローラの海。

 

……普通ってなんだっけ?

俺は砂浜に座り込んだまま、深く息を吐いた。

 

「……生きてる」

頭の上ではミュウが満足そうに揺れている。

「みゅ~♪」

「お前、ほんと自由すぎるだろ」

 

俺がそう呟くと、ミュウは「褒められた」とでも思ったのか、さらに嬉しそうにくるくる回った。

……いや褒めてない。

 

俺は立ち上がり、砂を払う。

そして鞄を開けた。

ボールを戻す。

 

ミュウツーは……戻った。

いや、戻ったというより戻せた。

というか、戻ったことにしておかないと俺の精神が崩壊する。

 

俺はウルトラボールを眺めてため息をついた。

「……捕獲判定、意味ないじゃん」

 

ミュウは肩に乗り直し、俺の耳元で鳴く。

「みゅっ」

 

「お前、絶対反省してないだろ」

 

「みゅ~♪」

 

「してないな」

 

俺は諦めた。

もういい。

考えるだけ無駄だ。

 

俺は鞄の中を整理しようと、ボールケースを開けた。

 

すると――。

カチッ。

何かのボールが、勝手に揺れた。

 

「……ん?」

 

俺は眉をひそめる。

 

いや、揺れたのは一つじゃない。

カチカチカチ、と連続で音がした。

まるで中から「出してくれ」と言わんばかりに。

 

俺は青ざめた。

「……待て」

 

嫌な予感しかしない。

ミュウが俺の肩の上で、妙にワクワクした顔をしている。

俺はその顔を見て確信した。

 

――こいつ、また何かやったな?

 

「おいミュウ……」

 

「みゅっ♪」

 

「その顔やめろ」

 

だが遅かった。

ボールケースの中のモンスターボールが、次々と震え始める。

そして。

 

――ポンッ!

一つ目が開いた。

 

光の中から現れたのは、小さくて丸くて、耳が大きい。

Vの字の耳。

勝利の象徴。

 

ビクティニだった。

「……え?」

 

ビクティニは空中にふわりと浮き、俺を見て笑った。

「びぃー!」

 

次の瞬間。

――ポンッ!

またボールが開く。

 

今度は白くて小さなポケモン。

緑の草のような毛。

花の香りが漂った。

 

シェイミ(ランドフォルム)だ。

「しぇあ~♪」

 

俺の脳内に警報が鳴る。

「いやいやいやいや」

 

まだ終わらない。

――ポンッ!

――ポンッ!

光が連続で弾けた。

 

ピンクの結晶のような宝石をまとったポケモン。

ディアンシー。

 

そして小さな青い妖精みたいなやつ。

マナフィ。

 

さらに草の冠をつけた白い幻。

シェイミ(スカイフォルム)に変化してる。

 

……いや、何で変化してんだよ。

俺は口を開けたまま固まった。

 

目の前に並ぶ、幻と幻と幻。

そして。

 

肩の上ではミュウが誇らしげに鳴いた。

「みゅー♪」

 

まるで「呼んどいたよ」みたいな顔で。

 

俺は震える声で呟いた。

「……あ……やべ……色々出てきたな」

 

ビクティニが俺の頭の上に飛び乗る。

「びぃ!」

 

「重い!重い重い!」

 

シェイミが俺の足元でころころ転がり、楽しそうに鳴く。

「しぇあっ♪」

 

ディアンシーは優雅に浮かび、俺に微笑んだ。

「……」

 

マナフィは俺の服を引っ張りながら、嬉しそうに鳴く。

「まなっ!」

 

俺は、完全に理解した。

――俺の周り、伝説の保育園になってる。

 

俺は頭を抱えた。

「待て待て待て待て待て待て!!!」

 

だがポケモンたちはお構いなし。

ビクティニは勝利のオーラを撒き散らし、

シェイミは花の匂いを振りまき、

 

ディアンシーはキラキラ輝き、

マナフィは水をちょっと出して砂浜を濡らし、

ミュウは空中でくるくる回っている。

 

……お前ら、自由すぎる。

 

俺は、空を見上げて叫んだ。

「アルセウスゥゥゥゥ!!!」

 

返事はない。

当然だ。

あいつは今頃、どこかで爆笑しているに違いない。

 

俺は震える手でスマホを取り出した。

SNSを見ないようにしていたのに、もう無理だ。

見ないといけない。

 

覚悟して画面を開く。

 

【速報:アローラの海に幻ポケモン大集合】

【#八雲零の周りだけ世界線違う】

【#ビクティニ出現】

【#シェイミ可愛い】

【#ディアンシー尊い】

【#マナフィもいる】

【#ミュウが元凶】

【#しまキング失業】

 

俺は、スマホを砂浜に落とした。

「……しまキング失業ってなんだよ」

 

その時、俺の足元に落ちていた一枚の紙が目に入った。

 

名刺。

いつの間にか、鞄のポケットから滑り落ちたらしい。

俺はそれを拾い上げた。

 

そこにはこう書かれていた。

【ポケモンリーグ代表取締役】

 

「……」

俺は真顔になった。

 

そして、目の前で戯れる幻たちを見て、悟る。

――これ、もう隠せない。

 

いや、隠す必要すらない。

 

俺はため息をつきながら、名刺を握りしめた。

 

ミュウが俺の前に降りてきて、鳴いた。

「みゅっ♪」

 

ビクティニが俺の頭の上で腕を広げる。

「びぃー!」

 

まるで「勝った!」と言っているようだった。

 

俺は、ゆっくりと笑った。

「……勝ってねぇよ」

 

だが。

この状況を見て、俺は確信した。

――アローラ地方。

 

ここから先は、旅じゃない。

災害だ。

 

俺は青い空を見上げ、遠い目で呟いた。

「……俺、絶対また炎上するわ」

 

ミュウが笑った。

「みゅ~♪」

 

……こいつがいる限り、絶対そうなる。

 

次回

「…まぁこういうものです。」

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