チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第31話 …まぁこういうものです。

砂浜は、もう砂浜じゃなかった。

そこは「幻ポケモンの集会所」になっていた。

 

ビクティニは勝利のポーズを決めてるし、シェイミは花を咲かせてるし、マナフィは波打ち際で遊んでるし、ディアンシーは宝石みたいな輝きを撒き散らしてる。

ミュウはと言うと――。

 

俺の頭の上で寝転がっていた。

 

……自由にも程がある。

 

俺は額に手を当て、深くため息をつく。

「……で、どうすんだこれ」

 

周囲には観光客がいた。

いや、いたはずだった。

 

だが今はもう、遠巻きに固まっている。

誰も近づけない。

近づいたら最後、人生が変わる。

 

そんな圧がある。

 

何人かはスマホで撮影している。

動画も回している。

 

絶対SNSに上げるだろう。

いやもう上がってる。

俺は現実逃避のようにスマホを開いた。

 

【#アローラで幻の祭り】

【#八雲零の正体】

【#チャンピオンよりヤバい】

【#ミュウが可愛い】

【#ミュウツー怒ってた】

【#しまキングどこ】

 

「……しまキング、ほんとにどこ行ったんだよ」

 

その時だった。

背後から、足音が聞こえた。

 

複数。

しかも結構急いでいる。

 

俺が振り返ると、そこには――

明らかに「関係者」っぽい人たちがいた。

 

スーツ。

無線機。

サングラス。

 

……いやアローラでサングラスは普通か。

 

でも雰囲気が違う。

完全に警備。

 

その中心にいる男が、俺の方を見て口を開いた。

「……八雲零さん、ですね?」

 

その瞬間、俺の背筋が凍った。

終わった。

ついに捕まった。

 

警察か?

しまキングの部下か?

国際警察か?

ウルトラビースト関連か?

 

俺は一歩下がった。

「え、あの、違います」

 

言い訳が雑すぎた。

 

男は無表情で続ける。

「あなたの身元は確認済みです。

 “元カントーチャンピオン”、そして……」

 

俺は顔を引きつらせた。

 

やめろ。

その単語は言うな。

言ったら終わる。

 

男は淡々と言った。

「ポケモンリーグ代表取締役」

 

終わった。

完全に終わった。

観光客たちがざわつく。

 

「え?」「取締役?」「リーグの?」「チャンピオン?」「誰?」

 

俺は固まったまま、ゆっくり鞄に手を入れる。

そして――名刺を取り出した。

 

見せるしかない。

言い訳しても意味がない。

 

俺は観光客たちに向けて、名刺を差し出した。

「……まぁこういうものです」

 

名刺には、はっきりと書かれている。

【ポケモンリーグ代表取締役 八雲零】

 

沈黙。

そして次の瞬間。

 

ざわああああああ!!!!!

 

人が一斉にスマホを構えた。

 

写真を撮る。

動画を撮る。

勝手に拡散する。

 

俺は顔を覆った。

「……あー……」

 

ビクティニが俺の頭の上で叫ぶ。

「びぃーー!!」

 

なんか盛り上げるな!

 

シェイミが「しぇあ~♪」と鳴いて花を撒き散らす。

ディアンシーはキラキラしてる。

マナフィは波を跳ねさせる。

ミュウは俺の肩の上で「みゅっ♪」と鳴いた。

 

完全に祝福ムード。

……祝われたくない。

 

男――スーツの人が、俺に小さく頭を下げた。

「失礼しました。

 我々はアローラポケモンリーグの関係者です」

 

「……あ、どうも」

俺の声が死んでいた。

 

男は続ける。

「この状況について、上層部が大変困惑しておりまして。

しまキングの方々からも問い合わせが……」

 

「でしょうね」

俺は即答した。

 

困惑してない方が怖い。

 

男は俺の周囲を見渡し、幻ポケモンたちを確認する。

表情が引きつる。

多分、人生で初めて幻ポケモンをこんな至近距離で見たのだろう。

 

「……その、そちらのポケモンたちは……」

 

俺は遠い目で答えた。

「俺もわかりません」

 

男は「ですよね」という顔をした。

 

その時、観光客の中から一人の女の子が叫んだ。

「ねぇ!!八雲零ってあの八雲零!?

 元カントーでレッド倒したって噂の!?」

 

やめろ。

余計な情報を出すな。

 

別の男が叫ぶ。

「いやそれより、あいつシンオウでも見たぞ!」

 

「ホウエンでマグマ団とアクア団を同時に止めたってマジ!?」

 

「カロスでフラダリ倒したのもこいつじゃね!?」

 

「女癖悪いってやつ!?」

 

最後のやつ誰だ。

 

俺は観光客の方向を見て叫んだ。

「女癖悪くないです!!!!」

 

全力で否定した。

でも否定したところで、もう遅い。

 

情報は勝手に走る。

燃料が投下される。

 

炎上は止まらない。

俺は頭を抱えた。

 

その時、ミュウがふわりと飛び上がり、空中でくるくる回った。

「みゅー♪」

 

次の瞬間。

幻ポケモンたちが、一斉に俺の周りに集まった。

 

ビクティニが肩に乗る。

シェイミが足元にくっつく。

ディアンシーが横に浮く。

マナフィが袖を引っ張る。

ミュウが頭の上に戻る。

 

――完全に「俺の手持ち」みたいな絵面になった。

 

観光客が叫ぶ。

「やば!!幻ポケモンのハーレム!!」

 

「八雲零、何者!?」

 

「幻ポケモンって懐くの!?」

 

「俺も八雲零になりたい!!」

 

俺は叫んだ。

「なりたくないだろ!!!」

 

だがその声は、騒音に飲まれた。

 

スーツの男が、静かに俺に言う。

「……八雲さん。

ひとまず、こちらへ来ていただけますか」

 

俺は、観光客の視線を浴びながら頷いた。

「……はい」

 

俺は歩き出す。

幻ポケモンたちがついてくる。

まるで俺がリーダーみたいに。

 

違う。

俺はただの被害者だ。

 

歩きながら、俺はスマホを開いた。

通知が止まらない。

トレンドは完全に俺の名前で埋まっている。

 

【#八雲零】

【#幻ポケモンの王】

【#ポケモンリーグ取締役】

【#元カントーチャンピオン】

【#女癖】

 

最後のタグ消せ。

 

俺は虚無の表情で呟いた。

「……もうやだ」

 

ミュウが頭の上で鳴いた。

「みゅっ♪」

 

ビクティニが勝ち誇ったように鳴く。

「びぃー!」

 

シェイミが花を咲かせる。

「しぇあっ♪」

 

ディアンシーが微笑む。

マナフィが楽しそうに跳ねる。

 

俺は空を見上げて、乾いた笑いを漏らした。

「……俺、何でこんなことになってんだっけ」

 

答えは簡単だ。

アルセウスの趣味だ。

 

次回

「なんかチャンピオンやめたら誘われました」

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