サンダースの雷撃が走った。
バチバチバチッ!!
空気が焦げる匂い。
雷光が森を裂き、ヒードランへ一直線に突き刺さる。
「10まんボルト!!」
俺が叫ぶと同時に、ヒードランが口元を歪めた。
……笑った?
いや、こいつ。
普通のヒードランじゃない。
明らかに「戦う気満々」だ。
雷撃が直撃――したはずなのに。
ヒードランは少し身体を揺らしただけで、普通に立っていた。
そして次の瞬間。
地面が赤く光った。
熱が上がる。
土が焼ける。
足元が一気に灼熱になる。
「……っ!」
俺は反射的に飛び退いた。
ギンガ団たちも悲鳴を上げて散る。
「熱っ!?なにこれ!?」
少女が叫んだ。
その顔、やっぱりヒカリに似てる。
似すぎだ。
俺は歯ぎしりしながら叫ぶ。
「そこ!逃げろ!!」
少女は頷いて走るが、オヤブンが立ちはだかる。
ヒードランが低く唸る。
そして、炎が噴き出した。
火炎放射。
森の木々が燃えかける。
煙が広がる。
ギンガ団の一人が叫ぶ。
「だ、駄目だ!このままじゃ村まで延焼する!」
俺は頭を抱えたくなった。
この時代、消防車なんてない。
火事=終わりだ。
俺は叫んだ。
「サンダース!10まんボルトじゃ無理だ!かみなり!!」
サンダースが天を仰いだ。
黒雲もないのに、空気がざわつく。
バリバリバリ……!!
雷が落ちる。
直撃。
ヒードランの身体が白く光った。
……だが。
倒れない。
ヒードランはゆっくりとこちらを見た。
目が赤い。
あれは、野生の目じゃない。
まるで――
「命令されてる」みたいな目。
俺は背筋が冷えた。
「……あー、はいはい」
俺は苦笑いしながら呟く。
「アルセウスの趣味か?」
完全に確信した。
これ、ただの事故じゃない。
絶対アルセウスが「面白そう」って理由で、俺の前に配置してる。
あいつ、神のくせに性格が悪い。
ギンガ団の連中が俺に叫ぶ。
「おい!お前、本当に何者なんだ!」
「そのポケモン使いの技術、異常だぞ!」
俺は答える余裕がない。
だって目の前にいるの、ヒードランだ。
しかもオヤブンもいる。
ダブル伝説+オヤブンとか、初日から難易度調整ミスってる。
少女が俺の横に駆け寄り、息を切らしながら言った。
「ねぇ!あんた、すごいね!でも無茶しすぎ!」
俺は横目で少女を見た。
……顔はヒカリ。
声は少し違う。
でも喋り方が似てる。
俺はぼそっと言う。
「やっぱりアルセウスの趣味だろ、これ……」
「え?何の話?」
俺は答えない。
答えたら、変人確定だ。
ヒードランが吠える。
地面から溶岩みたいな熱が湧き上がる。
オヤブンが突進してくる。
サンダースが迎撃するが、さすがに分が悪い。
俺は舌打ちした。
「……あーもう、だるい」
やりたくない。
でも、やらないと死ぬ。
俺はボールケースを握りしめ、決断した。
――仕方ない。
この時代に出すのは、極力避けたかった。
だが。
「神が仕組んだ戦闘」なら、神のポケモンで殴り返してもいいだろ。
俺は深呼吸し、ボールを投げた。
「来い、マナフィ!」
青い光が弾けた。
水の精霊が現れる。
マナフィが空中に浮かび、周囲の熱気を押し返す。
ギンガ団が騒ぐ。
「なっ……!?見たことないポケモンだぞ!」
「まさか、伝説……!?」
少女も目を見開く。
「え、なにそれ!?かわいい!!」
俺は叫んだ。
「マナフィ!あまごい!!」
空が暗くなった。
雨が降り始める。
熱が冷める。
燃えかけた木々が、ジュッと音を立てて煙を吐く。
そして俺は、最後の切り札を握った。
ボールを投げる。
「来い、カイオーガ」
――ドン。
空気が変わった。
圧が降りてきた。
巨大な影が現れ、森が震える。
雨が激しくなる。
ギンガ団たちは全員、腰を抜かした。
「……え?」
「……でっっっか!?」
「いや、これ海の神じゃないか!?」
少女が震えながら言う。
「ちょっと待って!?これ村壊れる!!」
俺は即答した。
「安心しろ、俺もそう思う」
カイオーガは静かに鳴いた。
その声は、海そのものだった。
ヒードランが一瞬怯んだ。
オヤブンも足を止めた。
――ようやく、状況が逆転した。
俺は腕を組み、ため息を吐く。
「アルセウス、聞いてるか?」
返事はない。
もちろんない。
俺は続けた。
「俺をこの時代に投げ込むのは百歩譲っていい」
「でもさ」
俺はヒードランを見て、ニヤリと笑った。
「やるなら、もっと上手くやれよ」
そして叫ぶ。
「カイオーガ!こんげんのはどう!!」
海がないのに。
森の真ん中なのに。
カイオーガは世界を海に変える勢いで水を放った。
轟音。
白い水の柱。
ヒードランを飲み込む。
オヤブンを押し流す。
森が滝みたいになった。
ギンガ団たちは、呆然としていた。
少女は口を開けたまま固まっている。
「……なに、それ……」
俺は汗を拭いながら呟いた。
「……俺も聞きたい」
水が引き、ヒードランは地面に倒れ伏していた。
オヤブンも戦意を失ったのか、森の奥へ逃げていく。
静寂が戻る。
雨だけが降り続ける。
俺はマナフィとカイオーガをボールに戻した。
サンダースも戻す。
そして――
少女とギンガ団たちが、恐る恐る俺に近づいてくる。
ギンガ団のリーダー格が震えた声で言った。
「……お前、何者だ」
少女も同じ顔で俺を見る。
期待と恐怖が混ざった目。
俺は乾いた笑いを漏らした。
「ただの……旅人だよ」
嘘だ。
転生者だし、元チャンピオンだし、神に振り回されてる。
でもそんなの言えるわけがない。
俺は空を見上げた。
雨が頬を濡らす。
そして心の中で、確信を口にした。
――アルセウス。
お前、絶対楽しんでるだろ。
俺は小さく呟いた。
「……アルセウスの趣味?」
その言葉は雨に溶けて消えた。
けれど。
俺のヒスイ生活は、確実に地獄の方向へ進み始めていた。
次回
「君ヒカリに似過ぎじゃないか?