チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第35話 …アルセウスの趣味?

サンダースの雷撃が走った。

バチバチバチッ!!

 

空気が焦げる匂い。

雷光が森を裂き、ヒードランへ一直線に突き刺さる。

 

「10まんボルト!!」

俺が叫ぶと同時に、ヒードランが口元を歪めた。

 

……笑った?

いや、こいつ。

普通のヒードランじゃない。

明らかに「戦う気満々」だ。

 

雷撃が直撃――したはずなのに。

ヒードランは少し身体を揺らしただけで、普通に立っていた。

 

そして次の瞬間。

地面が赤く光った。

 

熱が上がる。

土が焼ける。

足元が一気に灼熱になる。

 

「……っ!」

俺は反射的に飛び退いた。

ギンガ団たちも悲鳴を上げて散る。

 

「熱っ!?なにこれ!?」

少女が叫んだ。

 

その顔、やっぱりヒカリに似てる。

似すぎだ。

 

俺は歯ぎしりしながら叫ぶ。

「そこ!逃げろ!!」

 

少女は頷いて走るが、オヤブンが立ちはだかる。

ヒードランが低く唸る。

そして、炎が噴き出した。

 

火炎放射。

森の木々が燃えかける。

煙が広がる。

 

ギンガ団の一人が叫ぶ。

「だ、駄目だ!このままじゃ村まで延焼する!」

 

俺は頭を抱えたくなった。

この時代、消防車なんてない。

火事=終わりだ。

 

俺は叫んだ。

「サンダース!10まんボルトじゃ無理だ!かみなり!!」

 

サンダースが天を仰いだ。

黒雲もないのに、空気がざわつく。

 

バリバリバリ……!!

雷が落ちる。

 

直撃。

ヒードランの身体が白く光った。

 

……だが。

倒れない。

 

ヒードランはゆっくりとこちらを見た。

目が赤い。

あれは、野生の目じゃない。

 

まるで――

「命令されてる」みたいな目。

 

俺は背筋が冷えた。

「……あー、はいはい」

 

俺は苦笑いしながら呟く。

「アルセウスの趣味か?」

 

完全に確信した。

これ、ただの事故じゃない。

 

絶対アルセウスが「面白そう」って理由で、俺の前に配置してる。

あいつ、神のくせに性格が悪い。

 

ギンガ団の連中が俺に叫ぶ。

「おい!お前、本当に何者なんだ!」

 

「そのポケモン使いの技術、異常だぞ!」

 

俺は答える余裕がない。

だって目の前にいるの、ヒードランだ。

しかもオヤブンもいる。

 

ダブル伝説+オヤブンとか、初日から難易度調整ミスってる。

 

少女が俺の横に駆け寄り、息を切らしながら言った。

「ねぇ!あんた、すごいね!でも無茶しすぎ!」

 

俺は横目で少女を見た。

……顔はヒカリ。

 

声は少し違う。

でも喋り方が似てる。

 

俺はぼそっと言う。

「やっぱりアルセウスの趣味だろ、これ……」

 

「え?何の話?」

 

俺は答えない。

答えたら、変人確定だ。

 

ヒードランが吠える。

地面から溶岩みたいな熱が湧き上がる。

オヤブンが突進してくる。

サンダースが迎撃するが、さすがに分が悪い。

 

俺は舌打ちした。

「……あーもう、だるい」

 

やりたくない。

でも、やらないと死ぬ。

 

俺はボールケースを握りしめ、決断した。

――仕方ない。

この時代に出すのは、極力避けたかった。

 

だが。

「神が仕組んだ戦闘」なら、神のポケモンで殴り返してもいいだろ。

 

俺は深呼吸し、ボールを投げた。

「来い、マナフィ!」

 

青い光が弾けた。

水の精霊が現れる。

マナフィが空中に浮かび、周囲の熱気を押し返す。

 

ギンガ団が騒ぐ。

「なっ……!?見たことないポケモンだぞ!」

 

「まさか、伝説……!?」

 

少女も目を見開く。

「え、なにそれ!?かわいい!!」

 

俺は叫んだ。

「マナフィ!あまごい!!」

 

空が暗くなった。

雨が降り始める。

 

熱が冷める。

燃えかけた木々が、ジュッと音を立てて煙を吐く。

 

そして俺は、最後の切り札を握った。

ボールを投げる。

「来い、カイオーガ」

 

――ドン。

空気が変わった。

圧が降りてきた。

 

巨大な影が現れ、森が震える。

雨が激しくなる。

 

ギンガ団たちは全員、腰を抜かした。

「……え?」

 

「……でっっっか!?」

 

「いや、これ海の神じゃないか!?」

 

少女が震えながら言う。

「ちょっと待って!?これ村壊れる!!」

 

俺は即答した。

「安心しろ、俺もそう思う」

 

カイオーガは静かに鳴いた。

その声は、海そのものだった。

 

ヒードランが一瞬怯んだ。

オヤブンも足を止めた。

――ようやく、状況が逆転した。

 

俺は腕を組み、ため息を吐く。

「アルセウス、聞いてるか?」

 

返事はない。

もちろんない。

 

俺は続けた。

「俺をこの時代に投げ込むのは百歩譲っていい」

 

「でもさ」

 

俺はヒードランを見て、ニヤリと笑った。

「やるなら、もっと上手くやれよ」

 

そして叫ぶ。

「カイオーガ!こんげんのはどう!!」

 

海がないのに。

森の真ん中なのに。

カイオーガは世界を海に変える勢いで水を放った。

 

轟音。

白い水の柱。

 

ヒードランを飲み込む。

オヤブンを押し流す。

 

森が滝みたいになった。

ギンガ団たちは、呆然としていた。

 

少女は口を開けたまま固まっている。

「……なに、それ……」

 

俺は汗を拭いながら呟いた。

「……俺も聞きたい」

 

水が引き、ヒードランは地面に倒れ伏していた。

オヤブンも戦意を失ったのか、森の奥へ逃げていく。

 

静寂が戻る。

雨だけが降り続ける。

 

俺はマナフィとカイオーガをボールに戻した。

サンダースも戻す。

 

そして――

少女とギンガ団たちが、恐る恐る俺に近づいてくる。

 

ギンガ団のリーダー格が震えた声で言った。

「……お前、何者だ」

 

少女も同じ顔で俺を見る。

期待と恐怖が混ざった目。

 

俺は乾いた笑いを漏らした。

「ただの……旅人だよ」

 

嘘だ。

転生者だし、元チャンピオンだし、神に振り回されてる。

でもそんなの言えるわけがない。

 

俺は空を見上げた。

雨が頬を濡らす。

 

そして心の中で、確信を口にした。

――アルセウス。

お前、絶対楽しんでるだろ。

 

俺は小さく呟いた。

「……アルセウスの趣味?」

 

その言葉は雨に溶けて消えた。

けれど。

俺のヒスイ生活は、確実に地獄の方向へ進み始めていた。

 

次回

「君ヒカリに似過ぎじゃないか?

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