雨はまだ降っていた。
さっきまでの戦闘が嘘みたいに、森の中は静かだった。
……いや、静かじゃない。
ギンガ団(の原型っぽい集団)が、俺を囲んでいる。
視線が痛い。
怖いとかじゃない。
純粋に、居心地が悪い。
俺は両手を軽く上げて言った。
「……あの、敵意はないです」
リーダー格の男が鋭い目で俺を見て言った。
「敵意がないなら、なぜあんなポケモンを従えている」
「いや、それは……成り行きで……」
「成り行きで海みたいなポケモンが出てくるか?」
……ごもっとも。
俺は黙った。
少女――いや、ヒカリそっくりの子が俺の前に立ち、腕を組んで言う。
「ねぇ、あんた本当に何者?」
「ただの旅人」
「絶対嘘」
即答だった。
鋭い。
ヒカリと同じだ。
俺は思わず苦笑した。
「……似てるな、やっぱ」
「誰に?」
「いや、こっちの話」
ギンガ団の男が咳払いをして、少し落ち着いた声で言った。
「……我々はギンガ団」
「ギンガ団……」
俺は繰り返してしまった。
その言葉を聞くだけで、どうしても脳内に“青い髪の厨二病総帥”が浮かぶ。
アカギ。
だが、目の前のギンガ団は違う。
雰囲気が、まだ「組織」じゃない。
村を守るために動いている、ただの集団。
男は続けた。
「お前のような危険な者を、村に入れるわけにはいかない。だが……」
男の視線が俺の腰のボールケースに落ちる。
「お前の力は、必要かもしれん」
……必要って言われても困る。
俺は心の中で突っ込んだ。
(お前らの未来、世界壊すけどな)
少女がため息を吐いて言った。
「とりあえずさ、村に来なよ。話はそこで!」
男も頷く。
「……案内しろ」
少女が俺の方を向き、手招きした。
「ほら、ついてきて!」
俺は渋々歩き出した。
森を抜ける。
雨の中を進む。
泥が跳ねる。
道は整備されてない。
普通なら、これだけで心が折れる。
でも――
俺の人生はもうとっくに折れてるので、今さらだった。
やがて見えてきた村。
木造の家々。
煙突から上がる煙。
人々が俺たちを見る。
警戒の目。
恐怖の目。
……そして好奇心の目。
ギンガ団の男が低い声で言う。
「ここがコトブキムラだ」
「コトブキムラ……」
聞いたことある。
いや、あるに決まってる。
ここは確か――ヒスイ地方の拠点。
そして、後のシンオウの始まり。
村の中心へ進むと、建物があった。
大きい。
門がある。
看板にはこう書かれている。
『ギンガ団 本部』
……本部?
俺は思った。
(ギンガ団って、最初から本部あったのかよ……)
建物の中に入ると、木の匂いが濃かった。
暖炉が焚かれている。
雨で冷えた身体が少しだけ楽になる。
俺がぼんやりしていると、少女が俺の前に立った。
そして、胸を張って言った。
「私はショウ!」
……え?
俺は目を見開いた。
「……君、ショウっていうんだな」
少女――ショウは頷いた。
「そうだよ!」
俺は一瞬、頭が混乱した。
目の前にいるのはヒカリそっくりの女の子。
しかも声も、仕草も、なんか……ヒカリより普通に女子。
俺は思わず言った。
「……ヒカリに似過ぎじゃないか?」
ショウはキョトンとした。
「ヒカリ?誰それ」
「……いや、こっちの世界の人間じゃない」
「???」
当然の反応だった。
ギンガ団の男が不機嫌そうに言った。
「ふざけるな。異世界の名前など知らん」
俺は肩をすくめた。
……だよな。
だが俺は、ショウを見れば見るほど確信した。
顔が同じ。
目が同じ。
立ち方も同じ。
この子は絶対、ヒカリの祖先とかそういう枠だ。
いや、祖先というより――
アルセウスの手抜きコピペ。
俺はため息を吐いて小声で呟いた。
「……神って、案外雑だよな」
ショウが俺を覗き込んだ。
「ねぇ、あんた名前は?」
俺は一瞬迷った。
ここで本名を名乗るのは、危険な気がする。
でも適当に嘘をつくと、後々面倒になる。
俺は諦めて言った。
「……八雲零」
ショウが繰り返す。
「ヤクモ……レイ?」
「そう」
するとショウは、ニッと笑った。
「へぇ!変わった名前!」
その笑顔が、あまりにもヒカリっぽくて。
俺は少しだけ胸が痛んだ。
ヒカリ本人は今、シンオウで元気にしてるだろうか。
俺がこんなところで泥まみれになってる間に。
ギンガ団の男が話を遮る。
「ショウ、余計な話はいい。団長に報告しろ」
「はーい!」
ショウは軽く返事をして、奥へ走っていった。
……元気だな。
俺は椅子に座らされ、周りを見渡した。
ギンガ団の隊員たちがこちらを見ている。
怖い。
いや、俺が怖いんだろうな。
当然だ。
雨の森の中で突然現れて、雷と海を呼び出した男。
どう考えても厄災。
しばらくすると、奥の扉が開いた。
現れたのは、長身の男。
目つきが鋭い。
服装は隊員たちより上質。
そして、その後ろにショウがいる。
男が俺を見て言った。
「……君が例の旅人か」
俺は軽く頭を下げた。
「旅人です」
男は腕を組んで言った。
「私はデンボク。ギンガ団団長だ」
……団長?
そして、名前はデンボク?
俺は混乱した。
(デンボクって、あのデンボクか?)
俺の知ってるヒスイのキャラが、目の前にいる。
つまりこれ、完全に『LEGENDS アルセウス』の時代。
逃げ場がない。
…てか、この人も凄い見たことのある姿だな…
デンボクが言う。
「君の力は危険だ。だが、この村は危険と隣り合わせで生きている」
俺は無表情で頷いた。
「……はい」
デンボクは少しだけ目を細めた。
「君は、ポケモンが怖くないのか?」
俺は即答した。
「怖いですよ」
「なら、なぜ戦える?」
俺は少し考えてから答えた。
「……怖いから戦うんです」
嘘じゃない。
怖いから、手を抜けない。
怖いから、全力で殴る。
そうしないと死ぬ世界だから。
デンボクは黙った。
ショウが俺を見て、ニヤニヤしながら言う。
「ねぇ零!団に入らない?」
「……は?」
俺は思わず声が裏返った。
デンボクも頷く。
「君ほどの実力があるなら、我々に必要だ」
俺は頭を抱えたくなった。
(やめろやめろやめろ)
(未来のギンガ団だぞ)
(俺が入ったら、歴史がバグる)
俺は必死に冷静を装って言った。
「……いや、遠慮します」
ショウが不満そうに頬を膨らませる。
「えー!絶対楽しいのに!」
デンボクはため息を吐いた。
「……そうか。なら無理にとは言わない」
俺はホッとした。
その瞬間。
背筋がゾクリとした。
誰かが俺を見ている。
いや、誰かじゃない。
――何か。
俺はゆっくりと天井を見上げた。
そこには何もない。
でも確かに感じた。
神の視線。
俺は小さく呟いた。
「……アルセウス、また聞いてるのか?」
返事はない。
でも、絶対聴いてる。
あいつは今、笑ってる。
俺は確信していた。
この世界は。
このヒスイ地方は。
そして、このショウという少女は。
全部――
アルセウスの趣味だ。
次回
「なんで俺オヤブンの攻撃を避けられてんの?」