チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第37話 なんで俺オヤブンの攻撃を避けられてんの?

――結論から言う。

俺は今、全力で走っている。

 

「待て待て待て待て待て!!」

 

森の中。

雨上がりの地面はぬかるみ、足が取られる。

 

なのに。

俺の背後から聞こえるのは、明らかに「人間を殺す気」の足音。

 

ドゴォン……!!

 

地面が揺れる。

木が折れる。

枝が吹き飛ぶ。

 

そして俺の横を、巨大な影が通過した。

オヤブン。

いや、オヤブンってレベルじゃない。

 

でかすぎる。

目が赤い。

怒りの塊みたいな化け物が、俺を狙って突進してきている。

 

俺は息を切らしながら叫んだ。

「なんで俺、こんなのに追われてんの!?」

 

後ろを見る余裕なんてない。

だが見なくてもわかる。

殺意が、背中に突き刺さってくる。

 

ギンガ団の隊員たちが遠くで叫んでいる。

「逃げろ!!」

 

「そっち行くな!!」

 

「木の陰に隠れろ!!」

 

……無理だろ。

 

俺は心の中で突っ込んだ。

(隠れてどうなる!?)

 

オヤブンの攻撃は、木ごと粉砕してくるタイプだ。

 

俺は必死に森を駆ける。

足が滑る。

転びそうになる。

 

でも転んだら終わり。

 

俺は歯を食いしばって走った。

その時。

横から岩が飛んできた。

 

――ブンッ!!

 

俺は反射的に身体をひねった。

岩は俺の頬をかすめ、後ろの木に突き刺さった。

バキン、と音を立てて木が折れる。

 

「……っ!!」

 

頬に熱い痛み。

血が流れる。

でも止まらない。

止まれない。

 

俺は叫んだ。

「なんで俺オヤブンの攻撃を避けられてんの!?」

 

いや、本当に意味がわからない。

普通、死ぬだろ。

こんな状況。

 

スーパーマサラ人でもなければ!

 

だが身体が勝手に動く。

足が勝手に跳ねる。

 

避ける。

転がる。

走る。

 

……まるで、ゲームの操作キャラみたいに。

 

俺は息を切らしながら思った。

(これ、俺の反射神経じゃない)

 

(絶対、何かバフかかってる)

 

その瞬間。

脳裏に浮かんだ。

アルセウス。

 

あのクソ神。

あいつが俺をこの世界に放り込んだ時、何かやったに違いない。

 

「死なれたら困るから」とかいう理由で。

……いや、もっと悪趣味な理由で。

 

俺は叫んだ。

「アルセウス!!お前、俺に変な加護つけたろ!!」

 

返事はない。

当然だ。

神は都合が悪い時、絶対に沈黙する。

 

オヤブンが吠えた。

「グオオオオオ!!」

 

空気が震えた。

鼓膜が痛い。

 

俺は思わず耳を塞ぎそうになるが、その瞬間――

地面が爆ぜた。

 

ドン!!

 

俺の足元が抉れ、土が吹き飛ぶ。

俺は跳んだ。

反射的に。

 

考える前に身体が動く。

泥の上を転がり、立ち上がり、また走る。

 

……避けた。

 

俺は自分でも信じられなかった。

「いや、俺……何者??」

 

背後からまた岩。

横から木が倒れる。

前方に地割れ。

 

俺は全部避けた。

避けられてしまった。

避けるつもりはなかったのに。

 

俺は泣きそうになった。

「なんで避けられてんの!?怖いんだけど!!」

 

ギンガ団の隊員が遠くから叫ぶ。

「すごいぞ旅人!!」

 

「動きが早い!!」

 

「まるでコンゴウ団の戦士みたいだ!」

 

褒められてる場合じゃない。

 

俺は叫び返したい。

(違う!!俺も怖い!!)

 

だがそんな余裕はない。

 

俺はボールケースに手を伸ばす。

「サンダース!!」

 

ボールを投げる。

サンダースが現れ、俺の横に並んだ。

 

息を整える暇もなく、俺は指示を出す。

「でんこうせっかで俺を引っ張れ!!」

 

サンダースが「え?」みたいな顔をした。

でも従った。

 

尻尾で俺の服を掴み、電光石火で引っ張る。

「うわああああああ!!」

 

視界がブレる。

スピードが上がる。

 

俺はもはや走っていない。

引きずられている。

 

オヤブンの攻撃がまた来る。

 

――ドン!!

 

だが間一髪。

俺たちは避けた。

 

俺は叫ぶ。

「おいサンダース!!速すぎる!!」

 

サンダースは「知らねぇよ」みたいな顔をしている。

 

その時。

前方に開けた場所が見えた。

 

崖。

川。

 

……終わった。

 

俺は叫ぶ。

「詰んだ!!」

 

だがサンダースは止まらない。

そのまま崖の縁へ突っ込む。

 

「ちょっ、待っ――」

 

俺の身体が宙に浮いた。

世界がスローモーションになる。

川が下に見える。

 

俺は思った。

(死ぬ)

 

だが。

次の瞬間。

俺の身体は、川の水面に落ちた。

 

ドボン!!

 

冷たい水が全身を包む。

息が止まる。

だが――生きている。

 

俺は水面に顔を出して叫んだ。

「生きてる!!」

 

サンダースも川岸に着地していた。

オヤブンは崖の上で止まり、こちらを睨みつける。

 

だが川を越えられないのか、それ以上は追ってこなかった。

しばらくして、オヤブンは唸り声を残して森へ戻っていった。

 

俺は川の中で膝をついた。

 

水が冷たい。

身体が震える。

息が荒い。

 

そしてようやく、俺は現実を理解した。

……俺、死にかけた。

 

俺は空を見上げた。

雨雲が流れていく。

青空が少し覗いている。

 

俺は震えた声で呟いた。

「……なんで俺、避けられてんの?」

 

ありえない。

普通なら、最初の突進で死んでる。

絶対に。

 

俺は確信していた。

これは俺の力じゃない。

神の悪趣味な保険。

 

俺は水に濡れたまま、静かに呟いた。

「アルセウス……お前、俺をゲームの主人公みたいにするなよ……」

 

返事はない。

でも、絶対に笑ってる。

 

俺はもう一度、心の中で叫んだ。

(お前の趣味、ほんと最悪だぞ)

 

次回

「誰ならオッケーだ?」

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