俺は息を切らしながら、雨の中で立っていた。
足元は泥。
服はびしょ濡れ。
髪から水が滴り落ちる。
視界の先には、まだ倒れないヒードラン。
空には、まだしぶとく浮いているランドロス。
そして周りには、ギンガ団の連中が呆然と立ち尽くしている。
……なにこの状況。
俺は思った。
これ、ゲームじゃない。
現実だ。
なのに敵だけゲーム仕様で硬すぎる。
理不尽すぎる。
俺は空を睨みつけた。
そこにいるのは分かってる。
姿は見えなくても、気配だけで分かる。
アルセウス。
あのクソ神。
俺の人生をおもちゃにしてる張本人。
俺は深く息を吸って――
叫んだ。
「……ああもうだるい!!」
そして、ボールケースを乱暴に開ける。
中にはいくつものボール。
伝説、幻、相棒、全部。
俺はもう考えるのをやめた。
理性が限界だった。
俺は吠えるように言った。
「マナフィとカイオーガ行くぞ!!」
ギンガ団がざわついた。
「え……?」
「またあの海の神を出すのか……!?」
「やめろ!村が沈む!!」
……知らねぇよ。
沈むなら沈むで、アルセウスが責任取れ。
俺はボールを投げた。
「来い、マナフィ!!」
青い光。
水の精霊が現れる。
マナフィが空中に浮かび、周囲の雨を操るように手を広げる。
そして、俺は迷いなくもう一つ投げた。
「来い、カイオーガ!!」
ドン――――!!!
世界の空気が変わった。
森が震える。
ギンガ団の隊員が腰を抜かした。
「……また出たぁぁぁ!!」
「終わった!!村が終わる!!」
ショウが目を見開いて叫ぶ。
「零!?やりすぎ!!」
俺は叫び返した。
「うるせぇ!!俺だって好きでやってねぇよ!!」
ヒードランが怒り狂ったように吠える。
ランドロスも空で暴れ、雷雲を呼び寄せる。
雷鳴。
炎。
土砂。
嵐。
災害が同時に起きている。
俺は目を細めて言った。
「……はいはい、神々の喧嘩ね」
そして、俺は手を上げた。
Zリング。
光が走る。
雨の中でも、リングだけが眩しく輝いた。
ギンガ団がさらに騒ぐ。
「腕輪が光った!?」
「なんだそれは!!」
ショウが目を輝かせる。
「え、なに!?かっこいい!!」
俺はその声を無視して、ただ静かに呟いた。
「……アルセウス、お前見てるだろ」
返事はない。
だが、圧は感じる。
絶対に見てる。
俺はニヤッと笑った。
「じゃあ見とけよ」
そして叫ぶ。
「カイオーガ!!しおふき!!」
――ゴォォォォォォ!!!
森の中なのに、海が爆発したみたいな水量が噴き出した。
土が削れる。
木が倒れる。
ギンガ団が悲鳴を上げる。
「うわぁぁぁ!!」
「洪水だぁぁぁ!!」
ヒードランは水圧に押され、後退する。
ランドロスもバランスを崩して、空中でぐらつく。
だが。
ヒードランはしぶとく耐えた。
ランドロスは雷雲を濃くする。
……まだ終わらない。
俺は目を細めた。
「いや、お前ら本当にしつこいな?」
俺は雨の中で、冷たく笑った。
そして次の瞬間。
俺は指を空へ突き上げた。
「マナフィ!!あまごい強化!!」
雨がさらに激しくなる。
世界が水のカーテンに包まれた。
炎が弱まる。
雷が水面に落ちて、バチバチと弾ける。
俺は大きく息を吐いた。
「……サンダースはあそこにいるランドロスをまたボコボコにしといてくれ」
サンダースが「サン!!」と鳴き、雷のように走り出す。
空へ飛び上がるランドロス。
そこへサンダースが跳び、雷を叩き込む。
バチィッ!!
ランドロスが呻く。
俺はその光景を見ながら、ヒードランに視線を戻した。
そして。
俺はZリングに手を置いた。
指先が震える。
……使うか?
この世界でZ技。
絶対やばい。
でももういい。
俺は限界だった。
俺は叫んだ。
「……やってられるか!!」
そして、Zクリスタルをセットする。
光が爆発した。
俺の周囲の雨が一瞬蒸発する。
ギンガ団が目を覆う。
ショウが叫ぶ。
「零!?それ何!?光ってる!!」
俺は低い声で言った。
「黙って見てろ」
そして叫ぶ。
「カイオーガ!!」
Zリングが燃えるように輝く。
俺の身体が勝手に動く。
踊るような動作。
――Z技の型。
俺は心の中で悪態をつく。
(なんで俺、踊れるんだよ)
でも止まらない。
そして最後に、俺は腕を振り下ろした。
「スーパーアクアトルネード!!!」
水が渦を巻いた。
巨大な竜巻のような水柱が生まれ、ヒードランを飲み込む。
轟音。
森が揺れる。
地面が抉れる。
ヒードランが耐えようとするが、無理だった。
水圧で押しつぶされる。
そして――
ドン!!
ヒードランはついに倒れた。
地面に沈むように崩れ落ち、赤い光が消えていく。
俺は肩で息をしながら、呟いた。
「……やっとかよ」
雨が静かに降り続ける。
森の中に、勝利の静寂が落ちた。
遠くでランドロスがサンダースにボコられて、森の向こうへ逃げていく。
サンダースが「サン!」と勝ち誇った声を上げた。
俺は少し笑ってしまった。
「よしよし、偉い」
そして、俺は空を見上げた。
アルセウスの気配。
まだある。
消えてない。
むしろ濃くなっている。
……怒ってる。
俺はため息を吐いた。
「はいはい、怒るんだろ?」
ショウが恐る恐る近づいてきた。
目を輝かせながら言う。
「零……すごい……!」
ギンガ団の隊員たちは、完全に固まっている。
「……神話だ」
「人間が、あんな力を……」
「いや、あいつ絶対人間じゃない……」
俺は苦笑して肩をすくめた。
「俺もそう思う」
そして、ボールを取り出しながら呟いた。
「戻れ、カイオーガ、マナフィ」
光が消え、二匹はボールへ戻った。
静かになった森。
雨音だけが響く。
だが。
その雨音の中に、別の音が混ざった。
――カツン。
足音。
後ろから。
俺は振り返らなくても分かった。
圧が違う。
空気が重い。
神が降りてきた。
俺はゆっくりと振り返る。
そこにいたのは――
白い体躯。
金の輪。
赤い瞳。
アルセウス。
俺の背後に立っていた。
ショウが息を呑む。
「……っ!?」
ギンガ団が一斉に跪いた。
「アルセウス様……!!」
俺だけが立ったままだった。
そして俺は、濡れた髪をかき上げて言った。
「……で?文句ある?」
アルセウスの瞳が細くなる。
怒りの気配。
圧が強まる。
世界が止まったみたいに静かになる。
俺は笑った。
もう怖くなかった。
だってここまで来たら、怒られるのも日常だ。
俺は肩をすくめて言った。
「俺さ、言ったよな?」
「好きでやってるわけじゃないって」
アルセウスは何も言わない。
でも分かる。
今、絶対「こいつ面倒だな」って思ってる。
俺は心の中で勝ったと思った。
そして、最後に呟く。
「……ほんと、お前の趣味最悪だよ」
アルセウスの瞳が、ギラリと光った。
次の瞬間。
白い光が世界を包んだ。
次回ガラル地方編
「…あれ?ガラル地方じゃん」