チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第40話 …あれ?ガラル地方じゃん

目が覚めた瞬間、俺は思った。

「……寒っ」

 

いや、寒いとかいうレベルじゃない。

空気が冷たい。

肌を刺すような風。

 

さっきまで雨の森で戦ってたのに、今は別の寒さだ。

 

俺はゆっくり身体を起こす。

地面は草原。

視界の先には、石造りの建物。

 

そして――

遠くに見える巨大な街。

歯車みたいな構造物。

 

煙突。

工場。

蒸気。

……あれ、絶対ガラルだ。

 

俺は顔を引きつらせて呟いた。

「……あれ?……ガラル地方じゃん」

 

頭が痛い。

理解したくない。

でも理解してしまった。

 

これは間違いなく、アルセウスの制裁。

 

俺は草原に座ったまま空を見上げる。

青空。

雲が流れている。

 

平和そうだ。

さっきまでの地獄が嘘みたい。

 

俺は両手で顔を覆った。

「……あぁやべ、アルセウスに怒られたか」

 

記憶が蘇る。

ヒードラン。

ランドロス。

カイオーガ。

 

Z技。

ギンガ団の絶叫。

そして最後に現れたアルセウス。

 

あの目。

あれは完全に「キレてる」目だった。

 

俺はため息を吐く。

「……いやでもさ、あれはしょうがなくない?」

 

言い訳しても意味ない。

神は言い訳を聞かない。

神は気分で世界を動かす。

 

つまりアルセウスは、ただの厄介オタク。

 

俺は立ち上がり、服についた草を払った。

ボールケースを確認する。

 

「サンダース……戻ってるな」

 

ボールはちゃんと揺れていない。

みんな戻ってる。

少なくとも、巻き添えで置いてきたとかはない。

そこだけは安心した。

 

俺は歩き出す。

風が強い。

草が波のように揺れる。

遠くから聞こえる鳴き声。

 

ガラルのポケモンたちだ。

ウールーの鳴き声。

ココガラの羽音。

 

そして何より――

空が広い。

 

俺はふと、胸の奥が軽くなるのを感じた。

「……ガラルって、こんな空気だったな」

 

いや、ゲームでしか知らないけど。

でも知ってる。

この地方は、ヒスイみたいに殺伐としてない。

 

文明がある。

道がある。

人がいる。

カレーがある。

 

……カレーは重要。

 

俺は歩きながら呟いた。

「カレー食べたい……」

 

その時だった。

草むらが揺れた。

 

ガサガサ。

 

俺は反射的に身構える。

「……またオヤブンとか言わないよな?」

 

草むらから飛び出してきたのは――

ウールー。

 

丸っこい羊。

目がくりくりしている。

こっちを見て「メェ~」と鳴いた。

 

……かわいい。

 

俺は思わず笑ってしまった。

「お前、平和の象徴みたいな顔してんな」

 

ウールーは俺の足元に寄ってきて、頭を擦り付けてくる。

警戒心ゼロ。

ヒスイのポケモンとは大違い。

 

俺はしゃがんで撫でた。

「……あぁ、癒される」

 

その瞬間。

遠くから声が聞こえた。

「おーい!!」

 

人の声。

若い女の子の声。

 

俺は顔を上げる。

 

丘の向こうから走ってくる影が見えた。

ボブカット。

元気な走り方。

 

……ガラル主人公だ。

 

俺は嫌な予感がした。

「……え、嘘だろ」

 

その少女は近づいてくると、息を切らしながら俺を見た。

そして笑顔で言った。

「大丈夫!?迷子?」

 

俺は引きつった笑顔で返す。

「いや……迷子っていうか……」

 

少女は首を傾げる。

「あなた、見ない顔だね!」

 

……やめて。

そのセリフは、イベント開始の合図だ。

俺は心の中で叫んだ。

(頼むから平和に終わってくれ)

 

少女は手を差し出して言った。

「私はユウリ!よろしく!」

 

俺はその名前を聞いた瞬間、完全に確信した。

――終わった。

俺の平和は終わった。

 

ガラル地方でも、絶対何か起きる。

だって俺は「転生者」だし、「チュートリアルお兄さん」だし、アルセウスの玩具だから。

 

俺は握手しながら呟いた。

「……八雲零です。よろしく」

 

ユウリは目を輝かせた。

「レイ!いい名前!」

 

……やめて。

名前褒められると、余計に嫌な予感しかしない。

 

ユウリは俺の後ろにいるウールーを見て笑った。

「あ!ウールーと仲良くなってる!」

 

「いや、勝手に寄ってきただけ」

 

ユウリは楽しそうに言った。

「それってすごいよ!この子、人見知りするのに!」

 

俺は思った。

(いや、絶対このウールー、俺のことを何かの伝説だと思ってるだけだろ)

 

俺の周り、最近そういうのばっかりだ。

 

ユウリは腕を組んで言った。

「ねぇねぇ、よかったら町まで一緒に来ない?」

 

俺は即答したかった。

「帰りたいです」

 

でも帰れない。

 

だから俺は、諦めた声で答えた。

「……そうだな、お願いします」

 

ユウリは嬉しそうに頷いた。

「よーし!行こ!」

 

俺は歩き出しながら、ふとボールケースに触れる。

サンダースたちは静かだ。

 

……大丈夫。

ここはガラル。

ヒスイよりは平和なはず。

 

俺はそう信じたかった。

だが。

空の向こう。

巨大なスタジアムのシルエットが見えた瞬間。

 

俺の背筋がゾワッとした。

――嫌な予感がする。

 

そして、俺は小さく呟いた。

「……次はダイマックスとか言わないよな?」

 

ユウリが元気よく振り返った。

「え?ダイマックス知ってるの!?」

 

俺は固まった。

「……あ」

 

やばい。

俺、また余計なこと言った。

 

ユウリは目を輝かせて叫んだ。

「すごい!じゃあ今度バトルしよ!!」

 

俺は乾いた笑いを浮かべた。

「……ですよね」

 

こうして俺は。

アルセウスの制裁で飛ばされたガラル地方で。

また新しい面倒ごとに巻き込まれることになった。

 

……神様、ほんと趣味悪い。

 

次回

「なんで、ショウがいるんだ?…」

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