チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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この作品にヒロインはいない…はず


番外編5 レモンの味(修羅場)

パルデアの青空は、やたらと澄んでいた。

なのに。

俺の周囲の空気だけが、重い。

 

目の前。

右。

左。

背後。

全方位、女子トレーナー。

 

逃げ場ゼロ。

 

俺は思った。

(なんでこうなった?)

 

原因は分かっている。

余計な一言。

余計な優しさ。

余計なイベント。

 

そして――

ゴールドの「応援しとくな!」という爆弾。

 

最初に口を開いたのはヒカリ。

「零……ちょっと話あるんだけど?」

 

その声、静かだけど圧がある。

 

トウコが腕を組む。

「逃げないよね?」

 

メイがにっこり笑う。

「逃げたら追いかけるよ?」

 

セレナが一歩前に出る。

「ちゃんと答えてもらうから」

 

ユウリが淡々と。

「状況、理解してる?」

 

ミヅキが小声で。

「……れい、ずるい」

 

俺は思った。

(これ、ジム戦より怖い)

 

ゴールドが少し離れた位置で見守っている。

いや、完全に観戦してる。

ポップコーン持ってそうな顔してる。

 

俺は心の中で叫ぶ。

(助けろ!!!!)

 

ゴールドは親指を立てた。

(頑張れよ!)

 

裏切り者。

 

ヒカリが言った。

「零、あのさ」

 

「この前言ってたよね」

 

「“特別な人ができたらちゃんと言う”って」

 

俺は言った。

「言った気がする」

 

トウコが即座に。

「で?誰?」

 

俺は答えに詰まる。

 

空気が凍る。

 

セレナが一歩近づく。

「……まさか、全員に同じこと言ってないよね?」

 

俺は即答した。

「それはしてない」

 

メイが首を傾げる。

「“それは”って何?」

 

俺は思った。

(言葉選びを間違えた)

 

ユウリが静かに言う。

「レイ、はっきりさせよう」

 

「曖昧が一番よくない」

 

正論。

ぐうの音も出ない。

 

ミヅキが小さく呟く。

「……逃げないで」

 

俺は深呼吸した。

 

八雲零。

お前はアルセウスとも口喧嘩した。

レッドの殺気も耐えた。

悪の組織の会議も突破した。

 

でも。

これは。

無理。

 

その時。

突然、強風が吹いた。

校舎の上から何かが落ちる。

 

俺は反射的に手を伸ばした。

――レモン味のキャンディ。

誰かのカバンから落ちたらしい。

 

俺はそれを掴んだ。

そして。

バランスを崩した。

 

前に倒れる。

目の前にいたのは――

 

トウコ。

距離、ゼロ。

時間、スロー。

周囲、静止。

 

そして。

コツン。

軽く、唇が触れた。

 

ほんの一瞬。

でも確実に。

 

全員が固まった。

俺も固まった。

トウコも固まった。

 

キャンディが、ぽとっと地面に落ちた。

 

トウコが真っ赤になって呟く。

「……え?」

 

俺の口の中に、さっきのキャンディの香りが残っていた。

レモン。

爽やかで、少し酸っぱい。

 

俺は呟いた。

「……レモンの味」

 

言った瞬間、地雷を踏んだと理解した。

 

ヒカリ「は?」

 

メイ「今のなに?」

 

セレナ「……説明して」

 

ユウリ「事故?」

 

ミヅキ「……事故、だよね?」

 

ヒカリ「ち、違っ……今のは……」

 

俺は両手を上げた。

「事故です!!!!!!!!」

 

全員「本当に?」

 

「物理的に事故です!!!!」

 

ゴールドが小声で言う。

「ファーストキスってやつだな」

 

俺は振り返って叫んだ。

「実況すんな!!!!!!!!」

 

トウコはいつものクールさとは裏腹に顔を真っ赤にして俯いている。

周囲の空気は一触即発。

 

ヒカリが言った。

「……零」

 

「もし“事故”じゃなかったらどうするつもりだったの?」

 

俺は答えに詰まる。

 

セレナが真剣な目で言う。

「八雲さんは、誰が一番大事なんですか?」

 

ユウリも静かに。

「はっきりして」

 

ミヅキがぎゅっと手を握る。

メイが笑ってるけど目が笑ってない。

 

俺は思った。

(パルデア四天王より怖い)

 

俺はゆっくり言った。

「……俺は」

 

全員が息を飲む。

「今は、誰も選ばない」

 

一瞬の沈黙。

 

ヒカリ「逃げた」

 

セレナ「誠実ではあるけど」

 

ユウリ「覚悟不足」

 

メイ「ずるーい」

 

ミヅキ「……でもれいらしい」

 

トウコは小さく笑った。

「……そうだよね」

 

俺は続けた。

「俺は、誰かを傷つけてまで決めたくない」

 

「今は、ちゃんと向き合えるまで待ってほしい」

 

空気が少しだけ和らぐ。

 

ゴールドが小さく頷いた。

「合格だな」

 

俺は言った。

「何の審査だよ」

 

トウコが俺を見て言った。

「……でもさ」

 

「さっきのは忘れないから」

 

俺は固まった。

 

ヒカリが笑う。

「それはそう」

 

セレナ「事故でもね」

 

ユウリ「記録済み」

 

メイ「レモン味だって」

 

ミヅキ「……甘酸っぱい」

 

俺は空を見上げた。

「……なんで俺の人生、こうなるんだ」

 

遠くで金色の光が一瞬きらめく。

 

俺は叫んだ。

「アルセウス!!!!!!!!見てるだろ!!!!!!!!」

 

その日、俺は学園中で噂になった。

【零、レモン味事件】

ゴールドがこっそりタイトルをつけたらしい。

 

俺は心に誓った。

もう二度とキャンディは拾わない。

 

番外編4 完

(※なお、修羅場は終わっていない)

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