チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

50 / 109
喋り方あってるのかな…


第41話 なんで、ショウがいるんだ?

――俺は今、真顔で歩いている。

背中には、ずっしりとした重み。

ぬくもり。

人間一人分の体温。

 

そして聞こえる、寝息。

「すー……すー……」

 

俺は空を見上げた。

ガラルの空は広い。

風は冷たい。

ウールーがのんきに鳴いている。

 

……なのに。

俺の背中には、ショウがいる。

そして背中が重い。

 

いや、重いというか。

柔らかいというか。

温かいというか。

 

俺は乾いた声で呟いた。

「なんで、ショウがいるんだ?……」

 

ユウリが前を歩きながら、振り返って笑った。

「え、仲良しじゃん!」

 

「仲良しじゃない」

 

即答した。

 

俺は心の中で叫んでいた。

(仲良し以前に意味が分からない)

 

(なんでヒスイにいたショウが、ガラルにいるんだよ)

 

(しかもなんで俺の背中で寝てんだよ)

 

ショウは背中で小さく動き、腕を俺の首に回した。

……しっかり掴んでやがる。

 

俺はため息を吐く。

「おいショウ、起きろ」

 

「んー……」

 

返事になってない。

寝ぼけてる。

というか、疲れ切ってる。

 

ガラルに飛ばされた瞬間、ショウは叫んだ。

『えっ!?なにここ!?寒い!!』

 

そのまま歩き続けて、五分後。

『もう無理……足が……』

 

そして現在。

俺の背中で爆睡。

 

俺は思った。

(こいつ、村ではあんなに元気だったのに)

 

ユウリが不思議そうに言う。

「ねぇ、その子どこで拾ったの?」

 

「拾ってない」

俺は即答した。

 

「こいつは……なんていうか……」

 

説明ができない。

異世界転移してきたヒスイのギンガ団(元気娘)です、なんて言ったら確実に頭おかしい人扱いされる。

 

いや、実際頭おかしい状況なんだけど。

 

俺が言葉に詰まっていると、ユウリが笑った。

「妹さん?」

 

「違う」

 

「じゃあ彼女?」

 

「違う」

 

「え、じゃあ何?」

 

「……俺にも分からない」

 

ユウリが「なにそれ!」って笑った。

 

笑い事じゃない。

俺は背中のショウを支え直しながら、遠くに見える町を見た。

 

レンガ造りの家。

石畳。

煙突。

 

人がいる。

文明がある。

 

それだけで安心する。

 

俺はため息を吐いた。

「……ヒスイよりマシかもしれん」

 

ユウリが頷いた。

「うん!ガラルはいいとこだよ!」

 

その言葉に、俺は少しだけ救われた。

だが。

背中の重みが、現実を思い出させる。

 

俺はショウの顔を横目で見る。

寝顔は無防備で、年相応に幼い。

 

……いや、これヒカリそっくりの顔なんだよな。

何度見ても慣れない。

 

俺は小さく呟いた。

「アルセウスの趣味、やっぱ最悪だな」

 

ユウリが聞き返した。

「え?何か言った?」

 

「いや、独り言」

 

その時。

背中のショウが突然むにゃむにゃ言い出した。

「……零……カレー……」

 

「寝言で飯要求すんな」

俺は呆れて返した。

 

ユウリが嬉しそうに言う。

「カレー食べたいの!?じゃあうち来る?」

 

「……いや、そこまで図々しくは」

 

ユウリは胸を張った。

「いいのいいの!カレーは人を救うから!」

 

いや、宗教かよ。

俺は心の中で突っ込んだ。

 

歩いていると、道の先に人影が見えた。

 

金髪の女性。

整ったスーツ姿。

歩き方が堂々としていて、存在感がやたら強い。

 

……というか、圧がある。

 

ユウリが手を振って叫んだ。

「ローズ委員長のとこの人だ!」

 

俺は嫌な予感がした。

こういう「偉い人の側近」みたいなのが出てくると、だいたいイベントが始まる。

 

金髪の女性は近づいてくると、俺を見た瞬間、目を細めた。

「……あら?」

 

そして俺の背中にいるショウを見て、さらに眉がわずかに動いた。

「あらあら……?」

 

ユウリが首を傾げる。

「どうしたの?」

 

女性は口元に上品な笑みを浮かべたまま、俺をじっと見た。

「随分と珍しい旅のスタイルですのね」

 

俺は真顔で返した。

「俺もそう思います」

 

女性は少しだけ笑った。

「ふふ」

 

……笑い方が怖い。

優雅なのに、何かを測ってる目をしてる。

 

ユウリが明るく言う。

「この人、レイって言うんだ!」

 

女性は軽く頷き、スッと名刺のようなものを取り出した。

「私はオリーヴ。ローズ委員長の秘書をしておりますの」

 

俺は内心で「終わった」と思った。

ローズ委員長の秘書。

 

つまり、ガラル地方の「面倒ごと」を運んでくるタイプだ。

 

オリーヴさんは俺の背中のショウを見ながら言った。

「その子、具合でも悪いのかしら?」

 

俺は答える。

「疲れて寝てるだけです」

 

オリーヴさんは静かに頷いた。

「なるほど。でしたら、早く休ませた方がよろしいですわね」

 

そして微笑んだまま続けた。

「よろしければ、委員長の施設をご案内いたしましょうか?」

 

……出た。

善意の顔をしたイベント強制参加。

 

俺は即座に断ろうとした。

 

だがその時、背中のショウが目を覚ました。

「……ん……?」

 

眠そうな目でオリーヴさんを見た瞬間。

ショウは俺の首にしがみつきながら、小声で言った。

「……零……あの人、怪しい」

 

俺は即答した。

「分かる」

 

オリーヴさんは微笑んだ。

「……今、何かおっしゃいました?」

 

俺は爽やかに笑って返した。

「何も言ってません」

 

ユウリが笑う。

「レイって、面白いね!」

 

面白くない。

人生がコメディになってるだけだ。

 

俺はショウを背負い直し、ユウリに言った。

「……とりあえず、カレー食わせてくれ」

 

ユウリが満面の笑みで頷く。

「もちろん!!」

 

ショウは俺の背中で小さくガッツポーズした。

「やった……」

 

俺は思った。

(なんで俺、異世界で女の子背負ってカレー食べに行ってんだ?)

 

そして。

その疑問の答えは一つしかなかった。

 

――アルセウスの趣味。

 

俺は空を見上げて、ため息を吐いた。

「……ほんと、最悪だよ」

 

次回

「……情報量が多い」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。