カレーは美味かった。
いや、マジで美味かった。
スパイスの香りが強いのに、辛すぎない。
具材がごろごろ入ってて、食べ応えがある。
しかも米がちゃんと米で、涙が出そうになった。
俺はスプーンを持つ手を止めて呟く。
「……ガラル、最高かもしれん」
ユウリが得意げに笑った。
「でしょ!?」
ショウは黙々と食べていたが、明らかに機嫌がいい。
俺は気づいた。
こいつ、カレーでHP回復するタイプだ。
……まぁ俺もだけど。
だが。
俺のスマホは、まだ震えていた。
通知地獄。
着信地獄。
シルバー、トウコ、メイ、セレナ、ヒカリ、ハルカ、ミヅキ――
俺は途中で考えるのをやめた。
見たら負けだ。
俺はスマホを裏返したまま、ユウリに言った。
「……ありがとう。命救われた」
ユウリは笑う。
「カレーは世界を救うからね!」
ショウが頷いた。
「正しい」
……なんだこの宗教。
俺が二杯目を食べ終えた頃。
外が騒がしくなった。
ドドドド……という振動。
遠くから聞こえる歓声。
何かの音楽。
スタジアムみたいな、派手なBGM。
俺は顔を上げた。
「……なんか外、うるさくないか?」
ユウリが目を輝かせる。
「あっ!今日ダイマックスバトルのイベントあるんだ!」
俺は嫌な予感しかしなかった。
「……ダイマックス?」
ショウがスプーンを置いて言う。
「ポケモンが巨大化するやつ」
俺は思わず言った。
「……メガシンカの親戚?」
ユウリが首を振った。
「ううん!全然違うよ!」
ショウが淡々と補足する。
「デカくなる。強くなる。時間制限あり」
俺は乾いた笑いを漏らした。
「説明雑すぎるだろ」
ユウリが椅子から立ち上がる。
「見に行こ!レイもショウも!」
俺は即答したかった。
「行かない」
だが、ユウリの目がキラキラしてる。
ショウも微妙に興味ありそう。
そして俺は気づく。
――この流れ、断ったら強制イベントで事故るやつだ。
なら行った方がマシ。
俺は諦めた声で言った。
「……見るだけな」
「もちろん!」
ユウリは元気よく答えた。
そして数十分後。
俺たちはスタジアム近くの広場にいた。
人が多い。
屋台が並んでいる。
カレーの匂いが漂う。
……ガラル、カレー推しすぎだろ。
だが、その匂いより強烈なものがあった。
スタジアムの中央。
フィールド。
そこに立つのは――
巨大なポケモン。
デカい。
とにかくデカい。
建物よりデカい。
普通に怖い。
俺は口を開けたまま呟いた。
「……え、なにこれ」
ユウリが嬉しそうに叫ぶ。
「それがダイマックスだよ!!」
俺は目を見開いたまま言った。
「……あれがダイマックスってやつ?」
ショウが腕を組んで頷く。
「そう」
俺はスタジアムの天井を見上げた。
天井、閉じてる。
いや、これ壊れるだろ。
俺は真顔で言った。
「……天井とか壊れないのか?」
ユウリが笑った。
「壊れないよ!ちゃんとダイマックス用のスタジアムだから!」
俺は納得できなかった。
「絶対嘘だろ……」
巨大ポケモンが動くたび、地面が揺れる。
観客は歓声を上げてる。
いや、慣れすぎだろ。
俺は思った。
ガラルの人間、メンタル強すぎる。
ショウが俺の服の袖を引っ張った。
「零、顔が引きつってる」
「当たり前だろ」
俺は即答した。
巨大ポケモンが吠えた。
ドォォォン!!
音圧だけで耳が痛い。
俺は反射的にショウを後ろに引き寄せた。
ショウは驚いた顔をしたが、すぐに小さく笑った。
「過保護」
「うるせぇ」
俺は言い返した。
その時、ユウリが俺の肩を叩いた。
「ねぇレイ!ダイマックス、やってみたい?」
俺は即答した。
「やらない」
ユウリが目を丸くする。
「えー!?絶対楽しいよ!」
俺は冷静に言った。
「俺、巨大化とか嫌な思い出しかない」
ヒスイのオヤブン。
巨大な怒り。
巨大な理不尽。
俺はもう「デカい敵」にはうんざりしていた。
だがユウリは悪気なく言った。
「でもほら!レイ強そうだし!」
ショウが頷く。
「零は強い。頭おかしいぐらい」
「褒めてないだろそれ」
俺は突っ込んだ。
その瞬間。
俺のスマホが震えた。
俺は反射的に見る。
着信――ヒカリ。
俺は顔面蒼白になった。
「……うわ、来た」
ショウが覗き込む。
「出ないの?」
「出たら死ぬ」
ユウリが不思議そうに言った。
「なんで!?」
俺は小声で答える。
「今の俺、色々誤解されてる」
ユウリは首を傾げる。
「レイって浮気者なの?」
俺は即答した。
「違う!!」
ショウがボソッと言った。
「でも連絡帳、ほぼ女性しかいない」
「お前は黙れ!!」
俺はキレた。
その時だった。
スタジアムの巨大ポケモンが、突然こちらを向いた。
いや、向いたというか――
視線が合った気がした。
観客がざわつく。
「え……?」
「なんでこっち見てる……?」
俺は嫌な汗が背中を流れるのを感じた。
「……まさか」
巨大ポケモンが一歩踏み出した。
ドン!!
地面が揺れる。
柵がきしむ。
観客が悲鳴を上げ始める。
「うわぁぁぁ!!」
「こっち来た!!」
ユウリが驚いて叫ぶ。
「えっ!?なんで!?」
ショウが俺を見て言った。
「零、たぶんそれ」
「俺のせいって言いたいんだろ」
俺は即答した。
……そうだよな。
こういうの、だいたい俺のせいだ。
俺は深く息を吸った。
そして、覚悟を決めてボールケースに手を伸ばす。
「……ユウリ、下がれ」
ユウリが目を見開く。
「レイ!?」
俺は笑った。
「大丈夫。慣れてる」
ショウがぼそっと言う。
「慣れたらダメ」
俺はボールを握りしめた。
巨大ポケモンが吠える。
スタジアムの空気が震える。
観客が逃げ惑う。
ユウリが叫んだ。
「レイ、危ない!!」
俺は静かに呟いた。
「……ガラルでも結局こうなるのかよ」
そして俺はボールを投げた。
「出てこい――」
光が弾ける。
現れたのは、紫のオーラを纏った存在。
ユウリが息を呑む。
「え……なにそのポケモン……」
ショウが小さく言った。
「……ミュウツーってやつ?」
俺は肩を落として笑った。
「はい。いつものやつです」
ミュウツーがゆっくり宙に浮く。
巨大ポケモンと向かい合い、目を細める。
俺はZリングに触れながら呟いた。
「……巨大化には巨大化ぶつけたいけど」
「今それやったらガラル滅ぶな」
ユウリが震えた声で言った。
「レイ……あなた何者……?」
俺は乾いた笑いを漏らした。
「俺も知りたい」
そして、俺は指を前に突き出した。
――やるしかない。
俺は叫ぶ。
「ミュウツー!」
紫のオーラが膨れ上がる。
空気が重くなる。
観客の悲鳴が止まった。
ユウリが呆然とする。
ショウは腕を組んだ。
そして俺は、覚悟を決めて言った。
「サイコキネシス!!」
紫の光が弾けた。
巨大ポケモンの身体が宙に浮く。
観客が叫ぶ。
「うわぁぁぁぁ!!」
俺は歯を食いしばった。
「……頼むから、これ以上面倒起こすなよ……!」
だが俺は知っている。
この世界は。
俺に平和をくれない。
次回
「それヤドンの尻尾だよな?」