チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第44話 それヤドンの尻尾だよな?

ミュウツーのサイコキネシスで巨大ポケモンを押さえつけた瞬間、スタジアム全体が静まり返った。

観客は逃げるどころか、逆に固まっている。

 

いや、そりゃそうだ。

普通、巨大化したポケモンを「念力で浮かせて止める人間」なんていない。

 

ユウリは口をぽかんと開けたまま、俺を見ていた。

ショウは腕を組んで、冷静に一言。

「……やっぱり零はおかしい」

 

「うるせぇ」

俺は短く返した。

 

ミュウツーが振り返り、俺に視線を送る。

――「どうする?」

 

そう言っている気がした。

 

俺は頭を抱えたくなった。

「どうするもこうするも……」

 

巨大ポケモンは暴れようとしている。

ミュウツーの念力が抑えているからなんとかなってるが、正直いつまでも持つとは思えない。

 

そして、ここはガラル。

スタジアム。

観客がいる。

 

こんなところでサイコブレイクとか撃ったら大惨事だ。

 

俺はため息を吐いて言った。

「……ミュウツー、とりあえず外に投げろ」

 

ミュウツーは無言で頷いた。

 

次の瞬間。

巨大ポケモンがふわっと浮き上がり、そのままスタジアムの外へ放り投げられた。

 

ドォォォン!!

 

遠くで地面が揺れた。

観客の悲鳴。

そして――沈黙。

 

ユウリが震えた声で言った。

「レイ……今の……何……?」

 

俺は苦笑して頭を掻いた。

「……手品」

 

「手品じゃないよね!?」

 

「手品だよ」

 

ショウがため息を吐いた。

「零、誤魔化し方が雑すぎる」

 

俺はユウリに向き直って、できるだけ真面目な顔で言った。

「大丈夫。ガラルは平和だ」

 

ユウリは叫んだ。

「平和じゃないよ!!」

 

俺は思った。

……うん、俺もそう思う。

 

しばらくして、スタジアム職員っぽい人たちが駆けつけてきて、騒ぎはなんとか収束した。

「謎のトレーナーが助けた」とか、「あれは新しい技だ」とか、勝手に解釈されている。

 

助かった。

誰も「ミュウツー」だとは気づいていない。

 

ガラル、平和だな(麻痺)

 

俺はミュウツーをボールに戻した。

「戻れ」

 

ミュウツーは何も言わず、光になって消えた。

ユウリはまだ混乱している。

 

ショウは俺の袖を引っ張った。

「零、帰ろう。疲れた」

 

「だな」

俺も限界だった。

 

俺たちはユウリの家に戻った。

そして。

事件が起きた。

 

テーブルの上に残っていたカレー。

ユウリが「よかったらおかわりあるよ!」と言って、鍋からよそってくれた。

俺はもう何も考えずスプーンを突っ込んだ。

 

……美味い。

美味いけど。

口の中に、妙な食感が残った。

 

柔らかい。

でも肉っぽい。

脂が乗ってる。

噛むと、ぷるっとしている。

 

俺はスプーンを止めた。

「……ん?」

 

スプーンで具材をすくい上げる。

 

薄いピンク色。

肉みたいな形。

ハムみたいな見た目。

 

だが、どこか違う。

 

俺は眉をひそめて、ユウリを見た。

「……なぁユウリ」

 

ユウリはにこにこしてる。

「なに?」

 

俺はスプーンを指さして言った。

「これ、何の肉?」

 

ユウリは一瞬だけキョトンとした後、当然みたいに答えた。

「ヤドンの尻尾だよ!」

 

俺は固まった。

 

……ヤドンの尻尾。

ヤドンの尻尾?

あのヤドンの?

 

ロケット団が密猟してたやつ?

俺の脳内で、ジョウト地方のトラウマが蘇る。

ヤドンが尻尾切られて、呆けた顔で立ってる映像。

 

俺はゆっくり顔を上げた。

「それヤドンの尻尾だよな?」

 

ユウリは元気よく頷いた。

「うん!」

 

俺の声は震えていた。

「……食えるの?」

 

ユウリは笑った。

「食べれるよ!めっちゃ美味しいでしょ!」

 

ショウも平然と食べながら言った。

「普通に美味しい」

 

俺は戦慄した。

 

いや、美味しい。

美味しいんだよ。

美味しいけど、倫理が追いつかない。

 

俺は思わず聞いた。

「……え、ヤドン大丈夫なの?」

 

ユウリはあっけらかんと答える。

「大丈夫だよ!ヤドンの尻尾って、自然に取れるしまた生えるんだって!」

 

俺は頭を抱えた。

「いや、説明されても怖ぇよ!!」

 

ショウがスプーンを持ったまま言う。

「零、ジョウトのトラウマが出てる」

 

「出るわ!!」

俺は叫んだ。

 

ユウリは慌てて言った。

「え、ごめん!?嫌だった!?」

 

俺は首を振った。

「いや、嫌じゃない。美味い」

 

「美味いんかい!」

ショウが突っ込んだ。

 

俺はテーブルに突っ伏しそうになりながら呟いた。

「……もう何が正しいのか分からん」

 

ユウリは笑いながら言った。

「レイって面白いね!」

 

俺は心の中で泣いていた。

俺の人生は、ポケモン世界に来てからずっとこうだ。

 

常識が崩壊していく。

戦闘で死にかける。

 

伝説を出して怒られる。

スマホが炎上する。

そして今、ヤドンの尻尾を食べている。

 

俺は天井を見上げた。

「……アルセウス、これもお前の趣味?」

 

返事はない。

でも分かる。

絶対どこかで笑ってる。

 

俺はスプーンを持ち直し、諦めたようにカレーを食べた。

「……デカいハムみたいな感じだ」

 

ショウが頷いた。

「うん」

 

ユウリは満足そうに笑う。

「でしょ!」

 

そして。

俺のスマホが、また震えた。

 

ブブブブ……!!

 

もう何十回目かわからない。

 

俺は青ざめて画面を見る。

着信。

 

――セレナ。

 

俺は顔を引きつらせた。

「……あ、やべ」

 

ショウが覗き込んで言った。

「出たら?」

 

俺は真顔で答えた。

「死ぬ」

 

ユウリが首を傾げる。

「レイ、さっきから何がそんな怖いの?」

 

俺は乾いた笑いを漏らした。

「……女の勘」

 

ショウがぼそっと言った。

「自業自得」

 

「違うって!!」

俺は叫んだ。

 

スマホが震え続ける。

通知が止まらない。

俺は天井を見上げて、心の底から思った。

 

――俺、もしかして本当に女癖悪い?

 

次回

「距離感おかしくない?」

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