チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第46話 なんで俺おんぶしてるんだ?

――夜。

 

ガラルの街は静かだった。

街灯が石畳を照らし、風が冷たく頬を撫でる。

遠くで鳴くポケモンの声が、妙に心細い。

 

俺はポケモンセンターから出たところで、立ち尽くしていた。

背中には、ショウ。

完全に寝ている。

 

すぅ……すぅ……と、規則正しい寝息。

俺の肩に頭を預けて、体温がじんわり伝わってくる。

 

……いや、これ状況どうなってんだよ。

 

俺はふと我に返った。

「……なんで俺、ショウをおんぶしてるんだ?」

 

声に出した瞬間、余計に虚しくなった。

 

隣でユウリが笑いをこらえながら歩いている。

「レイ、めっちゃ似合うよ。おんぶ」

 

「似合わなくていいんだよ」

俺は半目で返した。

 

ポケモンセンターでは、ショウは軽い疲労と睡眠不足と言われた。

つまり、限界まで動いてたってことだ。

ヒスイでオヤブン避けてた時点で、そりゃそうだ。

 

俺はため息をつく。

 

……なんで俺が責任持ってるんだ?

俺は親か?

いや、親でもこんな苦労しないぞ。

 

ユウリが前を向いたまま言う。

「ショウちゃん、ほんとに安心してるんだね」

 

「……そうか?」

 

ユウリは頷く。

「うん。寝顔がすごいもん」

 

俺は背中のショウをちらっと見た。

確かに、無防備すぎる。

ここが野宿なら、すぐポケモンに攫われるレベルだ。

 

俺は小声で呟く。

「警戒心、どこに置いてきたんだよ……」

 

ユウリがニヤニヤしながら言った。

「レイに預けてきたんじゃない?」

 

「やめろ」

俺は即答した。

 

「そういうの、誤解を生む」

 

「誤解って何?レイ、照れてる?」

 

「照れてない」

俺はまた即答した。

 

即答したが、心臓がうるさい。

……いや、違う。

これは純粋に状況が恥ずかしいだけだ。

 

俺が悪いんじゃない。

ショウが距離感バグってるだけだ。

 

そうだ。

俺は悪くない。

 

その瞬間。

俺のスマホがまた震えた。

 

ブブブブ……!!

 

俺は反射的にスマホを見た。

着信。 

――グリーン。

 

「……なんでだよ!!」

俺は叫びそうになって、口を押さえた。

 

ユウリが目を丸くする。

「え、誰?」

 

「グリーン」

 

「えっ!?あのグリーン!?」

 

ユウリはテンションが上がった。

ガラルの女の子は、カントーの伝説に弱いらしい。

 

俺は震える指で通話ボタンを押した。

「……もしもし」

 

『お前さ』

 

グリーンの声が、開口一番で刺さった。

『今どこだ』

 

「ガラル」

 

『知ってる』

 

「……じゃあ聞くなよ」

俺はげっそりしながら言った。

 

電話の向こうで、グリーンがため息をつく。

『レッドから連絡きた。迎えに行くって』

 

「うん、言われた」

 

『……お前、何した』

 

「何もしてない」

 

『嘘だな』

 

「嘘じゃねぇよ!!」

俺は小声で叫んだ。

 

ユウリが肩を揺らして笑っている。

やめろ。

笑うな。

 

こっちは人生が終わりかけてる。

 

グリーンが低い声で言った。

『今のお前、女の子背負ってるって本当か?』

 

俺は固まった。

 

……情報回るの早すぎだろ。

 

「え?」

 

『写真回ってきたぞ』

 

「誰が撮った!?」

 

ユウリが手を挙げた。

「私かも!」

 

「お前かよ!!」

俺は叫びそうになった。

 

ショウが背中で「ん……」と寝返りを打つ。

やばい、起きる。

 

俺は声を抑えて言った。

「……いや、これは事情がある」

 

『事情?』

 

グリーンが鼻で笑った。

『お前、前も「事情がある」って言ってハルカとヒカリに囲まれてたよな』

 

「囲まれてねぇ!!」

 

『囲まれてた』

 

「……」

俺は言い返せなかった。

 

グリーンが続ける。

『お前、女癖悪いっていうか……』

 

一拍置いて。

『巻き込まれ体質だよな』

 

……それだけは否定できなかった。

 

「……そうなんだよ」

俺は乾いた声で言った。

 

ユウリが不思議そうに首を傾げる。

「レイ、巻き込まれ体質なの?」

 

「生まれつきだよ」

 

グリーンが言った。

『とりあえずレッドが着いたら逃げるなよ』

 

「逃げるに決まってるだろ」

 

『逃げたら○す』

 

「お前も怖いよ!!」

俺は即答した。

 

通話が切れる。

俺はスマホを握りしめ、空を見上げた。

 

星が綺麗だ。

こんな綺麗な星空の下で、俺は何をしている?

女の子を背負い、カントーの伝説に追われ、ガラルでカレー食ってる。

 

……何の人生だよ。

 

ユウリが楽しそうに言う。

「レイ、人気者じゃん!」

 

「人気者じゃなくて、事故物件なんだよ」

 

「事故物件!?」

ユウリは爆笑した。

 

ショウが背中で目を擦りながら、ゆっくり起きた。

「……零?」

 

「起きたか」

 

ショウはぼーっとしたまま言った。

「……なんで私、背負われてるの?」

 

俺は即答した。

「俺が聞きたい」

 

ショウは数秒沈黙してから、真顔で言った。

「……ありがとう」

 

その一言で、俺の胸が少しだけ軽くなった。

 

……あぁ、くそ。

こういうのに弱いんだよ、俺は。

 

ユウリがニヤニヤしながら言った。

「レイ、顔が優しくなった」

 

「うるせぇ」

俺は顔を背けた。

 

ショウは背中から降りようとしたが、足元がふらついた。

 

俺は反射的に支える。

「おい、無理すんな。まだ寝てろ」

 

ショウは驚いた顔をした。

「……いいの?」

 

「いい」

 

ショウは小さく頷き、また俺の背中に戻った。

そしてぽつりと言った。

「……零って、優しいね」

 

俺は歩きながら、苦笑した。

「優しいんじゃなくて、断れないだけだ」

 

ユウリが元気よく言った。

「それを優しいって言うんだよ!」

 

俺は心の中で思った。

――こんな優しさ、命取りだ。

 

その瞬間。

街の向こうから、静かな足音が聞こえた。

 

コツ、コツ、コツ。

 

そして、影が伸びる。

俺は顔を上げた。

 

そこにいたのは。

帽子を深く被った、無言の少年。

赤いジャケット。

圧倒的な存在感。

 

――レッド。

 

俺の胃が、終わった。

レッドは俺を見て、そして背中のショウを見た。

 

何も言わない。

ただ、目だけが言っている。

「説明しろ」

 

俺は笑顔を作った。

作ったつもりだった。

「……やぁ、レッド。久しぶり」

 

レッドはゆっくり近づき、短く一言。

「……話」

 

俺は震えながら思った。

あぁ、終わった。

ガラルの夜は、まだ長い。

 

次回

「レッドに○される5秒前」

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