チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第47話 レッドに○される5秒前

空気が、冷えた。

夜風じゃない。

レッドが来た瞬間、世界そのものの温度が下がった気がした。

 

石畳の上を歩く足音。

コツ、コツ、コツ。

 

その音が近づくたびに、俺の心臓は「終わった終わった終わった」と鳴り続けていた。

ユウリは完全に興味津々で、ショウはまだ眠そうに俺の背中にくっついている。

 

俺だけが地獄。

 

目の前に立ったレッドは、俺を見た。

そして背中のショウを見た。

 

視線が戻る。

俺を見たまま、短く言った。

「……話」

 

いや、話って言われても。

何から話せばいいんだ。

ヒスイの時点で説明できる気がしない。

 

俺は咳払いをして、必死に笑顔を作った。

「えーと……これはな?」

 

レッドは何も言わない。

ただ、目が言っている。

 

――言い訳するなよ?

 

俺は心の中で叫んだ。

無理だよ!!!!!!

俺、今まさに○される5秒前だよ!!!!

 

ユウリが横から口を挟んだ。

「ねぇねぇ、あなたがレッドさん?」

 

レッドはユウリに視線を向け、軽く頷いた。

 

ユウリは満面の笑みで言った。

「うわぁ~!本物だぁ!」

 

レッドは反応しない。

無言のまま、俺を見た。

その視線が言っている。

 

――お前、まだ背負ってるのか?

 

俺は泣きそうになった。

「いや違うんだよレッド」

レッドは眉を僅かに動かした。

 

……やばい、これ怒りゲージ上がった。

 

俺は即座に早口になる。

「これはあれだ!事情があって!ショウが疲れてて!俺がたまたま背負っただけで!別に俺が好きで背負ってるわけじゃなくて!」

 

ショウが背中でぼそっと呟いた。

「……零、好きじゃないの?」

俺は硬直した。

 

やめろォォォォォ!!!!!!

 

ユウリが爆笑した。

「ショウちゃん天然すぎる!」

 

俺は顔面蒼白で叫んだ。

「好きとかそういう意味じゃねぇ!!」

 

レッドは無言。

だが、拳が握られている。

 

俺の脳内に「死」の二文字が浮かんだ。

 

レッドは一歩前に出た。

俺は反射的に一歩後ろに下がった。

 

レッドが、短く言う。

「……降ろせ」

 

「はい!!」

俺は即答した。

 

背中からショウを下ろそうとした瞬間、ショウがふらついた。

俺は慌てて支える。

 

その瞬間。

レッドの目が細くなった。

 

俺は感じた。

殺気。

完全に殺気。

 

……いや、殺気っていうか、圧がすごい。

 

ショウはぼんやりした顔でレッドを見た。

「……あなた、誰?」

 

ユウリが言う。

「カントーの伝説だよ!レッドさん!」

 

ショウは数秒沈黙し、そして真顔で言った。

「……零の彼氏?」

 

俺は噴いた。

「違う!!!!!!」

 

ユウリが腹を抱えて笑った。

「やばいショウちゃん、天然爆弾すぎる!」

 

俺は叫びながらショウの肩を揺さぶった。

「お前それ言っちゃダメなやつだ!!」

 

ショウは首を傾げる。

「……違うの?」

 

「違う!!!」

 

レッドは、無言だった。

ただし。

拳が、さっきより強く握られている。

 

俺は悟った。

あ、これ本当に○される。

 

レッドは一歩前に出た。

俺は心の中でカウントダウンした。

 

5。

4。

3。

2。

1――

 

その瞬間。

俺のスマホが震えた。

 

ブブブブブブブブ!!!!!!

 

場違いなバイブ音。

俺は半泣きでスマホを取り出す。

 

着信。

――アルセウス。

 

俺は叫んだ。

「お前今どのツラ下げて電話してきてんだよ!!!!」

 

レッドがスマホを見た。

画面に表示される文字。

【アルセウス】

 

ユウリが固まった。

「え……?」

 

ショウも目を見開いた。

「……アルセウス?」

 

レッドは無言で俺のスマホを凝視した。

 

俺は汗だらだらで通話ボタンを押す。

「……もしもし!!!」

 

すると、スマホから落ち着いた声が響いた。

『落ち着け、零』

 

「落ち着けるか!!!!」

 

『お前が今いる場所はガラル地方。現在の状況は――』

 

「実況すんな!!!!」

 

『レッドが怒っているな』

 

「見りゃわかるわ!!!!」

 

レッドがスマホに手を伸ばした。

俺は反射的にスマホを抱え込んだ。

だがレッドは無言で俺の肩を掴んだ。

 

やばい。

腕力が普通じゃない。

 

こいつ、伝説のトレーナーだ。

物理も強い。

 

ユウリが慌てて言う。

「え、えっと!レッドさん落ち着いて!レイは悪い人じゃないよ!」

 

ショウも言った。

「零は優しいよ」

 

俺は泣きそうになりながら言った。

「そう!俺は優しいだけなんだよ!!」

 

レッドは俺をじっと見て、短く言った。

「……優しい」

 

そして、視線がショウに移る。

ショウはぼんやりした顔でレッドを見返す。

 

レッドは言った。

「……守る」

 

俺は首を傾げた。

「え?」

 

レッドが続ける。

「……お前が」

 

俺は固まった。

 

え、俺を守る?

なんで?

俺、今○される5秒前じゃなかったの?

 

俺の脳内が処理落ちした。

 

アルセウスが電話越しに言った。

『レッドは、お前が巻き込まれる未来を見ている』

 

「未来?」

 

『お前のスマホの連絡帳を見た』

 

「やめろ!!!!!!!!」

 

ユウリが首を傾げる。

「連絡帳?」

 

俺は即座に叫んだ。

「ユウリ!聞くな!!」

 

ショウがぽつりと言った。

「……零、女の子多いよね」

 

「言うな!!!!!!!!」

 

レッドの目が、すっと細くなる。

俺は震えた。

 

あ、やっぱり○される。

 

レッドは俺の肩を掴んだまま、スマホを見て、そして一言。

「……見せろ」

 

「嫌です!!!!」

 

即答した。

即答したら、余計に疑われた。

 

レッドの握力が上がった。

肩がミシッて言った。

 

「痛い痛い痛い!!」

 

ユウリが慌てて止める。

「レッドさん!暴力はダメだよ!!」

 

ショウも真顔で言った。

「零に痛いことしないで」

 

レッドは一瞬だけ目を伏せ、そして手を離した。

俺は肩を押さえて息を吐く。

 

……助かった。

 

レッドは俺を見て、短く言った。

「……逃げるな」

 

俺は小さく頷いた。

「……逃げない」

 

レッドは頷いた。

そして、ゆっくり踵を返す。

 

去り際に、振り向きもせず言った。

「……ついてこい」

 

俺は固まった。

「え、どこに?」

 

レッドは答えない。

ただ歩いていく。

 

ユウリが目を輝かせる。

「え、やば!これ同行イベントじゃん!」

 

「ゲームみたいに言うな!!」

 

ショウは俺の袖を掴んだ。

「零、行こう」

 

俺は頭を抱えた。

終わったと思ったら、始まった。

 

俺はスマホを握りしめ、アルセウスに小声で言った。

「……おい、これどういうことだよ」

 

アルセウスは落ち着いた声で言った。

『零。お前はこれから』

 

一拍置いて。

『ガラル地方の伝説に巻き込まれる』

 

「巻き込まれるの確定かよ!!!!!!」

俺の叫びが、夜のガラルに響いた。

 

次回

「アルセウスと口喧嘩する高校生」

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