チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第48話 アルセウスと口喧嘩する高校生

俺は今。

ガラル地方の夜道で。

伝説のトレーナー・レッドの背中を追いながら。

右手にスマホを握りしめて。

 

――創造神アルセウスと通話している。

 

何言ってるか分からないだろ?

俺も分からない。

 

でも現実だ。

地獄だ。

 

ユウリは隣でウキウキしている。

ショウは俺の横で眠そうに目を擦りながら歩いている。

レッドは前方を無言で歩く。

 

まるで護衛。

まるで監視。

 

そして俺はスマホに向かって、低い声で言った。

「……で?アルセウス。これは何?」

 

『何とは』

 

「何とはじゃねぇよ!!」

俺は小声で叫んだ。

 

ユウリがびくっとしてこっちを見る。

「レイ?どしたの?」

 

「なんでもない、なんでもない」

 

俺は手で制し、再びスマホに口を近づける。

「俺が聞きたいのは、なんで俺がこんな目に遭ってんのかって話だよ」

 

『お前が望んだからだ』

 

「望んでねぇよ!!!!」

即答した。

 

ユウリが小声で言う。

「……レイ、なんか怒ってる?」

 

ショウが淡々と答えた。

「いつものこと」

 

「いつものことなんだ……」

ユウリは納得してしまった。

 

納得するな。

 

レッドがちらっと振り返った。

俺は即座に声量を下げる。

「いいか?俺はな、ただの高校生だったんだよ」

 

『知っている』

 

「宮城に住んでたんだよ」

 

『知っている』

 

「p○xivとハー○ルン見てたんだよ」

 

『知っている』

 

「なんなら夢小説読んでたんだよ」

 

『知っている』

 

「じゃあなんで呼んだんだよ!!!!」

 

スマホの向こうの声は冷静だった。

『お前は適任だった』

 

「適任じゃねぇよ!!!」

俺はガチで言った。

 

適任ってなんだよ。

転生者の適任って履歴書でもあんのか?

 

アルセウスは続ける。

『お前は状況に順応する』

 

「順応してねぇよ!!!」

 

『お前は戦える』

 

「戦いたくねぇよ!!!」

 

『お前は人と関わる』

 

「それが一番問題なんだよ!!!!」

俺は思わず声を荒げた。

 

レッドが止まった。

ユウリも止まった。

ショウも止まった。

 

そして、全員が俺を見た。

 

俺は固まった。

……あ。

やば。

 

俺は笑顔を作る。

「いや、独り言です」

 

レッドは無言で俺を見ていたが、何も言わず歩き出した。

 

ユウリが小声で囁く。

「レイ、独り言にしては怖かったよ」

 

「……うん」

俺は頷いた。

 

自分でも思う。

俺、創造神にキレてる。

 

普通なら罰当たりとかいうレベルじゃない。

即死案件。

 

だが、今更だ。

 

俺はスマホに向かって囁くように言った。

「……てかさ」

 

『何だ』

 

「お前、俺の人生ぐちゃぐちゃにして楽しい?」

 

少しの沈黙。

 

アルセウスの声が、少しだけ低くなった。

『お前は楽しんでいる』

 

「楽しんでねぇよ!!!!」

 

俺はキレた。

「どこがだよ!!俺ずっと疲れてるし!逃げたいし!スマホ鳴り止まないし!」

 

『なら捨てればいい』

 

「捨てたわ!!!!」

俺は即答した。

 

「売ったわ!!!!フレンドリィショップに!!!!」

 

『それでも戻ってきただろう』

 

「お前が戻してんだろ!!!!」

 

『……』

 

沈黙した。

沈黙したってことは、正解だ。

絶対こいつの仕業だ。

 

俺はさらに畳みかけた。

「大体さぁ!!なんで俺が行く先々で女の子と絡むんだよ!!」

 

『縁だ』

 

「縁じゃねぇよ!!呪いだよ!!」

 

『呪いではない』

 

「呪いだろ!!俺の連絡帳見てみろ!!」

 

『見た』

 

「見たなら分かるだろ!!」

 

ユウリが耳を澄ませている。

ショウも気になってこっちを見ている。

 

俺はスマホを手で覆って小声にした。

「……お前の趣味か?」

 

アルセウスは平然と言った。

『趣味ではない』

 

「嘘つけ!!」

 

『……多少の調整はした』

 

俺はその場で立ち止まった。

「は?」

 

ユウリが振り向く。

「レイ?」

 

俺はユウリに笑って誤魔化した。

「なんでもない」

 

そしてスマホに向かって、低い声で言う。

「……調整って何」

 

『お前は人を引き寄せる』

 

「それが調整かよ」

 

『そうだ』

 

「最悪だろ!!!!」

 

俺は震えた。

「なんでそんなことしたんだよ!」

 

『孤独では耐えられないと思った』

 

俺は言葉を失った。

一瞬だけ。

ほんの一瞬だけ、胸が痛くなった。

 

だが、次の瞬間。

「いやいやいやいや!!」

俺は首を振った。

 

「孤独の方がマシだわ!!孤独の方が安全だわ!!」

 

『安全では物語にならない』

 

「物語にするな!!!!」

俺は叫んだ。

 

ユウリが口を押さえて笑い始めた。

「レイ、何と戦ってるの……」

 

ショウは真顔で言った。

「神」

 

「神と戦うな!!」

ユウリがさらに笑った。

 

俺はスマホに向かって、息を整えて言う。

「……なぁアルセウス」

 

『何だ』

 

「俺、帰りたい」

 

しばらく沈黙。

 

アルセウスは、静かに言った。

『帰れる』

 

俺は目を見開いた。

「……マジ?」

 

『条件がある』

 

「条件って何だよ」

 

『お前がこの世界を見届けること』

 

「見届けるって何を」

 

『お前自身の物語だ』

 

俺は乾いた笑いを漏らした。

「……俺、夢主じゃねぇんだけど」

 

『夢主だ』

 

「違う!!」

 

『お前が望んだ』

 

「望んでねぇ!!」

 

俺はスマホを握りしめた。

「俺が望んだのは、原作キャラの尊さを眺めることだ!!」

 

『なら叶えてやった』

 

「叶え方が雑すぎるんだよ!!!!」

俺の声が響いた。

 

レッドがまた止まった。

今度はゆっくり振り向いて、俺を見た。

 

そして。

短く一言。

「……うるさい」

 

俺は即座に頭を下げた。

「すみませんでした!!」

 

ユウリが笑い転げる。

「レッドさんに怒られてるの面白すぎる!」

 

ショウは小声で言った。

「零、静かにして」

 

「お前が言うな!!!!」

俺は泣きそうになりながら言い返した。

 

そしてスマホに向かって、最後の抵抗をするように呟く。

「……アルセウス」

 

『何だ』

 

「お前、俺のこと嫌いだろ」

 

アルセウスは淡々と答えた。

『嫌いではない』

 

「じゃあなんでこんな目に」

 

『試練だ』

 

「試練って言えば許されると思うなよ!!!!」

俺は本気で怒鳴った。

 

ユウリが腹を抱えて笑っている。

ショウも口元を押さえて笑っている。

レッドだけが無言で歩いていく。

 

アルセウスは、少しだけ声色を変えた。

『零』

 

「なんだよ」

 

『お前は、この世界を壊さない』

 

「……は?」

 

『力を持っても、壊さない』

俺は一瞬だけ黙った。

 

思い出す。

ギラティナを出した時。

Z技も、メガシンカも、テラスタルも。

 

俺は確かに、やろうと思えば世界をめちゃくちゃにできた。

でも。

俺はそれを選ばなかった。

 

アルセウスが続ける。

『だから呼んだ』

 

俺は唇を噛んだ。

「……それだけ?」

 

『それだけだ』

 

俺はスマホを握りしめたまま、呟いた。

「……なら、もっとマシな呼び方しろよ」

 

『すまない』

 

謝った。

創造神が謝った。

 

……いや、軽すぎる。

 

俺はすぐ言い返す。

「謝って済むか!!」

 

『だが、お前は進む』

 

「進まねぇよ!!」

 

『進む』

 

「進まない!!」

 

『進む』

 

「……」

俺はため息をついた。

 

そして空を見上げる。

ガラルの夜空は、やけに澄んでいた。

 

星が綺麗だ。

ムカつくくらい綺麗だ。

 

俺はスマホを耳に当てたまま、ぽつりと言った。

「……俺、ただの高校生なんだけどな」

 

アルセウスは静かに答えた。

『今はもう、ただの高校生ではない』

 

「……最悪」

俺がそう言うと。

 

ユウリが笑いながら肩を叩いた。

「レイ、でもさ」

 

「んだよ」

 

「ちょっとカッコいいよ」

 

俺は即答した。

「カッコよくねぇよ。胃痛いだけだ」

 

ショウが小さく笑って言う。

「零は、零だよ」

 

……その言葉だけは、少し救われた気がした。

 

俺はスマホに向かって言った。

「アルセウス」

 

『何だ』

 

「今度ふざけたことしたら、マジで殴るからな」

 

『殴れるならやってみろ』

 

「挑発すんな!!!!」

俺は叫んだ。

 

夜のガラルに、また俺の声が響いた。

 

レッドが遠くで立ち止まり、ため息をついたように見えた。

ユウリは笑いすぎて涙を拭いている。

ショウは俺を見て、呆れたように微笑んでいた。

 

……俺の人生、どこに向かってるんだろうな。

 

次回パルデア地方編

「パルデア地方に行ってくるよ」

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