俺は今。
ガラル地方の夜道で。
伝説のトレーナー・レッドの背中を追いながら。
右手にスマホを握りしめて。
――創造神アルセウスと通話している。
何言ってるか分からないだろ?
俺も分からない。
でも現実だ。
地獄だ。
ユウリは隣でウキウキしている。
ショウは俺の横で眠そうに目を擦りながら歩いている。
レッドは前方を無言で歩く。
まるで護衛。
まるで監視。
そして俺はスマホに向かって、低い声で言った。
「……で?アルセウス。これは何?」
『何とは』
「何とはじゃねぇよ!!」
俺は小声で叫んだ。
ユウリがびくっとしてこっちを見る。
「レイ?どしたの?」
「なんでもない、なんでもない」
俺は手で制し、再びスマホに口を近づける。
「俺が聞きたいのは、なんで俺がこんな目に遭ってんのかって話だよ」
『お前が望んだからだ』
「望んでねぇよ!!!!」
即答した。
ユウリが小声で言う。
「……レイ、なんか怒ってる?」
ショウが淡々と答えた。
「いつものこと」
「いつものことなんだ……」
ユウリは納得してしまった。
納得するな。
レッドがちらっと振り返った。
俺は即座に声量を下げる。
「いいか?俺はな、ただの高校生だったんだよ」
『知っている』
「宮城に住んでたんだよ」
『知っている』
「p○xivとハー○ルン見てたんだよ」
『知っている』
「なんなら夢小説読んでたんだよ」
『知っている』
「じゃあなんで呼んだんだよ!!!!」
スマホの向こうの声は冷静だった。
『お前は適任だった』
「適任じゃねぇよ!!!」
俺はガチで言った。
適任ってなんだよ。
転生者の適任って履歴書でもあんのか?
アルセウスは続ける。
『お前は状況に順応する』
「順応してねぇよ!!!」
『お前は戦える』
「戦いたくねぇよ!!!」
『お前は人と関わる』
「それが一番問題なんだよ!!!!」
俺は思わず声を荒げた。
レッドが止まった。
ユウリも止まった。
ショウも止まった。
そして、全員が俺を見た。
俺は固まった。
……あ。
やば。
俺は笑顔を作る。
「いや、独り言です」
レッドは無言で俺を見ていたが、何も言わず歩き出した。
ユウリが小声で囁く。
「レイ、独り言にしては怖かったよ」
「……うん」
俺は頷いた。
自分でも思う。
俺、創造神にキレてる。
普通なら罰当たりとかいうレベルじゃない。
即死案件。
だが、今更だ。
俺はスマホに向かって囁くように言った。
「……てかさ」
『何だ』
「お前、俺の人生ぐちゃぐちゃにして楽しい?」
少しの沈黙。
アルセウスの声が、少しだけ低くなった。
『お前は楽しんでいる』
「楽しんでねぇよ!!!!」
俺はキレた。
「どこがだよ!!俺ずっと疲れてるし!逃げたいし!スマホ鳴り止まないし!」
『なら捨てればいい』
「捨てたわ!!!!」
俺は即答した。
「売ったわ!!!!フレンドリィショップに!!!!」
『それでも戻ってきただろう』
「お前が戻してんだろ!!!!」
『……』
沈黙した。
沈黙したってことは、正解だ。
絶対こいつの仕業だ。
俺はさらに畳みかけた。
「大体さぁ!!なんで俺が行く先々で女の子と絡むんだよ!!」
『縁だ』
「縁じゃねぇよ!!呪いだよ!!」
『呪いではない』
「呪いだろ!!俺の連絡帳見てみろ!!」
『見た』
「見たなら分かるだろ!!」
ユウリが耳を澄ませている。
ショウも気になってこっちを見ている。
俺はスマホを手で覆って小声にした。
「……お前の趣味か?」
アルセウスは平然と言った。
『趣味ではない』
「嘘つけ!!」
『……多少の調整はした』
俺はその場で立ち止まった。
「は?」
ユウリが振り向く。
「レイ?」
俺はユウリに笑って誤魔化した。
「なんでもない」
そしてスマホに向かって、低い声で言う。
「……調整って何」
『お前は人を引き寄せる』
「それが調整かよ」
『そうだ』
「最悪だろ!!!!」
俺は震えた。
「なんでそんなことしたんだよ!」
『孤独では耐えられないと思った』
俺は言葉を失った。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、胸が痛くなった。
だが、次の瞬間。
「いやいやいやいや!!」
俺は首を振った。
「孤独の方がマシだわ!!孤独の方が安全だわ!!」
『安全では物語にならない』
「物語にするな!!!!」
俺は叫んだ。
ユウリが口を押さえて笑い始めた。
「レイ、何と戦ってるの……」
ショウは真顔で言った。
「神」
「神と戦うな!!」
ユウリがさらに笑った。
俺はスマホに向かって、息を整えて言う。
「……なぁアルセウス」
『何だ』
「俺、帰りたい」
しばらく沈黙。
アルセウスは、静かに言った。
『帰れる』
俺は目を見開いた。
「……マジ?」
『条件がある』
「条件って何だよ」
『お前がこの世界を見届けること』
「見届けるって何を」
『お前自身の物語だ』
俺は乾いた笑いを漏らした。
「……俺、夢主じゃねぇんだけど」
『夢主だ』
「違う!!」
『お前が望んだ』
「望んでねぇ!!」
俺はスマホを握りしめた。
「俺が望んだのは、原作キャラの尊さを眺めることだ!!」
『なら叶えてやった』
「叶え方が雑すぎるんだよ!!!!」
俺の声が響いた。
レッドがまた止まった。
今度はゆっくり振り向いて、俺を見た。
そして。
短く一言。
「……うるさい」
俺は即座に頭を下げた。
「すみませんでした!!」
ユウリが笑い転げる。
「レッドさんに怒られてるの面白すぎる!」
ショウは小声で言った。
「零、静かにして」
「お前が言うな!!!!」
俺は泣きそうになりながら言い返した。
そしてスマホに向かって、最後の抵抗をするように呟く。
「……アルセウス」
『何だ』
「お前、俺のこと嫌いだろ」
アルセウスは淡々と答えた。
『嫌いではない』
「じゃあなんでこんな目に」
『試練だ』
「試練って言えば許されると思うなよ!!!!」
俺は本気で怒鳴った。
ユウリが腹を抱えて笑っている。
ショウも口元を押さえて笑っている。
レッドだけが無言で歩いていく。
アルセウスは、少しだけ声色を変えた。
『零』
「なんだよ」
『お前は、この世界を壊さない』
「……は?」
『力を持っても、壊さない』
俺は一瞬だけ黙った。
思い出す。
ギラティナを出した時。
Z技も、メガシンカも、テラスタルも。
俺は確かに、やろうと思えば世界をめちゃくちゃにできた。
でも。
俺はそれを選ばなかった。
アルセウスが続ける。
『だから呼んだ』
俺は唇を噛んだ。
「……それだけ?」
『それだけだ』
俺はスマホを握りしめたまま、呟いた。
「……なら、もっとマシな呼び方しろよ」
『すまない』
謝った。
創造神が謝った。
……いや、軽すぎる。
俺はすぐ言い返す。
「謝って済むか!!」
『だが、お前は進む』
「進まねぇよ!!」
『進む』
「進まない!!」
『進む』
「……」
俺はため息をついた。
そして空を見上げる。
ガラルの夜空は、やけに澄んでいた。
星が綺麗だ。
ムカつくくらい綺麗だ。
俺はスマホを耳に当てたまま、ぽつりと言った。
「……俺、ただの高校生なんだけどな」
アルセウスは静かに答えた。
『今はもう、ただの高校生ではない』
「……最悪」
俺がそう言うと。
ユウリが笑いながら肩を叩いた。
「レイ、でもさ」
「んだよ」
「ちょっとカッコいいよ」
俺は即答した。
「カッコよくねぇよ。胃痛いだけだ」
ショウが小さく笑って言う。
「零は、零だよ」
……その言葉だけは、少し救われた気がした。
俺はスマホに向かって言った。
「アルセウス」
『何だ』
「今度ふざけたことしたら、マジで殴るからな」
『殴れるならやってみろ』
「挑発すんな!!!!」
俺は叫んだ。
夜のガラルに、また俺の声が響いた。
レッドが遠くで立ち止まり、ため息をついたように見えた。
ユウリは笑いすぎて涙を拭いている。
ショウは俺を見て、呆れたように微笑んでいた。
……俺の人生、どこに向かってるんだろうな。
次回パルデア地方編
「パルデア地方に行ってくるよ」