チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第49話 パルデア地方に行ってくるよ

――俺は決めた。

もう限界だ。

ガラル地方でレッドに睨まれ、ショウを背負い、ユウリに煽られ、アルセウスと口喧嘩して。

 

心が、折れた。

いや正確には、折れる手前で踏ん張ってた最後の骨が「パキッ」っていった。

 

ポケモンセンターのベッドで寝て起きた朝。

俺は天井を見つめたまま、静かに呟いた。

「……パルデア地方に行ってくるよ」

 

誰に言ったわけでもない。

ただの独り言だ。

だがその独り言は、妙に重かった。

 

俺の中で「逃げ」ではなく「決断」になってしまったから。

 

隣のベッドではショウが寝ている。

よく寝るやつだ。

いや、ヒスイであんな無茶してたらそりゃ眠いだろ。

 

俺は枕元のスマホを手に取った。

画面を開く。

連絡帳。

そこには。

 

名前。

名前。

名前。

 

女。

女。

女。

 

……女。

 

「……おかしいな」

 

俺は静かに言った。

「俺、そんなに女癖悪い人生送ってないんだけどな」

 

しかもほぼ全員、原作の主要人物。

地雷原のど真ん中。

 

俺は深呼吸して、メッセージアプリを開いた。

グループでもなんでもない。

片っ端から送る。

 

たった一文。

【旅に出ます。探さないでください。】

 

そして。

パルデア地方行きのチケットの写真を添付。

 

送信。

ピロン。

ピロン。

ピロン。

 

既読が増えていく。

 

俺はスマホを置き、天井を見た。

「……これでいい」

 

よし。

これで俺は自由だ。

静かな旅ができる。

 

俺は立ち上がり、鞄を背負った。

手持ちは最低限。

強いポケモンを連れて行けばまた面倒になる。

 

だから控えめに……

そう思った瞬間、俺の視線がボールケースに吸い寄せられた。

いや無理だ。

 

控えめとか無理だ。

だって俺の手持ち、控えめにしても伝説いるし。

 

俺はため息をついてボールケースを閉めた。

「……俺の人生、詰んでるな」

 

そのとき。

背後から声がした。

「零……?」

 

振り向くと、ショウが目を擦りながら起きていた。

寝起きの顔。

ぼんやりしていて、やたら可愛い。

 

いや、そういうことじゃない。

 

ショウは俺を見上げて言った。

「どこ行くの?」

 

俺は即答した。

「パルデア」

 

「パルデア……?」

 

ショウは数秒考え、そして言った。

「私も行く」

 

「来るな!!!!」

俺は即座に拒否した。

 

ショウは首を傾げる。

「なんで?」

 

「俺が死ぬから」

 

「死なないよ」

 

「死ぬんだよ!!」

俺は真顔で言った。

ショウは不満そうに頬を膨らませた。

 

……頬膨らませるな。

可愛いから余計断りにくい。

俺は頭を抱えた。

 

その時。

ポケモンセンターのドアが開く音がした。

 

カラン。

 

そして入ってきたのは、ユウリだった。

「おはよー!レイ!」

ユウリは元気よく手を振る。

 

俺は目を細めた。

「……なんでいる」

 

「え?普通に会いに来た!」

 

「来るな」

 

「ひど!」

 

ユウリは笑いながら近づき、俺の鞄を見た。

「あれ?荷物まとめてる?」

 

俺は観念して言った。

「……パルデア地方に行く」

 

ユウリの目がキラッと輝いた。

「えっ!パルデア!?いいな!私も行きたい!」

 

「来るな!!!!」

俺は叫んだ。

 

ショウも便乗する。

「私も行く」

 

「だから来るな!!!!!!」

俺は叫んだ。

 

だが。

次の瞬間。

スマホが震えた。

 

ブブブブブブブブ!!!

 

嫌な予感しかしない。

俺は恐る恐る画面を見る。

 

着信。

――セレナ。

 

俺は白目になった。

「……は?」

 

ユウリが覗き込んでくる。

「え?セレナさん?カロスの?」

 

ショウも覗き込む。

「知り合い?」

 

俺は震える声で答えた。

「……知り合いっていうか……」

 

その時、さらに通知が来る。

ピロン。

――ハルカ。

ピロン。

――ヒカリ。

 

ピロン。

――メイ。

ピロン。

――ミヅキ。

 

俺はスマホを握りしめた。

震えが止まらない。

「……え、待って」

 

俺は喉を鳴らす。

「なんでだよ」

 

俺、さっき旅に出るって送ったよな?

探さないでくださいって送ったよな?

 

なのに、なんで全員一斉に動き出してるんだよ。

 

ユウリが笑いながら言った。

「レイ、めっちゃ人気者じゃん」

 

「人気者じゃねぇ……」

 

俺は死んだ目で言った。

「……終わったんだよ」

 

ショウが首を傾げる。

「零、何が終わったの?」

 

「俺の人生が」

 

俺がそう呟いた瞬間。

ポケモンセンターのテレビが突然切り替わった。

 

ニュース番組。

画面に映るのは、見慣れない学園。

 

そしてテロップ。

【パルデア地方・オレンジアカデミー入学者募集】

 

俺は画面を見つめた。

学園。

 

……学園?

 

嫌な予感がした。

すごく嫌な予感がした。

 

こういうの、絶対巻き込まれる。

 

俺は即座にチケットを握りしめた。

「……行くぞ」

 

ユウリが笑顔で言った。

「うん!」

 

ショウも当然のように言った。

「行く」

 

「お前ら勝手に決めんな!!」

俺は叫びながらも、もう止める気力がなかった。

 

その時、スマホがまた鳴る。

着信。

 

――アルセウス。

 

俺は青筋を立てた。

「……てめぇ」

 

通話ボタンを押す。

「もしもし!!!」

 

『零』

 

神の声。

『パルデアへ行け』

 

俺は叫んだ。

「行くって言っただろ!!!!」

 

『では頼む』

 

「頼むな!!」

俺は叫び、スマホを切った。

 

そして俺は、息を吐く。

「……パルデア地方に行ってくるよ」

もう一度呟いた。

 

今度は独り言じゃない。

決意だ。

逃げじゃない。

多分。

 

……たぶん逃げだな。

 

俺は自分にツッコミを入れながら、ポケモンセンターを出た。

パルデア行きの列車に向かう。

 

背後にはユウリ。

隣にはショウ。

スマホは鳴り止まない。

 

空は青い。

旅は始まる。

俺の胃痛も始まる。

 

――こうして。

八雲零の「パルデア地方編」は、最悪の形で幕を開けた。

 

次回

「なんとかついたな学園に…」

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