チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第50話 なんとかついたな学園に…

パルデア地方。

空が広い。

太陽が近い。

 

暑い。

何より――坂が多い。

 

「はぁ……はぁ……」

俺は肩で息をしながら、巨大な門の前に立っていた。

 

目の前にそびえるのは、オレンジアカデミー。

いや、デカすぎるだろ。

 

学校っていうより城だ。

観光名所じゃん。

 

「はぁはぁ……なんとかついたな学園に……」

 

俺がそう呟くと、後ろから元気な声が飛んできた。

「レイ、遅ーい!」

 

ユウリだ。

なんでこいつ、平然としてんだよ。

 

同じ距離歩いたよな?

同じ坂登ったよな?

俺だけ体力削れてない?

 

俺が睨むと、ユウリはニヤッと笑う。

「なに?体力ないの?」

 

「……うるせぇ」

俺は額の汗を拭った。

 

そして隣を見る。

ショウは――

俺の背中にいた。

 

当然のように。

もはや定位置。

 

俺は絶望した。

「……なんで俺、毎回ショウをおんぶしてるんだ?」

 

ショウは俺の背中から、平然と答える。

「零が優しいから」

 

「その優しさが命取りなんだよ……」

俺はボソッと呟いた。

 

いや違う。

優しいというか、放っておけないだけだ。

ショウは疲れてるし。

 

というか、この世界の移動が雑すぎる。

急に地方跨ぎすんなよ。

体が追いつかない。

 

俺はふらつきながら門をくぐった。

学園の中はさらに広い。

 

人が多い。

制服の生徒たちが歩き回り、笑い声が飛び交っている。

 

……眩しい。

青春ってやつが眩しい。

俺みたいな転生者の居場所じゃない。

 

「うわぁー!すごい!」

ユウリは目を輝かせてキョロキョロしている。

 

ショウは俺の背中で小さく呟いた。

「……落ち着く」

 

「どこがだよ」

俺は即答した。

 

この状況のどこが落ち着くんだ。

人混み、騒音、知らない土地、知らない文化。

 

そして何より――

俺はもうこの世界で、目立ちすぎている。

俺は息を吐いて、校舎を見上げた。

 

でかい塔。

でかい窓。

でかい階段。

でかい噴水。

 

全部でかい。

パルデア、サイズ感バグってる。

 

「……さて、どうしよう」

 

俺がそう呟いた瞬間。

背中のショウが小声で言った。

「……零、いる」

 

「は?」

 

俺は反射的に前を見る。

視線の先。

学園の入口付近。

制服姿の女子生徒が、こちらを見ていた。

 

肩までの髪。

元気そうな雰囲気。

 

そして――

明らかに主人公顔。

 

俺は悟った。

あ。

これ、アオイだ。

 

絶対そう。

 

ユウリも気づいたらしく、俺の袖を引っ張る。

「ねぇねぇ!あの子、アオイちゃんじゃない?」

 

「言うな」

 

「え、なんで?」

 

「言うなって」

俺は冷や汗をかいた。

 

こういう「原作主人公」が来るときって、大体ろくなことにならない。

しかも俺、今の俺だぞ?

連絡帳にほとんど女しかいない謎の男だぞ?

 

これ以上増えたら終わりだ。

 

俺は踵を返そうとした。

逃げる。

逃げるぞ。

 

そう思った瞬間――

 

「ねえ!」

 

声が飛んだ。

完全に俺に向けて。

 

俺は硬直した。

ユウリがニヤニヤしている。

ショウは無表情で見ている。

 

最悪だ。

俺はゆっくり振り向いた。

アオイが近づいてきていた。

 

目がキラキラしている。

……やめろ、その目。

 

それ以上近づくな。

俺は内心で叫んだ。

 

アオイは俺を見上げて、首を傾げる。

「あなた、転校生?」

 

来た。

テンプレ質問。

これ絶対イベント始まるやつ。

 

俺は反射的に答えた。

「……え?」

 

いや、違う。

ここで正直に言ったら、学園に入学する流れになる。

 

そうしたら俺、確実に「主人公の友達枠」に固定される。

それはダメだ。

俺はもう、ストーリーの中心に立ちたくない。

 

俺は静かに、しかし確実に嘘をついた。

「……えーと……」

 

アオイはじっと俺を見る。

ユウリはワクワク顔。

 

ショウは俺の背中で小声で言った。

「零、嘘つく顔してる」

 

「黙れ」

 

俺は深呼吸して、覚悟を決めた。

「……フラダリです」

 

アオイが固まった。

「……え?」

 

ユウリが噴き出した。

「フラダリ!?カロスの!?」

 

ショウが真顔で言った。

「零、年齢がおかしい」

 

俺は心の中で叫んだ。

(しまった!!)

だが、もう引けない。

 

俺は平然と続けた。

「そう。フラダリ」

 

アオイは数秒沈黙し――

そして、ゆっくり言った。

「……えっと……フラダリさんって……あのフラダリさん?」

 

俺は頷いた。

「そのフラダリ」

 

アオイは困惑している。

ユウリは腹を抱えて笑っている。

 

ショウはため息をついた。

「零、バカだ」

 

「うるせぇ!!!!」

 

俺が叫んだ瞬間。

アオイの目がキラッと光った。

 

そして言った。

「じゃあさ!」

 

嫌な予感。

「ポケモンバトルしない!?」

 

……来た。

来てしまった。

逃げ道が消えた。

 

俺は目を閉じた。

終わった。

 

俺はこの瞬間、確信した。

パルデア地方編――

 

開始2話目にして、もう詰んだ。

 

俺は乾いた笑いを漏らしながら、ボールケースに手を伸ばした。

「……さて、どうしよう?」

 

そう呟いた時にはもう遅かった。

アオイの目は完全に「勝負する気満々の主人公」になっていた。

ユウリは応援モード。

 

ショウは俺の背中から降りて、静かに言った。

「零、頑張って」

 

俺は震える声で言った。

「……頑張りたくない」

 

だが、逃げられない。

俺はボールを握りしめ、口を開いた。

「……行け、クチート」

 

モンスターボールが開き、鋼の顎を持つポケモンが現れる。

クチートが、にやりと笑ったように見えた。

 

アオイは目を輝かせる。

「うわっ!かわいい!でも強そう!」

 

俺は小声で呟いた。

「……俺の人生、また燃えるな」

 

ユウリが元気よく叫ぶ。

「レイがんばれー!」

 

ショウは静かに見守る。

 

そしてアオイは宣言した。

「じゃあ、いくよ!」

 

――こうして。

オレンジアカデミー到着早々。

 

俺の平穏は、バトル開始と共に消え去った。

 

次回

「何でここにいるんだよお前ら」

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