チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第51話 なんでここにいるんだよお前ら

クチートを出した瞬間。

空気が変わった。

 

いや、正確には――周囲の視線が一気に集まった。

 

学園の中庭。

昼間の光。

そこに響く「バトルしよ!」の声。

 

……そりゃ注目される。

 

アオイはワクワク顔でモンスターボールを構えている。

ユウリは「青春!」みたいな顔をしている。

ショウは眠そうな顔のまま、俺の後ろに立っている。

 

俺だけが胃痛で死にそうだった。

 

「じゃあいくよ!出てきて!」

アオイがボールを投げる。

 

出てきたのは――

マスカーニャ。

 

いや、初手それかよ。

強いだろ。

主人公の癖に初手からガチすぎる。

 

俺は額に手を当てた。

「……学園の新入生ってレベルじゃねぇな」

 

ユウリが目を輝かせる。

「うわ!マスカーニャじゃん!強そー!」

 

ショウは小さく呟いた。

「……草タイプ」

 

俺はため息をついた。

クチートは鋼・フェアリー。

相性は悪くない。

 

……だが。

問題はそこじゃない。

 

アオイが声を上げた。

「えっと……フラダリさん?」

 

俺はピクッと肩を震わせた。

 

……来た。

質問タイムだ。

 

俺はゆっくり振り向く。

「……なんだよ」

 

アオイは首を傾げる。

「フラダリって……カロス地方の……あの?」

 

ユウリが腹を抱えて笑っている。

「レイ、絶対バレるってそれ!」

 

ショウは冷静に言った。

「零、顔がもう負けてる」

 

「うるせぇ!!」

 

俺は叫び、咳払いしてからアオイに言った。

「……同姓同名だ」

 

アオイは目を丸くした。

「え、そんな偶然ある!?」

 

俺は即答した。

「ある」

 

アオイは納得してない顔をした。

 

だがその時――

遠くから聞こえた。

聞き覚えのある声。

 

いや、聞き覚えがありすぎる声。

「……零」

 

俺の背筋が凍った。

 

まさか。

いや、ありえない。

ここパルデアだぞ?

 

俺は恐る恐る後ろを振り向いた。

そして見えた。

学園の入口。

 

そこに立つ影。

赤い帽子。

無口。

圧。

 

――レッド。

 

俺は白目になった。

「……は?」

 

次の瞬間、さらに聞こえる。

「やっほー!久しぶり!」

 

「零!いるって聞いたわよ!」

 

「やっと見つけた!」

 

「八雲さん、逃げるの得意ですね?」

 

いや、待て待て待て。

声が多い。

多すぎる。

 

そして全員、聞き覚えがある。

 

俺の視界に入ってきたのは――

ヒカリ。

ハルカ。

 

メイ。

セレナ。

ミヅキ。

 

そして――

アオイの横にいるはずだったのに、なぜかもう一人増えている制服姿。

ネモ。

 

いや、なんでネモまでいるんだよ。

 

ユウリが口を開けた。

「……え、え、え?」

 

ショウがぼそっと呟く。

「……増えた」

 

俺は膝が崩れそうになった。

そして、魂が抜けた声で呟く。

「……なんでここにいるんだよお前ら」

 

ヒカリが腕を組んでニヤッと笑う。

「え?だって零が『旅に出るので探さないでください』って言うからさ」

 

俺は叫んだ。

「探すなって言っただろ!!!!!!」

 

ハルカが手を振る。

「だって心配だったんだもん!」

 

メイが笑顔で言う。

「パルデアって楽しそうだし!」

 

セレナが微笑みながら言った。

「八雲さんが逃げたら、追いかけるに決まってますよね?」

 

俺は頭を抱えた。

「追いかけるな!!!!」

 

ミヅキがケラケラ笑う。

「れい、相変わらず面白いね~」

 

そして、ネモが目を輝かせて言った。

「ねえねえ!あなたが零!?噂の!」

 

噂の、ってなんだよ。

誰が噂流したんだよ。

 

俺は震える声で言った。

「噂って何……」

 

ネモは満面の笑みで答えた。

「すっごい強いのに、すっごい逃げる人!」

 

俺は絶望した。

あぁ、俺そういうキャラで認知されてるんだ。

終わった。

 

ユウリが俺の肩を叩く。

「レイ、人気者だね!」

 

「黙れ!!!!」

俺が叫んだ瞬間。

 

ネモが手を叩いた。

「ねえ!じゃあさ!みんなでバトルしよ!」

 

俺は即答した。

「しねぇよ!!!!」

 

だがアオイが「いいね!」と言いかける。

ヒカリも「面白そう」と言いかける。

ハルカも「やろうよ!」と言いかける。

メイも「うんうん!」と頷く。

 

セレナは微笑んでいるだけで圧がある。

ミヅキは完全に楽しんでいる。

ネモは目がバトル狂のそれだ。

 

そしてレッドは――

無言でこちらを見ている。

その視線が言っていた。

 

――逃げるな。

 

俺は泣きそうになりながら叫んだ。

「俺はただ学園に来ただけなんだよ!!」

 

ヒカリが肩をすくめる。

「嘘つかないでよ。さっきフラダリって名乗ったって聞いたけど?」

 

俺は固まった。

「……誰が言った」

 

全員の視線が、一斉にユウリに向いた。

 

ユウリは満面の笑みでピースした。

「私でーす!」

 

「お前!!!!!!」

俺は叫んだ。

 

ショウが淡々と言った。

「ユウリ、裏切り者」

 

ユウリは笑う。

「えへへ」

 

えへへじゃねぇ。

 

俺は死ぬ。

完全に終わった。

 

その時、アオイが恐る恐る言った。

「えっと……みんな、知り合いなの?」

 

俺は虚無の目で答えた。

「……そうだよ」

 

アオイは目を輝かせた。

「え、すご!めっちゃ友達多いじゃん!」

 

俺は泣きそうになりながら言った。

「友達じゃない……」

 

セレナが静かに言った。

「じゃあ、何ですか?」

 

俺は即答した。

「災害」

 

ヒカリが笑った。

「自分で言うな」

 

ハルカが笑顔で言う。

「でもさ、零さん!」

 

メイも元気よく言う。

「せっかく集まったんだから、みんなで遊ぼうよ!」

 

ミヅキがニヤニヤしながら言う。

「逃げても無駄だよ~?」

 

ネモが両手を合わせて言う。

「ねえ!バトルしよ!」

 

俺は叫んだ。

「やめろ!!!!!!」

 

その瞬間。

レッドが、一歩前に出た。

 

そして短く言った。

「……やれ」

 

俺は顔を覆った。

「……はい」

 

俺はもう、抵抗する気力がなかった。

 

アオイが目を輝かせる。

「えっ!?じゃあバトル続行!?」

 

ユウリが楽しそうに言った。

「わーい!」

 

ショウがぼそっと呟く。

「零、かわいそう」

 

俺は小さく呟いた。

「……俺、悪の組織に転職しようかな」

 

ヒカリが即答した。

「やめといたほうがいいよ」

 

セレナが微笑んだ。

「逃げても追いかけますから」

 

俺は白目になった。

「追いかけるな!!!!!!」

 

学園の中庭。

眩しい太陽の下。

俺のパルデア生活は――

 

開始早々、終わった。

 

次回

「いまから入れる保険ってあります?」

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