学園の中庭。
視線。
視線。
視線。
視線。
俺は完全に晒されていた。
ネモは目を輝かせているし、アオイは混乱しているし、ヒカリは腕を組んで説教モード。
セレナは笑顔のまま目が死んでいる。
ユウリはまだ笑ってる。
ハルカとメイは「えっえっ」ってなってる。
ミヅキは面白がってる。
ショウは俺の後ろで静かに見守ってる。
レッドは無言で圧をかけてくる。
俺は悟った。
――これ、誰かに助けてもらわないと無理だ。
俺はスマホを握りしめた。
連絡帳を開く。
そして指が勝手に動く。
……アカギ。
ギンガ団のボス。
神を作ろうとした男。
宇宙の歪みみたいな思想の持ち主。
普通なら絶対に頼らない相手だ。
でも今の俺には、頼れるものが「悪の組織」しか残っていなかった。
プルルルル……。
コール音が鳴る。
周囲が静かになった。
ヒカリが眉をひそめる。
「……また電話?」
俺は聞こえないふりをした。
数秒後。
『……誰だ』
低い声。
氷みたいな温度の声。
出た。
アカギだ。
俺は即座に言った。
「……もしもしアカギ。お前はいい案ないか?」
沈黙。
スマホの向こうで、アカギが一拍置いた。
『……零か』
俺は驚いた。
「え、俺って分かるの?」
『お前の声は忘れん』
いや、嬉しくない。
忘れてくれ。
俺は早口で続けた。
「今俺、パルデア地方の学園にいるんだけど」
『ほう』
「レッドとヒカリとセレナとハルカとメイとミヅキがいる」
『……』
「あとネモっていう戦闘狂もいる」
『……』
「みんな俺にバトルしろって言ってる」
『……なるほど』
アカギは淡々と答えた。
淡々としすぎて逆に怖い。
俺は言った。
「どうしたらいい」
『答えは一つだ』
俺は食いついた。
「マジで?助かる!」
『世界を作り直せ』
俺は固まった。
「……え?」
『この世界は不要な感情が多すぎる』
「いや世界の話してねぇんだよ!!!!」
俺は思わず叫んだ。
周囲がビクッとする。
アオイが目を丸くした。
「えっ、今の何!?」
ネモがキラキラした目で言った。
「世界を作り直すって何!?かっこよくない!?」
ユウリが笑いながら言った。
「レイ、厨二病すぎ!」
「違う!!俺じゃない!!」
俺は叫び、スマホに向かって必死に言った。
「アカギ!もっと現実的な案!!現実的なやつ!!」
アカギは静かに言った。
『現実的、か』
『ならば一つある』
俺は即答した。
「それだ!!」
アカギは淡々と告げる。
『お前が負ければいい』
俺は口を開けた。
「……は?」
『負ければ、彼らは満足する』
「いやしねぇよ!!」
俺は叫んだ。
「ネモとか絶対満足しないだろ!負けたら次!勝ったら次!で無限にバトルするタイプだろあいつ!!」
ネモが「えっ、分かってる!」みたいな顔で頷いた。
「うん!私そういうタイプ!」
「ほらな!!」
俺はスマホに叫ぶ。
アカギは変わらない声で言った。
『ならば勝て』
「それが出来たら苦労しねぇよ!!」
『……』
アカギが少し黙った。
そして、静かに言った。
『零』
「何」
『お前は何を恐れている』
俺は一瞬、言葉に詰まった。
何を恐れてる?
そりゃ――
俺は視線を動かした。
ヒカリの鋭い目。
セレナの静かな圧。
レッドの無言の威圧。
ネモの狂気じみたバトル欲。
そして、俺のスマホに入ってる連絡帳。
俺は小さく言った。
「……誤解」
『誤解?』
「俺が女癖悪いって誤解されるのが嫌なんだよ……」
周囲が静かになった。
ハルカがぽつりと言った。
「……気にしてたんだ」
メイが小声で言う。
「かわいいとこあるじゃん……」
ミヅキがニヤッとする。
「それ気にしてるの、めっちゃウケる」
ヒカリはため息をついた。
「……当たり前じゃん。連絡帳ほぼ女なんだから」
「うるせぇ!!」
俺は叫んだ。
アカギは淡々と告げた。
『誤解なら、説明すればいい』
俺は即答した。
「説明できるならしてるわ!!」
『ならば――』
アカギは言った。
『消せ』
「……は?」
『連絡先を消せ』
俺は固まった。
……天才か?
いや。
アカギがまともなこと言った?
奇跡?
俺は思わず声が裏返った。
「お前……珍しくまともなこと言ったな……?」
『不要な繋がりは切れ』
「それギンガ団の思想じゃん!!」
俺はツッコミつつも、内心めちゃくちゃ納得してしまった。
そうだ。
消せばいい。
全て消せば。
俺は自由になれる。
俺はスマホを握り直し、決意した。
「……よし」
そしてアカギに言った。
「ありがとう。お前意外といいやつだな」
『勘違いするな。俺は善でも悪でもない』
「厨二みたいなこと言うな」
『事実だ』
俺は苦笑して通話を切った。
ピッ。
静寂。
俺はスマホを見つめた。
連絡帳。
そこにはまだ、彼女たちの名前が並んでいる。
俺は震える指で「編集」を押した。
ユウリが覗き込む。
「え、なにするの?」
俺は深呼吸して言った。
「……連絡先を消す」
ヒカリが目を丸くする。
「は?」
セレナが静かに言う。
「……消す?」
ネモが首を傾げる。
「連絡先って消せるの!?」
アオイも慌てて言った。
「え、え、待って!それって……みんなと連絡取れなくなるってこと!?」
俺は頷いた。
「そうだよ」
ハルカが焦る。
「えっ、なんで!?」
俺は叫んだ。
「お前らが追いかけてくるからだろ!!!!!!」
メイがムッとする。
「追いかけてないし!」
「追いかけてるわ!!」
ミヅキが笑いながら言った。
「れい、必死すぎ~」
俺はスマホを操作しながら、震える声で呟いた。
「……これで終わる」
これで俺は。
やっと平穏になれる。
そして俺は――
削除ボタンを押そうとした。
その瞬間。
背後から、神の気配がした。
空気が変わった。
嫌な汗が一気に噴き出る。
俺はゆっくり振り向いた。
そこにいた。
白く眩い存在。
馬。
輪っか。
全知全能。
――アルセウス。
俺の指が止まった。
世界が止まった。
アルセウスが静かに言った。
『……零』
俺は震える声で返した。
「……はい」
アルセウスは穏やかに告げる。
『今、何をしようとした?』
俺は固まった。
背中に冷たい汗が流れる。
ヒカリたちは息を呑む。
ネモは「え、アルセウス!?」と目を輝かせる。
アオイは口を開けたまま固まっている。
ユウリは完全に黙った。
ショウは静かに俺を見ている。
レッドは無言で腕を組んだ。
俺は、笑顔を作った。
そして、震える声で言った。
「……えーと」
削除ボタンの上で止まった指。
アルセウスの視線。
全員の視線。
俺は、乾いた声で言った。
「……何も?」
アルセウスは目を細めた。
『嘘をつくな』
俺は泣きそうになった。
終わった。
終わった終わった終わった。
俺は、スマホを持ったまま固まる。
そして心の中で叫んだ。
(神がストーカーしてくる世界、終わってるだろ!!!!)
次回
「マツブサ、アオギリ。なんかあるだろ?」