俺は思った。
……この世界、終わってる。
パルデア地方の学園。
青春の象徴みたいな場所で。
俺は今、神と元主人公たちと現主人公たちに囲まれながら、人生の危機を迎えている。
いや、危機じゃない。
もう手遅れだ。
俺の人生はすでに爆発している。
ネモは目をキラキラさせて言った。
「ねえねえ!バトルしよ!今すぐ!」
アオイもノリノリになっている。
「私も見たい!強いんでしょ!?零!」
ヒカリは腕を組んで言う。
「零、逃げたら許さないから」
セレナは微笑んでいる。
だが目が笑っていない。
ハルカとメイは「楽しそう!」と盛り上がってる。
ミヅキは「最高じゃん」と笑ってる。
ユウリは「青春だね!」と煽ってくる。
ショウは俺の袖を握ってる。
レッドは無言で圧をかけてくる。
アルセウスは上空で静かに見下ろしている。
……なんだこの地獄絵図。
俺は悟った。
普通の手段ではもう無理だ。
なら、最後の手段。
――もっとヤバいやつを呼ぶ。
そうすれば今度こそ相対的に俺がまともに見える。
そういう作戦だ。
俺はスマホを取り出した。
連絡帳。
悪の組織の欄をスクロールする。
サカキ。
アカギ。
ゲーチス。
フラダリ(本人)。
マツブサ。
アオギリ。
……そして。
グズマ。
スカル団のボス。
叫ぶ。
荒れる。
喧嘩上等。
そして何より、話が通じるタイプの悪人。
俺は震える指でタップした。
プルルルル……。
コール音。
ヒカリが呆れたように言う。
「また電話してる……」
セレナが笑顔で言う。
「八雲さん、今度は誰ですか?」
ネモが興味津々で覗き込む。
「ねえ!誰!?強い人!?」
俺は心の中で祈った。
頼む。
出てくれ。
そして俺を救ってくれ。
数秒後。
『……あぁ?誰だよ』
出た。
荒い声。
間違いない。
グズマだ。
俺は即座に言った。
「まだ諦めないぞ……もしもし!グズマ。」
『……は?』
グズマが間の抜けた声を出した。
『お前、零か?』
「そうだ」
『お前どこだよ、今』
俺は答えた。
「パルデア」
『……パルデアァ!?』
グズマが叫んだ。
『お前、なんでそんなとこいんだよ!?アローラじゃねぇぞ!?』
「俺もそう思ってる」
俺は即答した。
グズマは怒鳴った。
『で!?なんの用だよ!!』
俺は真剣に言った。
「助けてくれ」
『は?』
「俺、今学園で囲まれてる」
『囲まれてる?』
「ヒカリ、ハルカ、メイ、セレナ、ミヅキ、ユウリ、ショウ、アオイ、ネモ、レッド、アルセウスがいる」
『……』
沈黙。
そして。
『……お前、何した?』
グズマが冷静に聞いてきた。
いや、グズマが冷静になる状況って何だよ。
俺は即答した。
「何もしてない」
『嘘つけ!!!』
グズマが即座に叫んだ。
『何もしてねぇやつの周りにそんな揃うわけねぇだろ!!!』
「揃うんだよ!!俺の人生はそういうバグなんだよ!!」
俺が叫ぶと、周囲がざわついた。
アオイが「バグ?」と首を傾げる。
ネモが「人生がバグってるって面白い!」と笑う。
ユウリが「レイはいつもバグってるよ」と言う。
「黙れ」
俺はユウリを睨んだ。
スマホの向こうでグズマがため息をついた。
『……で、何をしてほしいんだよ』
「俺を助けろ」
『具体的に』
「この場から逃がしてくれ」
『……無理だろ』
「即答すんな!!」
俺は叫んだ。
グズマは続ける。
『だってよ、レッドいるんだろ?』
「いる」
『神もいるんだろ?』
「いる」
『女もいっぱいなんだろ?』
「いる」
『お前もう終わってるじゃん』
「終わってねぇ!!まだ諦めてねぇ!!」
俺は叫んだ。
グズマは少し笑った。
『……いいねぇ、その顔だよ』
『そういう時はよ、逃げるんじゃねぇ』
「じゃあどうすんだよ!」
『ぶち壊せ』
俺は固まった。
「……は?」
グズマは笑いながら言った。
『状況をよ』
『お前、いつも逃げてばっかなんだろ?』
「……」
図星だ。
俺は逃げてばっかだ。
誤解されるのが嫌で逃げて。
バトルが嫌で逃げて。
関係が深まるのが怖くて逃げて。
世界がめんどくさくて逃げて。
グズマが言った。
『なら逆に行けよ』
『「やってやる」って顔してみろ』
俺は息を飲んだ。
ヒカリたちが俺を見ている。
ネモはまだバトルする気満々。
レッドは無言で待ってる。
アルセウスは上から見てる。
俺は、スマホを握りしめた。
グズマの声が続く。
『零』
「……なんだよ」
『お前が本気出しゃ、誰も文句言えねぇんだろ?』
「……」
『だったら見せろよ』
『逃げてる暇あんなら、ぶっ飛ばして黙らせろ』
俺は喉を鳴らした。
正直。
俺はもう。
疲れた。
逃げるのにも疲れた。
言い訳するのにも疲れた。
誤解されるのにも疲れた。
……だったら。
開き直るしかない。
俺は、ゆっくり顔を上げた。
そして言った。
「……分かった」
グズマが笑う。
『その顔だ』
俺は小さく言った。
「ありがとう、グズマ」
『礼はいらねぇよ』
『お前が勝ったらスカル団に入れ』
「やだよ!!!!」
『じゃあ俺のことも連絡帳から消すなよ』
「それは……考えとく」
『ハッ!それでいい!』
グズマはそう言って、通話を切った。
ピッ。
俺はスマホをポケットにしまった。
そして、周囲を見渡す。
全員が俺を見ている。
ネモが満面の笑みで言った。
「ねえ!やっとやる気になった!?」
俺は静かに答えた。
「……ああ」
アオイが嬉しそうに言う。
「やった!バトルだ!」
ヒカリが腕を組む。
「やっと腹くくった?」
セレナは微笑む。
「逃げないのね?」
レッドが短く言った。
「……来い」
俺は、深呼吸した。
そして。
ボールケースに手を伸ばした。
「……お前ら」
俺は低い声で言った。
「俺が勝ったら――」
ネモが身を乗り出す。
「勝ったら!?」
俺は宣言した。
「全員、ヒウンアイス奢れ」
全員が固まった。
次の瞬間。
ミヅキが吹き出した。
「ヒウンアイスってwwww」
メイが目を輝かせる。
「懐かしいねそれ!!」
ハルカが笑う。
「零さん、そういうとこだよ!」
ヒカリが呆れたように言った。
「何その条件……」
セレナが微笑む。
「いいですよ。勝ったら奢りますね」
ネモがニヤッと笑った。
「面白いじゃん!じゃあ負けたらどうするの?」
俺は即答した。
「俺が奢る」
ネモが叫ぶ。
「決まり!バトルだ!!」
俺はボールを握りしめる。
クチートが前に出る。
鋼の顎がギチギチと鳴った。
俺は笑った。
逃げない。
今日は逃げない。
俺は叫ぶ。
「行くぞクチート!!」
そして。
俺は思った。
――これで負けたら、俺の財布が死ぬ。
俺の人生、金銭面でも終わってる。
次回
「…サカキ。…なんかないか?」