チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第56話 …サカキ。…なんかないか?

――学園のグラウンド。

俺は今、完全に詰んでいた。

 

ネモは楽しそうにステップを踏んでいる。

アオイは応援モードで目を輝かせてる。

 

ヒカリは腕を組み、呆れながらも見守っている。

レッドは無言で圧をかけてくる。

アルセウスは空から見下ろしてる。

 

そして俺は。

クチートを出したまま、思った。

 

(……これ勝てるか?)

 

いや、勝てない。

勝てる未来が見えない。

 

そもそも俺、さっきまで炎上してたんだぞ?

精神ボロボロだぞ?

そんな状態で主人公たちとバトルとか、無理に決まってるだろ。

 

俺はそっとスマホを取り出した。

ネモが首を傾げる。

「え?零?なにしてるの?」

 

俺は誤魔化すように笑う。

「……作戦会議」

 

ヒカリが即座に言った。

「絶対違うでしょ」

 

俺は連絡帳を開く。

悪の組織グループ。

そして最後の切り札。

 

ロケット団ボス――サカキ。

 

俺はタップした。

 

プルルルル……。

 

コール音が鳴る。

 

ネモがワクワクしながら聞く。

「誰に電話してるの!?強い人!?」

 

俺は目を逸らして答えた。

「……社会人」

 

「社会人!?」

 

アオイが「なんかリアル!」と笑う。

 

ヒカリが深くため息をついた。

「ほんとに何してんのよ……」

 

そして。

通話が繋がった。

『……誰だ』

 

低く、落ち着いた声。

それだけで分かる。

この男は「上」にいる。

 

圧が違う。

 

俺は静かに言った。

「……もしもしサカキ。俺だ」

 

『零か』

 

一瞬で俺を認識した。

さすが悪の組織の頂点。

記憶力が違う。

 

『どうした』

 

俺はスマホを握りしめ、切実に言った。

「……なんかないか?」

 

『……は?』

 

「助けてくれ」

 

『何からだ』

 

サカキは冷静だった。

逆に怖い。

 

俺は小声で言った。

「パルデアの学園で、主人公たちに囲まれてる」

 

『囲まれている?』

 

「ネモが今にもバトルを始めようとしてる」

 

『ふむ』

 

「アオイが見てる」

 

『ふむ』

 

「ヒカリ、セレナ、ハルカ、メイ、ミヅキ、ユウリ、ショウもいる」

 

『ほう』

 

「レッドもいる」

 

『……』

 

サカキが黙った。

 

数秒。

静寂。

 

俺は焦った。

「おい、サカキ?」

 

『……お前は何をした』

 

さっきグズマにも言われた。

 

俺は即答した。

「何もしてない」

 

『嘘だな』

サカキの声が断定だった。

 

『お前は何もしていないのに騒動を起こす男ではない』

 

「それ褒めてないよな!?」

俺は思わず声を上げた。

 

ネモが笑った。

「ねえ、今の人だれ!?すごい声!」

 

俺はネモを無視して続ける。

「とにかく!俺はただ普通に学園生活を送りたいだけなんだ!」

 

『普通、か』

サカキが低く笑った。

 

『零。お前が普通を望むなら、この世界に来た時点で間違っている』

 

「うるさいよ……!」

俺は歯を食いしばった。

 

サカキは淡々と言う。

『それで、私に何を望む?』

 

「なんかないか?この状況を切り抜ける方法」

 

『ある』

即答だった。

 

俺は目を見開く。

「マジか!?」

 

『ロケット団に入れ』

 

「やっぱそれかよ!!!!」

俺は叫んだ。

 

周囲がざわつく。

アオイが「ロケット団!?」と声を上げた。

 

ヒカリが目を細める。

「……ロケット団?」

 

セレナが微笑む。

「八雲さん、あなた今……何を言ったんです?」

 

俺は冷や汗をかいた。

 

やばい。

口が滑った。

 

ネモが興奮してる。

「ロケット団って悪の組織!?ねえ!?悪い人!?」

 

俺は誤魔化す。

「ち、違う!ロケット団っていうのは……」

 

だがスマホの向こうのサカキが追い打ちをかけた。

『安心しろ。君を幹部待遇で迎えよう』

 

「安心できる要素がどこにある!?」

俺は頭を抱えた。

 

サカキは続ける。

『それに、今のお前の状況を解決する方法は簡単だ』

 

「え?」

 

『女癖が悪いと誤解されているなら』

 

「……」

 

『実際に女癖を悪くすればいい』

 

「最悪だよ!!!!!」

俺は叫んだ。

 

ネモが大爆笑してる。

「なにそれ!!めっちゃ面白い!!」

 

ヒカリは完全に呆れていた。

「最低……」

 

セレナは微笑んでいる。

怖い。

 

レッドは無言で一歩近づいた。

 

俺は震えた。

「サカキ……!お前、俺を○す気か!?」

 

『違う』

 

サカキは平然と言った。

『私は君に“悪役”の才能を見出している』

 

「見出すな!!」

俺は泣きそうになった。

 

だがサカキは、急に声を低くした。

『零。いいか』

 

「……なんだよ」

 

『この状況を切り抜けるには、強さを見せるしかない』

その言葉は、意外にもまともだった。

 

サカキは続ける。

『お前がバトルで勝てば、誰も文句を言わない』

 

『負ければ――』

 

「負ければ?」

 

『面白い玩具になる』

 

「最悪だよ!!!」

俺は叫んだ。

 

だが。

それは事実だった。

この世界は強さが正義だ。

 

俺はスマホを握り直し、静かに言った。

「……分かった」

 

『よろしい』

 

「でもさ」

 

『何だ』

 

「俺、バトル嫌いなんだよ」

 

『なら一生逃げろ』

サカキの言葉は冷酷だった。

 

でも、正しい。

 

俺は目を閉じる。

そして、ゆっくり言った。

「……俺は逃げたくない」

 

その瞬間。

電話越しに、サカキが小さく笑った。

『なら戦え』

 

『ロケット団の名を背負う覚悟でな』

 

「背負わねぇよ!!!」

俺は叫んだ。

 

サカキは満足したように言った。

『健闘を祈る』

 

プツ。

 

通話が切れた。

俺はスマホをポケットにしまった。

そして顔を上げる。

 

ネモが待ちきれない顔で叫ぶ。

「ねえ!終わった!?バトルしよ!!」

 

俺はボールを握りしめた。

クチートが地面を蹴り、戦闘態勢に入る。

 

ヒカリが言った。

「零、逃げないよね?」

 

俺は小さく笑った。

「逃げたらまた電話する羽目になる」

 

アオイが笑った。

「なにそれ!」

 

俺は深呼吸する。

そして叫んだ。

「よし……来いネモ!!」

 

ネモが満面の笑みでボールを投げる。

「いっくよー!!」

 

次の瞬間。

ネモのポケモンが現れた。

 

――それを見た俺は、固まった。

「……は?」

 

出てきたのは。

パーモット。

そして、その後ろに控えるのは――

 

俺が一番嫌いなタイプの、脳筋フルアタ編成。

 

俺は震える声で呟いた。

「……俺、死ぬかもしれない」

 

レッドが、短く言った。

「死ぬな」

 

アルセウスが上空から言った気がした。

――甘えるな、と。

 

俺は歯を食いしばった。

もう、やるしかない。

 

「クチート……いけ」

 

クチートが吠える。

そして俺は思った。

 

――俺が勝ったら、ヒウンアイス。

――負けたら、ロケット団。

 

いや、どっちに転んでも地獄じゃねぇか!!

 

次回

「なんで俺が着るんだよ」

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