――結論から言おう。
俺は負けた。
完膚なきまでに。
ネモのパーモットは強かった。
強いとかいうレベルじゃない。
あれはもう「バトル狂」っていう種族だった。
クチートが倒れ、俺の手持ちが次々と削られていく。
気付けば俺の視界は灰色になりかけていた。
そしてネモは満面の笑みで言った。
「やったー!!楽しかった!!ねえまたやろう!!」
……いや、二度とやらん。
俺は地面に膝をつきながら、魂の底から思った。
(俺、なんでこんな目に遭ってんだ……?)
アオイは笑いながら拍手している。
「すごかったー!負けたけどめっちゃいい勝負だったじゃん!」
ヒカリは呆れたようにため息をついた。
「……勝負受けた時点で負けてる」
セレナはにこやかに近づいてきて、俺の肩をポンと叩く。
「八雲さん、大丈夫?」
大丈夫なわけがない。
俺は財布が死ぬ未来を思い浮かべ、泣きそうになった。
ミヅキが言う。
「で、ヒウンアイス奢りは?」
ハルカが笑った。
「約束したもんね」
メイが目を輝かせる。
「私、ダブル頼む!」
ユウリが悪魔みたいな笑顔で言った。
「え、レイ。全員分だよね?」
ショウが申し訳なさそうに言った。
「……ごめん」
ごめんじゃねぇよ。
そしてレッドが、静かに俺を見下ろした。
「……弱い」
俺は死んだ目で言った。
「知ってるよ……」
その時だった。
上空から、神の声が落ちてきた。
『――八雲零』
アルセウスだ。
俺は反射的に背筋を伸ばした。
「……はい」
アルセウスは淡々と言った。
『お前はまた負けた』
「……はい」
『言い訳は?』
「……ありません」
俺は素直に言った。
もう逆らう気力もない。
アルセウスは少し黙り、そして言った。
『なら罰だ』
俺は震えた。
やめてくれ。
もうこれ以上、俺の尊厳を奪わないでくれ。
アルセウスは続けた。
『お前はしばらく――』
嫌な予感しかしない。
『悪の組織の服を着て過ごせ』
「は?」
俺は素っ頓狂な声を出した。
アルセウスは平然と言った。
『お前はすぐ逃げる。なら、逃げられない状況を作る』
「いや意味分かんないんだけど!?」
俺は叫んだ。
だがアルセウスは無慈悲だった。
『まずはギンガ団だ』
「なんでギンガ団なんだよ!!」
次の瞬間。
眩しい光が俺の全身を包んだ。
俺の服が消える。
そして現れたのは――
黒と白を基調とした、ギンガ団の制服。
首元まできっちり閉じられたコート。
胸のエンブレム。
妙に整ったシルエット。
……似合ってる。
いや、似合ってるのが一番最悪だ。
周囲が一瞬沈黙した。
そして。
アオイが叫んだ。
「えっっっ、めっちゃ似合う!!」
ネモが目を輝かせる。
「え!?かっこいい!!」
ハルカが笑った。
「うわ、似合いすぎでしょ!」
メイが拍手する。
「悪役感ある!最高!」
ミヅキが腹を抱えて笑った。
「ダメでしょそれwwww」
ヒカリは口元を押さえて肩を震わせた。
「……ふっ……」
笑ってる。
ヒカリが笑ってる。
俺は終わった。
セレナは静かに微笑んで言った。
「……似合うのが怖いですね」
ユウリがにやにやしながら言った。
「レイ、もともと悪役顔だもんね」
「○すぞユウリ」
俺は低い声で言った。
ショウが小さく呟く。
「……なんか、いつもより落ち着いて見える」
「それ褒めてないだろ」
俺は言った。
そして。
レッドが無言で近づいてきた。
俺の前に立つ。
そして、短く言った。
「……似合う」
俺は息を止めた。
え?
レッドが?
褒めた?
周囲が一斉にざわつく。
ネモが叫ぶ。
「レッドが喋った!!!」
アオイが「奇跡!」と言う。
ヒカリが呆れた顔で言った。
「そこ驚くとこじゃないでしょ……」
俺は赤面しそうになりながら、必死に冷静を装った。
「……お、おう」
その瞬間。
アルセウスが追撃する。
『ほらな。お前は悪の組織が似合う』
「似合わねぇよ!!」
俺は叫んだ。
『似合う』
「似合わねぇ!」
『似合う』
「うるせぇ!!」
俺はキレた。
アルセウスは淡々と告げる。
『今日からお前は“ギンガ団の男”だ』
「最悪の肩書きだよ!!」
俺が叫ぶと、ネモが爆笑した。
「ギンガ団の男wwww」
ミヅキが言う。
「なんか伝説っぽい」
メイが真顔で言った。
「絶対モテるやつ」
ヒカリがぼそっと言った。
「……余計に炎上する」
その通りだ。
俺は泣きそうになった。
だがアルセウスは止まらない。
『そして次の罰は――』
俺は嫌な予感しかしなかった。
『ギンガ団として学園内を歩け』
「待て待て待て待て!!!!」
俺は必死に止めた。
「それは無理だって!!絶対先生に怒られる!!」
アルセウスは冷酷に言った。
『怒られる経験が足りない』
「足りてるよ!!今さっき怒られたばっかだろ!!」
俺は叫んだ。
だが周囲は、完全に面白がっていた。
アオイが言う。
「ねえ!そのまま写真撮ろうよ!」
「やめろ!!」
ネモが言う。
「学園の制服より似合ってる!!」
「やめろ!!」
ユウリが言う。
「SNSに載せよ」
「○す!!!!」
ヒカリがスマホを取り出した。
「……記念に撮っとく」
「ヒカリまで!?!?」
俺は絶望した。
セレナが静かに言う。
「八雲さん、覚悟を決めたらどうです?」
「覚悟決めたら人生終わるんだよ」
俺は呻いた。
その時。
学園の校門の方から、声が聞こえた。
「……おや?」
俺は顔を上げた。
そこに立っていたのは――
クラベル校長。
そして隣に、ジニア先生。
さらに、ネモの担任らしき教師。
全員が俺を見て固まった。
クラベル校長が、ゆっくりと口を開く。
「……君は」
俺は反射的に背筋を伸ばした。
(終わった……)
クラベル校長は、真顔で言った。
「……なぜギンガ団の服を着ているのだね?」
俺は叫んだ。
「俺も聞きたいですよ!!!!!」
ネモが笑って答える。
「校長!零、ギンガ団なんです!」
「違う!!!!」
俺は即座に否定した。
ジニア先生が目を輝かせる。
「ほほう……異世界文化のコスプレか!興味深いね!」
違う!!!
違うけど、否定できない!!!
クラベル校長が腕を組み、重々しく言った。
「……事情を説明してもらおう」
俺は死んだ目で上を見た。
アルセウスが、空から言った気がした。
『頑張れ』
俺は小声で呟いた。
「ギンガ団の服、なんで俺が着るんだよ……」
ヒカリが小さく笑った。
「似合うからでしょ」
俺は泣いた。
俺の学園生活は、始まる前に終わった。
次回
「俺もう転職します」