チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第57話 なんで俺が着るんだよ

――結論から言おう。

俺は負けた。

完膚なきまでに。

 

ネモのパーモットは強かった。

強いとかいうレベルじゃない。

あれはもう「バトル狂」っていう種族だった。

 

クチートが倒れ、俺の手持ちが次々と削られていく。

気付けば俺の視界は灰色になりかけていた。

 

そしてネモは満面の笑みで言った。

「やったー!!楽しかった!!ねえまたやろう!!」

 

……いや、二度とやらん。

 

俺は地面に膝をつきながら、魂の底から思った。

(俺、なんでこんな目に遭ってんだ……?)

 

アオイは笑いながら拍手している。

「すごかったー!負けたけどめっちゃいい勝負だったじゃん!」

 

ヒカリは呆れたようにため息をついた。

「……勝負受けた時点で負けてる」

 

セレナはにこやかに近づいてきて、俺の肩をポンと叩く。

「八雲さん、大丈夫?」

 

大丈夫なわけがない。

俺は財布が死ぬ未来を思い浮かべ、泣きそうになった。

 

ミヅキが言う。

「で、ヒウンアイス奢りは?」

 

ハルカが笑った。

「約束したもんね」

 

メイが目を輝かせる。

「私、ダブル頼む!」

 

ユウリが悪魔みたいな笑顔で言った。

「え、レイ。全員分だよね?」

 

ショウが申し訳なさそうに言った。

「……ごめん」

 

ごめんじゃねぇよ。

 

そしてレッドが、静かに俺を見下ろした。

「……弱い」

 

俺は死んだ目で言った。

「知ってるよ……」

 

その時だった。

上空から、神の声が落ちてきた。

『――八雲零』

 

アルセウスだ。

 

俺は反射的に背筋を伸ばした。

「……はい」

 

アルセウスは淡々と言った。

『お前はまた負けた』

 

「……はい」

 

『言い訳は?』

 

「……ありません」

俺は素直に言った。

 

もう逆らう気力もない。

 

アルセウスは少し黙り、そして言った。

『なら罰だ』

 

俺は震えた。

 

やめてくれ。

もうこれ以上、俺の尊厳を奪わないでくれ。

 

アルセウスは続けた。

『お前はしばらく――』

 

嫌な予感しかしない。

『悪の組織の服を着て過ごせ』

 

「は?」

俺は素っ頓狂な声を出した。

 

アルセウスは平然と言った。

『お前はすぐ逃げる。なら、逃げられない状況を作る』

 

「いや意味分かんないんだけど!?」

俺は叫んだ。

 

だがアルセウスは無慈悲だった。

『まずはギンガ団だ』

 

「なんでギンガ団なんだよ!!」

 

次の瞬間。

眩しい光が俺の全身を包んだ。

俺の服が消える。

 

そして現れたのは――

黒と白を基調とした、ギンガ団の制服。

 

首元まできっちり閉じられたコート。

胸のエンブレム。

妙に整ったシルエット。

 

……似合ってる。

いや、似合ってるのが一番最悪だ。

 

周囲が一瞬沈黙した。

 

そして。

アオイが叫んだ。

「えっっっ、めっちゃ似合う!!」

 

ネモが目を輝かせる。

「え!?かっこいい!!」

 

ハルカが笑った。

「うわ、似合いすぎでしょ!」

 

メイが拍手する。

「悪役感ある!最高!」

 

ミヅキが腹を抱えて笑った。

「ダメでしょそれwwww」

 

ヒカリは口元を押さえて肩を震わせた。

「……ふっ……」

 

笑ってる。

ヒカリが笑ってる。

俺は終わった。

 

セレナは静かに微笑んで言った。

「……似合うのが怖いですね」

 

ユウリがにやにやしながら言った。

「レイ、もともと悪役顔だもんね」

 

「○すぞユウリ」

俺は低い声で言った。

 

ショウが小さく呟く。

「……なんか、いつもより落ち着いて見える」

 

「それ褒めてないだろ」

俺は言った。

 

そして。

レッドが無言で近づいてきた。

俺の前に立つ。

 

そして、短く言った。

「……似合う」

 

俺は息を止めた。

 

え?

レッドが?

褒めた?

 

周囲が一斉にざわつく。

 

ネモが叫ぶ。

「レッドが喋った!!!」

アオイが「奇跡!」と言う。

 

ヒカリが呆れた顔で言った。

「そこ驚くとこじゃないでしょ……」

 

俺は赤面しそうになりながら、必死に冷静を装った。

「……お、おう」

 

その瞬間。

アルセウスが追撃する。

『ほらな。お前は悪の組織が似合う』

 

「似合わねぇよ!!」

俺は叫んだ。

 

『似合う』

 

「似合わねぇ!」

 

『似合う』

 

「うるせぇ!!」

俺はキレた。

 

アルセウスは淡々と告げる。

『今日からお前は“ギンガ団の男”だ』

 

「最悪の肩書きだよ!!」

 

俺が叫ぶと、ネモが爆笑した。

「ギンガ団の男wwww」

 

ミヅキが言う。

「なんか伝説っぽい」

 

メイが真顔で言った。

「絶対モテるやつ」

 

ヒカリがぼそっと言った。

「……余計に炎上する」

 

その通りだ。

俺は泣きそうになった。

 

だがアルセウスは止まらない。

『そして次の罰は――』

 

俺は嫌な予感しかしなかった。

 

『ギンガ団として学園内を歩け』

 

「待て待て待て待て!!!!」

 

俺は必死に止めた。

「それは無理だって!!絶対先生に怒られる!!」

 

アルセウスは冷酷に言った。

『怒られる経験が足りない』

 

「足りてるよ!!今さっき怒られたばっかだろ!!」

俺は叫んだ。

 

だが周囲は、完全に面白がっていた。

 

アオイが言う。

「ねえ!そのまま写真撮ろうよ!」

 

「やめろ!!」

 

ネモが言う。

「学園の制服より似合ってる!!」

 

「やめろ!!」

 

ユウリが言う。

「SNSに載せよ」

 

「○す!!!!」

 

ヒカリがスマホを取り出した。

「……記念に撮っとく」

 

「ヒカリまで!?!?」

 

俺は絶望した。

 

セレナが静かに言う。

「八雲さん、覚悟を決めたらどうです?」

 

「覚悟決めたら人生終わるんだよ」

 

俺は呻いた。

 

その時。

学園の校門の方から、声が聞こえた。

「……おや?」

 

俺は顔を上げた。

そこに立っていたのは――

クラベル校長。

 

そして隣に、ジニア先生。

さらに、ネモの担任らしき教師。

 

全員が俺を見て固まった。

 

クラベル校長が、ゆっくりと口を開く。

「……君は」

 

俺は反射的に背筋を伸ばした。

(終わった……)

 

クラベル校長は、真顔で言った。

「……なぜギンガ団の服を着ているのだね?」

 

俺は叫んだ。

「俺も聞きたいですよ!!!!!」

 

ネモが笑って答える。

「校長!零、ギンガ団なんです!」

 

「違う!!!!」

俺は即座に否定した。

 

ジニア先生が目を輝かせる。

「ほほう……異世界文化のコスプレか!興味深いね!」

 

違う!!!

違うけど、否定できない!!!

 

クラベル校長が腕を組み、重々しく言った。

「……事情を説明してもらおう」

 

俺は死んだ目で上を見た。

アルセウスが、空から言った気がした。

 

『頑張れ』

 

俺は小声で呟いた。

「ギンガ団の服、なんで俺が着るんだよ……」

 

ヒカリが小さく笑った。

「似合うからでしょ」

 

俺は泣いた。

俺の学園生活は、始まる前に終わった。

 

次回

「俺もう転職します」

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