校長室は、妙に静かだった。
木の香り
高そうな机。
高そうな椅子。
高そうな絵画。
そして高そうな空気。
その真ん中に、俺は立っていた。
ギンガ団の服を着たまま。
……いや、なんでだよ。
クラベル校長が腕を組み、ゆっくりと俺を見つめる。
「……八雲零くん」
俺は背筋を伸ばした。
「はい」
「改めて聞こう」
クラベル校長は真顔で言った。
「君は……ギンガ団なのかね?」
俺は即答した。
「違います!!!!」
即答しすぎて、逆に怪しい。
校長が目を細める。
「ならば、その服は?」
俺は答えた。
「神の嫌がらせです」
沈黙。
クラベル校長が固まった。
隣にいるジニア先生も固まった。
その後ろでネモがニコニコしてる。
アオイは笑いをこらえてる。
ヒカリは頭を抱えてる。
セレナは微笑んでる。
レッドは壁際で無言。
アルセウスは外にいる。
いや、絶対外にいる。
神は絶対聞いてる。
クラベル校長は深く息を吸って、ゆっくり言った。
「……つまり君は、ギンガ団ではないと」
「はい」
「しかしその服は、神の嫌がらせで着せられたと」
「はい」
クラベル校長は頷いた。
「……なるほど」
なるほどじゃねぇよ。
ジニア先生が目を輝かせた。
「つまり!君は異世界の神に目をつけられているのだね!?」
「そうなりますね」
「素晴らしい!!」
「素晴らしくないです」
俺は即答した。
校長室の空気が、なんかもう色々とおかしい。
クラベル校長は咳払いをして言った。
「……それで君は、学園生活を送る意思はあるのかね?」
俺は真顔で答えた。
「あります」
クラベル校長が頷く。
「ならば制服を着なさい」
俺は即答した。
「着たいです」
クラベル校長が少し眉をひそめる。
「……ではなぜ着ないのだね?」
俺は叫んだ。
「神が許してくれないからですよ!!!!」
クラベル校長は目を閉じた。
深い、深いため息。
ヒカリがぼそっと言った。
「校長、気の毒……」
セレナが優雅に頷く。
「本当にそうですね」
ネモは元気よく言った。
「校長!零は面白いので入学させましょう!」
「面白いで決めるな!!」
俺は叫んだ。
クラベル校長はゆっくりと俺に言った。
「八雲くん。君は今、色々と危険な道を歩みかけている」
「はい」
「学園は、君を守る義務がある」
「ありがとうございます」
「だが」
校長は鋭く言った。
「悪の組織に関わるのは許可できない」
俺は心の中で叫んだ。
(俺も許可した覚えねぇよ!!!)
だが、その瞬間。
ネモが手を挙げた。
「校長!でも零、さっきロケット団と電話してました!」
「言うな!!!!!!!!」
俺は絶叫した。
クラベル校長が固まった。
「……ロケット団?」
ヒカリが即座に言う。
「校長、信じないでください。ネモが変なこと言ってるだけです」
ネモが元気よく言った。
「変じゃないよ!零、サカキって言ってた!」
「やめろ!!!!!!」
俺は死んだ目で天井を見上げた。
俺の人生、味方が敵しかいない。
クラベル校長はゆっくりと俺を見る。
「……八雲くん」
俺は震える声で言った。
「はい」
「君は……転職でも考えているのかね?」
その言葉に、俺の脳内に電流が走った。
転職。
そうだ。
転職だ。
この学園にいればいるほど、俺は破滅する。
だったらもう。
いっそ――
俺は拳を握りしめた。
「……俺」
全員が俺を見る。
俺は叫んだ。
「俺もう転職します!!!!」
静寂。
そして。
ネモが爆笑した。
「転職wwwww」
アオイが笑いながら言う。
「学園で転職って何!?」
メイが目を輝かせた。
「どこに転職するの!?悪の組織!?」
ハルカが慌てて言った。
「やめなよ零さん!?人生終わるよ!?」
ミヅキが楽しそうに言う。
「人生もう終わってるから大丈夫じゃん」
「黙れミヅキ!!!!」
俺は叫んだ。
クラベル校長は額に手を当てた。
「……君は、学園に来たのだよ?」
俺は真顔で言った。
「はい」
「学生なのだよ?」
「はい」
「転職とは……?」
俺は勢いで言った。
「悪の組織に入ります」
その瞬間。
校長室の空気が凍った。
ヒカリが叫ぶ。
「零!!」
セレナが微笑みながら言った。
「……八雲さん、落ち着いて?」
ネモはキラキラしてる。
「悪の組織いいじゃん!!」
「よくねぇよ!!!」
俺は叫んだ。
クラベル校長が、ゆっくりと立ち上がった。
「八雲くん」
俺は背筋を伸ばす。
「はい」
「学園は……君を退学にするわけにはいかない」
「え?」
「だが、これ以上危険な発言を繰り返すなら――」
校長が眼鏡を光らせる。
「停学処分も検討する」
俺は震えた。
「停学……」
それは。
自由。
学園から離れられる。
バトル狂から逃げられる。
……つまり。
最高のご褒美では?
俺の目が輝いた。
ヒカリが俺の顔を見て青ざめた。
「……やめて零。今、変なこと考えたでしょ」
俺は笑顔で答えた。
「考えてない」
「嘘つけ」
ショウが小声で言った。
「零、停学を喜んでる顔してる」
「してねぇよ」
俺は即答した。
クラベル校長が咳払いをして言う。
「……とにかく、今日は帰りなさい」
「はい!」
俺は即答した。
ネモが叫ぶ。
「帰るならバトルしてから帰ろうよ!!」
「帰ります!!!!!!」
俺は逃げるように校長室を出た。
廊下を走る。
背後からヒカリの声。
「零!!待ちなさい!!」
セレナの声。
「八雲さん、逃げないで!」
ネモの声。
「ねえ!バトル!バトル!」
俺は叫びながら走った。
「俺は自由になる!!!!」
そして校門を飛び出した瞬間。
目の前に、白い馬が立っていた。
アルセウス。
アルセウスは静かに言った。
『転職するのか』
俺は泣きそうになりながら叫んだ。
「するよ!!!!!!」
アルセウスは少し考えた。
『……いいだろう』
「え?」
『ならば、好きに選べ』
次の瞬間。
俺の目の前に、光の板が現れた。
まるでゲームの選択肢みたいに。
【転職先一覧】
・ギンガ団
・プラズマ団
・フレア団
・マグマ団
・アクア団
・スカル団
・ロケット団
・レインボーロケット団(※上級者向け)
俺は叫んだ。
「なんでこんな就職サイトみたいになってんだよ!!!!!」
アルセウスは静かに言った。
『お前が望んだのだ』
「望んでねぇよ!!!!」
だが。
俺の脳裏には、履歴書がよぎった。
そうだ。
俺は持っている。
鞄の奥に。
悪の組織用の履歴書を。
俺はゆっくりと鞄を開けた。
そして。
履歴書を取り出す。
ネモが後ろから追いついてきて叫ぶ。
「え!?履歴書!?ほんとに転職するの!?」
俺は死んだ目で言った。
「……する」
ヒカリが頭を抱える。
「最悪……」
セレナは微笑む。
「……楽しそうですね」
ユウリが笑う。
「レイ、人生エンタメすぎ!」
俺は叫んだ。
「俺の人生をエンタメにするな!!!!!!」
そして俺は。
履歴書にペンを走らせた。
もう止まらない。
俺は本気でヤケクソだった。
次回
「レインボーロケット団に入ればいいんだ」