俺は思う。
神ってのは、人を試すのが好きだ。
でもその試し方がだいたい間違ってる。
そして今日もアルセウスはやらかした。
いつものように俺は日本にいた。
平和だった。
……平和だったはずだった。
コンビニで買ったカップ麺にお湯を入れて、箸を割って、スマホを見た。
通知。
【ハーメルン:コメント】
【次は女体化IFですね!】
【別世界の零と会ってほしい】
【女零ちゃんルートお願いします】
【逆ハーレムの次は地獄のミラー戦で】
俺はスマホを見つめたまま呟いた。
「……コメント欄さぁ」
「お前ら、俺の人生を何だと思ってる?」
次の瞬間。
スマホが震えた。
着信。
【アルセウス】
俺は即座に叫んだ。
「やめろ!!!!!!!」
だが遅い。
光。
転移。
強制イベント。
いつもの神の悪ふざけ。
俺の視界が白く染まった。
目を開けた瞬間、俺は森の中にいた。
空気が違う。
木々が大きい。
空が近い。
鳥の鳴き声が、ポケモンの鳴き声。
俺はため息をついた。
「……またポケモン世界かよ」
そして背後から声。
「……あの」
俺は振り返った。
そこにいたのは――
俺だった。
いや、正確には。
俺に似た顔。
俺と同じ目つき。
俺と同じ雰囲気。
俺と同じ、人生を諦めたような顔。
ただし。
髪が長い。
体格が細い。
声が高い。
そして何より――
女だった。
俺は固まった。
「……は?」
相手も固まった。
「……は?」
俺は言った。
「……誰だよお前」
相手は即答した。
「……それ、こっちのセリフなんだけど」
俺は頭を抱えた。
「……終わった」
女の俺は俺をじっと見た。
そして口を開く。
「……え、なに?私の男バージョン?」
俺は言った。
「多分そう」
女の俺は腕を組む。
「……うわぁ……顔がムカつく」
俺は言った。
「それな」
女の俺は眉をひそめた。
「いや、でも……私、こんな声低くないし」
俺は言った。
「俺もこんな声高くない」
女の俺はため息を吐いた。
「……最悪」
俺は言った。
「同意」
そして二人同時に言った。
「「アルセウスのせいだろ」」
沈黙。
女の俺が呟く。
「……やっぱ同じだね」
俺は言った。
「黙れ」
その瞬間、空が光った。
金色の輪。
やっぱり来た。
アルセウス。
『よく会えたな、零』
俺は叫んだ。
「会わせるな!!!!!!!!!!」
女の俺も叫んだ。
「呼ぶな!!!!!!!!!!」
俺は一瞬固まった。
「……叫び方まで同じかよ」
女の俺が言った。
「そっちもでしょ」
アルセウスは淡々と告げる。
『これは試練だ』
俺は言った。
「試練って言えば何でも許されると思うな」
女の俺も言った。
「ほんとそれ」
アルセウスは続ける。
『二人で協力し、世界の歪みを正せ』
俺は言った。
「歪ませたの誰だよ」
女の俺が言った。
「まず歪ませた神が直せよ」
アルセウス『それは無理だ』
俺「なんでだよ!!!!」
女の俺「無理じゃねぇよ!!!!」
アルセウス『面白くないから』
俺「神やめろ!!!!!!」
女の俺「神失格!!!!!!」
アルセウスの光が消える。
残されたのは俺と女の俺。
俺はため息を吐いた。
「……で、どうする」
女の俺は同じようにため息を吐いた。
「……とりあえず状況整理しよう」
俺は言った。
「冷静だな」
女の俺は言った。
「いや、私もテンパってる」
「でもテンパったところで神は止まらない」
俺は言った。
「正論やめろ」
女の俺は俺を見て言った。
「ねぇ、あなたの世界ってどうなってるの?」
俺は言った。
「悪の組織がコメント欄で喧嘩してる」
女の俺は目を見開いた。
「……何それ」
俺は言った。
「俺もそう思う」
女の俺は言った。
「こっちは普通にチャンピオンやってたらアルセウスに嫌われた」
俺は言った。
「嫌われた理由は?」
女の俺は言った。
「口喧嘩した」
俺は言った。
「俺と同じじゃん」
女の俺は言った。
「あなたも?」
俺は言った。
「当たり前だろ」
女の俺は頷く。
「……だよね」
俺は言った。
「納得すんな」
その時。
草むらが揺れた。
大きい音。
バキバキと木が折れる。
俺は即座に警戒した。
「……来る」
女の俺が腰のボールに手をかける。
「オヤブンか、伝説か、どっち?」
俺は言った。
「……嫌な二択だな」
そこから現れたのは――
見たことのないポケモン。
いや、見たことある。
でも違う。
全身が黒く、赤い模様。
目が光ってる。
禍々しいオーラ。
女の俺が呟いた。
「……ダークポケモン?」
俺は呟いた。
「……シャドウポケモンか?」
そいつが吠えた。
「ギャオオオオオオ!!」
俺は言った。
「……アルセウス、絶対関係あるだろ」
女の俺が言った。
「間違いない」
俺はボールを投げた。
「行け、ミュウツー!」
女の俺も投げた。
「出てきて、ミュウツー!」
同時に二体のミュウツーが現れた。
俺のミュウツーは落ち着いている。
女の俺のミュウツーは、若干キレてる。
俺は言った。
「……性格まで違うのかよ」
女の俺が言った。
「そっちのミュウツー、優しそうで腹立つ」
俺は言った。
「腹立つ要素どこだよ」
女の俺が叫ぶ。
「ミュウツー!サイコブレイク!」
俺も叫ぶ。
「ミュウツー!サイコブレイク!」
二つのサイコブレイクが重なり合い、黒いポケモンに直撃。
爆発。
土煙。
黒いポケモンが倒れる。
……が。
立ち上がった。
赤い目がさらに光る。
俺は呟いた。
「……硬すぎだろ」
女の俺が言った。
「こういうの大体第二形態ある」
俺は言った。
「言うな」
その瞬間。
黒いポケモンの体が割れるように光った。
そして姿を変える。
翼。
長い体。
異様な影。
俺は息を呑んだ。
「……ギラティナ?」
女の俺が叫んだ。
「いや、雰囲気が違う!!」
黒いギラティナ――いや、シャドウギラティナが空に浮かぶ。
空が暗くなる。
地面が揺れる。
俺は言った。
「……最悪の展開だ」
女の俺が言った。
「でも、分かりやすい」
俺は言った。
「何が?」
女の俺は言った。
「これ倒したら歪み直る」
俺は言った。
「……お前、意外と頭いいな」
女の俺は言った。
「私だよ?」
俺は言った。
「黙れ」
俺は深呼吸した。
「ミュウツー、メガシンカ」
女の俺も言った。
「メガシンカ、いくよ」
光。
二体のメガミュウツー。
並ぶ姿は圧巻だった。
女の俺が言う。
「……こういうの、ちょっとかっこいいね」
俺は言った。
「認める」
女の俺がニヤっと笑う。
「じゃあ、行こうか」
俺も笑った。
「……行くぞ」
二人同時に叫ぶ。
「「ミュウツー!!フルパワーで行け!!!!」」
メガミュウツーのサイコパワーが炸裂する。
空が割れる。
闇が削れる。
シャドウギラティナが叫ぶ。
「ギャアアアアアアアア!!!!!」
そして――
消えた。
次の瞬間。
空が晴れた。
風が優しくなった。
森が静かになった。
女の俺が言った。
「……終わった?」
俺は言った。
「多分な」
その瞬間。
また空が光った。
アルセウス。
『よくやった』
俺は叫んだ。
「二度とやるな!!!!!!」
女の俺も叫んだ。
「次やったら絶対殴る!!!!!!」
アルセウス『無理だ』
俺「なんでだよ!」
アルセウス『神だから』
女の俺「最悪!!!!」
アルセウスが告げる。
『二人の零は、元の世界へ戻る』
俺は言った。
「……おい」
女の俺が俺を見る。
「……なに?」
俺は言った。
「お前、元気でな」
女の俺は一瞬驚いた顔をして――
すぐに笑った。
「……あなたもね」
そして小さく呟く。
「……私、あなたみたいなやつ嫌いだけど」
「……でも、ちょっと安心した」
俺は言った。
「……俺も」
女の俺が手を差し出した。
「握手しよ」
俺は言った。
「……気持ち悪い」
女の俺が言った。
「自分に言うな」
俺は仕方なく手を握った。
同じ手。
同じ温度。
でも違う人生。
俺は思った。
(……俺が女だったら、こんな感じなのか)
女の俺が言った。
「……ねぇ」
俺は言った。
「なんだ」
女の俺は笑って言った。
「私たち、アルセウスに振り回される運命なんだね」
俺は言った。
「……やめろ」
「認めたくない」
女の俺は笑った。
「だよね」
光が包む。
世界が遠ざかる。
最後に聞こえたのは女の俺の声。
「次会ったら――」
「もっと平和なイベントにしようね」
俺は叫んだ。
「それを神に言え!!!!!!」
気づけば俺は日本に戻っていた。
コンビニの前。
冷めたカップ麺。
スマホ。
通知。
【ハーメルン:コメント】
【女零ちゃん可愛かったです】
【男零と女零で夫婦みたい】
【次は同居編ですね】
【二人でチャンピオン戦やってください】
俺はスマホを閉じた。
そして空を見上げる。
「……アルセウス」
「お前、絶対読んでるだろ」
雲の隙間に金色の輪。
神が笑ってる気がした。
俺は呟いた。
「……次は絶対許さねぇ」
番外編7 完
(※八雲零は「自分は増やしてはいけない」という宇宙の真理を学んだ)