俺は決意していた。
もう無理だ。
このスマホは呪われている。
いや、正確に言えば。
アルセウスに祝福(呪い)されている。
連絡帳が消えない。
通知が来る。
日本に帰ってきたのに、普通にヒカリやネモやサカキからメッセージが飛んでくる。
終わってる。
俺の人生、終わってる。
だから俺は。
考えた。
「……スマホを捨てればいい」
これだ。
シンプル。
物理的解決。
最強。
スマホがあるから繋がる。
スマホがあるから通知が来る。
スマホがあるから人生が崩壊する。
つまり。
スマホが無ければいい。
俺はすぐさま近所のリサイクルショップに向かった。
汗だくで店に入る。
店員が「いらっしゃいませー」と言う。
俺は笑顔で返した。
「すみません、スマホ売りたいんですけど」
店員は普通に頷いた。
「はい、大丈夫ですよ。査定しますねー」
俺は心の中でガッツポーズした。
(よし!!これで終わりだ!!)
俺はスマホを渡した。
店員は手袋をつけて、丁寧に受け取る。
店員がスマホを眺めながら言った。
「結構新しい機種ですね。状態も良いですし、画面割れもないですね」
俺は曖昧に笑う。
「ええ、まぁ……」
状態は良い。
だが中身が地獄。
店員は査定のために電源を入れた。
画面が点く。
俺は息を呑んだ。
店員はロック解除を求める画面を見て言う。
「ロック解除できますか?」
俺は頷いて操作する。
そして。
店員がホーム画面を確認した瞬間――
スマホが震えた。
通知。
LINE。
店員が無意識に画面を見た。
俺は凍った。
表示された名前は。
【ゲーチス】
俺は店員の顔色が変わるのを見た。
店員は少し眉をひそめ、通知内容を読んでしまった。
ゲーチス:
『時給アップ条件を忘れるな。彼女を作れ』
店員は無言で俺を見た。
俺も無言で店員を見た。
沈黙。
気まずい。
地獄。
俺は震える声で言った。
「……違うんです」
店員は困ったように笑った。
「え、ええ……そうですね……」
絶対信じてない。
俺は焦って続けた。
「これ、詐欺みたいなやつで……俺、彼女いないですし……」
店員はさらに気まずそうに頷いた。
「そ、そうなんですね……」
無理だ。
もう無理だ。
俺は深呼吸して言った。
「とにかく売ります。今すぐ売ってください」
店員は少し慌てて頷いた。
「は、はい。わかりました」
数分後。
査定結果が出た。
「こちら、買取金額が……8000円になります」
安い。
いや、そんなことどうでもいい。
俺は即答した。
「お願いします!!」
俺は書類にサインし、身分証を提示し、手続きを済ませた。
店員がスマホを箱に入れる。
俺はその瞬間、勝利を確信した。
(勝った)
(俺は勝ったぞアルセウス)
店を出た瞬間、俺は空を見上げた。
青空。
爽やかな風。
平和な日本。
俺は笑った。
「……はは」
自然と笑みがこぼれる。
「これで大丈夫だろ」
スマホがない。
連絡帳もない。
通知もない。
悪の組織もない。
伝説のポケモンもない。
神もいない。
俺はようやく、普通の高校生に戻れる。
俺は心から安心していた。
――その時。
ポケットが震えた。
俺は固まった。
「……え?」
ポケットから取り出したのは。
スマホじゃない。
俺が日本で使っていた、古いサブ機。
確か電源も切ってたはず。
なのに。
画面が勝手に点灯していた。
俺は恐る恐る見た。
通知。
LINE。
表示された名前は――
【アルセウス】
俺は青ざめた。
「……は?」
通知の内容。
アルセウス:
『無駄だ』
俺は叫んだ。
「うわああああああああ!!!!!!!!!!!!」
道行く人が振り返る。
俺は慌てて頭を下げた。
「すみません!!」
すみませんじゃない。
俺はスマホを震える手で開いた。
LINEが起動する。
そこには。
今まで存在しなかったはずのトークルームが表示されていた。
【神】
トーク名、神。
ふざけるな。
そして、その中にメッセージが追加される。
アルセウス:
『スマホを捨てても連絡先は消えぬ』
俺は震えた。
「……なんで」
さらに通知。
今度は別の名前。
【ネモ】
ネモ:
『零!スマホ変えた!?新しいの!?いいな!!』
俺は絶望した。
「なんでお前ら、こっちにも来れるんだよ!!!!!!」
そして、最悪の追い打ち。
さらに通知。
【サカキ】
サカキ:
『逃げるな』
俺は空を見上げた。
青空が、少しだけ曇って見えた。
俺は呟く。
「……終わった」
俺はスマホを握りしめながら、ふらふら歩き出した。
行き先なんてない。
逃げ場なんてない。
スマホを売っても、捨てても。
連絡帳は消えない。
神のネットワークは、電波より強い。
もはやWi-Fiより強い。
俺は泣きそうになりながら呟いた。
「……アルセウス、マジで暇なん?」
スマホが震える。
【アルセウス】
アルセウス:
『暇ではない。仕事だ』
俺は叫んだ。
「何の仕事だよ!!!!!!!!!!!!」
空から答えは返ってこなかった。
ただ、スマホの画面だけが不気味に光っていた。
まるで。
「逃げられない」と笑っているみたいに。
次回
「…ハー○ルンに投稿しようかな」