チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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第63話 これで大丈夫だろ

俺は決意していた。

もう無理だ。

このスマホは呪われている。

 

いや、正確に言えば。

アルセウスに祝福(呪い)されている。

 

連絡帳が消えない。

通知が来る。

日本に帰ってきたのに、普通にヒカリやネモやサカキからメッセージが飛んでくる。

 

終わってる。

俺の人生、終わってる。

 

だから俺は。

考えた。

「……スマホを捨てればいい」

 

これだ。

シンプル。

物理的解決。

最強。

 

スマホがあるから繋がる。

スマホがあるから通知が来る。

スマホがあるから人生が崩壊する。

 

つまり。

スマホが無ければいい。

 

俺はすぐさま近所のリサイクルショップに向かった。

汗だくで店に入る。

店員が「いらっしゃいませー」と言う。

 

俺は笑顔で返した。

「すみません、スマホ売りたいんですけど」

店員は普通に頷いた。

「はい、大丈夫ですよ。査定しますねー」

 

俺は心の中でガッツポーズした。

(よし!!これで終わりだ!!)

 

俺はスマホを渡した。

店員は手袋をつけて、丁寧に受け取る。

 

店員がスマホを眺めながら言った。

「結構新しい機種ですね。状態も良いですし、画面割れもないですね」

俺は曖昧に笑う。

「ええ、まぁ……」

 

状態は良い。

だが中身が地獄。

 

店員は査定のために電源を入れた。

画面が点く。

俺は息を呑んだ。

 

店員はロック解除を求める画面を見て言う。

「ロック解除できますか?」

 

俺は頷いて操作する。

 

そして。

店員がホーム画面を確認した瞬間――

 

スマホが震えた。

通知。

LINE。

 

店員が無意識に画面を見た。

俺は凍った。

 

表示された名前は。

【ゲーチス】

 

俺は店員の顔色が変わるのを見た。

店員は少し眉をひそめ、通知内容を読んでしまった。

 

ゲーチス:

『時給アップ条件を忘れるな。彼女を作れ』

 

店員は無言で俺を見た。

俺も無言で店員を見た。

 

沈黙。

気まずい。

地獄。

 

俺は震える声で言った。

「……違うんです」

店員は困ったように笑った。

「え、ええ……そうですね……」

 

絶対信じてない。

 

俺は焦って続けた。

「これ、詐欺みたいなやつで……俺、彼女いないですし……」

店員はさらに気まずそうに頷いた。

「そ、そうなんですね……」

 

無理だ。

もう無理だ。

 

俺は深呼吸して言った。

「とにかく売ります。今すぐ売ってください」

店員は少し慌てて頷いた。

「は、はい。わかりました」

 

数分後。

査定結果が出た。

「こちら、買取金額が……8000円になります」

 

安い。

いや、そんなことどうでもいい。

 

俺は即答した。

「お願いします!!」

 

俺は書類にサインし、身分証を提示し、手続きを済ませた。

 

店員がスマホを箱に入れる。

俺はその瞬間、勝利を確信した。

(勝った)

(俺は勝ったぞアルセウス)

 

店を出た瞬間、俺は空を見上げた。

青空。

爽やかな風。

平和な日本。

 

俺は笑った。

「……はは」

自然と笑みがこぼれる。

「これで大丈夫だろ」

 

スマホがない。

連絡帳もない。

通知もない。

 

悪の組織もない。

伝説のポケモンもない。

神もいない。

 

俺はようやく、普通の高校生に戻れる。

俺は心から安心していた。

 

――その時。

ポケットが震えた。

 

俺は固まった。

「……え?」

 

ポケットから取り出したのは。

スマホじゃない。

俺が日本で使っていた、古いサブ機。

 

確か電源も切ってたはず。

なのに。

画面が勝手に点灯していた。

 

俺は恐る恐る見た。

通知。

LINE。

 

表示された名前は――

【アルセウス】

 

俺は青ざめた。

「……は?」

 

通知の内容。

アルセウス:

『無駄だ』

 

俺は叫んだ。

「うわああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

道行く人が振り返る。

俺は慌てて頭を下げた。

「すみません!!」

 

すみませんじゃない。

 

俺はスマホを震える手で開いた。

LINEが起動する。

 

そこには。

今まで存在しなかったはずのトークルームが表示されていた。

 

【神】

トーク名、神。

 

ふざけるな。

 

そして、その中にメッセージが追加される。

アルセウス:

『スマホを捨てても連絡先は消えぬ』

 

俺は震えた。

「……なんで」

 

さらに通知。

今度は別の名前。

【ネモ】

 

ネモ:

『零!スマホ変えた!?新しいの!?いいな!!』

 

俺は絶望した。

「なんでお前ら、こっちにも来れるんだよ!!!!!!」

 

そして、最悪の追い打ち。

さらに通知。

【サカキ】

 

サカキ:

『逃げるな』

 

俺は空を見上げた。

青空が、少しだけ曇って見えた。

 

俺は呟く。

「……終わった」

俺はスマホを握りしめながら、ふらふら歩き出した。

 

行き先なんてない。

逃げ場なんてない。

 

スマホを売っても、捨てても。

連絡帳は消えない。

神のネットワークは、電波より強い。

 

もはやWi-Fiより強い。

 

俺は泣きそうになりながら呟いた。

「……アルセウス、マジで暇なん?」

 

スマホが震える。

【アルセウス】

 

アルセウス:

『暇ではない。仕事だ』

 

俺は叫んだ。

「何の仕事だよ!!!!!!!!!!!!」

 

空から答えは返ってこなかった。

ただ、スマホの画面だけが不気味に光っていた。

 

まるで。

「逃げられない」と笑っているみたいに。

 

次回

「…ハー○ルンに投稿しようかな」

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