スマホを売った。
無駄だった。
スマホを捨てた。
無駄だった。
機種変更した。
無駄だった。
初期化した。
無駄だった。
SIM抜いた。
無駄だった。
Wi-Fi切った。
無駄だった。
電源切った。
無駄だった。
そもそも圏外にした。
無駄だった。
なんなら俺、地下鉄のホームにいても通知が来た。
どういう仕組みだよ。
神の電波、地下強すぎるだろ。
そして俺は気づいた。
逃げるのは無理だ。
なら。
戦うしかない。
俺は自室のベッドに寝転がりながら、天井を見つめた。
部屋は狭い。
机には教科書。
床には脱ぎ捨てた制服。
壁には昔貼ったアニメのポスター。
カーテン越しの夕日が、妙に平和だった。
……俺だけが地獄。
俺はスマホを持ち上げ、虚無の目で呟く。
「……もう……オリ主の二次創作としてハーメ○ンに投稿しようかな」
そう。
投稿だ。
全部。
この地獄を。
この狂った人生を。
この神の悪趣味を。
全部。
物語として吐き出す。
そうすれば、少しは楽になるかもしれない。
いや。
楽になるというより、供養。
俺の精神の供養。
俺は起き上がって、机に向かった。
パソコンを開く。
カタカタとキーボードを打つ。
「ハー○ルン……ログイン……」
懐かしいサイトが表示される。
俺は「新規投稿」をクリックした。
タイトル欄に指が止まる。
どういうタイトルにする?
いや、もう決まってる。
俺は震える指で入力した。
【タイトル】
チュートリアルお兄さん(呪い)
俺は思わず笑った。
「……完璧だろ」
次にタグ。
タグ欄が俺を煽る。
俺は一つずつ打ち込んでいく。
【タグ】
・男主人公
・オリ主
・チュートリアルお兄さん
・ギャグ
・勘違い
・原作崩壊
・悪の組織
・アルセウス(監視)
・主人公は出番少なめ
・恋愛(?)
・炎上
・連絡帳が地獄
・神が暇人
・ポケモン世界転移
・主人公が不憫
・不憫な主人公
・不憫な主人公(重要なので二回)
俺は入力しながら思った。
(これ絶対検索に引っかかるやつ)
あらすじ欄に手が移る。
俺は息を吸い、勢いで打ち始めた。
【あらすじ】
カントー地方で旅の案内役をしていたはずの男主人公・八雲零。
しかしある日、ジョウト地方でバッジケースを落としたことをきっかけに、なぜか各地方を転々とし、伝説ポケモンを出し、悪の組織にスカウトされ、気づけばレインボーロケット団に就職していた。
さらに神・アルセウスに監視され、スマホの連絡帳は増え続け、炎上し、人生が終わる。
これは、そんな彼の「帰れない帰還」の物語。
俺は打ち終わり、手を止めた。
……我ながら意味がわからない。
意味がわからないのに、全部事実。
最悪。
俺は椅子にもたれかかって天井を見た。
「……これでいい。全部吐き出してやる」
その瞬間。
スマホが震えた。
通知。
LI○E。
表示された名前。
【アルセウス】
俺は嫌な予感しかしない。
だが、もう怖くない。
俺は画面を開いた。
アルセウス:
『投稿するのか』
俺は即答した。
「するけど?」
送信。
既読がつく。
早い。
神、暇すぎる。
数秒後、返信。
アルセウス:
『やめておけ』
俺は笑った。
そして言った。
「嫌だね」
送信。
既読。
そして。
また返信。
アルセウス:
『世界が歪む』
俺は鼻で笑った。
「もう歪んでるだろ」
送信。
既読。
アルセウスの返信。
アルセウス:
『確かに』
認めるな。
俺は深呼吸した。
そしてキーボードに指を置き、俺は宣言するように呟いた。
「……もうこうなったら」
「全部小説にして、ネタにして、生き延びてやる」
俺は投稿ボタンを押しかけた。
その時。
スマホが震えた。
今度は別の通知。
【ヒカリ】
ヒカリ:
『零……やめて。絶対やめて』
俺は固まった。
……え?
なんで知ってる?
なんで今、止めてくる?
俺は恐る恐る打った。
「なんでわかった?」
送信。
既読。
ヒカリの返信。
ヒカリ:
『そのサイト、シンオウにもあるから』
俺は叫んだ。
「あるのかよ!!!!!!!!!!」
さらに通知。
【ネモ】
ネモ:
『え!?小説!?読ませて!!私レビュー書く!!』
俺は叫んだ。
「やめろ!!!!!!!!!!!!」
さらに通知。
【サカキ】
サカキ:
『余計なことをするな』
さらに通知。
【ゲーチス】
ゲーチス:
『宣伝は任せろ』
俺は頭を抱えた。
「やめろやめろやめろ!!!!」
俺はパソコン画面を見つめた。
投稿ボタンが、そこにある。
押せば終わる。
押せば始まる。
俺の人生が。
正式に。
ネットの海へ放たれる。
俺は震える指を、投稿ボタンの上に置いた。
そして呟く。
「……もういいや」
「世界が歪むなら」
「俺の人生が歪んでるのが先だ」
俺は、クリックした。
投稿完了。
画面に表示される。
【投稿しました】
俺は椅子にもたれ、深く息を吐いた。
「……終わった」
その瞬間。
スマホが震えた。
通知。
新着。
表示された名前は。
【不明】
俺は嫌な汗をかいた。
トークを開く。
そこには、たった一文。
???:
『読んだ』
俺は固まった。
喉が乾く。
指が動かない。
そして次のメッセージ。
???:
『次は俺の話も書け』
俺は震えながら呟いた。
「……誰だよ」
返信はない。
ただ、スマホの画面だけが光っている。
俺は思った。
投稿したことで。
俺は何かを呼んでしまったのかもしれない。
そして。
俺の物語は、終わるどころか――
もっと面倒な方向へ進み始めた。
次回
「閲覧数が異常なんだが」