ギラティナが道路の真ん中にいる時点で終わってる。
なのに。
空が割れた。
紫の裂け目から、黒い影が現れた。
翼が大きく広がる。
そして、圧倒的な存在感。
空気が冷える。
日差しがあるのに、寒い。
俺はその姿を見た瞬間、膝が震えた。
「……ダークルギア」
黒いルギア。
いや、ルギアというより“影”。
見上げるだけで、心が削られるような圧。
ダークボールから出した記憶が蘇る。
あの時俺は、勢いで言っただけだった。
『乗せて』
たったそれだけ。
なのに。
今。
そいつが。
日本の上空でホバリングしている。
あり得ない。
絶対にあり得ない。
なのに現実だ。
俺は呟いた。
「……なんで来たんだよ」
ダークルギアは、何も言わない。
ただ、空中で静かに浮いている。
巨大な翼を広げたまま。
まるで。
“待っている”。
俺のことを。
俺は嫌な汗をかきながら、周囲を見た。
道路はすでにパニック。
人が逃げる。
車がクラクションを鳴らす。
スマホで撮影する奴がいる。
遠くで子どもが泣いてる。
警察官は完全にフリーズしていた。
さっきまでギラティナに職質してたのに。
今は上空を見上げたまま、口を開けている。
そして。
震える声で呟いた。
「……増えた……」
俺は叫びたいのを必死に堪えた。
ネモが隣で目を輝かせている。
「すごい!!!空にもう一体いる!!!」
ユウリが口元を押さえた。
「いや、これニュースになるやつでしょ……」
ヒカリは泣きそうな顔で叫ぶ。
「零!!どうするの!?どうするのこれ!?」
俺は即答した。
「知らねぇよ!!!!!!!!」
ショウが呆れたように言う。
「……零、これもあなたのせいじゃない?」
俺は必死に否定した。
「違う!!!!!!俺はただ……ただ……」
俺は言葉に詰まった。
だって、事実だ。
俺がダークルギアを出した。
俺が呼んだ。
俺が“乗せて”って言った。
俺は震える声で言った。
「……いや、まぁ、ちょっとは俺のせいかもしれない」
ネモが即ツッコミした。
「ちょっとどころじゃないよ!!」
俺は叫んだ。
「黙れ!!!!!!!!」
レッドが静かに言った。
「……あれは危険」
ユウリが言う。
「危険じゃないの探す方が難しいでしょ」
その瞬間。
ダークルギアがゆっくりと翼を動かした。
バサァ……と、空気が揺れる。
それだけで風圧が降りてくる。
木が揺れる。
看板がガタガタ鳴る。
人々の悲鳴が大きくなる。
警察官が我に返り、無線を握りしめて叫んだ。
「本部!!対象が二体に増えました!!繰り返します!!対象が二体に!!」
俺は呟いた。
「対象って言い方やめろ……」
そして警察官は、俺を見た。
完全に疑っている目。
いや、当然だ。
俺だけがギラティナに話しかけて、俺だけが名前を呼んでいる。
完全に俺が犯人だ。
警察官が震える声で言った。
「……あなた、何者ですか」
俺は即答した。
「一般人です」
警察官は真顔で言った。
「嘘はやめてください」
俺は泣きそうになった。
「本当なんです!!!!!!!!」
その時。
俺のスマホが震えた。
LI○E通知。
【アルセウス】
俺は嫌な予感しかしない。
でも開くしかない。
アルセウス:
『増えたな』
俺は叫んだ。
「お前が言うな!!!!!!!!!!」
さらに通知。
【サカキ】
サカキ:
『零。制圧しろ』
俺は叫ぶ。
「無理!!!!!!!!!!」
既読
返信。
サカキ:
『できる。やれ』
俺は泣きながら言った。
「パワハラが過ぎる!!!!!!!!!!!!」
次。
【ゲーチス】
ゲーチス:
『これは好機だ。日本をプラズマ団の支配下に置ける』
俺は叫んだ。
「置けるわけねぇだろ!!!!!!!!!!」
次。
【トウコ】
トウコ:
『零!!これ、あなたが小説に書いたから?』
俺は即返信した。
「書いてない!!!!!!」
だが。
俺はその瞬間、気づいた。
書いてないのに出た。
つまり。
小説の更新が引き金になってるだけで、出てくる内容はランダム。
俺の記憶にある伝説が。
俺の過去の行動が。
俺の黒歴史が。
勝手に現実に引っ張り出されている。
俺は青ざめた。
「……最悪のシステムじゃん」
そして。
ダークルギアが、ゆっくりと降下してきた。
ギラティナのすぐ後ろ。
交差点の上空で止まる。
まるで。
ギラティナの味方。
いや、違う。
ギラティナを監視しているようにも見える。
そして次の瞬間。
ダークルギアが低く鳴いた。
「……グルァ……」
音が空気を震わせる。
人々が一斉に耳を塞ぐ。
俺の頭にも響いた。
脳が揺れる感覚。
俺は膝をついた。
「うっ……!」
ヒカリが叫ぶ。
「零!!大丈夫!?」
ネモが俺の背中を叩く。
「零!!しっかり!!」
俺は息を荒くしながら立ち上がった。
そして。
俺は、ダークルギアを見上げて叫んだ。
「……おい!!!」
俺の声が交差点に響く。
警察官が「やめろ!」と叫ぶ。
でも俺は止まらない。
「ダークルギア!!!!!!」
ダークルギアの目が光った。
黒い翼がゆっくりと動く。
俺は震えながら言った。
「……お前、俺のこと覚えてるか?」
返事はない。
だが、空気が変わった。
確実に俺を見ている。
俺は続けた。
「俺は……あの時……」
「お前に“乗せて”って言った」
ネモが横で小声で言う。
「それ今言うこと!?」
俺は叫び返す。
「今しかないだろ!!!!!!!!」
そして俺は、腹を括った。
恥も外聞も捨てた。
警察も見てる。
近所の人も見てる。
ニュースになる。
人生は終わる。
でも、今はそれどころじゃない。
俺は叫んだ。
「頼む!!!」
「お前、俺を助けろ!!!!!!!!」
その瞬間。
ダークルギアが、ゆっくりと降りてきた。
地面すれすれまで。
風圧で砂が舞う。
警察官が一歩後ずさった。
人々が悲鳴を上げた。
でも。
ダークルギアは攻撃しなかった。
ただ。
俺の目の前に降り立った。
そして。
その背中を、ほんの少しだけ下げた。
まるで。
「乗れ」と言うように。
俺は固まった。
「……え?」
ネモが叫んだ。
「え!?ほんとに乗れるの!?すご!!!!!」
ユウリが真顔で言う。
「いや乗らないでよ!?!?!?」
ヒカリが叫ぶ。
「零!!やめて!!危ない!!」
ショウが呆れたように言った。
「……零、また変なフラグ立てたね」
俺は泣きそうになりながら呟いた。
「……俺もそう思う」
でも。
ダークルギアは確かに俺を待っている。
俺が乗れば。
ギラティナを止められるかもしれない。
空の裂け目を閉じられるかもしれない。
この地獄を終わらせられるかもしれない。
俺は震える足で一歩踏み出した。
そして。
背中に手を置いた。
冷たい。
生き物なのに、石みたいに冷たい。
俺は息を飲んで呟いた。
「……久しぶりだな」
その瞬間。
ダークルギアが翼を広げた。
そして一気に跳び上がる。
俺は叫んだ。
「うわああああああ!!!!!!」
ネモが叫ぶ。
「いいなぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ヒカリが叫ぶ。
「零ーーーー!!!!!!!!」
警察官が叫ぶ。
「待てーーーー!!!!!!!!」
ユウリが叫ぶ。
「いや何してるの!?!?!?」
俺は叫びながら、空へ舞い上がった。
地上が小さくなる。
街が遠ざかる。
ギラティナが下で唸っている。
そして俺は悟った。
今、俺は――
日本の上空で、伝説に乗っている。
意味が分からない。
人生、どこで間違えた?
俺は叫ぶ。
「俺、ただのチュートリアルお兄さんなんだよ!!!!!!!!!!!!」
だが、ダークルギアは答えない。
ただ、静かに飛ぶ。
日本の空を。
支配するように。
その背中で、俺は気づいた。
――このままじゃ終わらない。
むしろ。
ここからが本番だ。
俺は震える声で呟いた。
「……ギラティナ」
「待ってろ」
「次の更新で……終わらせてやる」
スマホが震えた。
なぜか、空でも繋がる。
通知。
【アルセウス】
アルセウス:
『終わらせるな』
俺は叫んだ。
「うるせぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」
空の上。
ダークルギアがホバリングする。
地上。
ギラティナが暴れ始める。
そして。
俺は伝説の背中で、次の物語を強制される。
この世界はもう。
俺のものじゃない。
神の娯楽で。
読者の玩具で。
俺の人生の続きだった。
次回
「ダークルギアで飛んでたら自衛隊が来た」