俺は確信している。
アルセウスは神だ。
そして神は暇だ。
暇だから人を飛ばす。
暇だから世界線をねじる。
暇だから俺の人生をぐちゃぐちゃにする。
……つまり全部アルセウスのせい。
その日、俺は日本にいた。
帰還したはずだった。
ギラティナが職質されそうになったり、ダークルギアで自衛隊が来たり、コメント欄が現実に出てきたり。
いろいろあった。
だが、俺はようやく平穏を手に入れた。
手に入れたはずだった。
俺はコンビニの前でホットスナックを食べながら呟く。
「……平和って、いいな」
唐突に。
空が割れた。
「は?」
俺が顔を上げた瞬間、頭上に光の輪。
見覚えしかない。
神の輪っか。
やめろ。
俺は叫んだ。
「おい!!アルセウス!!やめろ!!」
だが、遅い。
白い光が俺の視界を塗りつぶす。
俺は吸い込まれるように宙へ浮いた。
ホットスナックが地面に落ちる。
俺は最後に叫んだ。
「俺のから○げクン!!!!!!」
目が覚めた。
草むら。
土の匂い。
虫の声。
空気が……日本じゃない。
俺は起き上がり、周囲を見る。
「……ここどこだよ」
そして気づく。
標識。
「マサラタウン」
俺は固まった。
「……は?」
マサラタウン。
カントー地方。
つまり、俺の原点。
だが、空気が違う。
街がやけに……アニメっぽい。
家の色が鮮やかすぎる。
住人の動きが、妙に元気すぎる。
俺は震えながら呟く。
「……待て待て待て」
「これ……俺が知ってるカントーじゃない」
その瞬間。
後ろから声が聞こえた。
「うわあああああああ!!!!!」
叫び声。
走ってくる足音。
俺は振り向いた。
少年が全力疾走している。
黒髪。
帽子。
赤いジャケット。
顔が元気。
そして何より、目がキラキラしすぎている。
俺は一発で理解した。
――サトシだ。
アニメ世界の主人公。
世界線が違う。
俺は思わず呟く。
「……アルセウス、お前さぁ……」
サトシは俺の前で急停止した。
「はぁっ、はぁっ……!」
そして俺を見て言った。
「えっ!?誰!?」
俺は言った。
「……八雲零」
サトシは目を輝かせる。
「レイ!?すげぇ名前だな!!」
俺は言った。
「すげぇのはお前のテンションだよ」
サトシは気にせず続ける。
「なぁなぁ!お前もポケモントレーナー!?」
俺は言った。
「……元チャンピオン」
サトシは固まった。
「え?」
俺は言った。
「元チャンピオン」
サトシの顔が一気に輝く。
「えええええええ!?チャンピオン!?マジで!?!?」
俺は思った。
(あ、これやばい。目が輝きすぎてる)
サトシは一歩近づいてくる。
「なぁ!バトルしようぜ!!」
俺は即答した。
「嫌だ」
サトシは言った。
「ええ!?なんで!?」
俺は言った。
「俺、今休暇中」
サトシは首を傾げた。
「休暇ってなに?」
俺は思った。
(こいつ、休むという概念が薄いな)
その時。
空から声が聞こえた。
『……零』
俺は顔を上げた。
嫌な予感。
空に金色の光。
輪。
神。
アルセウス。
俺は叫んだ。
「おい!!!!!」
「何だよ今度は!!!」
アルセウスは淡々と告げた。
『この世界の均衡が崩れかけている』
俺は言った。
「知らねぇよ」
『サトシと共に動け』
俺は叫んだ。
「なんでだよ!!!!」
アルセウスは平然と言った。
『面白そうだから』
俺は叫んだ。
「神がそれ言うな!!!!!!」
サトシは空を見上げて叫んだ。
「うおおお!!すげぇ!!今のなに!?」
俺は言った。
「神」
サトシは目を輝かせた。
「神!?!?!?神っているんだ!!」
俺は言った。
「いる。しかも性格悪い」
アルセウスの光が消える。
空が元に戻る。
サトシは俺の肩を掴んだ。
「なぁレイ!!神に選ばれたってこと!?すげぇ!!」
俺は言った。
「俺は被害者だ」
サトシは興奮したまま言った。
「じゃあさ!一緒に旅しようぜ!!」
俺は言った。
「嫌だって」
サトシは言った。
「絶対楽しいって!!」
俺は言った。
「楽しくない。絶対に」
サトシは言った。
「じゃあ楽しくする!!」
俺は固まった。
……聞いたことあるセリフだな。
ハルトと同じタイプだ。
主人公特有の押しの強さ。
俺は頭を抱えた。
「……最悪だ」
サトシは笑う。
「なぁ!どんなポケモン持ってるんだ!?」
俺は言った。
「ミュウツー」
サトシは一瞬固まって、次の瞬間叫んだ。
「ミュウツー!?!?!?」
「え、ミュウツーって伝説の!?!?」
俺は言った。
「そう」
サトシは震えて言った。
「すげぇ……」
俺は言った。
「お前、ビビらないのか」
サトシは即答した。
「ビビるけどワクワクする!!!」
俺は思った。
(やっぱ主人公って頭のネジが違う)
その時。
草むらが揺れた。
ピカチュウが飛び出してきた。
「ピカピカ!!」
サトシが叫ぶ。
「ピカチュウ!!」
俺は固まった。
――本物だ。
アニメのピカチュウ。
そしてピカチュウが俺を見て警戒する。
俺は言った。
「……警戒心あるな」
サトシは笑った。
「大丈夫だって!」
ピカチュウは俺を見て頬を光らせる。
俺は即座に言った。
「待て待て待て待て」
「俺は敵じゃない」
ピカチュウが「ピカ……」と首を傾げる。
そして。
俺のポケットの中で何かが光った。
スマホ。
連絡帳。
俺は青ざめた。
「……やめろ」
画面に表示された名前。
【オーキド博士:着信】
俺は固まった。
サトシは叫んだ。
「オーキド博士!?!?なんで!?!?」
俺は言った。
「……知らねぇよ」
サトシが俺の肩を揺さぶる。
「レイ!!すげぇ!!もうこの世界に馴染んでる!!」
俺は叫んだ。
「馴染んでねぇ!!呪いだ!!」
俺は電話に出た。
「……もしもし」
オーキド博士の声。
『おお、零くんか!』
俺は言った。
「なんで俺の番号知ってるんですか」
『わしは博士じゃぞ!』
俺は思った。
(万能すぎるだろ)
オーキド博士は続ける。
『サトシと一緒に旅に出てくれんか?』
俺は叫んだ。
「神と同じこと言うな!!!!」
サトシは横で目を輝かせている。
「旅!?旅だってさ!!」
俺は言った。
「お前黙れ!!」
電話を切った瞬間。
サトシが満面の笑みで言った。
「なぁレイ!」
「旅、行こうぜ!」
俺はため息を吐いた。
逃げられない。
神が関わってる時点で、逃げたらもっと面倒なことになる。
俺は諦めて言った。
「……分かったよ」
サトシは叫んだ。
「よっしゃああああああ!!!!!」
ピカチュウも叫ぶ。
「ピカーー!!」
俺は呟いた。
「……俺の平和、どこいった」
夕方。
マサラタウンの道。
サトシが前を歩き、ピカチュウが肩に乗る。
俺は後ろからついていく。
その背中が眩しすぎて、目を細めた。
サトシが振り返る。
「なぁレイ!」
「絶対、最高の旅にしような!」
俺は苦笑した。
「……勝手にしろ」
サトシは笑う。
「うん!!」
俺は思った。
(この世界線、俺がツッコミ役確定じゃん)
その時、空が一瞬だけ光った。
雲の隙間。
金色の輪。
アルセウスが、絶対ニヤついてる。
俺は空に向かって小さく呟いた。
「……お前、後で覚えてろよ」
番外編8 完
(※この日から八雲零は「アニメ世界線」という地獄のイベントラッシュに突入する)