空が割れていた。
地面が揺れていた。
世界が、崩れていた。
神になった俺のリングはひび割れ、砕け散りそうになっている。
レッドのピカチュウの雷。
ミュウツーのサイコブレイク。
そして何より。
レッド本人の殺意。
俺は空中で、ふらつきながら笑った。
「……はは」
「神って、案外脆いんだな」
痛い。
熱い。
苦しい。
息ができない。
俺は神になったのに、死にかけている。
俺は叫んだ。
「レッド!!!!!!」
レッドは無言。
その無言が一番怖い。
何を言っても通じない。
俺は理解した。
こいつは“正義”だ。
正義は止まらない。
正義は折れない。
正義は、俺を殺す。
俺は苦し紛れに叫んだ。
「俺が死んだら世界が崩壊するって言っただろ!!!!!!」
レッドは小さく呟いた。
「……なら」
「世界ごと、終わればいい」
俺は息を止めた。
「……は?」
ミュウツーが冷たく言った。
「この世界は歪んだ」
「歪みを正すには、根を断つ必要がある」
俺は叫んだ。
「根って俺かよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
世界がさらに揺れた。
空に裂け目が走り、黒い文字が流れ始める。
コメント欄。
いや、コメント欄“そのもの”が空を侵食している。
【コメント:最終回きたああああ】
【コメント:作者死ぬの?】
【コメント:草】
【コメント:でも割と泣ける】
【コメント:零、最後まで面白かった】
俺は血反吐を吐きながら叫んだ。
「泣けるとか言うな!!!!!!!!!!」
俺は目を見開く。
このままじゃ本当に終わる。
俺が死ぬ。
世界が壊れる。
でも。
レッドはそれでいいと言った。
つまり…
レッドは俺を倒すことで、世界の歪みを終わらせようとしている。
俺は震えながら呟いた。
「……正しいじゃん」
最悪だ。
俺は神になって、世界を守ろうとした。
なのに、守ろうとした俺自身が歪みだった。
俺は笑ってしまった。
「……はは」
「俺、何してんだろ」
その時。
空間の裂け目から、アルセウスが現れた。
神。
元祖神。
本物の神。
アルセウスは静かに言った。
『零』
『お前はよくやった』
俺は叫んだ。
「よくやってねぇよ!!!!!!!!!!!!!!!!」
アルセウスは言った。
『お前は神になった』
『そして、神として裁かれる』
俺は震えながら呟く。
「……裁かれるって」
「俺、悪いことしたか?」
アルセウスは答えた。
『お前は物語を生んだ』
『物語は人を狂わせる』
『お前は世界を揺らした』
俺は言い返した。
「俺が望んだわけじゃない!!!!!!」
アルセウスは淡々と言う。
『望まなくとも』
『起きたことには責任が生まれる』
俺は叫んだ。
「責任責任責任!!!!!!」
「神ってそれしか言わねぇのか!!!!!!!!!!!!」
アルセウスは、少しだけ目を細めた。
『……零』
『お前は神に向いていない』
俺は即答した。
「当たり前だ!!!!!!!!!!!!!!」
アルセウスは続けた。
『だが、お前には』
『唯一、向いている役割がある』
俺は嫌な予感がした。
「……やめろ」
アルセウスが言った。
『チュートリアルお兄さんだ』
俺は固まった。
「……は?」
レッドがこちらを見上げた。
ミュウツーも動きを止めた。
空のコメントも止まった。
世界が、一瞬だけ静かになる。
俺は震える声で言った。
「……チュートリアルお兄さん?」
アルセウスは頷いた。
『そうだ』
『お前の原点』
『お前が最も自然に存在できる場所』
俺は叫んだ。
「それ呪いじゃねぇか!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アルセウスは、静かに告げた。
『神になるのは重い』
『世界を背負うのは重い』
『ならばお前は』
『世界を導け』
俺は言った。
「導くって……」
アルセウスが言う。
『誰かに戦い方を教えろ』
『誰かに旅をさせろ』
『誰かに強くなってもらえ』
『お前は、その入口で立っていろ』
俺は叫んだ。
「それ一生終わらないやつだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アルセウスは、笑った。
『そうだ』
『終わらない』
『だがそれが、お前の役目だ』
俺は泣きそうになった。
「……神やめたい」
アルセウスは言った。
『やめてよい』
『だが』
『お前は神をやめても、自由にはならない』
俺は絶望した。
「……自由じゃないのかよ」
アルセウスは言った。
『お前は“物語”そのものだからだ』
俺は叫んだ。
「ふざけんな!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アルセウスが、俺の胸元に光を落とした。
暖かい光。
そして冷たい光。
矛盾した光。
神の光。
俺の背中のリングが砕ける。
金色が消える。
黒と白の輪が砕け散る。
俺の体が落ちていく。
俺は叫んだ。
「うわああああああ!!!!!!!!!!」
落ちる。
落ちる。
落ちる。
だが地面にはぶつからなかった。
世界が、変わった。
空が戻る。
裂け目が閉じる。
コメント欄が消える。
戦闘機が消える。
自衛隊の声も消える。
ギラティナもいない。
読者もいない。
アルセウスもいない。
レッドもいない。
ミュウツーもいない。
そして俺は――
見慣れた場所に立っていた。
ポケモンセンター前。
田舎町。
穏やかな風。
子供の笑い声。
遠くで草むらが揺れている。
俺は呆然と呟いた。
「……どこだ、ここ」
すると背後から、声がした。
「ねえ!お兄さん!」
俺は振り向いた。
そこにいたのは、小さな少年。
目を輝かせて、俺を見上げている。
その手には、ボロボロのバッジケース。
俺の喉が引きつった。
「……うそだろ」
少年が言った。
「これ、落としちゃったんだけど!」
俺は、震えながら受け取った。
そして。
口が勝手に動いた。
勝手に言葉が出た。
勝手に笑顔になった。
勝手に――
台詞が出た。
「……ああ、大丈夫だよ」
「君のだろ?」
俺は心の中で叫んでいた。
(やめろ!!!!!!)
(言うな!!!!!!)
(言うな俺!!!!!!)
だが口は止まらない。
俺の意思じゃない。
呪いだ。
役割だ。
物語の強制力だ。
俺は続けてしまった。
「これから旅に出るんだね?」
少年が目を輝かせた。
「うん!」
俺の口が、勝手に。
勝手に。
勝手に――
最悪の台詞を吐いた。
「じゃあ、ポケモンの捕まえ方を教えるよ」
俺は心の中で絶叫した。
(終わったァァァァァァ!!!!!!!!)
少年は嬉しそうに頷く。
「やった!」
俺は笑顔で手を差し伸べる。
体が勝手に動く。
まるで操り人形。
いや、違う。
俺は操り人形じゃない。
俺は“機能”だ。
チュートリアルお兄さんという名の、世界のシステム。
俺は悟った。
神になるよりひどい。
神は世界を見下ろせる。でもチュートリアルお兄さんは、永遠に“入口”で立ち続ける。
俺は少年に言った。
「さあ、行こう」
少年が走り出す。
草むらが揺れる。
ポッポが飛び立つ。
コラッタが鳴く。
俺の口が勝手に言う。
「まずは弱らせてから、モンスターボールを投げるんだ」
俺は泣きそうになりながら、心の中で呟いた。
(……これが罰ゲームか)
(いや、呪いだ)
その時。
俺のポケットの中でスマホが震えた。
俺は青ざめて取り出した。
画面には通知。
【ハー○ルン】
『新作が投稿されました』
俺は震える指で開いた。
タイトル。
ジョウト地方編
「バッジケースを落としたら人生も落ちた」
俺は叫んだ。
「まだ続くのかよ!!!!!!!!!!!!!!」
てか、懐かしいなそのタイトル。
空に、最後の文字が浮かび上がった。
【コメント:作者、おかえり】
俺は泣いた。
そして笑った。
そして絶望した。
そして――
またチュートリアルを始めた。
永遠に。
終わりなく。
神でもなく。
英雄でもなく。
ただの。
ただの――
**チュートリアルお兄さん(呪い)**として。
『チュートリアルお兄さん(呪い)』完
とりあえず本編は完結できたので明日から番外編ラッシュが来ます。