あと先に言っておくと、ルート編はちょくちょくキャラ崩壊があります。
番外編10 レッドルート編
――このルートは、本来存在しない。
公式にも、裏設定にも、救済にも。
ただ一つだけ条件がある。
「チュートリアルお兄さんが、レッドに目をつけられた場合」
それだけだ。
最初の違和感は、些細なものだった。
カントー地方。
ハナダシティの北。
いつも通り、俺は道端に立っていた。
「この先、強いトレーナーがいるから気をつけてな」
それだけ言う役目。
それだけの存在。
――のはずだった。
草むらが揺れた。
俺は反射的に振り返る。
そこにいたのは、少年。
赤い帽子。
無言。
圧がある。
圧しかない。
俺は一瞬で理解した。
「……あ」
やばい。
これ、やばいやつだ。
世界最強の無言圧縮装置。
歩く伝説。
沈黙のチャンピオン。
レッド。
俺は内心で絶叫した。
(なんで!?!?!?!?)
レッドは俺を見た。
じっと。
無言で。
五秒。
十秒。
二十秒。
普通なら、この時点で主人公は戦闘になる。
でも俺は違う。
俺はチュートリアルお兄さんだ。
戦闘に入らない。
入れない。
だから――
見られる。
ただ、ひたすら。
レッドは初めて口を開いた。
「……」
……何も言わない。
だが、脳が悲鳴を上げた。
次の瞬間。
俺のスマホが震えた。
通知。
連絡帳:新規登録
名前:レッド
「は?」
俺は声に出した。
「……は???」
レッドは無言で、俺のスマホを指さした。
理解したくない理解をしてしまった。
(こいつ……見ただけで登録してきた……?)
レッドは一歩近づいた。
距離、ゼロ。
近い。
近すぎる。
圧が、圧がすごい。
俺は反射的に喋った。
「あ、えっと……」
「……バトル、する?」
言ってから後悔した。
何言ってんだ俺。
レッドは首を横に振った。
否定。
そして一言。
「観察」
俺は凍った。
「……何を?」
レッドは答えた。
「君」
その日から、俺の人生は終わった。
レッドは戦わない。
話さない。
だけど――
消えない。
どこに行っても、いる。
ポケモンセンター。
洞窟の入口。
悪の組織のアジト前。
アルセウスと口喧嘩してる時ですら、いる。
俺が振り返ると、必ず少し離れた場所に立っている。
無言で。
圧で。
俺は耐えきれず、ある日聞いた。
「……なあ」
「俺、何かした?」
レッドはしばらく考えた。
数十秒。
そして、短く言った。
「ズレてる」
俺は叫んだ。
「抽象的すぎるだろ!!!!」
レッドは続けた。
「本来、ここにいない」
俺は理解した。
レッドは分かっている。
俺が“バグ”だと。
NPCなのに、世界に干渉しすぎている存在。
連絡帳。
悪の組織。
神。
全部。
レッドは言った。
「放置すると、世界が壊れる」
俺は乾いた笑いを出した。
「……それ、もう壊れてない?」
レッドは首を横に振った。
「まだ」
そして、淡々と宣告した。
「だから、監視する」
俺は真顔になった。
「……もしかして」
「○す予定とか?」
レッドは少し考えた。
そして言った。
「必要なら」
俺は即座に土下座した。
「すみませんでした!!!!!!!!!!」
レッドは少しだけ、目を細めた。
それが彼なりの「笑い」だった。
レッドルートの終盤。
事件が起きる。
俺が神になった時。
世界が揺れた。
悪の組織が跪いた。
コメント欄が現実を侵食した。
俺は空に立っていた。
神の座。
――その正面。
レッドがいた。
地面に。
無言で。
帽子を深く被って。
俺は言った。
「……止めに来た?」
レッドはうなずいた。
「うん」
俺は苦笑した。
「勝てると思う?」
レッドは答えなかった。
ただ、一歩前に出た。
それだけで、空気が割れた。
俺は悟った。
ああ。
この人。
神を倒す前提で来てる。
戦いは短かった。
いや、戦いですらなかった。
俺は神だった。
でもレッドは――
物語そのものだった。
結果。
俺は神の座を追い出された。
世界は元に戻った。
呪いだけが残った。
最後。
レッドは去り際に、初めてちゃんと喋った。
「君は」
俺は見上げた。
「チュートリアルに戻れ」
俺は笑った。
「……それが一番きついんだよ」
レッドは答えなかった。
ただ、背を向けた。
そして消えた。
スマホを見た。
連絡帳。
レッドの名前は――
消えていなかった。
最後のメモだけが残っていた。
「異常があれば戻る」
俺は天を仰いだ。
「……一番怖い保険じゃねぇか」
こうして。
レッドルートは終わる。
救済なし。
恋愛なし。
友情ほぼなし。
ただ一つ。
世界が壊れなかったルート。
それだけ。
レッドルート 完
(※このルートが存在する限り、八雲零は絶対に完全自由になれない)
貯めに貯めたストックを今日から消費していく!