――このルートだけは、少しだけ空気が違った。
理由は単純だ。
相手がレッドじゃない。
そして何より。
こっちは喋る。
圧で○してこない。
無言で監視してこない。
勝手に世界を背負わせてこない。
つまり――
まだ、人間らしいルートだ。
ジョウト地方。
ウバメの森の入口。
俺はいつものように、道端に立っていた。
チュートリアルお兄さん。
バッジケース拾う係。
人生終了係。
今日も平和に呪われる予定だった。
だが。
草むらから飛び出してきたのは、元気すぎる少年だった。
「おーい!!」
俺は反射的に身構える。
(やばい、レッドじゃないよな……?)
違う。
帽子が違う。
表情が違う。
何より、目がキラキラしている。
少年は笑った。
「ねえねえ!お兄さん!旅してんの!?」
俺は一瞬固まった。
……いや。
このテンション、知ってる。
俺は嫌な予感で喉が渇いた。
「……君、名前は?」
少年は胸を張った。
「ゴールド!!」
俺は心の中で叫んだ。
(最悪のタイプ来た!!!!!!!!!!)
レッドとは違う意味で、最悪だ。
こいつは危険だ。
何が危険って、距離感がない。
そして絶対に面倒事を持ってくる。
ゴールドは俺の顔をじっと見て、いきなり言った。
「お兄さん、モテそうだね!」
俺は即答した。
「モテない」
ゴールドはニヤッと笑った。
「じゃあモテるようにしよ!」
俺は叫んだ。
「余計なお世話だ!!!!!!!!!!」
だがゴールドは止まらない。
「お兄さんさ!」
「今から俺と勝負しようよ!」
俺は言った。
「俺はチュートリアルお兄さんだから……」
ゴールドは首を傾げた。
「チュートリアルってなに?」
俺は絶望した。
(こいつ、概念理解してない!!!!!!)
その日から。
俺の平穏は、別の意味で壊れた。
レッドルートが「死の監視」なら。
ゴールドルートは「生活破壊」だ。
ゴールドは俺を見つけるたびに話しかけてくる。
ポケモンセンターでも。
ジム前でも。
洞窟でも。
悪の組織のアジト前でも。
最悪なのは、アルセウスと口喧嘩してる時だ。
アルセウスがキレてる最中に、ゴールドが割り込んでくる。
「うわっ!すげー!何その馬!」
俺は叫んだ。
「神だよ!!!!!!!!!!」
アルセウスが静かに言う。
『……零』
『この少年は何だ』
俺は泣きそうになりながら答えた。
「ジョウトの主人公です……」
ゴールドは無邪気に手を振った。
「やっほー!神様!」
アルセウスが固まった。
コメント欄が流れた気がした。
【コメント:ゴールド無敵すぎる】
【コメント:神にタメ口草】
【コメント:これが陽キャ】
俺は叫んだ。
「コメント欄は出てくんな!!!!!!!!!!」
ゴールドは基本的にノリが軽い。
でも。
軽いからこそ、鋭い。
ある日、俺が一人で落ち込んでいた。
原因は、連絡帳だ。
増える。
消えない。
減らない。
世界の呪い。
俺はベンチで頭を抱えていた。
「……俺、もうダメかもしれん」
その時、背後から声がした。
「え?何が?」
振り向くと、ゴールドがいた。
いつもの笑顔。
いつもの軽いノリ。
俺は苦笑した。
「……お前はいいよな」
「主人公だし、仲間いるし」
ゴールドは一瞬だけ黙った。
そして、座った。
「主人公ってさ」
「別に偉くないよ」
俺は驚いた。
ゴールドが、真面目な顔をしている。
「俺だってさ、怖いよ」
「負けたらどうしようとか」
「大切な人守れなかったらどうしようとか」
俺は小さく言った。
「……意外と普通だな」
ゴールドは笑った。
「普通だよ」
そして、俺のスマホを覗き込んだ。
「なにそれ?連絡帳?」
俺は慌てて隠した。
「見るな!!!!!!!!」
ゴールドは目を輝かせた。
「え、なにこれ!女性多くない!?」
俺は即死した。
「○すぞ!!!!!!!!!!!!!!」
ゴールドは腹を抱えて笑った。
「やっぱモテるじゃん!!」
俺は叫んだ。
「モテてねぇ!!!!!!!!!!」
ゴールドは笑いながら言った。
「でもさ」
「それだけ知り合いがいるってことだよね」
俺は言葉に詰まった。
ゴールドは続けた。
「お兄さん、嫌われてないよ」
「むしろ、絡まれすぎてるだけ」
俺は呟いた。
「……絡まれすぎてるだけ」
ゴールドはニヤッと笑った。
「そうそう!」
「だからさ!」
「一緒に旅しよ!」
俺は即答した。
「嫌だ」
ゴールドは言った。
「えー!」
俺は叫んだ。
「俺が旅すると世界が壊れる!!!!!!!!!!」
ゴールドは首を傾げた。
「壊れたら直せばよくない?」
俺は震えた。
「お前、思想が脳筋主人公すぎる……」
ゴールドルートの最大の特徴。
それは。
ゴールドが“呪い”を呪いだと思ってないことだ。
普通なら、俺の状況を聞いたら怖がる。
距離を置く。
でもゴールドは違う。
「じゃあさ!」
「呪いなら、解けばいいじゃん!」
俺は叫んだ。
「解けないんだよ!!!!!!!!」
ゴールドは即答した。
「じゃあ、解けるまでやればいいじゃん!」
俺は言葉を失った。
こいつ。
強すぎる。
ポケモンの強さじゃない。
メンタルの強さだ。
世界の理不尽を、理不尽だと認めない強さ。
俺が一番苦手なタイプ。
でも、同時に。
俺が一番救われるタイプ。
終盤。
俺は神になりかけた。
世界が歪んで、空が割れて、コメント欄が出てきて。
俺は絶望して、叫んだ。
「俺が神になるしかない!!!!!!!!」
その時。
ゴールドが叫んだ。
「え!?やめときなよ!!」
俺は叫び返した。
「じゃあどうすればいいんだよ!!!!!!」
ゴールドは即答した。
「逃げよ!」
俺は固まった。
「……は?」
ゴールドは笑った。
「神とか責任とか、重いこと考えるのやめてさ」
「とりあえず逃げよ!」
俺は震えた。
「逃げたら世界が崩壊するんだぞ!?」
ゴールドは肩をすくめた。
「崩壊したらさ」
「また作ればいいじゃん」
俺は叫んだ。
「無茶言うな!!!!!!!!!!」
ゴールドは言った。
「じゃあさ!」
「世界作れる神様がいるなら」
「世界作れる人間がいてもよくない?」
俺は言葉を失った。
その瞬間、俺は理解した。
こいつは、俺を救う気だ。
理屈じゃない。
ノリで。
勢いで。
でも確実に。
ゴールドは俺の手を掴んだ。
「行こう!」
俺は叫んだ。
「どこに!!!!!!」
ゴールドは笑った。
「どこでもいい!」
「生きてれば勝ち!」
その瞬間。
世界の裂け目が広がった。
アルセウスの声が響く。
『零』
『選べ』
俺は震えた。
神になるか。
呪いになるか。
終わるか。
続くか。
でも、ゴールドは笑っている。
世界の終わりを前にしても。
まるで遠足に行くみたいに。
俺は、思わず笑ってしまった。
「……お前、マジでバカだな」
ゴールドはニヤッと笑った。
「今さら?」
俺は叫んだ。
「今さらだよ!!!!!!!!!!」
そして俺は、選択肢を押した。
②「逃げる」
その瞬間。
世界が止まった。
コメントが止まった。
裂け目が閉じた。
アルセウスの声が途切れた。
俺とゴールドだけが走り出した。
ただ走る。
意味もなく走る。
理由もなく走る。
でも、走ってる間だけは。
俺は呪いじゃなかった。
神でもなかった。
ただの人間だった。
ゴールドが笑いながら言った。
「ほら!逃げたら意外となんとかなるでしょ!」
俺は息を切らしながら叫んだ。
「なってねぇ!!!!!!!!!!」
でも。
少しだけ。
本当に少しだけ。
世界が軽くなった気がした。
最後。
ゴールドは去り際に言った。
「お兄さんさ」
「またしんどくなったら逃げていいよ」
俺は苦笑した。
「……逃げ癖つくわ」
ゴールドは笑った。
「それでいいじゃん!」
そして走り去っていった。
俺は一人、空を見上げた。
裂け目はない。
コメントもない。
ただの青空。
俺は呟いた。
「……逃げてもいい、か」
その時。
スマホが震えた。
連絡帳。
新規登録。
【ゴールド】
俺は叫んだ。
「結局消えねぇのかよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
だが。
その下に、メモが一つだけ残っていた。
『困ったら呼べ!逃げるの得意だから!』
俺は笑った。
悔しいけど。
少しだけ救われた気がした。
ゴールドルート 完
(※このルートだけ、八雲零は“神”にならずに済む)