――このルートは、地獄の種類が違う。
レッドルートは「死」
ゴールドルートは「破壊」
ユウキルートは「救い」
そして。
ハルカルートは――
**「詰み」**だ。
ホウエン地方。
ミシロタウン。
俺はいつものように道端に立っていた。
チュートリアルお兄さん。
旅立つ新人に、捕まえ方を教える係。
人生が落ちる係。
今日もいつも通りに、平穏に終わるはずだった。
……終わるはずだった。
草むらが揺れた。
現れたのは、少女。
帽子。
リボン。
明るい瞳。
主人公の顔。
だが、ユウキとは違う。
この子は。
“正義”が強い。
そして。
直感が鋭い。
「こんにちは!」
俺は反射的に言った。
「……あ、こんにちは」
少女はニコッと笑った。
「私、ハルカって言います!」
俺は頷いた。
「そうか。俺は……」
言いかけた瞬間。
スマホが震えた。
連絡帳が勝手に開いた。
画面には、いつもの地獄。
ほぼ女。
ほぼ原作キャラ。
ほぼ危険人物。
ハルカは、それを見た。
ピタッと止まった。
笑顔が消えた。
目が細くなった。
俺は思った。
(終わった)
ハルカは、静かに言った。
「……え?」
俺は慌てて隠した。
「違う!これは!」
ハルカは、ゆっくり近づいた。
「今の、なに?」
俺は汗が止まらなかった。
「いや、その……連絡帳で……」
ハルカは笑った。
でもその笑顔は、明るい笑顔じゃなかった。
**女子の“笑顔”**だ。
俺は悟った。
(このルート、詰んだ)
ハルカルートの特徴。
それは。
ハルカが疑いを持つと、絶対に逃げられない。
ユウキは優しい。
ゴールドはノリ。
レッドは無言。
だがハルカは違う。
ハルカは、徹底的に追い詰める。
次の日。
俺がポケモンセンターに入ると。
ハルカがいた。
「こんにちは!」
俺は震えた。
「……こんにちは」
ハルカは笑顔で言った。
「ねえ」
「昨日のスマホ、もう一回見せて?」
俺は即答した。
「嫌です」
ハルカは笑顔のまま言った。
「え?なんで?」
俺は言った。
「見せる理由がない」
ハルカは頷いた。
「そっか」
そして。
その日の夜。
俺の宿の前に、ハルカが立っていた。
「こんばんは!」
俺は叫んだ。
「なんでいるんだよ!!!!!!!!!!」
ハルカは首を傾げた。
「偶然だよ?」
俺は震えた。
(偶然なわけあるか!!!!!!)
数日後。
俺は気づいた。
ハルカが、俺の行動を把握している。
俺が町に入るタイミング。
俺が出るタイミング。
俺がジムに寄るタイミング。
俺が草むらで休憩するタイミング。
全部。
完璧に。
俺は思った。
(こいつ……レッドの監視と違って、怖い……)
レッドは無言の恐怖。
ハルカは会話する恐怖。
笑顔で詰めてくる恐怖。
ある日。
ハルカが突然、言った。
「ねえ八雲さん」
俺は固まった。
「……なんで俺の名前知ってる?」
ハルカは笑った。
「えへへ、調べた!」
俺は叫んだ。
「調べたって何だよ!!!!!!!!!!」
ハルカは無邪気に言った。
「だって怪しいもん」
俺は震えた。
(正直で怖い!!!!!!)
そして、決定的事件が起きた。
マグマ団のアジト。
アクア団の襲撃。
いつもの地獄。
いつもの巻き込まれ。
俺は疲れ果てて、座り込んだ。
「……もう嫌だ」
その時。
ハルカが俺の前に立った。
汗をかきながら、真剣な顔で言った。
「八雲さん」
「あなた、何者なの?」
俺は言葉に詰まった。
ハルカは続けた。
「普通の人じゃないよね?」
「だって、あなた」
「事件が起きる場所に、絶対いる」
俺は苦笑した。
「……俺もそう思う」
ハルカは鋭い目で言った。
「スマホの連絡帳もそう」
「女の人ばっかり」
「しかも普通の女の人じゃない」
俺は叫びそうになったが、我慢した。
ハルカはさらに言った。
「あなたって」
「悪い人なの?」
俺は、ようやく口を開いた。
「……悪い人じゃない」
ハルカは言った。
「じゃあ証明して」
俺は震えた。
「証明って……」
ハルカは笑った。
「簡単だよ!」
「私のこと、連絡帳に入れて?」
俺は固まった。
「……は?」
ハルカは首を傾げた。
「私が入ってれば、少なくとも浮気じゃないし!」
俺は叫んだ。
「理屈が飛躍しすぎだろ!!!!!!!!!!」
ハルカは笑った。
「いいじゃん!」
俺は思った。
(この子、主人公のくせに恋愛脳の悪役令嬢みたいなムーブしてる……)
だが。
ここで断ったら。
もっと面倒になる。
俺は諦めて、
スマホを開いた。
連絡帳に、ハルカを追加した。
その瞬間。
スマホが震えた。
画面が光った。
連絡帳が勝手に更新された。
そして表示された。
【ハルカ:正妻】
俺は叫んだ。
「誰が正妻だよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ハルカは目を輝かせた。
「え!?なにそれ!!」
俺は青ざめた。
(終わった……)
ハルカは笑顔で言った。
「じゃあこれから、よろしくね!」
俺は叫んだ。
「よろしくじゃねぇ!!!!!!!!!!」
その日から。
俺の地獄は加速した。
何が起きたかというと。
連絡帳の女たちが。
ハルカの存在に反応し始めた。
通知が鳴り止まない。
メッセージが飛ぶ。
意味不明なスタンプ。
意味不明な圧。
意味不明な「誰?」。
そして。
コメント欄が湧いた。
【コメント:正妻爆誕】
【コメント:ハルカ強すぎる】
【コメント:これは戦争】
【コメント:フウロがキレます】
【コメント:カトレアが動きます】
俺は叫んだ。
「コメント欄帰れ!!!!!!!!!!」
ハルカはスマホを覗いて言った。
「ねえ、今のコメントって何?」
俺は固まった。
「……見えるの?」
ハルカは頷いた。
「見えるよ?」
俺は思った。
(このルート、最悪だ……)
終盤。
世界が歪んだ。
アルセウスが降りた。
空が裂けた。
俺は叫んだ。
「またかよ!!!!!!!!!!」
アルセウスが言う。
『零』
『お前は選べ』
『神になるか、呪いになるか』
俺はいつものように絶望した。
だが。
その前に。
ハルカが前に出た。
「ちょっと待って!」
俺は叫んだ。
「ハルカ!?やめろ!!!」
ハルカはアルセウスを見上げて言った。
「あなたが神?」
アルセウスが言う。
『そうだ』
ハルカは、ニコッと笑った。
「じゃあ聞くけど」
「八雲さんをいじめて楽しいの?」
俺は固まった。
アルセウスも固まった。
ハルカは続けた。
「八雲さん、困ってるよ?」
「見てわかんないの?」
アルセウスが沈黙する。
世界が止まったようだった。
そしてアルセウスが言った。
『……これは運命だ』
ハルカは即答した。
「運命とか知らない」
俺は叫んだ。
「強すぎる!!!!!!!!!!」
ハルカは言った。
「運命なら変えればいいじゃん」
アルセウスが言う。
『変えられぬ』
ハルカは笑った。
「変えられるよ」
「だって私、主人公だから!」
俺は頭を抱えた。
「またその理屈!!!!!!!!!!」
だが。
その瞬間。
アルセウスが、初めてため息をついた。
『……厄介な娘だ』
ハルカは笑った。
「ありがとう!」
俺は叫んだ。
「褒められてない!!!!!!!!!!」
そしてアルセウスは言った。
『零』
『お前の呪いは解けぬ』
『だが、守り手を与えよう』
俺は震えた。
「守り手……?」
アルセウスが光を放つ。
次の瞬間。
俺のスマホに通知が来た。
【ハルカ:管理者権限を取得しました】
俺は叫んだ。
「最悪の権限渡すな!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ハルカはスマホを取り上げて、ニコニコしながら言った。
「えーと、じゃあまず」
「怪しい女の人、全部ブロックしよっか!」
俺は青ざめた。
「待て待て待て!!!!!!!!!!」
だがハルカは止まらない。
フウロ、ブロック。
カミツレ、ブロック。
ナンジャモ、ブロック。
リーフ、ブロック。
カトレア、ブロック。
俺は叫んだ。
「世界が滅ぶ!!!!!!!!!!」
ハルカは笑った。
「滅ばないよ!」
「大丈夫!」
その瞬間。
世界が揺れた。
遠くで、雷が落ちた。
炎が上がった。
悪の組織が騒いだ。
伝説が吠えた。
コメント欄が暴走した。
【コメント:やったな】
【コメント:ホウエン終了のお知らせ】
【コメント:女キャラブロックは禁忌】
【コメント:アルセウス爆笑してる】
俺は叫んだ。
「やっぱ滅ぶじゃねぇか!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ハルカは笑顔で言った。
「でもね」
「零さんは、私が守るから」
俺は固まった。
その言葉だけは、嘘じゃなかった。
ハルカは、強引で。
怖くて。
詰めてきて。
圧が強くて。
でも。
誰よりも真っ直ぐだった。
俺は小さく呟いた。
「……参ったな」
ハルカはニコッと笑った。
「参ったなら、降参しよ?」
俺は叫んだ。
「降参したら終わりだろ!!!!!!!!!!」
ハルカは言った。
「終わりじゃないよ」
「始まりだよ!」
俺は思った。
(このルート、絶対に俺の自由はない)
でも。
不思議と。
嫌じゃなかった。
ハルカルート 完
(※このルートの八雲零は、神より怖い“正妻”に管理される)