チュートリアルお兄さん(呪い)   作:夜神桜

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番外編9 リコとロイにも会った時の話

俺は学んだ。

アルセウスは神だ。

そして神は。

「主人公」という存在が大好きだ。

 

主人公が好きすぎて、俺に押し付けてくる。

 

もうやめろ。

俺はただの一般人に戻りたい。

 

……戻れないけど。

 

カントー地方。

どこかの森。

 

俺は木の根元に座り込んでいた。

「……俺、なんでサトシと旅してんだろ」

 

隣ではサトシが元気に叫んでいる。

「ピカチュウ!いけ!でんこうせっか!!」

 

「ピカーー!!」

 

バトル。

いつも通り。

元気すぎる。

 

こいつ、疲れを知らない。

 

俺は呟いた。

「主人公って、睡眠必要ないのか……?」

 

サトシが振り返る。

「レイ!次はお前もバトルしようぜ!」

 

俺は即答した。

「嫌だ」

 

サトシは言った。

「えー!!なんでだよ!!」

 

俺は言った。

「俺はお前の旅のナレーター枠でいい」

 

サトシは首を傾げた。

「ナレーターって何?」

 

俺は思った。

(説明しても理解されないやつだ)

 

その時。

俺のスマホが震えた。

 

おなじみの連絡帳。

嫌な予感。

 

俺は青ざめる。

「……来た」

 

サトシが覗き込む。

「え?なにそれ?」

 

俺は言った。

「見るな」

 

サトシは言った。

「なんで!?」

 

俺は言った。

「神が来る」

 

サトシは目を輝かせた。

「神!?また!?すげぇ!!」

 

俺は叫んだ。

「すげぇじゃねぇ!!!!」

 

画面表示。

【アルセウス:召喚】

 

俺は天を仰いだ。

「……お前、マジで暇だろ」

 

光。

空が割れる。

風が止まる。

森が静かになる。

 

アルセウス降臨。

 

サトシは叫ぶ。

「うおおおお!!また来た!!」

 

俺は言った。

「お前、感動してる場合じゃない」

 

アルセウスが言う。

『零』

 

『新たな主人公を追加する』

 

俺は固まった。

「……は?」

 

サトシは言った。

「追加って何?」

 

俺は言った。

「知らねぇよ」

 

アルセウスは続ける。

『この世界線は更新された』

 

『次世代の旅が始まる』

 

俺は叫んだ。

「アップデート感覚で世界線弄るな!!!!」

 

アルセウスは淡々と言った。

『会ってこい』

 

そして光が弾ける。

俺とサトシの視界が白く染まった。

 

目が覚めた。

……船の上。

 

潮風。

甲板。

空が青い。

 

俺は叫んだ。

「またかよ!!!!」

 

サトシは楽しそうに言った。

「すげぇ!船だ!!」

 

俺は言った。

「お前は楽しそうでいいな」

 

サトシは笑った。

「旅って楽しいだろ!」

 

俺は呟いた。

「……楽しいというか過酷」

 

甲板の端で、少女が空を見上げていた。

 

青がかった髪。

落ち着いた雰囲気。

制服っぽい服装。

 

そして、肩に小さなポケモン。

ニャオハ。

 

少女が振り返った。

「……え?」

 

目が合った。

リコ。

 

俺は直感した。

この子、普通の子に見えて。

 

多分、とんでもない世界に巻き込まれるタイプ。

 

サトシが前に出る。

「こんにちは!俺マサラタウンのサトシ!こっちはレイ!」

 

俺は言った。

「勝手に紹介すんな」

 

リコは戸惑いながら言った。

「……リコです」

 

ニャオハが警戒する。

「ニャオ……」

 

俺は言った。

「警戒心あるな」

 

サトシが言った。

「大丈夫だって!俺たち味方だ!」

 

リコは少し驚いた顔をした。

「……サトシ?」

 

「そのサトシ……?」

 

俺は思った。

(知名度バグってるな)

 

その時。

甲板の向こうから叫び声。

 

「うおおおおおお!!!」

 

次の瞬間。

少年が走ってきて、勢いよく転んだ。

 

帽子。

明るい笑顔。

目がキラキラ。

とにかく元気。

 

そして肩にはホゲータ。

ロイ。

 

俺は呟いた。

「……あ、増えた」

 

ロイは立ち上がって叫んだ。

「見て見て!!ホゲータ!!」

 

「この子、すっげーんだ!!」

 

ホゲータが「ホゲー!」と鳴く。

 

サトシが目を輝かせる。

「うおお!炎タイプか!」

 

ロイが叫ぶ。

「そう!!」

 

俺は思った。

(主人公の匂いが濃すぎる)

 

リコが小声で言った。

「……あなたたち、何者ですか?」

 

俺は言った。

「巻き込まれた被害者兼チュートリアルお兄さん」

 

サトシが言った。

「俺はポケモントレーナーだ!」

 

ロイが言った。

「俺もだ!!」

 

俺は言った。

「お前ら、会話のテンション合わせろ」

 

その瞬間。

空が曇った。

 

嫌な予感。

 

リコが顔を上げる。

「……え?」

 

ロイが言う。

「天気悪くなった?」

 

サトシが言う。

「嵐か?」

 

俺は言った。

「いや、これは……」

 

空に亀裂。

見覚えしかない。

 

神の演出。

 

俺は叫んだ。

「おい!!アルセウス!!!!!」

 

そして現れる光。

だが、降りてきたのはアルセウスじゃなかった。

 

黒い影。

異様な気配。

謎の飛行船が揺れる。

 

甲板に現れたのは――

黒い服の集団。

 

エクスプローラーズ。

 

俺は呟いた。

「……あー、悪の組織ね」

 

サトシが拳を握る。

「悪い奴らか!」

 

ロイが叫ぶ。

「やるぞホゲータ!!」

 

リコが震える。

「……ニャオハ……」

 

俺は言った。

「お前ら落ち着け」

 

サトシが言った。

「レイ!バトルだ!」

 

俺は言った。

「俺は休暇中だ」

 

サトシが言った。

「休暇!?」

 

俺は思った。

(またこの流れかよ)

 

エクスプローラーズの男が言った。

「そのペンダントを渡せ」

 

リコが驚く。

「……ペンダント?」

 

ロイが叫ぶ。

「なんだそれ!?」

 

サトシが言う。

「渡すな!」

 

俺は言った。

「……絶対渡すな」

 

リコは震えながらもペンダントを握りしめた。

「……渡しません」

 

俺は思った。

(強いなこの子)

 

敵がポケモンを出す。

 

リコが叫ぶ。

「ニャオハ!」

 

ロイが叫ぶ。

「ホゲータ!」

 

サトシが叫ぶ。

「ピカチュウ!」

 

甲板が戦場になる。

 

俺は頭を抱えた。

「……最悪だ」

 

でも、やるしかない。

 

俺は適当にボールを投げる。

「行け、ミュウツー」

 

次の瞬間。

空気が凍った。

 

敵が固まる。

「……は?」

 

リコもロイも固まる。

 

サトシだけが叫ぶ。

「うおおおおお!!!ミュウツーだ!!!」

 

俺は言った。

「叫ぶな」

 

ミュウツーが静かに浮かび上がる。

敵が震える。

 

ロイが目を輝かせる。

「え、なにそれ!?伝説!?」

 

俺は言った。

「伝説」

 

リコが小声で言う。

「……すごい……」

 

 俺は呟いた。

「すごいのは神の嫌がらせだ」

 

戦闘は一瞬で終わった。

ミュウツーのサイコキネシスで敵が吹っ飛ぶ。

 

甲板が静かになる。

 

サトシが叫ぶ。

「レイ!やっぱお前すげぇ!!」

 

俺は言った。

「だから俺は休暇中だって言ってんだろ」

 

ロイが興奮して言う。

「ねぇねぇ!!俺もミュウツー欲しい!!」

 

俺は言った。

「多分無理」

 

リコは俺を見て言った。

「……あなた、何者なんですか?」

 

俺はため息を吐いた。

「……神に目をつけられた一般人」

 

リコが困惑する。

「神……?」

 

サトシが元気に言った。

「神っているんだぜ!」

 

ロイが叫ぶ。

「えええ!?神!?すげぇ!!」

 

俺は言った。

「すげぇじゃねぇ!!!!」

 

その夜。

船室。

リコとロイが向かいに座っていた。

 

サトシは元気に寝てる。

ピカチュウも寝てる。

 

主人公は寝るのも早い。

 

リコが静かに言った。

「……怖いです」

 

俺は頷いた。

「普通は怖い」

 

ロイが言った。

「でも、ワクワクする!」

 

俺は言った。

「お前は怖がれ」

 

ロイは笑った。

「えへへ!」

 

リコが俺を見て言った。

「零さんは……怖くないんですか?」

 

俺は少し黙った。

そして答えた。

「怖い」

 

「ずっと怖い」

 

リコが少し驚く。

 

俺は続けた。

「でも、慣れた」

 

リコは小さく笑った。

「……慣れたくないです」

 

俺は言った。

「慣れなくていい」

 

ロイが言った。

「じゃあ、俺が慣れさせない!」

 

俺は言った。

「お前が慣れろ」

 

リコはペンダントを握りしめながら言った。

「私、逃げたくないです」

 

ロイも言った。

「俺も!」

 

俺はため息を吐いた。

「……主人公って、なんでそうなんだよ」

 

リコが言った。

「主人公……?」

 

俺は言った。

「いや、気にするな」

 

でも。

この二人は確かに主人公だった。

 

サトシとは違う。

でも同じ。

 

眩しい。

強い。

怖いのに前に進む。

 

俺は思った。

(アルセウス、お前ほんと趣味悪いな)

 

でも同時に。

少しだけ思った。

(……こいつらなら、大丈夫かもしれない)

 

翌朝。

甲板。

 

ロイが叫ぶ。

「よーし!!行くぞ!!」

 

リコが頷く。

「……はい」

 

サトシが笑う。

「旅はこれからだ!!」

 

俺は呟いた。

「……俺の休暇はどこだ」

 

空の向こうで、雲が一瞬光った。

神の輪が見えた気がした。

 

絶対笑ってる。

 

俺は空に向かって言った。

「……お前、マジで覚えてろよ」

 

番外編9 完

(※八雲零はこの日、主人公が3人に増えた地獄を味わい、ツッコミ役としての運命を悟った)

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