俺は学んだ。
アルセウスは神だ。
そして神は。
「主人公」という存在が大好きだ。
主人公が好きすぎて、俺に押し付けてくる。
もうやめろ。
俺はただの一般人に戻りたい。
……戻れないけど。
カントー地方。
どこかの森。
俺は木の根元に座り込んでいた。
「……俺、なんでサトシと旅してんだろ」
隣ではサトシが元気に叫んでいる。
「ピカチュウ!いけ!でんこうせっか!!」
「ピカーー!!」
バトル。
いつも通り。
元気すぎる。
こいつ、疲れを知らない。
俺は呟いた。
「主人公って、睡眠必要ないのか……?」
サトシが振り返る。
「レイ!次はお前もバトルしようぜ!」
俺は即答した。
「嫌だ」
サトシは言った。
「えー!!なんでだよ!!」
俺は言った。
「俺はお前の旅のナレーター枠でいい」
サトシは首を傾げた。
「ナレーターって何?」
俺は思った。
(説明しても理解されないやつだ)
その時。
俺のスマホが震えた。
おなじみの連絡帳。
嫌な予感。
俺は青ざめる。
「……来た」
サトシが覗き込む。
「え?なにそれ?」
俺は言った。
「見るな」
サトシは言った。
「なんで!?」
俺は言った。
「神が来る」
サトシは目を輝かせた。
「神!?また!?すげぇ!!」
俺は叫んだ。
「すげぇじゃねぇ!!!!」
画面表示。
【アルセウス:召喚】
俺は天を仰いだ。
「……お前、マジで暇だろ」
光。
空が割れる。
風が止まる。
森が静かになる。
アルセウス降臨。
サトシは叫ぶ。
「うおおおお!!また来た!!」
俺は言った。
「お前、感動してる場合じゃない」
アルセウスが言う。
『零』
『新たな主人公を追加する』
俺は固まった。
「……は?」
サトシは言った。
「追加って何?」
俺は言った。
「知らねぇよ」
アルセウスは続ける。
『この世界線は更新された』
『次世代の旅が始まる』
俺は叫んだ。
「アップデート感覚で世界線弄るな!!!!」
アルセウスは淡々と言った。
『会ってこい』
そして光が弾ける。
俺とサトシの視界が白く染まった。
目が覚めた。
……船の上。
潮風。
甲板。
空が青い。
俺は叫んだ。
「またかよ!!!!」
サトシは楽しそうに言った。
「すげぇ!船だ!!」
俺は言った。
「お前は楽しそうでいいな」
サトシは笑った。
「旅って楽しいだろ!」
俺は呟いた。
「……楽しいというか過酷」
甲板の端で、少女が空を見上げていた。
青がかった髪。
落ち着いた雰囲気。
制服っぽい服装。
そして、肩に小さなポケモン。
ニャオハ。
少女が振り返った。
「……え?」
目が合った。
リコ。
俺は直感した。
この子、普通の子に見えて。
多分、とんでもない世界に巻き込まれるタイプ。
サトシが前に出る。
「こんにちは!俺マサラタウンのサトシ!こっちはレイ!」
俺は言った。
「勝手に紹介すんな」
リコは戸惑いながら言った。
「……リコです」
ニャオハが警戒する。
「ニャオ……」
俺は言った。
「警戒心あるな」
サトシが言った。
「大丈夫だって!俺たち味方だ!」
リコは少し驚いた顔をした。
「……サトシ?」
「そのサトシ……?」
俺は思った。
(知名度バグってるな)
その時。
甲板の向こうから叫び声。
「うおおおおおお!!!」
次の瞬間。
少年が走ってきて、勢いよく転んだ。
帽子。
明るい笑顔。
目がキラキラ。
とにかく元気。
そして肩にはホゲータ。
ロイ。
俺は呟いた。
「……あ、増えた」
ロイは立ち上がって叫んだ。
「見て見て!!ホゲータ!!」
「この子、すっげーんだ!!」
ホゲータが「ホゲー!」と鳴く。
サトシが目を輝かせる。
「うおお!炎タイプか!」
ロイが叫ぶ。
「そう!!」
俺は思った。
(主人公の匂いが濃すぎる)
リコが小声で言った。
「……あなたたち、何者ですか?」
俺は言った。
「巻き込まれた被害者兼チュートリアルお兄さん」
サトシが言った。
「俺はポケモントレーナーだ!」
ロイが言った。
「俺もだ!!」
俺は言った。
「お前ら、会話のテンション合わせろ」
その瞬間。
空が曇った。
嫌な予感。
リコが顔を上げる。
「……え?」
ロイが言う。
「天気悪くなった?」
サトシが言う。
「嵐か?」
俺は言った。
「いや、これは……」
空に亀裂。
見覚えしかない。
神の演出。
俺は叫んだ。
「おい!!アルセウス!!!!!」
そして現れる光。
だが、降りてきたのはアルセウスじゃなかった。
黒い影。
異様な気配。
謎の飛行船が揺れる。
甲板に現れたのは――
黒い服の集団。
エクスプローラーズ。
俺は呟いた。
「……あー、悪の組織ね」
サトシが拳を握る。
「悪い奴らか!」
ロイが叫ぶ。
「やるぞホゲータ!!」
リコが震える。
「……ニャオハ……」
俺は言った。
「お前ら落ち着け」
サトシが言った。
「レイ!バトルだ!」
俺は言った。
「俺は休暇中だ」
サトシが言った。
「休暇!?」
俺は思った。
(またこの流れかよ)
エクスプローラーズの男が言った。
「そのペンダントを渡せ」
リコが驚く。
「……ペンダント?」
ロイが叫ぶ。
「なんだそれ!?」
サトシが言う。
「渡すな!」
俺は言った。
「……絶対渡すな」
リコは震えながらもペンダントを握りしめた。
「……渡しません」
俺は思った。
(強いなこの子)
敵がポケモンを出す。
リコが叫ぶ。
「ニャオハ!」
ロイが叫ぶ。
「ホゲータ!」
サトシが叫ぶ。
「ピカチュウ!」
甲板が戦場になる。
俺は頭を抱えた。
「……最悪だ」
でも、やるしかない。
俺は適当にボールを投げる。
「行け、ミュウツー」
次の瞬間。
空気が凍った。
敵が固まる。
「……は?」
リコもロイも固まる。
サトシだけが叫ぶ。
「うおおおおお!!!ミュウツーだ!!!」
俺は言った。
「叫ぶな」
ミュウツーが静かに浮かび上がる。
敵が震える。
ロイが目を輝かせる。
「え、なにそれ!?伝説!?」
俺は言った。
「伝説」
リコが小声で言う。
「……すごい……」
俺は呟いた。
「すごいのは神の嫌がらせだ」
戦闘は一瞬で終わった。
ミュウツーのサイコキネシスで敵が吹っ飛ぶ。
甲板が静かになる。
サトシが叫ぶ。
「レイ!やっぱお前すげぇ!!」
俺は言った。
「だから俺は休暇中だって言ってんだろ」
ロイが興奮して言う。
「ねぇねぇ!!俺もミュウツー欲しい!!」
俺は言った。
「多分無理」
リコは俺を見て言った。
「……あなた、何者なんですか?」
俺はため息を吐いた。
「……神に目をつけられた一般人」
リコが困惑する。
「神……?」
サトシが元気に言った。
「神っているんだぜ!」
ロイが叫ぶ。
「えええ!?神!?すげぇ!!」
俺は言った。
「すげぇじゃねぇ!!!!」
その夜。
船室。
リコとロイが向かいに座っていた。
サトシは元気に寝てる。
ピカチュウも寝てる。
主人公は寝るのも早い。
リコが静かに言った。
「……怖いです」
俺は頷いた。
「普通は怖い」
ロイが言った。
「でも、ワクワクする!」
俺は言った。
「お前は怖がれ」
ロイは笑った。
「えへへ!」
リコが俺を見て言った。
「零さんは……怖くないんですか?」
俺は少し黙った。
そして答えた。
「怖い」
「ずっと怖い」
リコが少し驚く。
俺は続けた。
「でも、慣れた」
リコは小さく笑った。
「……慣れたくないです」
俺は言った。
「慣れなくていい」
ロイが言った。
「じゃあ、俺が慣れさせない!」
俺は言った。
「お前が慣れろ」
リコはペンダントを握りしめながら言った。
「私、逃げたくないです」
ロイも言った。
「俺も!」
俺はため息を吐いた。
「……主人公って、なんでそうなんだよ」
リコが言った。
「主人公……?」
俺は言った。
「いや、気にするな」
でも。
この二人は確かに主人公だった。
サトシとは違う。
でも同じ。
眩しい。
強い。
怖いのに前に進む。
俺は思った。
(アルセウス、お前ほんと趣味悪いな)
でも同時に。
少しだけ思った。
(……こいつらなら、大丈夫かもしれない)
翌朝。
甲板。
ロイが叫ぶ。
「よーし!!行くぞ!!」
リコが頷く。
「……はい」
サトシが笑う。
「旅はこれからだ!!」
俺は呟いた。
「……俺の休暇はどこだ」
空の向こうで、雲が一瞬光った。
神の輪が見えた気がした。
絶対笑ってる。
俺は空に向かって言った。
「……お前、マジで覚えてろよ」
番外編9 完
(※八雲零はこの日、主人公が3人に増えた地獄を味わい、ツッコミ役としての運命を悟った)