――このルートは、騒音で死ぬ。
物理じゃない。
精神が。
鼓膜が。
そしてプライドが。
何より。
ツッコミが追いつかない。
イッシュ地方。
カノコタウン。
俺はいつものように立っていた。
チュートリアルお兄さん。
説明して、去るだけの存在。
今日も適当にやり過ごして、消える予定だった。
草むらが揺れる。
出てきたのは少女。
ツインテール。
元気そうな顔。
目がキラキラ。
そして、第一声が――
「ねえええええええええ!!!!!!!!!!」
俺はビクッとした。
「……は、はい」
少女は叫んだ。
「あなたが噂のチュートリアルお兄さん!?」
俺は固まった。
「……噂?」
少女は手をバン!と叩いた。
「そう!!八雲零!!」
「地方を跨いで出現して、事件に巻き込まれて、神と喧嘩して、連絡帳が女で埋まってるっていう!!!!」
俺は叫んだ。
「情報が一気に多い!!!!!!!!!!」
少女はニコニコ笑って言った。
「私、トウコ!」
「よろしく!」
俺は震えた。
(こいつ……絶対に厄介だ)
トウコは距離を詰めてきた。
「ねえねえねえ!」
「そのスマホ見せて!」
俺は即答した。
「嫌です」
トウコは言った。
「じゃあ見せてくれるまでついてく!」
俺は叫んだ。
「脅迫じゃねぇか!!!!!!!!!!」
トウコは笑った。
「交渉だよ!」
俺は叫んだ。
「交渉の意味辞書で引け!!!!!!!!!!」
トウコルートの特徴。
それは。
トウコがとにかくうるさい。
いや、うるさいだけじゃない。
会話が止まらない。
朝、目覚める。
トウコがいる。
「おはよー!」
昼、飯を食う。
トウコがいる。
「ねえねえ、それ何食べてるの!?」
夜、休もうとする。
トウコがいる。
「ねえ八雲さん!今日の感想言って!」
俺は叫んだ。
「お前は俺の生活に常駐してんのか!!!!!!!!!!」
トウコは胸を張った。
「そうだよ!」
俺は叫んだ。
「そうだよじゃねぇ!!!!!!!!!!」
ある日。
俺は耐えきれずに言った。
「……なぁトウコ」
トウコは即答した。
「なに!?」
俺は真剣に言った。
「少し静かにしてくれ」
トウコは固まった。
「……え?」
俺は言った。
「頼む」
トウコは、急に静かになった。
俺は内心で安堵した。
(通じた……)
だが次の瞬間。
トウコが叫んだ。
「ええええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?!?」
俺は叫んだ。
「静かにしろって言っただろ!!!!!!!!!!」
トウコは涙目で言った。
「だって!八雲さんが!私に!静かにしろって!!」
俺は叫んだ。
「そんな感動する場面じゃねぇ!!!!!!!!!!」
トウコは泣きながら言った。
「私、嫌われたのかと思った……!」
俺は即答した。
「嫌ってない!!!!!!!!!!」
トウコは目を輝かせた。
「じゃあ好き!?」
俺は叫んだ。
「話が飛びすぎだろ!!!!!!!!!!」
トウコは感情の起伏がジェットコースターだった。
落ち込む。
爆発する。
笑う。
怒る。
泣く。
笑う。
そして最後に、また叫ぶ。
俺は思った。
(この子、ポケモンバトルより精神戦が強い……)
中盤。
プラズマ団が動き出す。
Nが現れる。
レシラムとゼクロムの気配。
世界がまた面倒な方向へ向かう。
俺はため息をついた。
「……また伝説案件か」
トウコは拳を握る。
「行こう!」
俺は言った。
「お前、怖くないのか」
トウコは笑った。
「怖いよ!」
俺は頷いた。
「だよな」
トウコは続けた。
「でもね!」
「八雲さんが困ってる顔してる方が、もっと嫌!」
俺は固まった。
トウコは叫んだ。
「だから助ける!!!」
俺は思った。
(うるさいのに、真っ直ぐすぎる……)
そして事件の最中。
俺はついにスマホを落とした。
連絡帳が開く。
いつもの地獄。
ほぼ女。
ほぼ危険人物。
トウコはそれを見た。
目が丸くなった。
「……え?」
俺は青ざめた。
「違うんだ!!!!!!!!!!」
トウコは震えながら言った。
「え、なにこれ……」
「八雲さん……」
「これ、女の人ばっかり……」
俺は必死に言った。
「違うんだって!!」
「俺、彼女いないし!!」
トウコはゆっくり顔を上げた。
そして。
真顔で言った。
「……じゃあさ」
俺は嫌な予感がした。
「な、なんだよ」
トウコは言った。
「私も入れてよ」
俺は叫んだ。
「出たよこの流れ!!!!!!!!!!」
トウコは腕を組んで言った。
「だって私入ってないのおかしいじゃん」
俺は言った。
「何がおかしいんだよ!」
トウコは言った。
「だって私、主人公だよ?」
俺は叫んだ。
「その理屈便利すぎだろ!!!!!!!!!!」
俺は断った。
何度も断った。
だがトウコは諦めなかった。
「入れて」
「入れて」
「入れて入れて入れて入れて入れて入れて入れて入れて」
俺は叫んだ。
「壊れる壊れる壊れる!!!!!!!!!!」
そして、俺は折れた。
「……分かった」
トウコは満面の笑み。
「やった!!!!!」
俺は連絡帳に登録した。
その瞬間。
スマホが震えた。
光が走った。
嫌な予感しかしない。
そして表示された。
【トウコ:うるさい】
俺は叫んだ。
「公式が認めるな!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
トウコは目を輝かせた。
「え!?なにそれ!?なに!?なに!?」
俺は叫んだ。
「お前の属性だよ!!!!!!!!!!」
そこから、世界が変わった。
何が変わったか。
トウコの声が。
世界に干渉するようになった。
叫ぶだけでポケモンが驚く。
叫ぶだけで野生が逃げる。
叫ぶだけで悪の組織が耳を塞ぐ。
叫ぶだけで伝説が怯む。
俺は呟いた。
「……もしかして」
「お前、バトルより声が武器だろ」
トウコは笑った。
「えへへ!」
そして叫んだ。
「ねえ八雲さん!!!私すごい!!!?」
俺は叫んだ。
「うるせぇ!!!!!!!!!!」
終盤。
アルセウスが降りる。
空が裂ける。
いつもの神の圧。
俺は叫んだ。
「……またかよ!!!!!!!!!!」
アルセウスが言う。
『零』
『お前は選べ』
『神になるか、呪いに戻るか』
俺はため息をついた。
「もうそれ飽きたんだけど」
その瞬間。
トウコが前に出た。
アルセウスを見上げて――
叫んだ。
「うるさあああああああああああああい!!!!!!!!!!!!!!」
俺は固まった。
アルセウスも固まった。
空気が凍った。
トウコは叫び続ける。
「神とか呪いとか!!!!」
「八雲さん困らせるの!!!!」
「やめろおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
アルセウスが、初めて耳を塞いだ。
俺は叫んだ。
「効いてる!!!!!!!!!!」
アルセウスが言った。
『……やめろ……』
トウコは叫ぶ。
「やめるのはそっち!!!!!!!!!!」
俺は思った。
(このルート、物理で神を黙らせにいってる……)
そしてアルセウスが、折れた。
『……分かった』
『お前は厄介だ』
トウコは叫んだ。
「やった!!!!!!!!!!」
アルセウスが言った。
『零、お前の呪いを少し軽くしてやろう』
光が降りた。
スマホが震える。
連絡帳が勝手に更新される。
そして表示された。
【トウコ:黙ると死ぬ】
俺は叫んだ。
「呪い増えてんじゃねぇか!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
トウコは満面の笑み。
「えへへへへ!!」
俺は言った。
「笑ってる場合じゃねぇよ!!」
トウコは言った。
「だって嬉しいもん!」
俺は呟いた。
「……何が嬉しいんだよ」
トウコは、少しだけ静かに言った。
「八雲さんが、私を選んだこと」
俺は固まった。
その言葉だけは、叫びじゃなかった。
優しくて。
真っ直ぐで。
胸に刺さった。
俺は小さく呟いた。
「……うるさいくせに」
トウコは笑った。
「うるさいのが私だよ!」
俺は叫んだ。
「そこは自覚すんな!!!!!!!!!!」
最後。
イッシュの夕暮れ。
橋の上。
トウコが隣で叫んだ。
「ねえねえ八雲さん!!!」
俺は言った。
「……何だよ」
トウコは言った。
「私、八雲さんのこと好き!!」
俺は叫んだ。
「急に告白すんな!!!!!!!!!!」
トウコは笑った。
「だって言いたかったもん!」
俺はため息をついた。
「……もう勝手にしろ」
トウコは目を輝かせた。
「え!?それってオッケー!?!?」
俺は叫んだ。
「違う!!!!!!!!!!」
トウコは笑って走り出した。
「じゃあこれからもよろしくね!!!!」
俺は頭を抱えた。
このルートは地獄だ。
静寂がない。
心の休みがない。
でも。
不思議と。
嫌じゃなかった。
だってこの騒音は。
誰かが一人にならないための騒音だったから。
トウコルート 完
(※このルートの八雲零は「うるさい」という名の救済を押し付けられる)