――このルートは、優雅に死ぬ。
セレナは叫ばない。
追いかけ回さない。
脅迫もしない。
ただ。
笑顔で。
礼儀正しく。
可愛く。
上品に。
逃げ道を消す。
カロス地方。
ミアレシティ。
俺はポケモンセンターのソファで、死んだ目をしていた。
「……カロス、オシャレすぎて居心地悪い」
俺みたいな人生落としてる男がいていい場所じゃない。
その時。
香水みたいな匂いがした。
顔を上げる。
そこにいたのは――
セレナ。
綺麗な髪。
柔らかい笑顔。
そして、完璧な所作。
俺は反射的に言った。
「……あ、こんにちは」
セレナはにっこり笑った。
「こんにちは、八雲さん」
俺は固まった。
「……なんで俺の名前」
セレナは首を傾げる。
「え?」
「当然知ってますよ?」
俺は震えた。
(当然知ってるが怖いんだよ!!!!)
セレナはゆっくり座って、紅茶を出した。
……なぜ紅茶がある?
俺は突っ込む前に悟った。
(こいつ、準備してきてる)
セレナルートの特徴。
それは。
セレナが「正面から奪う」ことだ。
ヒカリみたいに固定じゃない。
メイみたいに管理者じゃない。
ハルカみたいに正妻宣言もしない。
トウコみたいに叫ばない。
でも。
セレナは確実に。
“彼女枠”を取る。
奪う。
上品に。
静かに。
完璧に。
セレナは言った。
「八雲さん、最近お疲れですよね」
俺は言った。
「疲れてない」
セレナは微笑んだ。
「嘘」
俺は固まった。
セレナは続ける。
「八雲さん、嘘が下手なんですね」
俺は思った。
(またこのタイプか……)
セレナは優しく言った。
「無理しなくていいんですよ」
俺はため息をついた。
「……お前、なんなんだよ」
セレナは首を傾げる。
「私はセレナです」
俺は言った。
「そうじゃなくて」
セレナは微笑んだ。
「八雲さんを心配してるだけですよ」
俺は思った。
(怖い……優しいのに怖い……)
数日後。
俺はカロスを歩いていた。
ミアレの街。
カフェ。
おしゃれな通り。
俺は完全に浮いていた。
そこにセレナが現れる。
「八雲さん」
俺は言った。
「……また偶然か」
セレナは微笑む。
「偶然です」
俺は叫びそうになった。
(絶対嘘だろ!!!!!!!!!!)
セレナは腕を組むように、自然に俺の隣に立った。
「今日は、どこに行くんですか?」
俺は言った。
「どこでもいい」
セレナはにっこり笑う。
「じゃあ、私が決めますね」
俺は言った。
「いや俺が――」
セレナは言った。
「カフェに行きましょう」
俺は言った。
「話聞け!!!!!!!!!!」
セレナは「デート」を日常にする。
断れない形で。
断ると悪者になる形で。
断っても結局連れて行かれる形で。
俺が逃げようとしたら、セレナは笑って言う。
「大丈夫ですよ」
「八雲さんが嫌なら、無理に誘いません」
俺はホッとする。
次の瞬間。
「じゃあ、ついてきてくださいね」
俺は叫ぶ。
「誘ってるだろ!!!!!!!!!!」
セレナは笑う。
「誘ってませんよ?」
俺は頭を抱えた。
(この子、言葉遊びが上手すぎる……)
ある日。
俺はついにスマホを落とした。
連絡帳が開く。
女の名前がずらり。
いつもの地獄。
セレナはそれを見た。
目を丸くする。
だが、すぐに笑った。
「……ふふ」
俺は青ざめた。
「笑うな!!!!!!!!!!」
セレナは優しく言った。
「ごめんなさい」
「でも」
「八雲さん、モテるんですね」
俺は叫んだ。
「モテてねぇ!!!!!!!!!!」
セレナは首を傾げる。
「え?」
「だって、こんなに連絡先が」
俺は言った。
「それは呪いだ」
セレナは微笑んだ。
「呪いでも、縁ですよ」
俺は思った。
(こいつ、ポジティブの皮を被った支配者だ……)
セレナは静かに言った。
「八雲さん」
「この中に、好きな人はいるんですか?」
俺は固まった。
「……は?」
セレナは微笑んだ。
「答えてください」
俺は言った。
「いない」
セレナはにっこり笑った。
「じゃあ」
「私が入りますね」
俺は叫んだ。
「何でそうなる!!!!!!!!!!」
俺は拒否した。
だがセレナは怒らない。
泣かない。
叫ばない。
ただ静かに微笑む。
「分かりました」
「無理にお願いしません」
俺は安心する。そしてその夜。
スマホが勝手に震えた。
通知。
連絡帳更新。
俺は嫌な予感しかしなかった。
画面を見る。
【セレナ:恋人候補(暫定)】
俺は叫んだ。
「暫定ってなんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
次の通知。
【暫定が正式になりました】
俺は叫んだ。
「勝手に決定すんな!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
セレナは隣で紅茶を飲みながら、穏やかに言った。
「よかったですね」
俺は叫んだ。
「よくねぇ!!!!!!!!!!」
セレナは微笑んだ。
「八雲さん、嬉しくないですか?」
俺は言った。
「嬉しいわけないだろ」
セレナは小さく笑った。
「ふふ」
俺は震えた。
(こいつ……絶対に勝つやつだ)
セレナルート中盤。
カロスの事件。
フレア団。
フラダリ。
世界の美しさを守るとかいう狂気。
いつもの地獄。
俺は頭を抱えた。
「……美しさとかどうでもいいんだよ」
セレナは微笑んだ。
「八雲さんは、美しいですよ」
俺は叫んだ。
「急に何言ってんだよ!!!!!!!!!!」
セレナは首を傾げる。
「事実です」
俺は思った。
(こわ……)
終盤。
アルセウスが降りる。
空が裂ける。
いつもの神。
俺は叫んだ。
「またかよ!!!!!!!!!!」
アルセウスが言う。
『零』
『お前は選べ』
『神になるか、呪いに戻るか』
俺はため息をつく。
「もう聞き飽きた」
セレナが前に出た。
アルセウスを見上げ、礼儀正しく頭を下げた。
「神様」
アルセウスが沈黙する。
セレナは静かに言った。
「八雲さんを、これ以上困らせないでください」
アルセウスが言う。
『運命だ』
セレナは微笑んだ。
「運命なら」
「私が、上書きします」
俺は叫んだ。
「また上書き系主人公!!!!!!!!!!」
セレナは続けた。
「八雲さんの人生は」
「八雲さんのものです」
「でも」
「八雲さんが自分を大事にできないなら」
「私が代わりに大事にします」
俺は凍った。
アルセウスが静かに言う。
『……強欲な娘だ』
セレナは微笑んだ。
「はい」
「欲しいものは、手に入れたいので」
俺は叫んだ。
「正直すぎる!!!!!!!!!!」
光が降りる。
スマホが震える。
連絡帳が勝手に更新される。
画面に表示された。
【セレナ:正式】
俺は叫んだ。
「正式って何だよ!!!!!!!!!!」
セレナは微笑んだ。
「正式な恋人、ですよ」
俺は叫んだ。
「俺の同意は!?!?!?!?!?!?」
セレナは首を傾げる。
「嫌でしたか?」
俺は言葉を失った。
嫌だと言えば、俺が悪者になる。
嫌じゃないと言えば、負ける。
どっちでも負ける。
俺は思った。
(このルート、詰みだ……)
最後。
ミアレの夜景。
街の光。
セレナは隣で、静かに笑っていた。
「八雲さん」
「これからも、一緒に歩きましょう」
俺は呟いた。
「……勝手に決めるな」
セレナは微笑んだ。
「勝手じゃありません」
「八雲さんも、歩いてるから」
俺は言葉を失った。
確かに。
俺は止まってない。
逃げてない。
隣にいる。
セレナは小さく言った。
「私、待つの得意なんです」
「八雲さんが、ちゃんと好きって言うまで」
俺は叫んだ。
「待つの得意なやつが正式にすんな!!!!!!!!!!」
セレナはくすっと笑った。
「ふふ」
「待ちますけど」
「逃がしませんよ」
俺はため息をついた。
このルートは、優雅な地獄。
でも。
なぜか心が折れない。
きっとセレナが。
地獄を“綺麗に整えてくれる”からだ。
それが救いか呪いかは。
俺にはまだ分からない。
セレナルート 完
(※このルートの八雲零は「上品な独占欲」によって逃げ道を封じられる)