――このルートは、静かに危険だ。
何が危険かって。
俺の理性が危険。
ショウは、静かだ。
無口。
冷静。
クール。
感情をあまり表に出さない。
でも、その分。
たまに見せる反応が、全部致命傷になる。
しかも顔が――
ヒカリに似すぎてる。
それが本当に、まずい。
俺の脳がバグる。
シンオウ地方。
どこかの山道。
雪が積もっていた。
俺はため息を吐く。
「……寒い」
この地方、寒すぎる。
しかも俺の人生、基本的に寒い。
心も財布も運命も。
そんなことを考えていた時だった。
雪道の向こうから、誰かが歩いてきた。
コートを着た少女。
黒髪。
長めの前髪。
そして、顔。
俺は立ち止まった。
「……ヒカリ?」
その少女は、冷たく言った。
「違う」
俺は固まった。
「……え?」
少女は短く言った。
「ショウ」
俺は言った。
「……いや、男の名前じゃね?」
ショウは目を細めた。
「うるさい」
俺は思った。
(ヒカリっぽい顔でその冷たい態度、破壊力やばいだろ)
ショウは俺を見て言った。
「あなたが八雲零?」
俺は言った。
「……そうだけど」
ショウは頷いた。
「噂は聞いてる」
俺は言った。
「噂って何」
ショウは淡々と答えた。
「神に絡まれてる人」
俺は言った。
「やめろ」
ショウは言った。
「事実」
俺は思った。
(こいつ、口数少ないのに刺してくるタイプか)
その後。
なぜか俺はショウと一緒に歩いていた。
理由?
ない。
ただ、雪道で一人は危険だし。
何より――
こいつ放っておいたら死にそうだった。
ショウは足元を見ながら言った。
「……滑る」
俺は言った。
「気をつけろよ」
ショウは言った。
「言われなくても分かってる」
俺は言った。
「……はいはい」
数秒後。
ショウが滑った。
「……っ」
俺は反射で腕を掴む。
ショウは一瞬だけ目を見開いた。
「……」
俺は言った。
「ほらな」
ショウは小さく言った。
「……ありがとう」
俺は固まった。
(やばい、今の破壊力)
しばらく歩いていると、ショウが言った。
「……あなた」
俺は言った。
「なんだよ」
ショウは言った。
「顔、疲れてる」
俺は言った。
「余計なお世話だ」
ショウは言った。
「余計じゃない」
俺は言った。
「なんでだ?」
ショウは淡々と言う。
「あなたが倒れたら、困る」
俺は言った。
「……俺が?」
ショウは頷いた。
「この世界が」
俺は思った。
(おいおい、急に重いこと言うな)
その時。
雪が強くなった。
吹雪。
視界が悪い。
俺は言った。
「……やべぇな」
ショウは言った。
「避難するべき」
俺は言った。
「分かってる」
だが次の瞬間。
ショウがふらついた。
俺は咄嗟に支える。
「おい!」
ショウは小さく言った。
「……寒い」
俺は思った。
(こいつ、無理してたな)
俺はため息を吐いて言った。
「……しゃーねぇ」
ショウは言った。
「何」
俺は言った。
「おんぶする」
ショウは目を見開いた。
「……は?」
俺は言った。
「このままだと凍死する」
ショウは言った。
「歩ける」
俺は言った。
「歩けてねぇだろ」
ショウは言った。
「……」
俺は背中を向けた。
「ほら」
ショウはしばらく黙っていたが、やがて小さく言った。
「……失礼します」
そして、背中に乗った。
俺は固まった。
(軽い)
(細い)
(近い)
(しかも……何かすごくいい匂いするんだけど)
俺の脳が混乱する。
吹雪の中。
俺はショウを背負って進む。
ショウは背中で小さく言った。
「……あなた」
俺は言った。
「何だよ」
ショウは言った。
「慣れてるね」
俺は言った。
「こういうのはな」
ショウは言った。
「女の子をおんぶするの」
俺は足を滑らせた。
「っ!!」
俺は叫んだ。
「急に何言ってんだよ!!」
ショウは淡々と言った。
「事実」
俺は言った。
「事実じゃねぇよ!!」
ショウは小さく言った。
「……ふふ」
俺は固まった。
今。
笑った?
笑ったよな?
俺の背中で。
やばい。
このルート、やばい。
避難小屋。
俺は中に入ってショウを下ろす。
ショウはコートを握りしめて言った。
「……ありがとう」
俺は言った。
「礼言うな」
ショウは言った。
「言う」
俺は思った。
(礼言われると逆に恥ずい)
火を起こす。
少し暖かくなる。
ショウは俺をじっと見て言った。
「……あなたは」
俺は言った。
「なんだよ」
ショウは言った。
「優しいね」
俺は固まった。
「……は?」
ショウは言った。
「優しくない人は、背負わない」
俺は言った。
「……うるせぇ」
ショウは少しだけ目を細めた。
「照れてる」
俺は叫んだ。
「照れてねぇ!!」
その時。
俺のスマホが震えた。
連絡帳。
嫌な予感。
俺は顔をしかめた。
「……来た」
ショウは言った。
「見て」
俺は言った。
「……お前まで言うな」
ショウは言った。
「逃げたら後悔する」
俺は思った。
(こいつ、妙に核心つくな)
俺はスマホを開く。
通知。
【アルセウス:呼び出し】
俺はため息を吐いた。
「……最悪」
ショウは静かに立ち上がった。
「行くの?」
俺は言った。
「行きたくねぇ」
ショウは言った。
「でも行く」
俺は言った。
「……そうだな」
ショウは淡々と告げた。
「私も行く」
俺は言った。
「は?」
ショウは言った。
「あなた一人は危ない」
俺は言った。
「いやお前も危ないだろ」
ショウは言った。
「私は平気」
俺は言った。
「根拠は」
ショウは少しだけ笑った。
「あなたがいるから」
俺は固まった。
(やめろ)
(その顔で言うな)
(ヒカリの顔で言うな)
空が割れる。
吹雪が止まる。
光が降りる。
アルセウスが現れる。
『零』
『またお前か』
俺は言った。
「こっちのセリフだ」
アルセウスが視線をショウに向ける。
『……私が送った人間か。』
ショウは一歩前に出た。
「そう」
アルセウスが言う。
『それはそうと、人間が口を出すな』
ショウは淡々と返した。
「口を出す」
俺は思った。
(強いなこの女)
ショウは言った。
「あなたが神なら」
「神らしくして」
アルセウスが沈黙する。
ショウは続ける。
「彼は、十分頑張った」
「これ以上試すなら」
「私が許さない」
俺は固まった。
(何言ってんだこの子)
(かっこよすぎるだろ)
アルセウスが低く笑う。
『……面白い』
光が降りる。
スマホが震える。
連絡帳が更新される。
【ショウ:同行】
俺は呟いた。
「……同行?」
ショウは言った。
「当然」
俺は言った。
「当然じゃねぇ」
ショウは言った。
「当然」
俺は思った。
(こいつ、コウキ系統だな)
夜。
避難小屋に戻る。
ショウは焚き火を見ながら言った。
「……零」
俺は言った。
「呼び捨てすんな」
ショウは言った。
「あなたは、逃げすぎ」
俺は言った。
「逃げてねぇ」
ショウは言った。
「逃げてる」
俺は言った。
「……うるせぇな」
ショウは俺を見て言った。
「逃げてもいい」
「でも、一人で逃げないで」
俺は固まった。
ショウは続ける。
「私は」
「あなたを置いていかない」
俺は息を止めた。
それは、恋じゃない。
でも。
それ以上に重い。
この子はたぶん。
自分が壊れても、俺を支える。
そんな目をしていた。
俺は小さく言った。
「……勝手にしろ」
ショウは小さく笑った。
「うん」
このルートは危険だ。
ショウは静かで、冷たいのに。
俺の心を溶かしてくる。
無口なのに。
言葉が全部、刺さる。
そして何より。
このルートの最大の問題は――
俺が、彼女を守りたくなってしまうこと。
それが一番、戻れない。
ショウルート 完
(※このルートの八雲零は、振り回されながら、初めて“守る理由”を持つ)