――このルートは、優しい。
優しいのに。
容赦がない。
なぜならリーフは、明るい。
眩しい。
強い。
そして、何より。
「全部分かってる顔」で、平然と笑うからだ。
レッドでもない。
グリーンでもない。
でも、カントーを支えたもう一人の主人公。
その存在感は、旅の途中で出会った程度じゃ済まない。
俺はリーフを、絶対に本編に入れられなかった。
理由は簡単。
こいつが出てきた瞬間。
物語が「恋愛」になるからだ。
カントー地方。
タマムシシティ。
夕暮れの大通り。
俺はコンビニみたいな店の前で、紙パックの飲み物を飲んでいた。
「……はぁ」
静かだ。
事件もない。
神もいない。
悪の組織もいない。
レッドもいない。
完璧だ。
……そう思った瞬間。
「ねえ」
背後から声がした。
女の声。
明るい。
軽い。
でも、芯がある。
俺は嫌な予感がして振り返った。
そこにいたのは――
帽子。
長い髪。
自信満々の笑顔。
カントーの空気をそのまま形にしたような女。
リーフ。
俺は固まった。
「……え」
リーフは笑った。
「久しぶり!……って言ったら驚く?」
俺は言った。
「驚く」
リーフは笑った。
「だよね!」
俺は言った。
「いや、待て」
「俺、お前に会ったことない」
リーフは首を傾げた。
「そう?」
俺は言った。
「そうだよ」
リーフはニコッと笑った。
「じゃあ今会ったね」
俺は思った。
(強引すぎる)
リーフは俺の隣に立ち、紙パックを覗き込んだ。
「それ、何飲んでるの?」
俺は言った。
「ミックスオレ」
リーフは言った。
「へー!いいね!」
そして、俺の顔をじっと見た。
「……ねえ」
俺は言った。
「なんだよ」
リーフは言った。
「あなた、旅してる人?」
俺は言った。
「まあな」
リーフは言った。
「ただの旅人じゃないでしょ」
俺は固まった。
俺の世界では、こういうのが始まると碌なことがない。
リーフは笑って続けた。
「顔がさ」
「“いろんなこと知ってる顔”してる」
俺は言った。
「……それ、褒めてんのか?」
リーフは言った。
「褒めてる!」
「でも、同時に」
リーフは少しだけ声を落とす。
「めちゃくちゃ疲れてる顔」
俺は視線を逸らした。
この手の女は厄介だ。
直感が鋭い。
そして何より。
優しさが、まっすぐ過ぎる。
リーフは突然言った。
「ねえ、バトルしよ!」
俺は言った。
「は?」
リーフは言った。
「バトル!」
俺は言った。
「いや、なんで」
リーフは笑った。
「だって、話すより早いじゃん!」
俺は思った。
(カントーって、こういう文化だったっけ……?)
でも。
断っても無駄だと悟った。
この女は、レッドとグリーンの間にいた人間だ。
常識が「バトル」側に寄っている。
そしてバトル。
リーフのポケモンは強かった。
強いだけじゃない。
判断が速い。
手持ちのバランスが完璧。
技構成がいやらしい。
何より。
楽しそうに戦う。
俺は思った。
(この女、チャンピオン級だろ)
俺が勝った瞬間。
リーフは負けたのに笑った。
「うわー!強い!」
俺は言った。
「お前も強い」
リーフは言った。
「でしょ?」
俺は思った。
(負けてるのにドヤ顔すんな)
リーフは手を腰に当てて言った。
「じゃあ決まりね」
俺は言った。
「何が」
リーフは笑った。
「あなた、私と旅しなさい」
俺は固まった。
「……は?」
俺は言った。
「いやいやいや」
「俺は一人でいい」
リーフは言った。
「ダメ」
俺は言った。
「なんで」
リーフは言った。
「あなた、絶対一人で潰れるタイプだもん」
俺は言った。
「余計なお世話だ」
リーフは笑った。
「余計なお世話するのが私の趣味!」
俺は叫んだ。
「最悪!!!!!!!!!!」
リーフは笑いながら言った。
「最高でしょ!」
俺は思った。
(こいつ、メンタルが太陽すぎる)
数日後。
俺は気づいた。
リーフは、普通に距離が近い。
近すぎる。
肩に寄りかかる。
腕を組む。
髪をいじる。
何気なく触れてくる。
そして言う。
「ねえ、レイ」
俺は言った。
「……呼び方が軽い」
リーフは言った。
「軽い方がいいじゃん!」
俺は言った。
「よくない」
リーフは言った。
「よくなるよ」
俺は思った。
(こいつ、強引さが神レベルだな)
ある夜。
ポケモンセンターの前。
俺はベンチでぼんやりしていた。
リーフが隣に座る。
「ねえ」
俺は言った。
「なんだよ」
リーフは言った。
「あなたってさ」
「すごいこといっぱいしてるでしょ」
俺は言った。
「……してない」
リーフは言った。
「してる」
俺は黙った。
リーフは続けた。
「でも、誰にも褒められてない顔してる」
俺は固まった。
リーフは笑って言った。
「だから私が褒めるね」
俺は言った。
「……いらねぇ」
リーフは言った。
「いらないって言う人ほど、必要なんだよ」
俺は思った。
(こいつ、何者だよ)
その瞬間。
スマホが震えた。
嫌な予感。
連絡帳。
悪の組織。
伝説。
神。
呪い。
そして。
――レッド。
俺は顔を青くした。
「……最悪だ」
リーフが覗き込んだ。
「なにそれ」
俺は言った。
「見るな」
リーフは真顔で言った。
「……ねえ」
「これ、全部あなたが関わってるの?」
俺は黙った。
リーフは言った。
「うそでしょ」
俺は言った。
「本当だよ」
リーフは沈黙した。
数秒。
そしてリーフは、笑った。
「なにそれ」
「めっちゃ面白いじゃん」
俺は叫んだ。
「面白くねぇよ!!!!!!!!!!」
リーフは言った。
「面白いよ!」
「だってあなた、生きてるんだもん」
俺は固まった。
リーフは続ける。
「そんなの、すごいじゃん」
俺は思った。
(こいつ……価値観が違いすぎる)
その夜。
リーフが言った。
「レイ」
俺は言った。
「……なんだよ」
リーフは言った。
「私ね、レッドもグリーンも知ってる」
俺は言った。
「……知ってるだろうな」
リーフは言った。
「二人とも、すごいよ」
「強いし、かっこいいし」
俺は黙る。
リーフは続けた。
「でもね」
その声が、少しだけ真剣になった。
「あなたの方が、ずっと怖い」
俺は固まった。
リーフは言った。
「あなたってさ」
「強いのに、全然自分を大事にしない」
俺は息を止めた。
リーフは言った。
「だから私が、あなたを大事にする」
俺は言った。
「……余計なお世話だ」
リーフは笑った。
「うん」
「余計なお世話!」
俺は思った。
(こいつ、笑いながら心に刺してくる……)
最後。
タマムシの夜景。
屋上。
風が気持ちよかった。
リーフが隣で言った。
「ねえ、レイ」
俺は言った。
「……何」
リーフは笑って言った。
「好き」
俺は固まった。
「……は?」
リーフは言った。
「好き!」
俺は言った。
「急すぎるだろ」
リーフは笑った。
「急じゃないよ」
「最初から決まってた」
俺は呟いた。
「……何が」
リーフは言った。
「あなたが、私の旅の相棒になること」
俺は言った。
「相棒で済むのか、それ」
リーフは首を傾げた。
「うーん」
「相棒でいいし」
「恋人でもいいし」
「家族でもいいよ」
俺は叫んだ。
「範囲広すぎだろ!!!!!!!!!!」
リーフは笑った。
「全部まとめて、私のもの!」
俺は呟いた。
「……やっぱ最悪だ」
リーフはニコッと笑う。
「うん、最悪!」
「でもさ」
そして、真剣に言った。
「あなたが逃げても」
「私、絶対見つけるよ」
俺は思った。
(レッドより怖い)
リーフは笑った。
「だって私、カントーの女だもん!」
俺はため息をついた。
このルートは、終わりじゃない。
始まりだ。
逃げても追われる。
隠れても見つかる。
諦めても、許されない。
でも。
その眩しさが。
俺の呪いを、少しずつ薄めていく。
そんな気がした。
リーフルート 完
(※このルートの八雲零は「太陽」みたいな女に連れ去られて、人生を取り戻す)
GW初日からの日課はこれです