結局、第三次世界大戦なんてしなくても人類は滅ぶんですよ
スギ花粉によって



だから今すぐ世界中の杉の木を切り倒せ
今ならまだ間に合う





※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
※本作品はなろう、カクヨムにも投稿しています。

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書き置き

 誰に向けた書き置きってわけでもないけど、こういうことは残しておくべきだと思ったんだ。

 

 別にこれを読んだ奴にどうこうしてほしいってわけじゃない。だってこれが読まれる頃には俺を含めてみんな死んでるんだろうしな。

 

 そんで、この書き置きを見つけたあんたはまずこう思うと思う。

 

 この星で何があったんだ? ってな。

 

 くどくど言ってもしょうがないし、結論から言おう。

 

 俺たちはスギ花粉に滅ぼされたんだ。これを読んでるのが宇宙人かどうかは分からないが、たぶんあんたらが踏んでる地面はほぼ全部スギ花粉だから、足元の地面の黄色い部分を(すく)い取って調べてみてくれ。

 

 そもそもこれ読めるのか? まぁ、そんなこと考えたってどうしようもないか。

 

 正直、こうして書き置きを書いている間もこんな現状を受け入れきれずにいる。

 

 俺はいまガスマスクを付けて、地下シェルターの拡張工事から抜け出してこれを書いている。ちなみにガスマスクは粉塵対策じゃない。花粉対策だ。

 

 地下300mだぞふざけんな。

 

 すまない、つい言葉が荒くなった。ちくしょう、ペンだから消せねぇ。まいいか。

 

 兎にも角にも、スギ花粉で世界が滅ぶなんてのはあまりにもしょうもないことなんだ。

 

 俺はてっきり、世界は戦争だとか核だとか自然災害だとか。それかもっと他の......例えば隕石とかで滅ぶもんだと思ってた。

 

 だって、世界の終わりっていったらそんなもんだ。小説でも、漫画でも、映画でも。なんでもいいけど、世界の終わりってのはそういうモンで訪れるんだと描かれてた。

 

 そう思って、それ以外の可能性なんてあまり考えたことはなかった。

 

 同時に、俺が生きてる間にまさか世界が終わるなんてことも一ミリも考えてなかった。そんな簡単に世界は滅ぶもんじゃないって、出来の悪い終末モノの映画を見ながら笑ってた。

 

 でも、現実問題世界は滅んだ。しかもスギ花粉で。

 

 俺たちは樹木達の年中無休ぶっ通し乱交パーティに巻き込まれて絶滅するんだ。

 

 あんまりだ。

 

 とはいえ俺は運が良かった。貯金はそれなりにあったし、最初に被害を受けた首都からは離れた位置に住んでたからな。

 

 ただ、具体的にどこから始まったかは知らない。TVで12月なのに花粉が飛んでるって聞いた時は遂に温暖化もここまで来ちまったか、なんて思って特に深く考えはしなかった。

 

 もしこの時、花粉の発生源を特定して、原因の杉を切り倒したらあの大惨事は免れたんだろうか。確かにあの時は誰もこんなことになるなんて思わなかったし、ネットだって誰一人としてそこまで深刻な見方はしてなかった。

 

 みんな慣れちまってたんだ。毎年何かしらの異常気象は起きてたし、そんなことよりもみんな国際情勢の方が気になってた。

 

 大国同士が睨み合ってて、TVもネットも情勢の予測に忙しかったんだ。

 

 でもあの日、首都から中継された映像は核とか戦争への恐怖とか、そういうのを吹き飛ばしちまった。

 

 首都に、積もってたんだ。花粉が。

 

 速報としていつもの情勢に関する討論番組が突然切り替わって、黄色いカーペットに包まれた首都の交差点を映し出した。

 

 雪が降ってるみたいに黄色い粒が空から落ちて来てて、ガキのころ教科書で見た黄砂とそっくりに見えた。

 

 いつも人で溢れてた交差点が、ああも閑散としているのは初めて見た。車は走ってたが、外を出歩く人はほんとに数えられる程度で、みんな何層も重ねたマスクとスキーで使うようなゴーグルを身に着けて目鼻口を保護してた。

 

 現地のニュースキャスターも似たような装備をしてたから、音声は全く聞き取れなかったな。インタビューとかもしてたけど、みんな応えようとしないか応えてもニュースキャスターと同じで聞き取れなかったよ。

 

 とはいえ、異常事態だってことはみんなが認知した。

 

 ネットも中断された討論番組も黄砂みてぇな花粉の話で沸騰して、これはヤバイとみんなが思い始めたのもこの頃からだろう。

 

 政府は少し遅れて不要不急の外出自粛を控えるよう勧告を行った。

 

 外出禁止でもいいレベルの花粉だとは思ったんだが、なんせ突然のことだったからな。みんな引き籠る準備をするためにも外に出ないといけなかったし、そもそも引き籠れない可哀想な奴も多かった。

 

 俺は首都からは相当離れた所に住んでたが、首都がまっ黄色になる頃には既に花粉が飛び始めてた。なんなら寒冷地だったのに。

 

 俺は僅かに持ち合わせてた薬を飲んで症状を抑えたけど、それでも抑える程度だ。ネッ友も隣人も薬飲んでるのに鼻水とくしゃみと目の痒みが止まらないって嘆いてた。

 

 しかもみんな鼻が完全に詰まっちまって。口呼吸ばっかするもんだから口臭が社会問題になった。

 

 しょーもねー。

 

 そんなくだらない問題が出始めた頃。政府が対応に悩んでいるうちに、花粉の嵐は瞬く間に広がっていった。

 

 まず首都圏が機能不全に陥った。

 

 特に首都の中心地じゃ3mも花粉が積もり始めていて、そもそも外出自体出来なくなった。ほとんどの住人は20cmくらい積もり始めた辺りで首都から逃げ出したみたいだが、金が無いとか、脱出しても寄る辺が無いとか。そういう奴らがたくさん残ってた。

 

 そんで、残された奴らの救出に軍隊まで出動する事態になった。

 

 救出された奴らは......それはもう本当に酷い有り様だった。みんな目の周りが擦り切れてた。たぶん、目が痒すぎて、擦り過ぎたんだろう。ヤバイ奴なんかは目ん玉が切れてた。文字通り......。

 

 口呼吸しか出来ないから、口から花粉が無限に入ってきて、喉に花粉が張り付いている奴もいた。そういう奴は呼吸するだけでも苦しそうにしてて、くしゃみのし過ぎと咳のし過ぎで良く血を吐いてるのを見た。

 

 一度、そんな状態の喉の写真を見たことがある。あれは惨い。喉が黄色く変色してて、ウニでも丸呑みしたのかってくらいズタズタに切り裂かれてた。

 

 ああはなりたくない。

 

 ともあれ、首都から脱出した奴らも結局首都圏外、地方へと。避難に次ぐ避難を余儀なくされ、その度にふるいに掛けられるかのように取り残される奴がでてきた。

 

 残された奴らも徒歩か車で花粉から逃げようとして、高濃度の花粉に呑み込まれていった。

 

 逃げれなかった奴はみんな目ん玉を擦り過ぎて切っちまって失明するか。それとも目ん玉が花粉に覆われて失明するかして、収まらないくしゃみと咳で呼吸困難になって死んだ。

 

 致死的な濃度の花粉がどんどん拡大していくと、流石の政府も市民の強制避難とかをやり始めた。俺も含めて多くの人々が遠くへ、遠くへと逃げ続けていった。でも、国全体が黄色く染まり始めて遂に国外逃亡するしかなくなっちまった。

 

 幸い俺たちの国は島国で、流石の花粉も海は渡れないだろうって。そん時はそう思ってた。

 

 政府のお偉いさんが必死に諸外国に頭を下げて、俺たちはなんとか国外へと逃げることが出来た。

 

 これで終わりだって。みんなそう信じて疑わなかった。新しい土地で不安も大きかったが、それぞれ頑張っていこうって。みんな、あの地獄は忘れ去ろうとしてたんだ。

 

 だが花粉は逃がさなかった。花粉は海を渡った。空が黄色く色付き始めると、科学者たちは成層圏付近に花粉の層が出来てるって分析した。

 

 狂ってる。俺たちは逃げても逃げても花粉に追い回されたんだ。

 

 世界中で花粉が降り始めて、どんどん人が死んでいった。人だけじゃない。動物だってくしゃみと咳で死んでいった。

 

 理屈は良く分からないが、植物まで枯れ始めた時。俺たちは世界の終わりを覚悟した。

 

 そりゃもうまぁ......世界中大パニックさ。特に自分らには関係ないって高を括ってた諸外国の奴ら。あいつらの慌てぶりと言ったらもう笑いもんだ。

 

 ってか、あいつらパニックになるとすぐ街を破壊するんだ。俺の行き着けだったパン屋もぶっ壊された。正気か? 勘弁してくれ。

 

 ......今となっちゃそれすら懐かしいがな。

 

 地下シェルターの建築が始まってからは幾らか落ち着いてきた。相変わらずどいつもこいつもくしゃみが止まらなかったが、地下に退避してからは流石の花粉もほぼ来なくなったからな。

 

 それから半年くらいはわりと平和だった。ただ、半年を過ぎてからは永遠に続くようにも思える密閉された地下での生活で、気の狂う奴が出始めた。

 

 これに関しては当然だろうな。分厚いコンクリで囲まれた地下シェルターにネットなんか繋がれてないから、外の情報が一切入ってこないんだ。飯はほぼ栄養を取るだけで全く美味しくないし、娯楽も少ない。

 

 そんな状態でも、俺たちは無駄に足掻いて地下シェルターの中で生き残り続けた。

 

 人類ってのは悪あがきが好きだよな。まんまポストアポカリス物の展開だ。地上は完全に花粉で覆い尽くされてて、生き物の住める土地じゃなくなってるのに。俺たちはずっとずっと生き残る為に行動を続けてる。

 

 ある日、どこからか花粉が侵入してきても、こうして最初は数十m程度の深さしかなかった地下シェルターを300mにまで掘り下げて......そんで、まだまだ掘り続けてる。

 

 なんで花粉が侵入してきたかは分からない。空気は二酸化炭素を酸素にリサイクルして循環させて作ってるから、空気を取り入れる為の通気口すら無い。

 

 なのに花粉は侵入してきたんだ。完全に密閉されたこの地下シェルターに。完璧だった人類最後の生存圏に。

 

 最近はもうガスマスクが手放せない。寝る時もずっと着けてる。しかも、ただでさえ不味かった食べ物が、容器から開けた瞬間花粉に蝕まれて粉っぽくなるんだ。

 

 もう終わりだ。

 

 こんなの続けたって意味が無い。

 

 ......監督官の呼ぶ声が聞こえる。恐らく、俺が消えたのに気付いたんだろうな。

 

 ただ、俺はもう戻りたくなかった。あんなのいくら続けたって無駄だ。

 

 むだだ。むだなんだ。むだ、むだ、むだ。

 

 花粉ののうどは日に日にましてるんだ。おれたちがほるペースより速いんだ。

 

 もう......おわりなんだ。

 

 どうせ、おれだってどうせかふんでクソみたいな死に方するんだ。

 

 だからもう、おれは外に出ようとおもう。

 

 このかきおきをビンかなにかに詰め込んで、てきとうにその辺になげすててやるんだ。

 

 こいつをのこして、おれはこのクソみたいな、ゴミみてぇな現実からおさらばするんだ。

 

 幸い、けいさつはたいだで、銃のかんりもずさんだから簡単にぬすめる。

 

 ああ、くそ。くすみとめのかかみでじが。

 

 とうとうがすますくをかんつうしはじめた。おれはもうだめだ。

 

 ごめん、さきにいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......以上が有人火星探査で回収された文書の翻訳になります」

 

「ご苦労......しっかし、またとんでもないものが出てきたな......彼らのいたずらじゃあるまいな??」

 

 彼ら、というのは恐らく有人火星探査のメンバーのことだろう。確かに、優秀だがひねくれ者ばかり。疑うのも無理はない。

 

「それはないでしょう。彼らはこんな凝ったいたずらはしませんよ。それに演技も下手くそです」

 

「うぅむ......」

 

「採取された土壌サンプルからは、化石化した杉の花粉が検出されました。DNA鑑定の結果、地球に生息している杉の木の花粉とほぼ一致。同種のものと思われます」

 

 私の目の前で報告を受ける上司の目元が暗くなる。この情報を真実だとして扱うか、それとも彼らのジョークとして内々に処分してしまうか悩んでいる。

 

 たぶん、そういう類いの悩み方だ。

 

 ......まぁ、それだけではないのだろうけど。

 

「仮に真実だとした場合、私達は地球上から杉の木を根絶しなければいけなくなってしまうな......」

 

 上司は少し苦笑いを浮かべて、書類の束を机上に放り投げた。

 

「......どうしますか?」

 

「そうだな......ひとまずパニックを避ける為にも、表向きは一旦伏せる。今回の報告書は最高機密指定だ」

 

「分かりました。でも、これからどうするんですか? 杉花粉なんかで世界が滅ぶなんて、私はごめんこうむりますが」

 

「ま、そこは何とかするさ。と言っても、もう既に手遅れかもしれないがね......」

 

 そう呟いて、上司はTVを点ける。

 

 TVのニュースキャスターは季節外れの花粉にご注意ください、とマスクの着用を勧め、流行りの花粉対策を紹介していた。


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