不安定な子が多い女性セフィラに対して、男性セフィラって落ち着いてる良い奴が多すぎない?
「前略、助けてくれガブリエル!」
「あなたには情報の大切さを語って聞かせなければならないようですね」
俺はガブリエルの部屋へと逃げ込んだ。
ガブリエル。
将来箱詰めされた際には毒蛇、あるいは「イェソド」と呼ばれることになる男である。
てか今思うと、イェソドの毒蛇要素どこ? 普通にダニエルに並ぶレベルでめちゃ良い奴なんだけど……まさか見た目だけ!? ルッキズム!? 時代遅れですよ!!!
そんな時代の被害者たる彼は、呆れたという感じでキーボードの上で踊っていた手を一旦止めて、こちらに振り返ってくれた。
今やってる研究まで止めて、ちゃんと対応してくれる気らしい。
こんな雑魚にさえも優しいね♡ すき♡ オフィサーにもそんな態度なのかな♡ そんなんだから絶望すらできへん腐りの中に閉じ込められんねんボケが。
いや今はそんなことを言ってる場合じゃない!
「すまんロッカー借りるで!」
「は?」
俺は部屋の隅にあったロッカーへと身を躍らせた。
可能な限り音が鳴らないように閉めて……そのほんの2秒後、唖然とするガブリエルの前で、部屋のドアが叩き開けられ。
その先から、2人の女性が顔を出した。
茶髪のバカと薄茶髪のドジっ子である。
「ガブリエル! コナーを探してるんだけど、いる!?」
「こっちの方に逃げて来たと思うんですが、見てませんか!?」
「…………。見ていませんね」
「そう、ありがとう!」
「あ、ガブリエルさん、これ次回の会議の資料です! 目を通しておいてくださいね!」
「だだだだっ」と足音が遠ざかって行くのを聞いて、俺は止めていた息を再開し、ロッカーを出ながら深く胸を撫で下ろした。
やってることが追われるタイプのホラゲー。
「あぶねー、年貢の納め時かと思ったわい」
「……まずは感謝」
「あざしたガブパイセン! 助かりやした!!」
実に真っ当な要求なので、がばっと頭を下げる。
ガブリエルは呆れたように腕を組み、ついでに椅子から伸びた長い脚も組んだ。
「次に説明」
「いやそれがぁ……エリヤとカルメンとの予定がバッティングしちゃってぇ……その後2人に関係について詰められちゃってぇ……」
「あなたが10割悪いですね。今すぐカルメンさんに突き出しましょう」
「待ってぇ! 違うんすよちょっと今のは言い方悪かっただけなんす、今回は俺悪くないんすよ、話聞いてくださいガブパイ!!」
立ち上がったガブリエルの腰にしがみついて懇願。
情けない? はっ、知ったことかよ。そんなこと言ったら女性2人から必死に逃げてる状況が一番情けないですよ……。
えぐえぐとてきとうな泣き真似を交えてやると、流石の無様さに呆れたのか、ガブリエルは持っていた端末を机に置いてくれた。
ガブリエル先輩、優しい……♡ ぽっ♡
「それで、何があったんですか?」
「……元々、今日の朝はエリヤに言われて時間取ってたんだよ」
「仕事の用件ですか」
「いや、詳しい内容は言えないけど研究の話じゃない。個人的な話……まあ日頃の愚痴みたいなもん。
で、まあ色々と話してたんだけど……いきなりカルメンから連絡が来て、『今から話をしましょう』って言われてさ。
無理っつっても全然言うこと聞かなくて、位置座標特定されて乗り込まれてさ……」
マジでカルメンとかいう女傍若無人すぎる。いつの間に俺の端末にアプリ仕込んでたんだよ。
その時の俺は、「この前の会議でね、私が提唱した案が通ったの!」と嬉しそうに語るエリヤの頭を無心で撫でるマシーンになっていた。
こんな綺麗な髪に手ぇ付けたくね~と思いながらも、これしないとエリヤの瞳が濁るんだもんよ。どないせいっちゅうんじゃ。
で、頭を撫でる都合上、近くにいる必要があるんだが……。
エリヤは几帳面な方ではあるが、研究者として必死に働く彼女の部屋には大量の資料やら本やら走り書きのメモやらが散らばっており、数少ない椅子もそれに埋もれている。
最初の内はベッドに座る彼女の横に立っていたのだが、「コナーも座っていいわよ、その方が楽でしょ?」と言われてしまい……。
結果として、最近の頭撫で時間は、ベッドで隣に座って行うことばかりで。
そんなところをあのカルメンに見られたらどうなるかは、まあお察しである。
「エリヤと2人で部屋にいるところを見て、カルメンはあの赤い瞳をキラッキラに輝かせてなぁ。2人はどういう関係なのって、同僚に決まってるつうのに。
その上エリヤもエリヤで、変に誤解されてテンションバグったのか『コナーはどう思う!? 私たちってどんな関係!?』とか聞いて来るし。
女三人寄れば姦しいと言うが、二人の時点で十分すごい。特に色恋関係に関しては。
まともに答えても意味がないと判断して立ち去ろうとしたらよくわからんけど追いかけてくるし……」
俺は一応3級フィクサーレベルの身体能力を有しているため、研究職で体を鍛えていない2人に負けることはないが……。
一般通過雑魚の俺と研究員のエリヤ、そして何より皆のネオンスターカルメンが研究所をドタバタ走り回ってると、そりゃあ当然目立つわけで。
地味~にフェードアウトしたい系雑魚としては、無駄に目立つのは避けたい事態。
そんなわけで、ガブリエルのお部屋に一時避難させていただいたのだった。
「……成程、凡その状況は掴めました」
「それは良かった」
ガブリエルはため息一つ、いつもの仏頂面で頷いた。
「痴情のもつれということですね」
「全然良くなかった」
何も分かってない。なんだコイツ読解力ゼロか? 現文苦手そうだな、エリートなのにな。
「お前そんな如何にも賢さ特化のデータキャラですみたいな顔しといて頭愛の町か?
天地がひっくり返ってもカルメンが俺に恋愛感情抱いてるわけがねえし、エリヤのそれは好意であったとしても異性へのそれじゃねえ。ただ鬱憤と愚痴を吐き出す先として依存してるだけだ」
「あなたがそう思っているだけでは?」
「むしろなんでお前がそこまで恋愛話にしたいかがわからん。そういうゴシップを面白がる性質でもないだろ、ガブリエル」
「ええ、まあ。強いて言えば、布石でしょうか」
「は? 布石?」
意味のわからん言葉に眉をひそめていると、ガブリエルはサイドテーブルに置いていたカップを取り、口に付ける。
中の液体は驚くべき透明度を誇り、ついでに言えば無色で、どう見てもただの水である。
ガブにゃんは効率厨の気があり、特に自分が取るものに関しては飲食物の拘りが薄い。
そういうものを楽しむ時には楽しむが、そうでない時は最小限で済ますのが流儀らしい。
彼はそれで唇を潤しながら、切れ長な鋭い視線をこちらに投げて来た。
「最近のエリヤが浮かれているのは、私の目から見ても明らかです」
「いや表現。明るくなったって言ってやれよ」
「以前より活動的になって結果を残すのと同じように、ミスの数も倍増しましたから」
「ごめんお前が正しかったらしい」
最近頑張ってるとは聞いたが、ミスも増えてたか。
いやまあ母数が増えれば子数も増えるのは当然のことだが……ミスを犯してもあんまり落ち込んでないからこそ「浮かれている」と評されるのだろう。
まあ、精神的に持ち直した程度で直るようなら気質とは言えないわな。
エリヤはこれからも自分のポンコツと向き合っていかなきゃならないんだろう。
どこまでやれるかはわからんが、まあ俺が死ぬまでは慰めたり褒めたりでいい感じにメンタルコントロールしていくべきだろうな。
「先程エリヤから愚痴を聞いた、と言っていましたが…少なくとも私は、それを聞いたことがありません。彼女はいつも気丈に振舞っていますから。
エリヤが明るくなったことを考慮しても、あなたがエリヤのガス抜きをしている、ということでしょう」
「ふむ、間違ってはないかな。ちょっと色々あって、気を許してもらった……というか、コイツなら愚痴ぶつけて良い相手だって認識してもらった」
「その点に関しては、感謝しましょう。それは私たちがすべきで、しかしできなかったことですから」
「いいってことよ☆ 恩に思うなら時々こうして庇ってくれ☆」
「……ふむ。まあ、構いません。困ったことがあれば来なさい」
俺みたいな三下雑魚に対する扱いもそうだが……。
俺は正しいって言ったのに、エリヤに気を遣ってちゃんと言葉遣い変えてるの、コイツマジで優しい奴だよな~と思う。
本人はエリヤ以上に真面目なのに、他者に対しては寛容かつ融通が利くのだ、この男。
流石は箱詰め+光の種シナリオによる精神抑制がかかって尚、ジェームズの件があるまでは職員に優しかったセフィラの元ネタである。
めっちゃしっかりしてるし、本当にダニエルと並んで理想の上司だわ。
「とにかく、エリヤは最近前向きに研究に励んでいます。未だミスは続きますが、挑戦すれば失敗することは自然なこと。私たちがカバーすれば良いだけの話です。
そうしてせっかく明るくなったのですから、無為に暗くさせる必要もないでしょう。
……必要な言葉を並べ、しかしそれを正しく解釈されない時程、虚しい瞬間もないでしょうから。その時のために、あなたも多少は意識を持った方が良いでしょう」
まあ要するに「エリヤがお前に告白した時に全く意識してなくて困惑を見せるのは失礼だから、可能性くらいは頭に入れとけ」ということらしい。
知らんかった。ガブリエルって恋愛脳だったんだな。
今度落ち着いた時にコイバナとかしよ♡
先程も言った通り、エリヤが俺に向けているのは、これまで与えられなかった承認への依存でしかない。
ぶっちゃけ俺という個人にすら興味を抱いてはないだろう。
まあ、それ自体は別に悪い事じゃない。人が頑張るには体力と精神力が必要で、後者に関しては何か癒しがあった方が回復が早いもの。
俺の干渉で彼女がちょっとでも焦らず、前向きに事に当たれるのなら、それ以上のことはない。
……が、それを恋愛感情と誤解するようなら、ちょっとばかり話が変わって来る。
どうせ人間としてはあと1年も生きられんし、最期に良い夢を見せてやるってのも悪くはないが……。
機械化による記憶の混乱があるとはいえ、その関係性は高い確率でセフィラ、そして指定司書時代にまで影響を与えるだろう。
流石にめんどくせえ! ……というのもあるが、変に歪みのある関係性を作ると、メルトダウンやら完全開放やらで拗れたりねじれたりする危険性がある。
なんで、その場合はスッパリ振ろう。うん。
俺にも下心とか性欲はあるが、今はそんなん出してられる状況じゃないのだ。
頭に反した実験しながら色恋に現を抜かせるの、真の強者か浮かれポンチか浮かれチンポだけだろ……。
「ま、エリヤとは上手く付き合っとくよ。今日はあんがと、ガブリアスパイセン」
「急ぎでない時はきちんとノックをするように。しないようならカルメンさんですよ」
「う、それは……ハイ、気を付けます」
軽く手を挙げて感謝を示し、ガブリエルの部屋を立ち去る。
いやぁ改めて、ガブリエルは精神が安定してて助かるわよ。
ガブリエルの精神にはこれといった欠陥はない。
強いて挙げるなら、その弱点は優しすぎることだ。
信奉していた太陽が、そして他の仲間が死に始めたその時こそ、コイツの心は壊れ始めるが……。
それまでは、エリヤのように自壊したりすることはない。
つまりは俺が他の奴らをいい感じにキャリーできてさえいれば、コイツは自然と安定してくれるのだ。なんて管理が楽なセフィラ候補なのだよ。
他のことしてたら呼びつけて来る寄生樹じみた
……ていうか、なんか俺最近、ずっとみんなのメンタルケアのことばっか考えてない?
俺、一応用心棒だよ? 別にカウンセラーじゃないんだが?
自発的に始めたこととはいえ、流石にそろそろ本職に戻りたいな……。
* * *
……と、そんなことを思っていた頃。
「コナー、カーリー! これを見て、偶然抽出できたの!
人の心の無意識領域から引き揚げ具現化した武器、外敵を排除するための剣。
その名もExtermination of Geometrical Organ……略して『E.G.O』ってところね!!」
カルメンが俺とカーリーの元に、2本の剣をよこしてきた。
1本は想定通り、クソグロい赤い剣「ミミクリー」。
もう1本は、灰色にくすんだ見覚えのあるレイピアだ。
なんか俺の分が追加されとる……。
※ガブリアスパイセンは誤字じゃないです。