3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 あのカーリーが持っただけで精神汚染受けるのヤバい。
 だからセーフティと能力制限を付ける必要があったんですね(メガトンアイン)





プロトE.G.Oとかいう呪物

 

 

 

 都市の外にあたる外郭には、バケモン共がいる。

 

 頭が判断した、都市に必要のないもの──不純物。これを外にポイポイ放逐しまくったり。

 あるいはその更に外からやべーもんが入って来たり。

 もしくは外郭に住む人間たちが、何をとち狂ったか研究して作り上げたり。

 

 そういった過程を経て生まれた、やべー奴らである。

 

 おおまかに言えば人間の形だったり、無機物が埋め込まれてたり、肉の塊だったり。

 多種多様なバケモノフレンズがいるのでピンキリではあるが……。

 大抵の場合、コイツらは強い。

 

 俺もコイツら相手だと武装「赤」だけでは切り抜けられないことがあり、更なる手札を切らざるを得ない。

 カーリーとかいう才能の塊みてえなフィクサーは、大剣を振り回すだけで肉塊を量産し、いっそお肉屋さんをオープンできるくらいなんだが……。

 俺みてえな雑魚は色々と工夫や観察、対応が必要になってくるのだ。

 

 特にRED免疫(0.0)の敵とかね。REDダメージしか出せない「赤」で勝てるわけねえだろボケ!

 そういう時は、左脚に仕込んだ、普段研究所では絶対使えない武装とかを振るうハメになるのだが……。

 

 

 

 本日は、少しばかり事情が異なった。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 右手に握った柄に、それから繋がる刀身に、意識を集中させた。

 そうすれば……微かに、歪んで沈んだ声が聞こえて来る。

 

『どうして──どうして? 私はあなたたちを、守りたかっただけなのに』

 

『食い込む刃が、痛い。痛くて、痛くて──ああ、黒い涙が──』

 

『──それでも──それでも、私は、必ず、きっと──』

 

 明確に聞き取れる程でもない、というか聞き取るわけにはいかないそれは、俺が手に持つ一本のレイピアから伝わってくる絶望の声だ。

 

 その剣の銘は、「鋭利な涙の剣」、あるいは「涙で研ぎ澄まされた剣」。

 WAW級アブノーマリティ、「絶望の騎士」から抽出されるE.G.O武器である。

 

 

 

 E.G.O。

 ついにカルメンたちが抽出してみせたそれは、人の無意識領域たる井戸(イド)から汲み上げられた、具現化した自我の殻。

 俺が今手にしているレイピアで言えば、裏切りと絶望、そして庇護といった側面が強く表出したものだ。

 

 それはただ手に持つだけで、そして振るうとなれば更に強く、俺の心に向かって声を発する。

 他人の自我の表象であるそれに、下手に耳を貸してしまうと……まあ、壊れてしまうだろうな。

 

 それは言うならば、境界線という防波堤を打ち崩し、他者の精神性が自分の内に流れ込んでくるようなもの。

 その果てに残るのは、かつての自己とE.G.Oの情念が混じり合った、混沌とした精神だ。

 ある意味においてそれは自己の死、そしてE.G.Oによる精神の乗っ取りと言っていい。

 

 自分なりに上手くブレンドしたコーヒーに、他人の雑味丸出しの泥水を流し込まれたら、そんなもんはもはや俺のコーヒーではない。ただの泥水だ。

 

 元に戻れるならまだしも、この変化は不可逆。

 少なくとも俺の考え方においては、それは死と何ら変わりない。

 

 

 

 が、それはそれ、これはこれ。

 

 魔法中年☆マジカルローランも語っていた通り、ある程度はサッパリ割り切った方が都市では何かと生きやすい。

 まあ、それもこれでこれもそれでもあるので、あんまり言い訳に使っていると痛い目を見ることになるのだが……。

 

 つまるところ、何が言いたいかと言えば。

 そんな超危険な武装E.G.Oではあるが、上手く使いこなせばバチクソに強い武器にもなり得るってことである。

 

 

 

 一瞬の瞑想を終えて、俺は誰かの自我の殻を握りしめ、その心の動きをトレースする。

 

「ふっ」

 

 常より重心を低く、剣は高く頭の横に。

 剣道で言うところの霞の構え。あるいは俺の師匠の使う、貫通体勢。

 ちょっと懐かしいこの形にレイピアを構えて……突進。

 

 大まかに人の形を取った、しかし腕も足も頭も顔もやけに多い、グロテスクな外郭の化け物に迫り。

 射程内に踏み込んだ瞬間、剣の意思に体を任せる。

 

 それで全ては終わりだ。

 俺の手は、剣に突き動かされるように、その切っ先をバケモンに突き立て。

 

 瞬時に10以上の刺突を受けた最後の人形モドキは、呆気なくその命を散らした。

 

 

 

 ……いやはや、まったくすごいもんだね、E.G.Oは。

 

 E.G.Oは、割と呪いの装備だ。

 アインが未だ安全装置を付けてないこれらは、使えば使うだけその感情に自我を侵食される。

 今みたいな一瞬の使用なら問題はないが、もっと思い切り、あるいは連続で使う時には注意が必要だろう。

 

 ただ、そんなデメリットを呑み込めるだけの対価が十分にあるのも事実。

 

 攻撃力も凄まじいものがあるが、E.G.O武器の真価はやはり、技量のトレースにある。

 使用者は剣に表れる自我の殻を被ることで、その剣の本来の持ち主が持つはずの剣技を、自らの体で再現することができるのだ。

 

 今の連撃なんか、瞬間的な速度だけを見れば、手加減モードの師匠すら越えてたからね。

 ある程度の素養や精神強度が必要とはいえ、誰でもこれだけの動きが可能になるのだ。E.G.Oってものがどれだけ埒外なものなのかを痛感するわ。

 

 そして同時、どれだけ人の手に余るものなのかも。

 

 

 

「カーリー、大丈夫か」

「……ちっ」

 

 俺は背後で地に膝を突くカーリーに声をかける。

 彼女の癖みたいなものである舌打ちは、普段に比べるといくらか気迫に欠けていた。

 

 振り返れば、赤い髪を後ろで括った彼女は、肩を大きく上下させながら、赤い剣を地面に突き立ててそれを杖にしている。

 

 うーん、まだ辛そうかな。

 

「ちょっと無理し過ぎたな。なに、カルメンに剣もらってちょっと舞い上がっちゃった?

 今日はあくまで連携の練習と市街への道の下見なんだから、あんまりテンション上げられても困るっすよォ、1級フィクサーさァん^^」

「うるさい……」

 

 俺の煽りが効いてるwww効いてるwwwようで、彼女は頭を抑えながらも立ち上がった。

 

 

 

 つい先ほど、俺が歩きながらカーリーに馬鹿話をしていた時。

 俺たちは、唐突に地面の下から現れた、クソでかい体の7割が口で構成された貪欲の王のパチモンみてえなバケモン──仮称「原の大顎」──に襲われた。

 

 原の大顎はREDも問題なく通るので、「いっちょレーザーで丸焼きにすっか」と俺は「赤」を起動しようとしたわけだが……。

 一歩前に踏み出たカーリーは俺の動きを制し、その手に持つ赤い大剣──カルメンから渡された試作型E.G.Oを振るった。

 

 好きな人からもらったプレゼントに、はしゃいじゃってるのかな^^ 可愛いね^^

 ……とか口に出すのはちょっと怖すぎるのでやめた。俺は自殺志願者ではないのだ。

 

 振るわれた赤い軌跡は、敵の巨体を押し留めた後、一瞬の競り合いの後に大切断。

 原の大顎はその巨体をちょうど中央くらいで切り分られ、グロテスクな口内が太陽の下に晒されることとなったのだが……。

 

 流石に慣らしもなくこの規模の一撃を撃つと、フィードバックがヤバい。

 彼女はE.G.Oによる自我の浸食に耐えるため、少しの時間動けずにいたのだった。

 

 

 

 カーリー/ゲブラーはなんかもう無敵なイメージが強いが……。

 実のところ、それは物理的な方面に限られる。

 

 過去に恩人に裏切られて傷ついたり、Lobotomy時代には怒りに囚われたりしてるように、精神的には極めて頑健ってわけではないのだ。

 ALEPH級のプロトE.G.Oで全力を引き出したりすれば、まだ自分のE.G.Oを開花させていない彼女は、数分間動けなくなる程度には消耗してしまう。

 

 ……いや、おかしくね?

 ALEPH級の、それもかなり浸食が強いっぽいE.G.Oを全力で振って数分だ。

 しかも今は浸食を振り払って、なんとか立ち上がれてるし。

 

 ごめん、やっぱ精神面も無敵かもしれん。流石は光の種なしでE.G.O開花させる女である。

 

 

 

 そんなこんなで、原の大顎はぶち殺され、代償としてカーリーはダウン。

 その後、俺は大顎を追うように現れた、漁夫の利狙いの人形モドキ共をぶち殺していた、というわけだ。

 

 ふっふっふ、赤い霧──今の彼女はまだ1級フィクサーだが──を助けるなんて経験そうはできないぜ! なんか役得な気分!

 

 将来ローランに会ったら「俺、赤い霧の命を救ったこともあるんだぜ」って自慢しよ。

 絶対良い反応してくれるわあのおじさん。

 

「……お前に、こんな無様を晒すなんてな」

「気にすんな。ただお前のE.G.Oは出力が高い代わり、負荷も強いってだけだよ。

 あとお前、無理やり剣の自我を抑え込んでるだろ。確かにその方が自分のスタイルに合った使い方はできるだろうけど、そりゃあ消耗も大きくなるわ」

 

 俺は肩をすくめて呆れを見せた。

 

 別にこのダウンはカーリーが雑魚であることを意味しないし、守るために振られた剣の行き付く先が無様であろうはずもない。

 

 というか、E.G.Oの正体すら理解できてないのに、力の出し方さえ間違えなければ「振り回す」のではなく「使いこなす」ことができるのだから、やっぱこの女バケモンである。

 マジで羨ましいわ~~その才能。半分くらい分けてほしい。

 

 

 

 カルメンが偶然抽出した、2本のプロトE.G.O。

 本来抽出できたのは1本だけのはずなんだが、「コナーのためにもう1本引っ張り出したわ! 気合で!」とかいう意味わからん理屈で用意してきたそれ。

 

 その内、カーリーが持つのは、みんな大好きポチこと「何もない」から抽出される剣、「ミミック」、あるいは「ミミクリー」だ。

 みんな大好き、赤い霧のメインウェポンである。

 

 技術が不完全で再現性がなく、未だ粗製に過ぎないとはいえ、プロトミミクリーはALEPHクラスのE.G.O。強力な代わりに負荷が尋常ではない。

 ぶっちゃけ俺が持ったら一瞬で自我乗っ取られそうで怖い。

 

 一方、俺の持つプロトE.G.O、鋭利な涙の剣、あるいは涙で研ぎ澄まされた剣。略して涙剣。

 これはWAWクラスで、それも比較的扱いやすい……っていうか、その思想を理解・拒絶しやすい部類。

 

 どちらも同じ剣の部類だが、この大剣とレイピアの間には、クソでかい出力と負荷の差があるのだ。

 

 ていうかミミクリーがヤバいことは見た目で分かるやろがい!

 プロト涙剣は灰色にくすんだただのレイピアだが、プロトミミクリーは赤い肉塊とか目とか口とか生えててもう一見して明らかにゲテモノである。

 

 「こっちの方が強そうだ」とかいう理由でてきとうに選ぶからそうなるんじゃアホ。

 だが俺にヤバい方を握らせまいとするその勇気、誉高い。

 

 

 

「ある程度までの力を使いたいんなら、抑え込んで飼いならすんじゃなく、殻を被ればそれでいい。

 自分の力として振るうことはできなくとも、力を借りて振るうことはできる。少なくとも短期的に見れば、自我の浸食は抑えることができるだろう。

 ま、あんたとしては、そんな中途半端なことはしたくないかもしれんがね」

「……詳しいな」

「俺はあんたと違って、手伝いの時にアイツらの研究結果見てたからね。多少は知識と理解がある。

 あとは……実際に使ってみれば大体わかるだろ。なんかこう、直感的に」

 

 軽く肩をすくめ、プロト涙剣を太陽に掲げた。

 少し集中すれば、内に響き浸食しようとしてくる感情を垣間見ることができる。

 

 今日も今日とて絶望ちゃんは絶望しているらしい。

 Lobotomyでは貴重な人類の味方だったこのアブノマだが、その本質は名前通りの絶望。

 彼女にはもはや、絶望以外の一切の感情が残されていないのだという。

 

 つまりは俺の真逆ってことね。

 

 俺は常に生きる希望を見ている。

 都市とかいうゴミみたいな環境に転生こそしてしまったが、それでも文化的で幸福な生活を目指して日夜邁進中である。

 その進捗も今のところ順調であり、当然絶望なんて感じるわけもない。

 

 だからこそ、絶望ちゃんの垂れ流すどんよりオーラをぜーんぶ拒否ることができる。

 カルメンのねじねじ教室とか見てもらえればわかりやすいが、基本的に、自我が侵食されるのは精神に隙がある時とか消耗してる時。

 希望は前に進むんだ!! となっている超高校級の雑魚こと俺には、絶望のオーラが効かないのだ。

 

 まあカーリーさんは効いちゃったみたいだけど。

 ALEPHだし、何より「何もない」の精神影響って特殊だから仕方ないね。

 なんだよ人になりたいから人の皮被るって。どこの誰がそんなこと思っとんねん。……いや、この世界だと普通にいそうで困るな。

 

 

 

 そんなことをぼんやり考えてた俺に対し、不意にカーリーが尋ねて来た。

 

「良い機会だから聞いておくか」

「おう、何? スリーサイズか? きゃっ、カーリーのえっち♡」

 

 今日の夕飯でも聞かれるのかなと、雑に打った相槌に……。

 

 しかしカーリーは、ちっこくなった煙草を捨てて新たなものを咥えて。

 

 俺が全然予期してない質問を投げかけて来た。

 

 

 

「お前は何者だ」

 

 

 

 ……振り返った時には、俺の眼前に、プロトミミクリーの切っ先が突きつけられていた。

 

 

 

 え、何? 俺またカーリーと戦うの?

 流石にプロトミミクリー持ちのカーリーには勝ち目ないんだが???

 

 

 







 ネタバレ:今のカーリーと戦うと、10秒後には大切断-縦-
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