3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 絶妙(に死にかけ)な瞬間





は、特色の資質ということか……そう簡単にはいかないか……。

 

 

 

 流石に今のカーリーと喧嘩するのは愚策、というか自殺行為だ。

 なんか知らんが誤解されてるっぽいので、上手いことこれを解きほぐさなければならない。

 

 できなきゃこの世にGood Bye!

 何気に今世に生まれてから五本の指に入る危機だわこれ。

 

 しかし、動揺を表に出すのはむしろ悪手。

 俺はあくまでふてぶてしく、様子のおかしな用心棒コナーとして対応せねば。

 

「随分なご挨拶だなおい。俺そんなに不審?」

 

 俺の目の前、僅か50センチ先に突きつけられる、プロトミミクリーの切っ先。

 いつでも大切断-縦-でぶち殺せますよと言わんばかりのそれを前に、俺は腕を組んでみせた。

 

 

 

 俺は突然訪れた危機に対し、動揺すると同時……。

 ぶっちゃけ、ちょっと困惑してもいた。

 

 俺はこの数か月で、カーリーを含むL旧研のメンツと、ある程度は仲良くなる腹積もりだった。

 実際多くの研究員や事務員とは──カルメンとエリヤはちょっと過剰だったかもしれんが──、多少浮きつつも気安い仲を築けたと思う。

 要は雑用係君だ。「ちょっとこれやっといてよ」「うい、了解でーす」くらいの温度感ね。

 

 まあアインに関しては、ちょっとまだコミュニケーション不足っていうか、あっちが忙しそうな上嫌われてて取り付く島もなく。

 ミシェルも、男性恐怖症気味というか、俺みたいな荒っぽい男が苦手なタイプなので、程々の距離をキープして慣らしてる最中ではあるが……。

 

 少なくとも、目の前で俺に剣を向けるカーリーからは、信頼を得ていたはずだった。

 

 

 

 俺とカーリーは、L旧研のたった2人の用心棒だ。

 自然、仕事を分担したり任せたり、共闘したりすることも多くなる。

 

 外郭の化け物や研究所に押し入ろうとするクソ共をぶち殺す際、背中を預け合って戦ったことも、一度や二度じゃないし。

 持ち回りの警備だって、カーリーが酒やりすぎてぶっ倒れた時に代わったり、俺がカルメンに時間を強奪された時は逆に代わってもらったこともある。

 

 気安い仲とまでは言えないが、お互い仕事を任せ合うくらいには、俺たちの間には信頼が実っていたはずだった。

 

 なのに、なーんでこんなに疑われてるんですかね。

 俺の三下ざこざこ用心棒ムーブは完璧なはずなんですけどねー。

 

 

 

 首を傾げる俺に対し、カーリーは淡々と告げる。

 

「お前は知りすぎてる。それが態度に出てるんだよ。

 この研究所に来た時も、あのコギトとかいう薬剤を見せられた時も、このE.G.Oを前に出された時も……お前、ちっとも動揺してなかっただろ。

 まるで全部知ってたような態度だよな?」

 

 普通に俺の演技力不足だったわクソが!!!

 赤い霧の観察眼は誤魔化せない、ちぃ覚えた。

 

 くそ~駄目か~~! それとなくクールキャラのフリしてりゃ、動揺してなくても違和感ねぇだろと思ってたんだけどな~~~!

 

「……昔から俺、感情が表に出ない方なんだよ」

「ほう、そうか。じゃあ私は感情豊かで笑顔が眩しい、誰からも愛される女だな」

「草ァ!」

 

 やべっ横斬り!

 咄嗟に攻撃を涙剣で逸らし、2歩分跳び下がる。

 

 あぶね~、危うく死ぬとこだった。

 E.G.O防具もなしにカーリー with プロトミミクリーの斬撃とか受けたら、小パン級でも10割持って行かれそうで怖いわ~。

 

「その上、よく抗う。

 攻撃は二流三流も良いところだが、防御においては私の剣も弾く。

 その剣の構えに、受け流しと反撃に特化した戦法……私の師匠のそれに似ているな」

 

 黄金の眼光は、俺の芯まで見透かしているように鋭い。

 

 やべえ、バレてる! 殆ど全部バレてる~~~!!!

 真贋を見抜く目が鋭すぎるよこの最強!! 流石はローランの実力を一目で見抜いただけのことはありますわァ!!

 

 

 

 俺の持つ戦闘技術は、その大半が師匠である紫の涙譲りだ。

 

 特に参考にさせてもらったのは、防御姿勢。

 とにかく守りを固め、敵の攻撃を受け流し、微かな隙に反撃を差し込むスタイルだ。

 

 目の前にいる未来の赤い霧(さいきょう)、単騎で中指南部支部をぶち折る黒い沈黙(偽)(やべーやつ)、シスコンすぎて都市めちゃくちゃにした青い残響(あお〇チ)といった特色レベルたち。

 そんなバケモン共を育てるだけのことはあって、イオリの戦闘技術とその教導は凄まじいものがあった。

 

 まあそれでも、3級フィクサーレベルにしかなれなかったんやけどな俺は!

 どうも、紫の涙教室の落ちこぼれ生徒です。現パロならアルガリアに「コナァー……俺、懐が寂しいよ……」ってたかられる役だろう。妹にシバかれてろ。

 

 そんな落ちこぼれの俺が変に攻勢に出ても、簡単に弾かれて返す刀でバッサリいかれるのは目に見えてる。

 なもんで、せめて少しでも戦法的な優位性を確保すべく、俺は受けのスタイルを主軸に据えることにした。

 自分の分ってヤツを知る、小賢しく正しい判断だと自負してます、はい。

 

 ちなみにイオリには、「弱者側の思考だねぇ」って笑われた。

 仕方ねーだろ、3級フィクサーレベルとかホントに弱者なんだから。俺が目指す環境、特色とかALEPHがゴロゴロしてるんすわ。

 あの人みたいに4つのスタイルを戦況に応じて切り替えるとか、そんなことが出来る才能がありゃあ苦労はしなかったんだけどなぁ……。

 

 

 

 苦い思い出を想起して、思わず眉をひそめたりする俺に対し。

 カーリーはその目を細め、推論を口にした。

 

「お前、頭か」

「は?」

「話に聞く、調律者か、凝視者か、処刑者か……研究所の調査にでも来たか?」

「いや、は? なわけねえだろ」

 

 俺は流石に呆れて、一応頭の横に構えていた涙剣を下ろす。

 あかん、ちょっと間抜けすぎる推察に毒気抜かれちゃった。

 

「お前なカーリー、普通に考えて……ああいやそうか、見たことねえし知らねえのか」

 

 そういえばそうかと、俺は後ろ頭をガシガシ掻く。

 

 頭は当然ながら機密性が高く、都市の殆どの住民がその姿や正体、在り方や力を知らないのだ。やべーってことは周知の事実なんだけどね。

 カーリーはこの前まではただの裏路地の2級フィクサーだった。その辺りの事情を知らないのもやむなしか。

 

「まるで頭を知っているような口ぶりだな」

「まー今更隠しても不審だろうから言うと、確かに俺は、ちょこっとだけ色々なことを知ってるよ」

「…………」

 

 カーリーの目が、更に細まる。

 何故それを知っているのか。そして、知っているのなら何故話さないのかと言いたげだ。

 

 面倒だが、これ以上拗れないよう、ちゃんと疑問にお答えすることにしよう。

 ここで斬りかかられたらガチで死んじゃうし、命乞いの弁解タイムスタートだ!

 

 

 

「先に言うけど、その内容を君たちに話すことはない。てか誰にも話せないんだけども」

「何故」

「最悪凝視者が俺に勘付いて、調律者と処刑者がすっ飛んでくる可能性があるから。

 その余波に研究所が巻き込まれる可能性はかなり高い……っていうか、そこで研究内容が露呈して皆殺しにされちゃうかな」

 

 凝視者。頭に属する、B社の特異点を用いるらしき、なんかようわからん存在。

 描写からして、アイツは常に都市の全てを監視しているようだった。

 

 密告がなければL旧研に手を出してこない辺り、外郭まではその監視の目は伸びていないのだろうが……。

 下手に都市の深淵について話したりすれば、セーフティとかが起動してこっちのことを見られるような可能性も出て来るだろう。

 

 俺の知る限り、そんな描写は原作にはなかったが……頭は頭や都市、特異点の秘密の保護について、かなり偏執的に力を入れているからな。

 わざわざあっちの地雷を踏み抜いて自滅するような愚挙を犯す必要はない。

 

 ……なんてそれっぽい言い訳は作ってあるけど、ぶっちゃけ変に暴露して状況が変な方向に流れないようにするって側面の方が強いんですけどね!

 

 調律者の謎衝撃波とか謎特異点で強制的に収容室の扉が開けられることを知れば、カルメンが変な感じに施設を改良しかねない。

 そうすると俺の最終的な目標におかしな影響が加わる可能性があるのだ。それはちょっと困っちゃう。

 

 

 

「次に、俺がそれを知っている理由だが……ま、都市の神秘、という奴かな」

「神秘だ?」

「不可思議なことが起こるのは裏路地だけの話じゃないさ。むしろ特異点との距離が近いことで、巣の人間は直接的に被害を負う位置にある。

 無論、そんなこと言ったら翼に人が集まらないから、周到に隠されているがね」

 

 この辺は大部分が推論だけど、まあ都市だしあり得ない話じゃないと思う。W社とかやりたい放題だし。

 

 アルガリアとアンジェリカはどこぞの翼の実験体にされ、捨てられたって話だったが……。

 実のところ、なんだかんだ生き残れたって時点で、極めて幸せなことなのかもしれない。

 きっと誰の目も届かないところで、多くの命と尊厳は踏みにじられているんだろうし。

 

「……お前、翼に拉致でもされたのか?」

「さあ? 少なくとも俺にも家族にも、そんな記憶はないけど……相手は特異点だからな、俺たちの自認なんて簡単に捻じ曲げられる。何の意味もないだろ。

 確かなのは、いつからだったかな、俺の頭におかしな記憶と知識があったってことだ。明らかに俺が持っちゃいけない、おかしなそれらが。

 俺が知りすぎてるっていうのは、つまりはそういうことよ」

 

 ま、その内容は誰にも話せないんだがね、と話を結ぶ。

 

 

 

 嘘は言っていない。

 

 俺におかしな記憶や知識があることは事実。

 翼に実験体にされたかもしれないことも事実だ。

 前世の話をしていないだけである。

 

 ……ただし。

 その転生に関しても、俺自身機序が掴めてない以上、安直に「そういうこともある」と納得するのはリスクが伴うだろう。

 

 ぶっちゃけ、マジで翼の実験に晒された可能性はある。

 他の世界に干渉し、その人間をコピー&ペーストするだとか、記憶や人格を奪い去るだとか、そういった実験にコナーという無辜の住人が使われた。

 その後は記憶を消して放流したが、なんかバグって上手いこと消せず、俺は他の世界の記憶を持って「転生したのだ」と認識した……とかね。

 

 都市はアホみたいに技術が発展してる代わり、アホみたいに倫理観がないので、そういうことは全然あり得る話なのだ。

 マジで終わっとる。

 

 まあ、何をどう認識しようが、「考える自分」がここにいることだけは確かだ。

 であれば俺は、今できることをしっかりと為すのみ。

 

 具体的に言えば、目の前の怖すぎるお姉さんへの命乞いとかな!!

 

 

 

「秘密がないとは言わんけども、俺はあくまでも普通の翼の羽だった市民の一人に過ぎん。

 頭と関係があるはずもない……っていうか、俺が頭ならもう研究所は廃墟になっとるわ。

 外部の人間の潜入にしては長すぎるだろ。俺がここに所属して数か月経ってるし、その中で俺はもう嫌という程研究データを覗いてんだぞ」

 

 だから敵対姿勢解いてください、優しいお姉さん><

 ぷるぷる、僕悪い変異体じゃないよ!

 

 俺がそう言い、肩をすくめて数秒。

 ヒュン、と音を立てて、俺に向けられていたプロトミミクリーは下ろされた。

 

 なんとかカーリーの姉御との敵対は避けられたらしい。

 あぶね~~~!! マジで死ぬかと思った! 緊張で寿命縮んだわ2年くらい。

 

 

 

 ふぅと安堵の息を吐く俺に、剣の切っ先の代わりに向けられたのは、黄金の視線。

 カーリーの目は強い意志を宿し、しかしほんの少しの戸惑いを含んでいた。

 

「……それじゃあ、その翼の人間が、何故そこまで鍛えた」

 

 えーそれ聞く? 言いたくねー。

 

 俺は腕を組み、鼻を鳴らして答えた。

 あんまり口に出すのも愉快じゃないんだけどな。自分の恥部だから。

 

 まあ必要なら言いますけどね! 雑魚の恥はかき捨てだ。

 

「君は裏路地だけが地獄と思ってるのかもしれないが、巣だって地獄だ。

 カルメンが言っていただろう? 裏路地に裏路地の痛みがあるように、巣には巣の痛みがある。外郭にだってそうだろう。色や濃度、形の違いはあれど、この世は痛みに満ちている。

 強者が弱者の苦痛を食らい、それを悦楽と興じ、そしていつか弱者に刺され大いなる喪失の中で死に、弱者はただ一時の歓喜と達成を得る。それを繰り返すだけの輪廻だ。

 この世は正しく煉獄ならぬ地獄だな。なにせ苦痛に終わりはなく意味もない」

「……それが、お前の正体か」

「はい? 俺は俺だが? いつものへっぽコナー君ですよ~」

 

 煙草スパスパしながら話を聞いていたカーリーは、一度それを手に取り、何か思うことがありそうな表情でこっちを見て来た。

 

 ……うん、ちょっと話してる内に気持ち良くなっちゃって、気取った言葉遣いになっちゃったかもしれんな。恥ずかしい。

 やめてっ! 「コイツまだその歳でまだ厨二病を……」って視線で見ないでっ!

 

 ……まあでも、この辺りの話はカーリーにもよく理解できる話だろう。

 裏路地に生まれた彼女が、これまでに経験してきた痛み、まさしくそのものの話だから。

 

 

 

 そして、そんな彼女だからこそ。

 俺のこれまでしてきたことにだって、理解が及ぶはずだ。

 

「俺はその地獄の中で、自らを損ないたくはなかった。喪うことを恐れ、多くを得ることを望んだ。より良い未来を目指した。

 そのためには力が必要だったんだよ。頭の回りでも知識の量でも殺す術でも何でもいい、奪われないためには、他者に対して優位に立てるような何かが必要だった。

 だから思いつく限りの何もかもをした。勉強も鍛錬も、いくらか体をイジる手術にも手を出した。

 運良く師にも恵まれたんだが……才能という奴は残酷なもんでね。師曰く、3級フィクサー止まり。そこが俺の限界なんだってさ」

 

 ついでに言うと頭も中途半端で、要領も極端には良くなく、察しも悪くはないが程々で、直感に殊更優れるわけでもなく、運もそこそこ止まりである。

 マ~~~ジで器用貧乏だなぁ俺。転生者としてこれでいいんか?

 

 

 

 ともあれ、彼女の聞きたかった2点についての回答は終了だ。

 これ以上は無駄に情報を暴露する意味もないだろう。

 

 ……なんならちょっと教え過ぎたくらいあるし。

 俺はどうにも話し好きで、言葉を連ねてしまう悪癖あるなぁ。案外調律者向いてるかもわからん。

 

「俺の行動動機なんてそれだけだ。

 ……お恥ずかしいことに、極めて浅い人間なんだよ、コナーとかいう雑魚は」

 

 

 

 * * *

 

 

 

「はい、自己開示終わり~。これで君から信を得るには十分かい、相棒?

 つか俺、なんでこんなに疑われてるん? ここ5年怪しい動きなんてしてないこととか、就いてた職についてはダニエルが保証できるし、不審点も貢献でカバーできるくらいには働いてたつもりだったんだけど」

 

 ぶーぶーと唇を尖らせつつ、腰の鞘に涙剣をしまう俺。

 それに対し、カーリーは舌打ち一つ、少し申し訳なさそうに視線を逸らした。

 

「……はぁ。悪かった。なんというか……お前を知る内に、どうにも落ち着かなくなってな」

「落ち着かない? なんで? 俺が美人すぎるから?」

 

 カーリーが気まずそうに言った言葉は、俺からすれば少々意外なもの。

 

 落ち着かないってのは、端的に言えば交感神経が強く働いている状況。

 ストレスを受けているとか、警戒してるとか、そういうことが発端になって発生する。

 

 カーリーとかいうプロムンの生み出した怪物が、俺みたいな雑魚を強く意識するとか、とても想定してなかったんだが……。

 

 

 

 怪訝そうにしてる俺に、カーリーはちらりと視線を向けて、言った。

 

「その理由がずっとわからなかったんだが……今、ようやく分かったよ」

「ほう」

 

 果たして。

 カーリーの語った理由は、これまた俺の想定の外にあったものだった。

 

 

 

「お前は少しカルメンに似ている。けど、決定的に違う。

 だからだろう。そんなお前を認め、信じていいかと、迷っていた。

 ……だが、もう迷いはない。お前のことが少しだけ知れたからな」

 

 

 

 …………あのさぁ。

 

「ダニエルもそうだけど、お前ら俺になんか恨みとかあるの? カルメンに似てるは流石にライン越えだろ!

 いきなり人格攻撃かよ、裏路地ッパリらしいな!」

「罵倒したつもりはない。褒め言葉として受け取れ」

「受け取れるかーい! 俺がカルメン苦手なことわかっとるやろがーい!!」

「フン……カルメンはお前のことを気に入っているようだがな」

「それマジでどうにかしてくんねえかなー! どこぞの赤髪の素敵なお姉さんが引き取ってくれねえかなー!」

「カルメンはそれを望まないだろう」

「これだからカルメン教はよお! 時には叱ることも大事な教育ですよ!?」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 なおこの後研究所に帰る中。

 「無様な姿を見せた分、私も働くか」と気軽に言い、カーリーは5匹の歯のぜんまいを一薙ぎで肉と金属の塊に変えた。

 

 この一級フィクサーもう特色レベルに覚醒し始めてるよ。怖すぎ。

 大切断-横-って、Ruina時代でもだいぶ劣化してたんだなぁ……。

 

 

 







 過去に陰のある幸薄系活発ヒロインみてぇなムーブしてんなコイツ……。
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