3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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プロムンにおける「友だち」の平均的重量

 

 

 

「やあダニエル。僕はコナーだ」

「どうしたんだい? 今日は元気がないね」

「やあダニエル!!! 僕はコナーだッ!!!」

「やけくそだねぇ」

 

 一般クソ雑魚転生者系L旧研用心棒の朝は早い。

 早いっていうかしばらく寝てないんだけど。

 

 カーリーと交代制で深夜の見回りを行う都合上、俺の睡眠はどうしても不定期になる。

 幼少期から短時間の睡眠を小分けに取る形で体を慣らしていたため、そこは大して負担でもないんだが……。

 どうしたって昼夜の観念が曖昧になってしまうため、体内時計がぶっ壊れかねないのがマイナスポイントだ。

 

 流石に体をぶっ壊して潰れるわけにもいかんので、その調整に関しては、友だちに頼っている。

 そう。青い髪をたなびかせたエリートイケメン聖人おぼっちゃんこと、ダニエルだ。

 

 彼とは学生時代に友人になって以来、朝は一緒にコーヒーブレイクを楽しむのが慣例だった。

 それはL旧研に居を移した今でも続き、俺は警備の時間を縫って彼の研究室を訪れ、彼はそんな俺のために甲斐甲斐しくもコーヒーを淹れてくれるのだ。

 

 ちなみに、俺以外が来てもホイホイとコーヒーを淹れてるので、コイツの研究室は皆が空いた時間に集まるカフェみたいになっとる。

 この浮気者! 尻軽! 私とのコーヒーブレイクは遊びだったのねっ!!

 

 

 

 ……とはいえ。

 夜型の人間が多い研究所において、朝6時にカフェに出向くようなオサレ人間などいるわけもなく。

 この時間帯は、俺がこのカフェを独り占めであった。

 

 人の目がないのなら、俺も取り繕いなく雑魚らしい姿を晒せる。

 デスクの上にべたーっと突っ伏し、深々とため息を吐いた。

 

「はー疲れた……」

「どうしたんだい? 今日はいつにも増してお疲れみたいだけど」

「それがさー、昨日は大変だったのよ。

 リサとエノクと遊んでる最中に、ガブパイセンに追われてるカルメンが乗り込んで来てさ、当たり前のように俺を拉致りやがってさ。リサはぷんすこで穴埋めが必要だし。

 偶然すれ違ったカーリーに助け求めたら助けてはくれたんだけど、『私の相棒を名乗るんならもっと強くならないとな』って言われて模擬戦するハメになって。

 なんとかやり過ごしてヘロヘロになってたら、今度はエリヤからのヘルプメールだよ! ファイルにコーヒー零しちゃってもう一回刷り直すから打ち込み手伝ってって! もうバックアップも消しちゃったって! ほんとドジっ子だなアイツ、可愛いわ!

 んで、流石に見回り警備の時間来たから抜けさせてもらったんだけど、最近収容し始めたアブノーマリティってヤツいるじゃん? それが収容室から脱走しててさぁ! カーリーはもう寝てる時間だったから単騎制圧を強いられてさぁ!」

「うわぁ、それは大変だったね。甘い物も出してあげるね~」

「ありがと~;; 俺の苦労わかってくれるのお前だけだよ~~~;;」

 

 聞き役に徹してくれるダニエルに、俺はのんべんだらりと愚痴を垂れ流した。

 

 

 

 L旧研の研究は、最近詰まりがちだ。

 

 少量のコギトやE.G.O、そしてTETHランクのアブノーマリティを偶発的に抽出することができたものの……。

 それらを安定して抽出・運用することができず、手詰まりを迎えている。

 

 少しずつ、少しずつ。

 ポタポタと雫が零れ落ちるように、研究所の空気が悪くなってきている段階だ。

 

 そんな中にあって、雑用係を任された俺の仕事は絶えない。

 ていうか増える一方である。

 

 みんなさぁ! ちょっと一旦落ち着いてくんないかなぁ!

 

 リサは他の奴のお手伝いしてたら、頬を膨らませて構ってほしがるし!

 エノクは放置してたら、考え込み過ぎて変な方向に行っちゃいそうになるし!

 カルメンはあっちの方から絡んで来るし、最近はちょっと自信が折れがちなのか、俺がすげなく対応すると落ち込むような感じになるし!

 エリヤは前にも増して慰めてほしがるし、こっちも放置したら思い詰める感じになるし!

 カーリーは俺の力不足を悟ってか、以前にも増して模擬戦とか付けようとしてくるし!

 

 いやまあ俺が実力不足なのは事実なんで、カーリーはいいんだけどさぁ!

 お前らもう、ちゃんとしたカウンセラーとか保育士とか雇えよ!

 個人にこんな依存すんな、俺がいなくなった時どうするつもりだよ!

 

 更に言えば、アブノーマリティを収容したことで研究所は危険な場所になり、定期的な見回り警備の必要性が増してしまった。

 カーリーは勿論、俺もこれをしなきゃいけない。

 

 従来通り、外郭に出る研究員メンバーの護衛や、そこでの渉外の際の見せ武力としても使われて。

 それに加えて、研究の手伝いやら資料の運搬やらメッセージの伝達も頼まれるのだ。

 あと最近はガブにゃんが研究の手伝いに呼びつけてくることも増えた。

 

 みんなもうやめてぇ! 俺の体は一つしかないのぉ!

 セフィラになる前に過労死しちゃう~!! 俺のメンタルメルトダウンしてコナーストレス抑制入っちゃう~~~!! 妨害内容はボイコット。

 

 

 

「まあちゃんと働く気ではいるけどさ、流石に疲れるわ。マンパワーが足りませんよホントに」

 

 ぼろっぼろに愚痴を吐き散らしながら、俺は思わず涙目になってしまう。

 なしてこんなディストピアまで来てワーカーホリックになってんですか俺は。いやディストピアってそんなもんかもしれないけどさぁ! 

 

 正直、フィジカル的な余裕はまだあるものの、メンタル面での気疲れがキツい。

 多くの人間に寄りかかられるって状況、あんま得意じゃないんだよね。

 

 俺は能力的に雑魚なので、背負うことのできる責任の量も当然多くはない。自分と、それからもう一人くらいが限度だろう。

 それが今や、L旧研の大部分に頼られ、依存されている。

 頼られている以上応えるべきとは思うんだが、自信のなさ故に胃が痛くなってしまうのである。

 

 うぃ~~ん;; 実はメンタルまで雑魚なんだよ俺ぇ!

 スパダリでド有能な転生者ならさらっとこなすんだろうけどさぁ! 小心者のざこざこ転生者にはこの環境辛いなぁ!

 

 荒れる内心を落ち着けようと、俺は受け取ったカップを傾ける。

 あーコーヒー美味ぇ。傷付いた心に染み入るわー。

 

「ふぅ。……もうちょっと俺の他に働ける人間が欲しいわ。

 もう一人俺がいれば、もうちょい負荷も下がるんだが。カルメンに言ってもう一人俺みたいなの拉致って来てもらおうかなマジで」

「それは望み過ぎだねぇ」

「なんでぇ……」

 

 ダニエルの残酷な宣告に、俺は半ば涙声で呻く。

 俺なんて都市探せばその辺にいっぱいいる程度の雑魚なんだし、望み過ぎなんてことはないと思うんだが。

 

 

 

 こぽこぽと、カップにゆったりとお湯を注ぎながら、ダニエルは静かに言う。

 

「コナー。君はね、この都市にきっと二人といない人間なんだよ」

「んなこたなかろう。俺はダニエルとか、あとあのアインやカルメンみたいに頭が良いわけじゃないんだぜ。カーリーみたいに馬鹿強いわけでもない。

 探せば都市に俺みたいなのはたくさんいるだろ。それこそフィクサー事務所とかさー」

 

 ハナとかリウとか、その辺の上位の事務所のメンバーは、武力だけじゃなく頭も回るみたいだもんね。

 ぶっちゃけ俺の上位互換みたいな人間はそこら中にごまんといるだろう。

 ユジン部長とかシャオネキみたいな1級フィクサースペックで生まれたかったな俺もなー。

 

 ……なんて、俺はそんな戯言を口に出しかけたのだが。

 

「いいや。きっとどこにもいないよ」

 

 えらく強く押して来る友人の声に、思わず黙り込んでしまう。

 

 

 

 ダニエルは俺ではなく手元のコーヒーに目線をやりつつ、独り言のように語り出した。

 

「コナー、俺はね。都市の人間、特に巣の人間は、コーヒーの豆のようだと思うんだ。

 翼っていう挽き手に選ばれた豆。集めたそれらを混ぜて挽いて、翼は成果をブレンドする。

 俺自身もそうだ。巣に生まれて、どこかの企業に勤めて、豆粒の一つとして企業に加わると思ってた。それが当然だと認識してたし、それ以外の道なんて考えもしなくて……まあ、実際そうなったよね」

 

 Ruinaでも語られた、ダニエル/ケセドのコーヒー哲学だ。

 まあ端的な比喩だし、言いたいことは分かる。

 

 実際、俺たちはL旧研に来るまではO社に所属していたわけで、日々心身をゴリゴリと挽かれて企業に貢献していたんだが……。

 

 

 

 視線で続きを促す俺に、ダニエルは淹れたばかりのコーヒーを差し出して来る。

 見れば、俺の手元のカップはとっくに空になっていた。お代わりと言うわけか。

 

 さんきゅー、と口にする俺に、ダニエルはにこりと笑いかけた。あらやだイケメン。

 

「でもね、コナー。俺から見て君は、ただ挽かれるだけの豆じゃなかった。

 ぼんやりと生まれ、ぼんやりと生き、ぼんやりと翼に就くんじゃない。俺と出会った当初から、君には何か明確な目的があった。

 それを達成する為に、俺に接触してきた。……そうだろう?」

「……ば、バレてたんだ」

「まあね~。俺は天才だから、一目で分かったよ」

 

 マジか。気まずい。

 

 確かに、俺が偶然見かけたダニエルに話しかけたのは、L旧研への繋ぎを得るためだった。

 見抜かれてたのか……普通に振る舞ってたつもりだったんだけど、やっぱ天才から見ると分かっちゃうもんなんだね。はずかし!

 

「いやその、うん、ぶっちゃけ最初はそうなんだけど、今は普通に友だちだって思ってるよ?」

「分かってるよ~。俺も同じ、最初の頃は観察対象でしかなかったけど、今は友だちさ」

 

 観察対象て。

 まあいいや、ちゃんと誤解なく友情が伝わってるなら、それ以上のことはない。

 

「……君は最初から、何かを見据えて、すごく一生懸命に生きていた。

 1秒だって無駄にできるかって気迫でさ、体を鍛えたり、知識を付けたり。俺は止めたのに、義体手術だって受けてたよね」

「まあ、才能ないんでね。天才の隣を歩くにはテコ入れが必要なんだよ」

「……俺は……いや、何でもない」

 

 

 

 ダニエルは何か言いたげだったが、一度言葉を切り、自分もコーヒーに口を付けて。

 そして、話題を変えた。

 

「あの日ね。裏路地でカルメンと接触して、まず出てきたのは、君に似てるなって感想だったんだ。

 カルメンも、どこかを見据えて全力を出せる、都市には殆どいない珍しい人間だ。……君とは大きく方向性が違うけどね」

 

 えぇ……俺そんな風に見られてたん?

 そんなとこでカルメンと共通点見出されても嫌なんすけど。

 

 ……もしかしてカーリーが言ってた「似てる」ってそういうことか? うわショック。

 

「オイてめぇ、まーたライン越えだぞ。あんな狂人と一緒にすんな。

 誰かのためとか言って本気で動ける人間なんか、自分の心も直視できねえ偽善者かイカれきった狂人の二択なんだよ。俺はそんなんじゃない、凡人だ」

「はは、外でそんなこと言ったら駄目だよ? カーリーに怒られちゃう」

「ここだから、お前にだから言ってんだよ。言わせんな恥ずかしい」

 

 ていうかカルメンも嫌だろこんなんと一緒にされたら。

 アイツはイカれてるとはいえ、救世主になり得る人材。

 一方俺は、超自己中にお前らの犠牲許容してる人でなしの雑魚やぞ。

 

 ……改めて考えると俺マジのクズだな? chu! 生まれて来てゴメン♡

 

「また何か益体もないことを考えてるでしょ」

「俺は基本的に常時益体もないこと考えてるぞ。絶えることなどなく」

「またまた~。肝心なところではちゃんと真面目になってること、俺は知ってるよ~」

「黙りな! ギャグキャラの皮を剥ぐのは犯罪やぞ!」

 

 まったく、付き合いが長いのは良いことだけじゃないな。

 俺は基本的に何考えてるかよくわからんギャグキャラをやらせてもらってるんだが、どうにもダニエルには俺の底の方を見抜かれちゃってる感じがあるよ。

 

 

 

 ま、そうやって理解されてるってのは、こそばゆいと同時、有り難いことでもある。

 俺は足を組み、頬杖を突いてコーヒーをいただきながら、ダニエルに視線を向ける。

 

 彼はカップの中の黒色を機嫌良さそうに揺らし、話を再開した。

 

「……さっきコナーは言ったよね。天才の隣を歩くには、テコ入れが必要だって」

「ああ、言ったが」

「俺もそう思うよ。

 この都市において凡人でしかない、ただ才能があるだけで探せば他にもいるような人間が、たった一人の『生きている』人間の隣を歩くには……きっと相応の努力が必要だって。

 だから俺は、ここに来たんだよ。君と似たカルメンの下でなら、俺は生きられるかもしれない。そしてそれを、他の人たちに広められるかもしれない。

 そして……自ら恥じることなく、君の隣を歩けるようになるかもしれない、ってね」

 

 そうして、コーヒーを一口。

 俺の友だちは、ニコリと笑い、言った。

 

「似た者同士かもね、俺たち」

 

 

 

 …………。

 

「……ッ、スゥー……あー、いやぁ、なるほどねぇ」

 

 やべえ。

 思ったよりダニエルからの感情の矢印、デカくね?

 

 いや、そりゃまあ友だちだし? 信頼と親愛は向けてるつもりだったけども。

 俺だって、できればコイツの味わう地獄を肩代わりしてやりてぇなあ、くらいは思ってたけども。

 

 まさかとは思うが……いや、多分そういうことだよな、うん。

 

 ダニエルが思ったよりカルメンに傾いてないの……俺が原因か?

 俺で事前に耐性ってか免疫付けてたから、カルメンショックにも耐えられたってこと?

 

 そして研究所に来たのも……俺が原因?

 

 オイボケェ! 地獄を肩代わりどころか俺が理由でダニエル地獄行きになっとるやんけ!

 ガバどころか再走レベルの大ロスやぞ!! もうしね!!!

 

 

 

 衝撃とか焦燥とかが俺の頭の中を吹き荒れ……。

 それが収まる頃には、コーヒーカップの中身は空になっていた。

 

 ダニエルはそれを見て、すぐにまたコーヒーを淹れてくれる。

 ……めんどくさいだろうに、ポッドに溜めた奴を入れるとかではなく、わざわざローストを濾して淹れてくれている。

 

 他のスタッフに対しては、普通にポッドからとぽとぽしてたと思うんだけど。

 今更わかったけどこれ……結構特別扱いされてるのか、俺?

 

「……別にアレだぞ。ポッドに溜めといたコーヒーとかでもいいんだぞ。めんどいだろ」

「オープンテラスならともかく、ここにはコーヒーメーカーもあるしね。

 俺、いつも頑張ってるコナーには、一番美味しいコーヒーを飲んで欲しいんだ」

「そ、そうかー……絶妙な違いがわからない貧乏舌なのが申し訳なくなるなぁ……」

 

 特別扱いされてるわ俺。

 毎朝コーヒー用意してくれてるのってそういうこと? ごめんね、いつも負担かけて。

 

 

 

 男から特別扱いされて嬉しくないかと言えば、まあそんなことはない。

 別に性愛でなく親愛や友愛でも、誰かの特別になるのは嬉しいものだし。

 

 とはいえ、全く以て予想も予測も妄想すらもしていなかった事態を前に、俺は少々落ち着かない心地。

 あくまで普通の友だちだと思ってたのに、想像の5倍くらいの重い感情を抱かれていたんだ。動揺するのも当然なわけで……。

 

 ……そんな慌ただしく揺れる心地を、新たなコーヒーの薫りが落ち着けてくれた。

 もう5年以上の付き合いだ、その匂いは条件付けされている。

 

 ふぅとため息一つ、俺はそれを口にして……。

 まあ、別に悩む必要もねえか、と笑う。

 

「ま、お前のことをまた1つ知れたってことで。

 すげぇ迷惑かけたりしてるし、人生設計ボロボロに歪めといてなんだけど、改めてよろしくな、ダニエル」

「こちらこそ、これからもよろしくね~」

 

 俺たちは友だちだ。

 もう5年程続く、無二の友だち。

 この関係を表す言葉は、その他に必要ない。

 

 

 

 ……あ~~~! やっぱコイツだけは何とかしてやらんとな~~~!!!

 

 裏切りを恥じながら10,000年を過ごすとか、友だちにさせられねぇわ!

 

 

 

 よし決めた、オリチャー発動!

 

 この先調律者ガリオンが来たら、ダニエルが血迷う前にガリオンぶち殺そう!!

 俺にできるかどうかは別としてな!!

 

 

 







 自分の世界を壊されても最後には許して仲直りできるくらいの重さ、それが友だち。



 ちなみに抽出されたTETHアブノーマリティは忘れられた一般人。
 まだクリフォト抑止力が殆どない都合上、コナー君は赤ずきんの姉御くらいの速度で施設を走り回る一般人と、1時間くらいの追いかけっこを強いられました。



(付記)
 評価者数が100人を越えました!!
 ぶっちゃけ赤評価バーをいただけた時点でニッコリ満足してたので、とんでもない増加ペースといただける感想の多さに目を白黒させてます。
 ここまで読んでいただけた以上、責任を持って完結まで書き進める意気込みです。

 改めまして、ご愛読いただきありがとうございます!
 モチベーションにもなりますので、評価・お気に入り・感想がまだな読者様は、是非お気軽に、ぽちっとよろしくお願いします!
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